平成27年10月28日(水):初稿 |
○訴訟事件を長々とやっていると、時々、なんで今頃になってそんな主張を出してくるのか、もっと速く出すべきだと思うことが良くあります。そこで、以下の民事訴訟法第157条を援用して、時機に後れた攻撃防御方法としての却下を求める主張をすることがありますが、なかなか認められません。 ○時期に遅れた攻撃防御方法として、却下が認められた裁判例を探していたところ、不動産の売買契約の債務不履行に基づく損害賠償等請求訴訟において、弁済準備手続終了後の新たな準備書面や証拠方法の提出が時機に後れた防御方法の提出に当たるとして却下された平成16年12月16日岐阜地裁多治見支部判決(ウエストロージャパン)が見つかりましたので、判決理由部分を紹介します。 民事訴訟法第157条(時機に後れた攻撃防御方法の却下等) 当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。 2 攻撃又は防御の方法でその趣旨が明瞭でないものについて当事者が必要な釈明をせず、又は釈明をすべき期日に出頭しないときも、前項と同様とする。 ********************************************* 4 被告の新たな攻撃防御方法提出の可否 (1) 一般に、裁判の公正迅速な遂行は、裁判所・当事者など訴訟に関与する者に共通の責務であるが、更に、裁判の迅速化に関する法律(平成15年法第107号。同年7月16日施行。以下裁判迅速化法という)によって、各手続の性質、内容に応じた、さらなる迅速化が求められている。 同法は、司法を通じて権利利益が適切に実現されることその他の求められる役割を司法が十全に果たすために、公正かつ適正で充実した手続の下で裁判が迅速に行なわれることが不可欠であることなどを前提として、国民の期待にこたえる司法制度の実現に資することを目的するものであって(同法1条1項)、第1審の訴訟手続については、2年以内のできるだけ短い期間内に、これを終局させることを規定するとともに(同法2条1項)、その目標実現を裁判所、当事者、代理人の責務として掲げている(同法6条、7条1項)。 (2) 他方、従前より民訴法においては、 (a)弁論準備手続その他の争点整理手続が制度として導入され、 また、民訴規則によって、当事者には、(b)主張の際に、重要な間接事実や証拠方法の付記、あるいは、 (c)否認の理由の記載などが求められているところであるが、 これらが早期に争点を確定して、充実した争点整理等を行なうためにもうけられたものであることはいうまでもない。 そして、裁判迅速化法施行後は、これら制度等が同法の趣旨に沿う形で運用されなければならないものである。 (3) 他方、本件の進行をみるに、前示第2の1(8)のとおり、被告は、本件各釈明命令にもかかわらず、 (a)原告主張の請求原因に対して、具体的な認否や、関係する間接事実の主張、あるいは証拠方法の提出、付記をせず、 (b)自己が主張で引用する別紙書面2記載の清算関係についてすらも具体的主張、立証をしない。 更には、被告代理人は、原告代理人の委任関係を争い、同主張を撤回した後も、本件訴訟が原告本人の意思に基づかないものであるなどと、実質的にこれと同趣旨の主張を繰り返しており、このため、充実した争点整理を行なうことができず、計画的な審理を実施することもできないが、以上は、裁判迅速化法や民訴法の目的を大きく損なうものということができる。 また、上記に起因する訴訟遅延のために、原告は、加齢、疾病による消耗が激しく、短時間の尋問にも耐えられないため、本人尋問も、ラウンドテーブル法廷において、仰臥した姿勢で実施せざるを得なくなっているなど、証拠方法の棄損も著しい。 (4) 現在被告は、前示第2の1(8)〈5〉の弁論準備手続終了後になって、新たな準備書面や証拠方法を提出しようとしているが、以上の経過に照らせば、これは、故意又は重大な過失による、時機に遅れた防御方法の提出に当たると認めるのが相当である。 したがって、当裁判所は、あらためて本判決をもって、職権でこれらを却下する。 ******************************************** 裁判の迅速化に関する法律 第1条(目的) この法律は、司法を通じて権利利益が適切に実現されることその他の求められる役割を司法が十全に果たすために公正かつ適正で充実した手続の下で裁判が迅速に行われることが不可欠であること、内外の社会経済情勢等の変化に伴い、裁判がより迅速に行われることについての国民の要請にこたえることが緊要となっていること等にかんがみ、裁判の迅速化に関し、その趣旨、国の責務その他の基本となる事項を定めることにより、第一審の訴訟手続をはじめとする裁判所における手続全体の一層の迅速化を図り、もって国民の期待にこたえる司法制度の実現に資することを目的とする。 以上:2,099文字
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