平成22年 1月29日(金):初稿 |
○何かの交渉事で相手方が現れた場合、その現れた人が,本人かどうかを確認することが重要な場合があります。相手方Aさんとの交渉にBさんがAさんになりすまして出て来た場合にBさんと交渉して話し合いを進めてもAさんが関知していない限りその話し合いは意味がありません。弁護士稼業をしていると時に事務所を訪れた方がホントに本人Aさんかどうかを確認しなければならないことがあります。 ○この場合本人確認の手段としては、原則として免許証を頂いてそれをコピーする方法を採ります。各種保険証をコピーさせて頂く場合もありますが、保険証には写真がなく、Aさん本人かどうかの確認が出来ず、写真のある免許証を見せて頂きます。免許証がない場合、パスポート或いは身体障害手帳等写真が付いている公的機関発行の証明書を確認します。 ○裁判所でも被告となって法廷に出て来た方が、Aさん本人かどうか確認する方法は原則免許証にしており、免許証の提示を被告の方に求めている場面に良く出くわします。ところが、この免許証での本人確認がいい加減だったことを理由に、何と1億7000万円もの損害賠償判決を受けた司法書士が居ます。判例時報2057号107頁以下に紹介されている平成20年11月27日東京地裁判決です。 ○事案は Xが、C所有土地を2億円で買い受ける契約を締結して平成18年12月6日、代金2億円を支払った。 XはY司法書士に依頼して、CからXへの所有権移転登記手続申請した。 ところが、その登記手続ではAがCになりすまして登記に必要な書類を作成していたことが発覚した。 そのため登記申請は権限を有しない者の申請として却下され、Xは2億円もの代金を支払ってその土地を取得できないことになった。 そこでXは司法書士Yに対しAに2億円を騙取されたのは、AがCになりすましたことについて、Yが見抜けなかった過失があったからだとして、騙取された代金相当額等2億5000円の損害賠償請求をした。 と言うものです。 ○司法書士Y側では、土地所有者Cの本人確認を行った上,本人確認情報を作成し、更に所持に係る運転免許証の写しを法務局にも提出しており、必要な本人確認を行っているから過失はなく損害賠償責任もないと主張しました。しかし判決は、Aの提出した運転免許証は偽造であり、この運転免許証をケースから出してその外観、形状を確認せず、偽造を見抜けなかったのは過失があるとして、X側の過失2割を減じた8割相当額の約1億7000万円もの損害賠償を命ぜられたのです。 ○これはホントに怖い話です。普通、運転免許証が提示された場合、それが偽造ではないかと疑って外観、形状を子細に確認することはありません。運転免許証の顔写真とAの顔が同じと判断されればそれで信用してしまいます。しかし、このケースを見ると偽造の可能性を疑って入念に点検することが必要であることを肝に銘ずべきと思った次第です。 以上:1,195文字
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