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転送義務違反での請求額全部認容判例紹介-因果関係等

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平成24年10月 3日(水):初稿
○過失と死亡との因果関係と損害額についての原告主張です。

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四 過失とB死亡との因果関係
(1)転送義務懈怠との因果関係

 専門病院では、急性心筋梗塞患者をCCUに収容した上で、PCIを実施するまでの間、適切な不整脈管理、すなわち医師又は看護師によるモニターの持続的観察や持続的な点滴管理が行われるし、不整脈が出現すれば、リドカインなどの抗不整脈薬の投与が行われ、それでもなお致死的な不整脈(心室細動)が発生すれば、速やかに除細動や心肺蘇生などの応急措置が行われることになる。

 A医師が転送義務を果たしていれば、遅くとも13時25分には、専門病院(高砂市民病院又は神鋼加古川病院)において、適切な不整脈管理を受け、PCIによる治療を受けることができていたはずである。

 PCIなどの再灌流療法は、一般には急性心筋梗塞発症後6時間以内の症例で有効であるとされているが、本件におけるBのように、ST波上昇や胸痛が持続している例では、24時間以内でも有効なことがある。また、再疎通は発症後12時間以内に達成するときに有効とされ、発症から再疎通までの時間が短いほど効果が大きいとする医学文献もある。

 したがって、急性心筋梗塞発症後24時間以内に再灌流療法が実施されれば有効であったし、遅くとも発症後6時間以内にPCIが行われていれば、救命できていたといえるから、Bは、急性心筋梗塞を発症した11時30分の6時間後である17時30分までにPCIを受けていれば、救命が可能であった。

 そして、急性心筋梗塞の死亡率は10パーセント以下とされること、Bに生じた急性心筋梗塞は、予後がよいとされる下壁における心筋梗塞であったこと、Bは心筋梗塞発症患者としては、比較的若い男性であって、死亡する可能性が高い心破裂を発症する可能性が低く予後が良好であったといえることを考慮すると、Bが適時に転送されていれば、専門病院において不整脈管理を受けることにより心室細動により心停止に陥ることがないまま、PCIなどの再灌流療法を受け、生存していたはずである。
 よって、A医師が転送義務を果たしていれば、Bを救命できたはずである。

(2)不整脈管理義務懈怠との因果関係
 A医師が持続的監視を行っていれば、Bに起きた心室期外収縮や心室細動を見落とすことはなかったし、心室期外収縮を起こした時点で、抗不整脈薬を投与していれば、致死的な不整脈である心室細動を防ぐことができた蓋然性が高い。そして、心室細動が起こったとしても、速やかに電気的除細動をしていれば、Bを救命できた蓋然性は高かったのであり、A医師の不整脈管理義務を果たしていれば、Bは救命できていたはずである。

五 損害
(1)Bの慰藉料:2500万円
(2)Bの逸失利益:1049万2439円

 Bは、本件事件当時、満64歳で、厚生年金及び厚生年金基金とを併せ、年額285万9702円の給付を受けており、これを平均余命(18・74年)にわたって取得し得たのに、これを喪失した。
 そこで、その逸失利益からBの生活費5割及び中間利息を控除して計算すれば、Bの逸失利益の死亡時の額は、少なくとも1049万2439円となる。

(3)相続
 原告X1は、上記合計3549万2439円の損害賠償債権の2分の1(1774万6219円)を、その余の原告らは、同債権の6分の1(591万5406円)を、それぞれ相続によって取得した。

(4)弁護士費用
 原告らは、本件訴訟遂行のため、弁護士費用の出捐を余儀なくされたのであり、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用の額は、原告X1について180万円、その余の原告らについてはそれぞれ60万円である。

六 よって、原告らは、民法715条、709条に基づき、原告X1において、1954万6219円及びこれに対するB死亡時(平成15年3月30日)から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、それ以外の原告らにおいて、651万5406円及び同様の遅延損害金の支払を求める。


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