平成26年10月19日(日):初稿 |
○女性を盗撮したとして京都府迷惑行為防止条例違反の疑いで逮捕され、執行猶予付き有罪判決を受け、その後、Yahoo!のサイトで自身の名前を検索すると、自身の逮捕に関する記述が表示され、名誉毀損とプライバシーの侵害にあたるとして、ヤフー・ジャパンに対し損害賠償と記事の見出しなどリンク表示の差し止めを求めた訴訟の判決が平成26年8月7日京都地裁判決(LLI/DB判例秘書)ですが、その判断理由部分全文を2回に分けて紹介します。 ******************************************* 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件検索結果の表示は原告の名誉を毀損するものとして,被告に不法行為が成立するか。)について (1) 本件検索結果の表示による事実の摘示 ア 前提事実(2)のとおり,本件検索サービスの仕組みは,被告が構築したものであるから,これによる検索結果の表示は,被告の意思に基づくものというべきであるが,本件検索サービスの目的(検索ワードがその記載内容に含まれているウェブサイト(リンク先サイト)の存在および所在(URL)を利用者に知らせること)や,表示される検索結果が,基本的には,被告が左右することのできない複数の条件(利用者が入力する検索ワードの内容,検索ワードを含むウェブサイト(リンク先サイト)の存在およびその記載内容等)の組み合わせによって自動的かつ機械的に定まること等にかんがみれば,被告が検索結果の表示によって本件検索サービスの利用者に摘示する事実とは,検索ワードがその記載内容に含まれているウェブサイト(リンク先サイト)の存在および所在(URL)並びにその記載内容の一部(スニペットとして表示される,当該サイトの記載内容のうち検索ワードを含む部分)という事実に止まるものと認めるのが相当であり,本件検索サービスの一般的な利用者の通常の認識にも合致するといえる。 前提事実(2)および(3)のとおり,本件検索結果の表示は,原告の氏名を検索ワードとして本件検索サービスにより検索を行った結果の一部であり,ロボット型全文検索エンジンによって自動的かつ機械的に抽出された,原告の氏名の記載のある複数のウェブサイトへのリンク,スニペット(本件逮捕事実が記載されたもの)およびURLであるから,これによって被告が摘示する事実は,「原告の氏名が記載されているウェブサイトとして,上記の複数のウェブサイト(リンク先サイト)が存在していること」および「その所在(URL)」並びに「上記の複数のウェブサイト中の原告の氏名を含む部分の記載内容」という事実であると認めるのが相当であり,本件検索サービスの一般的な利用者の通常の認識にも合致するといえる。 イ 原告は,本件検索結果の表示は正に本件逮捕事実の摘示である旨主張する。 しかし,上記判示のとおり,本件検索結果の表示のうちリンク部分は,リンク先サイトの存在を示すものにすぎず,本件検索サービスの利用者がリンク部分をクリックすることでリンク先サイトを開くことができるからといって,被告自身がリンク先サイトに記載されている本件逮捕事実を摘示したものとみることはできない。また,スニペット部分に本件逮捕事実を認識できる記載があるとしても,スニペット部分は,利用者の検索の便宜を図るため,リンク先サイトの記載内容のうち検索ワードを含む部分を自動的かつ機械的に抜粋して表示するものであることからすれば,被告がスニペット部分の表示によって当該部分に記載されている事実自体の摘示を行っていると認めるのは相当ではなく,本件検索サービスの一般的な利用者の通常の認識とも合致しないというべきである。本件逮捕事実も,検索ワード(原告の氏名)を含んでいたことから検索ワード(原告の氏名)に付随して,無数のウェブサイトの情報の中から抽出され,スニペット部分に表示されたにすぎないのであるから,被告がスニペット部分の表示によって本件逮捕事実を自ら摘示したとみることはできないというべきである。 ウ 以上のとおり,被告が本件検索結果の表示によって摘示する事実は,検索ワードである原告の氏名が含まれている複数のウェブサイトの存在および所在(URL)並びに当該サイトの記載内容の一部という事実であって,被告がスニペット部分の表示に含まれている本件逮捕事実自体を摘示しているとはいえないから,これにより被告が原告の名誉を毀損したとの原告の主張は,採用することができない。 エ したがって,被告が本件検索結果の表示によって原告の名誉を毀損したとはいえないから,被告に原告に対する不法行為が成立するとはいえない。 もっとも,上記判示のとおり,本件検索結果の表示のうちスニペット部分(当該サイトの記載内容の一部)には本件逮捕事実を認識できる記載が含まれていることから,被告が本件検索結果の表示によって本件逮捕事実を自ら摘示したと解する余地がないではない。 また,被告が本件検索結果の表示をもってした事実の摘示(検索ワードである原告の氏名を含む本件逮捕事実が記載されている複数のウェブサイトの存在および所在(URL)並びに当該サイトの記載内容の一部という事実の摘示)は,本件逮捕事実自体の摘示のように原告の社会的評価の低下に直結するとはいえないものの,そのような記載内容のウェブサイトが存在するということ自体が原告の社会的評価に悪影響を及ぼすという意味合いにおいて,原告の社会的評価を低下させる可能性があり得る。 そこで,後記(2)においては,仮に,被告に本件検索結果の表示による原告への名誉毀損が成立すると解する場合,その違法性が阻却されるかどうかにつき検討する。 以上:2,344文字
|