平成27年 7月30日(木):初稿 |
○ある遺産分割事件で、ある住宅ローン団体信用生命保険の契約内容特に約款の内容について調査する必要が生じて、生命保険会社に契約書及び約款の開示をお願いしているのですが拒否され、以下の弁護士法照会制度利用を検討しています。 弁護士法第23条の2(報告の請求) 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。 2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。 ○「公務所又は公私の団体」の典型例の一つに銀行・生命保険会社等金融関係機関があり、調査必要事項について、弁護士が直接銀行等に照会すると、弁護士法照会制度を利用して照会して下さいと言われることが良くあります。裁判中の事件に関しては、以下の調査嘱託制度を利用して下さいと言われることがあります。 民訴法第第151条(釈明処分) 裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、次に掲げる処分をすることができる。 (中略) 五 検証をし、又は鑑定を命ずること。 六 調査を嘱託すること。 2 前項に規定する検証、鑑定及び調査の嘱託については、証拠調べに関する規定を準用する。 第186条(調査の嘱託) 裁判所は、必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託することができる。 ○個人情報保護法が施行されて以来、個人情報保護を理由に情報の開示が厳しく制限されるようになり、上記弁護士法照会制度或いは裁判所への調査嘱託申立の機会が増えてきました。ところが、この弁護士会或いは裁判所経由での照会(問い合わせ)に対しても回答を拒否する例が増え、この拒否に対し、不法行為を理由に損害賠償の訴えを出す例もあります。これに対し厳しい判断をした平成25年9月10日福岡高裁判決(判時2258号58頁)を紹介します。 事案は以下の通りです。 ・X1はX2弁護士を代理人として夫Aに離婚請求訴訟提起、Y(全国健康保険協会)に対し、裁判所に民訴法第151条1項によるA住所・就業先等調査嘱託、X2は弁護士法23条の2による同様の照会報告申出、 ・Y(全国健康保険協会)はいずれもA本人同意書がないと回答できないとして回答拒否、 ・その後、X1はAと離婚養育費等和解成立、給与債権差押の必要性を理由に、Yに再度前同様の紹介報告申出、YはA本人同意書がないとして回答拒否、 ・X1は裁判を受ける権利の侵害、X2は弁護士会に対する情報収集権等の侵害を主張して、Yに不法行為に基づく損害賠償請求、 ・一審平成25年4月9日広島地裁判決は、調査嘱託に応じる義務、弁護士照会に応じる義務は、公法上の義務で、Xらに対する義務ではないので、義務違反は直ちにXらのと関係で違法になるわけではないとして回答・報告拒否は違法ではないとするも、第2回目給与差押のための照会報告申出拒否は、X1の強制執行によって自己の権利を実現する利益を侵害するとして、X1に対し1万円、弁護士費用2000円の支払を命じ、Yが控訴、X2付帯控訴 控訴審平成25年9月10日福岡高裁判決(判時2258号58頁)の判示は以下の通りで、Xらの請求は全て棄却されました。 民訴法第151条1項・186条調査嘱託・弁護士法23条の2照会報告申出制度は、正確な事実に基づく適切妥当な法律事務処理がなされることを目的とする公的制度で、申立者・申出者が回答を求める権利・利益を有すると解すべき法律上の根拠はない 当事者がこの制度で情報を得ることによる利益は、この制度目的に収斂されあるいはこの目的が得られることによる反射的利益に過ぎず当事者固有の権利ではない 従ってY(全国健康保険協会)の拒否回答によるXらの権利・法益侵害はなく、不法行為も成立しないとして、第一審判決でのY敗訴部分を取り消し、X1の請求を全て棄却 このような判決が定着すると裁判所調査嘱託制度・弁護士法照会制度のいずれも実効性が失われることが心配です。 以上:1,723文字
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