平成27年 2月 5日(木):初稿 |
○「妄想オッパイグランプリにパブリシティ権を認めなかった判例紹介1」の続きで、裁判所判断部分です。 ******************************************** 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(パブリシティ権侵害の成否)について (1) 個人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)を無断で使用する行為は,① 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する,② 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とすると認められる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解される(最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁参照)。 原告らは,本件記事は肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用するもの(上記①)であり,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするから,パブリシティ権の侵害となる旨主張する。 (2) そこで判断するに,本件記事は,幅広く芸能活動を行って広く知られた原告らの肖像等を用いたものであるが,前記前提事実(2)及び(3)のとおり,裸の胸部のイラストを合成し,性的な表現を含むコメント等を付したものであり,肖像等そのものを鑑賞させることではなく,原告らを含む女性芸能人の乳房ないしヌードを読者に想像させる(妄想させる)ことを目的とするとみることができる。しかも,本件記事は,全248頁の本件雑誌中の巻末に近いモノクログラビア部分に掲載されたもので,表紙には取り上げられていない上,各原告の肖像等は1頁当たり9名又は10名のうち1名として掲載されるにとどまっている。 これらの事情によれば,原告らのファン等が本件記事中の肖像写真を入手するために本件雑誌を購入することがあるとはおよそ考え難い。そうすると,本件記事に原告らの肖像等を無断で使用する行為は,上記①の肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用するものとはいえず,また,上記①以外の理由により専ら原告らの肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものと認めることもできない。 以上によれば,原告らの肖像等を用いた本件記事を本件雑誌に掲載する行為が原告らのパブリシティ権を侵害するとは認められない。 (3) したがって,パブリシティ権侵害に基づく原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 2 争点(2)(人格権及び人格的利益の侵害の成否)について (1) 原告らは,本件記事の氏名及び肖像の無断掲載は,原告らの人格権としての氏名権,肖像権及び名誉権並びに人格的利益としての名誉感情を侵害するものである旨主張する。 (2) そこで判断するに,本件記事の内容は前記前提事実(3)及び別紙原告らの記事目録に記載のとおりである。これに加え,証拠(甲3,18,乙1,2,4~10)及び弁論の全趣旨によれば,本件記事の大部分は原告らを含む女性芸能人の顔を中心とした肖像と裸の胸部のイラストで占められていること,その肖像に合成された乳房のイラストは,その輪郭こそ実線で描かれているものの,複数の陰影を付けた画像を重ね合わせることにより写真であるかイラストであるかが容易に判別できない程度にまで精巧に作られたものであること,元になった肖像写真は服を着た状態の上半身を撮影したものであるが,上記裸の胸部のイラストは,服や地肌の陰影,体の曲線等に自然に適合するように合成されていること,本件記事中の原告らの肖像に付されたコメントは,各人の芸能活動における特徴的な言動等をパロディ化して女性の胸に関する性的な表現に改変したものであること,以上の事実が認められる。 これら事実関係によれば,本件記事は,一見しただけで原告ら女性芸能人の肖像に裸の胸部のイラストを合成したものであると判別できるようなものではなく,少なくとも第一印象として原告ら女性芸能人が自らの乳房を露出しているかのような誤解や印象を読者に生じさせる可能性があるものである。このような表現行為が,肖像を無断で利用された女性に強い羞恥心や不快感を抱かせ,その自尊心を傷付けるものであることは明らかである。 しかも,本件記事は,上記のような加工がされた肖像に,原告ら女性芸能人の芸能活動に関係する性的な表現を含むコメントや,露骨な性的関心事を評価項目とするレーダーチャートが付されたものを複数羅列したものであり,読者の性的な関心をかき立てて原告らの羞恥心等を生じさせるだけでなく,原告ら及びその芸能活動を揶揄することをも目的とするものということができる。 以上からすれば,本件記事は,社会通念上受忍すべき限度を超えた侮辱行為により原告らの名誉感情を不当に侵害するものであり,かつ,受忍限度を超えた氏名及び肖像の使用に当たるというべきである。 (3) これに対し,被告らは,原告らは芸能人であるから,「社会生活上」ではなく「芸能活動をする上での」受忍限度を超えるかどうかが問題とされるべきであり,原告ら自身が芸能活動においてファンの性的な好奇心や関心,妄想を呼び起こすような言動をしていることなどからすれば,本件記事の内容は受忍限度の範囲内である旨主張する。 そこで判断するに,原告らは芸能人であり,その芸能活動に関し,自らの意図と異なる態様でテレビ,雑誌等に取り上げられることも一定程度は許容していると解されるから,芸能人の人格権及び人格的利益の侵害については,一般人とは異なる基準で判断すべきものと解する余地はある。しかし,証拠(乙4~10)及び弁論の全趣旨によれば,原告らの中には胸の大きさ等を強調するなどの芸能活動をしたことがある者がいるものの,胸の大きさ等を映画やドラマの役柄やストーリー,プロモーションビデオ等で間接的に表現するものにとどまることが認められる。これに対し,本件記事は,第三者である被告会社が,読者に原告らの乳房又はヌードを妄想させることを目的として,原告らの肖像等を無断で利用して露骨な性的表現を意図的に作出したものであり,原告らが上記胸の大きさ等を強調するような芸能活動を行っていたことをもって,原告らにおいて本件記事のような内容の記事の掲載を受忍すべきと解する理由はないというべきである。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 (4) 以上によれば,本件記事を本件雑誌に掲載する行為は,原告らの人格権としての氏名権及び肖像権並びに人格的利益としての名誉感情を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。 3 争点(3)(被告らの責任)について (1) 被告発行人及び被告編集人は,それぞれ本件雑誌の発行及び編集を行った者であり,その職務の性質上当然に本件記事が本件雑誌に掲載されること及びその内容を認識していたものと認められる。そして,前記2(2)で判示した本件記事の態様に照らせば,これが原告らの人格権及び人格的利益の侵害になることにつき上記被告らに過失があったとみるべきものである。したがって,これに反する同被告らの主張は採用することができず,同被告らは原告らに対し不法行為責任を負うと判断するのが相当である。 (2) 原告らは,これに加え,被告代表者が,本件雑誌の発行当時,被告会社の代表取締役として雑誌の編集方針を決定する権限があったことなどを理由に,民法709条又は会社法429条1項による責任を負う旨主張する。しかし,代表取締役が抽象的には編集方針を決定し得るとしても,本件記事の作成及び掲載に関し,被告代表者がいかなる関与をしたのか,あるいはいかなる任務懈怠があったのかについては何ら具体的な主張立証はない。そうすると,原告らの被告代表者に対する請求は理由がないというほかない。 (3) 上記(1)の被告発行人及び被告編集人の行為は被告会社の職務としてされたものであるから,被告会社は,民法715条1項に基づく不法行為責任を負う。 4 争点(4)(損害の額)について 以上によれば,被告会社,被告発行人及び被告編集人は,原告らに対し,人格権及び人格的利益を侵害したことにつき連帯して不法行為責任を負うと認められる。 そこで原告らの損害の額について検討するに,本件記事による原告らの人格権及び人格的利益の侵害態様は前記2(2)のとおりであり,これにより原告らは芸能人であることを考慮しても女性として羞恥心を著しく害されるなどの精神的被害を受けたとみることができる。これに加え,本件雑誌の発行部数が23万部に及ぶこと(甲13)からすれば,本件記事を本件雑誌に掲載したことによる原告らの人格的利益の侵害の程度は看過し難いものがあるといえるところ,他方において,前記前提事実(2)及び(3)のとおり,原告らの肖像等が掲載されている部分は全248頁の本件雑誌の一部に限定され,本件雑誌の中で特に目立つ位置にあるものでないことといった事情をも考慮すると,原告らの損害の額としては,各原告の肖像の掲載位置,大きさ,コメントの内容等には若干の相違があるものの,いずれも75万円を相当と認める。 また,本件の事案の内容,審理の経過等に鑑みれば,上記被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,原告らそれぞれにつき5万円が相当である。 5 争点(5)(差止め及び廃棄の必要性)について (1) 前記前提事実(2)のとおり,本件雑誌は週刊誌であるから,その性質上,店頭販売されるのは発売日である平成25年11月7日からの1週間に限られるのが原則であり,それ以降に被告会社が本件雑誌を店頭販売のために印刷し,販売することはないものと解される。 (2) これに対し,原告らは,被告会社がなお本件雑誌の在庫をバックナンバーとして販売しているとして,本件雑誌の印刷,販売の差止め及び廃棄の必要性がある旨主張する。 そこで判断するに,証拠(甲19)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社のホームページ上に,本件雑誌を含む過去に発行された「週刊実話」の表紙がバックナンバーとして掲載されていること,本件雑誌の購入を希望する場合には「お問い合わせフォーム」により被告会社に連絡するよう求める旨及びバックナンバーについては在庫完売等の事情により購入できない場合がある旨の記載があることが認められる。なお,原告らは,上記ホームページ(平成26年8月20日にプリントアウトしたもの)を証拠として提出するのみであり,原告らが上記ホームページを通じて本件雑誌を購入することができたかを明らかにしていない。これらのことからすると,被告会社が本件雑誌の在庫を販売のため保有していると認めるに足りる証拠はないというほかない。 (3) したがって,本件口頭弁論終結時点において被告会社が本件雑誌を販売し,又は販売するおそれがあると認めることはできないから,上記差止め及び廃棄の必要性は認められず,原告らの差止め等の請求は理由がないと解すべきである。 第4 結論 よって,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 長谷川浩二 裁判官 髙橋彩 裁判官 植田裕紀久) 以上:4,602文字
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