平成20年10月28日(火):初稿 |
○A会社の社員であるBさんがA社の職務として自動車運転中に居眠り運転でCさん運転の車両に追突してCさん運転車両とBさん運転のA社所有車両が全損し、A社がCさんに対し車両全損による損害100万円を支払いまたA社所有車両時価は100万円で合計200万円の損害を被った場合、BさんはA社に対してこの200万円の賠償義務があるでしょうか。 ○先ずA社社員Bさんがその職務執行中にCさん運転車両に追突してCさんに車両全損の損害を与えた場合Bさん自身が民法709条により損害賠償責任を負い、更に民法715条「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」の規定によりA社自身がCに対し使用者責任として損害賠償義務を負います。但し書きの免責規定が適用されることは先ずありません。 ○この場合のA社とBさんのCさんに対する損害賠償義務は不真正連帯債務とされ、Bさん対する損害賠償請求権が消滅時効にかかってもA社に対する損害賠償請求権には影響せず(大判昭和12年6月30日民集16巻1285頁)、Bさんの責任を免除してもA社の損害賠償義務には影響しないとされています(最高裁昭和45年4月21日判時595号54頁)。 ○民法第715条3項では「前2項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。」と規定されていますが、Cさんに対し車両全損分損害金100万円を支払い且つ自社車両全損部100万円の合計200万円の損害を被ったA社は社員Bさんに200万円全額の損害賠償請求も出来そうにも思えます。 ○しかし最高裁昭和51年7月8日判決(民集30巻7号689頁、判時827号52頁)はこれを否定し、次のように述べて4分の1の範囲でしかBさんに対する請求を認めませんでした。 石油等の輸送及び販売を業とする使用者が、業務上タンクローリーを運転中の被用者の惹起した自動車事故により、直接損害を被り、かつ、第三者に対する損害賠償義務を履行したことに基づき損害を被つた場合において、使用者が業務用車両を多数保有しながら対物賠償責任保険及び車両保険に加入せず、また、右事故は被用者が特命により臨時的に乗務中生じたものであり、被用者の勤務成績は普通以上である等判示の事実関係のもとでは、使用者は、信義則上、右損害のうち4分の1を限度として、被用者に対し、賠償及び求償を請求しうるにすぎない。○使用者がその事業の執行につきされた被用者の加害行為により損害を被つた場合に、使用者の被用者に対する賠償又は求償の請求を全面的に許すべきかどうかについては、色々議論があったところで、次の機会に私なりに解説します。 以上:1,187文字
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