平成23年 3月26日(土):初稿 |
○「地震による工作物崩壊により他に与えた損害について1」を続けます。 屋根が落ちて隣家に損害を与えた場合、工事程度によって場合分けして考えます。 ①落ちた屋根の構造が手抜き工事により震度5程度でも落ちる構造だったものが震度6の地震で落ちた場合 この場合、手抜き工事のせいで落ちたわけではなく、震度6という想定外の地震のために落ちたのですから、屋根が落ちたことと手抜き工事との間に因果関係がないので責任がないのではと言う考え方も出来ます。民法第717条で、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたとき」と規定され、「瑕疵」と「損害」との間に因果関係を要求しているからです。 しかし、民法第717条の工作物所有者責任は無過失責任であり、且つ、震度5には耐えられない手抜き工事という瑕疵があったのですから、所有者責任を認めても良いような気がします。なぜなら、本件で震度6ではなく、震度5に留まって落ちた場合は責任が生じることが明白なのに、たまたま震度6と大きかったため責任がなくなると言うのも不公平と思えるからです。私としては「瑕疵」と想定外の地震が相俟って損害が生じたとして5割程度の賠償責任を認めるとの考えも成り立つような気がしますが、いや、全部認めて然るべきではとも思え、実に悩ましいところです。 なお、平成11年9月20日神戸地裁判決(判時1716号105頁)は、「本件建物は、結局は本件地震により倒壊する運命にあったとしても、仮に建築当時の基準により通常有すべき安全性を備えていたとすれば、その倒壊の状況は、壁の倒れる順序・方向、建物倒壊までの時間等の点で本件の実際の倒壊状況と同様であったとまで推認することはできず、実際の施工の不備の点を考慮すると、むしろ大いに異なるものとなっていたと考えるのが自然であって、本件賃借人らの死傷の原因となった、一階部分が完全に押しつぶされる形での倒壊には至らなかった可能性もあり、現に本件建物倒壊によっても本件地震の際に本件建物一階に居た者全員が死亡したわけではないことを併せ考えると、本件賃借人らの死傷は、本件地震という不可抗力によるものとはいえず、本件建物自体の設置の瑕疵と想定外の揺れの本件地震とが、競合してその原因となっているものと認めるのが相当である。」として、「瑕疵」があろうがなかろうが倒壊する運命にあったとしても、「瑕疵」がなければ損害は小さかった可能性があり、瑕疵と想定外の地震が競合して損害が発生したとして「瑕疵」付建物所有者に5割の損害賠償義務を認めています。 ②落ちた屋根の構造が震度5に耐えられる構造だったが震度6の地震のため落ちた場合 この場合、震度が5に留まっていれば、損害は発生しなかったものが、震度6という想定外の地震にために落ちたと言うことが明白です。また震度5に耐えられる構造とすれば「瑕疵」はないので損害との因果関係も判断するまでもなく責任がないと言うことになります。 しかし、屋根が落ちた隣の家の屋根が落ちなかった場合、あるいは、この界隈の建物で屋根が落ちたのが、この建物だけだった場合、被害者側としては、この結論は、到底、納得出来ないと思われます。被害者としては,ホントに震度5に耐えられる構造だったか、手抜き工事即ち「瑕疵」があったのではと疑われて当然です。 たまたま落ちた屋根の家の地盤が弱い等の特殊事情があってその家だけ揺れが特に激しかったため屋根が落ちたと言う事情があれば、如何に周囲の家の屋根が落ちなくても、その家の所有者に責任はないでしょう。 被害者側としては、震度6の地震があったとしても、周辺の他の家では屋根が落ちておらず、その家の屋根が落ちたのは手抜き工事即ち「瑕疵」があったから落ちたのであり、その「瑕疵」がなかったら落ちなかったと言うことを主張して,且つ、立証出来れば損害賠償請求が出来ます。 ○ 以上はあくまで理屈での説明ですが,実務は理屈だけでは動きません。お互いの言い分が異なれば、最終的には訴えを提起し、判決を得なければなりません。このためには多大な労力と費用がかかり、損害額が数十万円程度の場合、訴訟まで行くのは、コストに合わないことになります。 災害事案では、主張・立証とも困難を極めると思われます。何故なら、これらの主張は、その建物の屋根や躯体構造を綿密に調査しなければならず、所有者の協力がなければその建物を調査することも出来ないところ、所有者が自分の責任を認めるような協力をするはずがないからです。 損害内容が死亡事故等で数千万円場合によっては億単位の損害賠償の場合は、訴訟も必要な場合もありますが、車両が壊れた程度の損害の場合は、実務的には互譲の精神で話し合い解決が望ましいでしょう。 以上:1,965文字
|