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忘れられる権利:京都地裁判決・EU判決と比べてみた読売新聞記事紹介

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平成26年10月20日(月):初稿
○「Yahoo!検索サービスに対する名誉毀損請求棄却判決紹介2」の続きです。
「忘れられる権利」なんて耳慣れない言葉が出てきますが、この権利を認めたEU判決と比較しての解説が読売新聞記事に出ていますので紹介します。この判決の原告実名はネットで簡単に判明します。Yahoo!、Googleいずれでも大量に関係記事が出てきます。こんな訴訟を出したために却って有名になったようです。

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 忘れられる権利:京都地裁判決 EU判決と比べてみた 依然高いハードル
2014年08月23日

 大手ポータルサイト「ヤフー・ジャパン」で自分の名前を検索すると、過去の逮捕記事が表示され、名誉を傷つけられたとして、京都市の男性が同サイトを運営する「ヤフー」(東京都港区)に対し、記事リンクなど検索結果の表示差し止めなどを求めた訴訟で、京都地裁=栂村明剛(つがむら・あきよし)裁判長=は8月7日、請求を棄却した。EU司法裁判所(ブリュッセル)が米グーグルにリンク削除を求めた「忘れられる権利」判決との関連で、国内裁判所の判断が注目されていたが、地裁は、検索エンジンによる逮捕歴のリンク削除が認められる余地を限定的に考える判断を示した。原告は、判決を不服として大阪高裁に控訴しており、上級審での判断が注目される。【尾村洋介/デジタル報道センター】

◇事案の概要
 男性は、2012年11月、女性を盗撮したとして京都府迷惑行為防止条例違反の疑いで逮捕され、執行猶予付き有罪判決を受けた。その後、ヤフーのサイトで自身の名前を検索すると、自身の逮捕に関する記述が表示され、名誉毀損(きそん)とプライバシーの侵害にあたるとして、損害賠償と記事の見出しなどリンク表示の差し止めを求めた。

 京都地裁とEU司法裁判所の二つのケースは、原告が(1)ニュース記事をウェブサイトに掲載しているパブリッシャー(新聞社など)ではなく、検索エンジンで記事へのリンクを表示しているプラットフォーム会社(ヤフーやグーグル)を訴えていること(2)事実が生じた時点からの状況変化(京都地裁では執行猶予判決が出たこと、EU司法裁判所では原告が債務を返済し終えたこと)も、リンク削除を求める根拠としている--点で共通点がある。

 EU司法裁判所のケースでは、「忘れられる権利」を根拠づけるEUデータ保護指令の解釈を巡り争われた。日本はこうした直接的な規定はなく、京都地裁では「名誉毀損」「プライバシー権の侵害」による不法行為(民法709条)が成立するかどうかが争点となった。原告はEU司法裁判所の判決にも言及、人格権に基づき「憲法上の幸福追求権に由来する個人の名誉、プライバシー保護の観点から、本件差し止め請求が認められる」と主張した。

◇判決
 地裁判決は「名誉毀損」「プライバシー侵害」とも成立しないか、違法性が阻却されるとして、原告の主張を退けた。

「忘れられる権利」に詳しい情報通信総合研究所の中島美香研究員によると、地裁判決のポイントは、検索エンジンが表示するのは、(1)リンク先のサイトの存在及び所在(URL)と「スニペット」(リンクの下に表示される元サイトの記載内容の一部)にとどまるとした点。同地裁は、そのうえで「リンク」は逮捕事実を適示したものとはいえず、「スニペット」も「検索ワードを含む部分を自動的・機械的に抜粋して表示したもの」に過ぎないとし、逮捕事実自体の適示を行っているとみるのは適当ではないとし、形式的に名誉毀損の要件を満たしていないとの判断を示した。

ただ、リンクも「スニペット」も、読めば、誰が何をしたかは読み取ることができ、事実上、犯罪の事実を示しているのと同じではないか、という疑問は出てくるだろう。

 京都地裁はこのため、傍論として、仮に、スニペット部分が、今回の逮捕事実の適示と解される余地があった場合に、違法性が阻却されるかどうかについても検討。ここでは
(1)その行為が公共の利害に関する事案に関わり、
(2)専ら公益を図る目的で行われ、
(3)適示された事実が真実であると証明されたとき
は、違法性がなく、不法行為は成立しない--という、従来の名誉毀損をめぐる「真実性・真実相当性の抗弁」などの基準を適用し、「違法性はない」と結論づけた。

 具体的には、
(1)については、サンダルに仕掛けた小型カメラで女性を盗撮したという特殊な態様の犯罪で社会的な関心が高い▽逮捕から1年半程度しか経過していない--として「公共の利害に関する事実」にあたるとした。
(2)については、被告が検索サービスを提供する目的は、一般公衆が今回の逮捕事実のような公共の利害に関する事実の情報にアクセスしやすくするという「公益を図る目的」が含まれている、と判断した。そのうえで逮捕事実自体は真実であり、今回の検索結果により原告の社会的評価が低下するとしても、名誉毀損については違法性は免れるとした。

 また、プライバシー権の侵害という争点も同様に、仮にプライバシーが侵害されていたとしても、公益的観点から違法性は免れると結論づけた。

◇EU司法裁判所判決との比較
 今回の地裁判決は、日本で「忘れられる権利」に基づいて検索エンジンのリンクの削除が求められた場合、裁判所がどう判断するかという点で示唆に富む。

 EU司法裁判所は、検索エンジンの運営者が、EUデータ保護指令による規制の対象となると判示。そのうえで、インターネット社会での検索エンジンの社会的影響力の大きさなどから「(新聞社などの)当該ウェブページでのデータの公表自体が適法な場合であってさえ」検索エンジン運営者が、リンク削除の責任を負う場合があるとの判断を示した。その背景には、インターネット社会では、個別ウェブページへのリンクを一括して表示することができる検索エンジンが、「忘れられる権利」のような個人の権利を保護するために規制をかける「コントロールポイント」として有用と考えるスタンスがうかがえる。

 一方、京都地裁の裁判で、原告側は「一般公衆は、インターネット上に多数存在する本件逮捕事実に関するウェブサイトの存在も所在も知らないのであり、被告の本件検索サービスによって初めて、本件逮捕事実に関するウェブサイトを目にする」などと主張したが、地裁は、インターネット社会における検索エンジンの社会的影響力には特段の言及を行わなかった。EU司法裁判所と京都地裁は、検索エンジンが自動的・機械的にデータを収集するという認識は共通しているものの、検索結果の社会的影響度に対する認識や、検索結果に対する規制のスタンスでは異なる判断を下したと言える。

 また、訴訟で「忘れられる権利」をどう取り扱うかについても、両裁判所の手法は異なる。EU司法裁判所は、過去には事実であったが、現時点では不正確となった男性の情報について、「これまでに経過した時間に照らして、当該データが不十分となり、不適切であるか、当初の適切性を喪失していたり、過剰となっていると思われるような場合には、当初は適法であったデータ処理であっても、時とともに、EUデータ保護指令に抵触するようになることもある」として、リンクの削除を認めた。

 これに対し、京都地裁判決では、時間の経過については、傍論の「違法性が阻却されるかどうか」という論点の中で、スニペットによる事実の適示が、公共の利害に関わるかどうかを判断する要素の一つとするにとどめた。同地裁は「逮捕から1年半程度しか経過していない」という言い方をしており、経過時間の長さによっては判断が変わる余地は残されているようにみえる。ただ、判決の本論部分では、リンクやスニペットは「(元ニュースとは異なり)逮捕事実の適示にあたらない」と判断したわけで、「忘れられる権利」に基づくリンクの削除は形式的にも認めづらい論理構成となっている。


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