平成17年12月16日(金):初稿 |
○平成17年12月18日(日)の午後に私も所属する「みやぎ難聴協」の生活支援講座において2時間の予定で「法律なんでも知識~人権から個人情報・遺産・事故まで~」のテーマで話しをすることになっています。ここ3年程毎年12月に続けている講座で平成16年12月18日(土)には男女問題を中心に話しをしました。 ○今日はその生活支援講座のレジュメを兼ねたブログでちと長くなります。 先ず憲法の基礎の基礎の話しですが、私が薦める素人向け憲法教科書は小室直樹先生の「痛快!憲法学」であり、この本の内容を私なりに説明する形でお話しします。この本は「素人向け」と言っても一応法律実務家の私が読んでも「目から鱗」の優れた記述に溢れています。 ○先ず憲法も民主主義も決して「人類普遍の原理」(日本国憲法前文)ではなく近代欧米社会という特殊な環境に誕生したものであり、憲法は本質的には慣習法であり、それを守るか守らないかは極論すれば国民の腹一つです。 ○例えば日本国憲法を例に取れば第9条2項に「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」と規定されていますが「戦力無き軍隊」と言う詭弁で自衛隊が設立されています。 「戦力は保持しない」と言う憲法の規定からは、自衛隊は明らかに違憲ですが、護憲の政党を自認する社民党ですら自衛隊を認めており、多くの国民は自衛隊は違憲だから廃止すべきとは思っておらず私もその一人です。 ○憲法は国の基本法ですが、基本的に国家を縛るものであり、原則として私人間においては憲法違反はありません。例えば、難聴等の身体障害を理由にアパートの賃貸借を拒否された場合、日本国憲法第14条「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と言う規定の平等違反にはなりません。 ○又ある会社が女性を理由に就職を拒むことも憲法違反ではありません。勿論今は女性を理由に就職を拒むことは出来ませんが、これは雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の第5条「事業主は、労働者の募集及び採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならない。」によるもので、憲法で決められたものではありません。 ○国民を縛るのは憲法ではなく国会で定める法律です。法律とは「誰かに対して書かれた強制的な命令」ですが、全て国民に対しての強制的な命令とは限りません。国民全体に対する命令の典型的な法律は民法で、例えば民法第1条3項「権利の濫用は、これを許さない。」は全国民を対象にした命令です。 ○これに対し刑法は実は国民に対する命令ではありません。例えば刑法199条で「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」と規定されていますが、「人を殺すな」とはどこにも書いてありません。実は刑法は国民ではなく裁判官に対する命令なのです。 ○同様に犯罪捜査や刑事裁判に関する手続を定めた刑事訴訟法も、警察官、検察官等の行政権力に対する命令です。では刑事裁判で誰を裁くかと言うとこれも刑事被告人ではありません。 詳しくは「みやぎ難聴協」機関誌「みみっと」に掲載した「刑事裁判の基本的仕組み」、「刑事裁判での当事者主義とは」、「実体的真実と手続的真実」で説明しておりますが、裁かれるのは「検察官」です。 但し、この考えは英米法の考えで、大陸法での考え方はちと違います。 ○個人情報保護法という法律が制定されましたが、これも民法のように国民全体を縛る法律ではありません。 同法第1条に「国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定める」と縛る対象を国、地方公共団体、個人情報取扱業者と限定しています。 ○ですから個人を相手に個人情報保護法違反を理由に損害賠償請求は出来ません。 個人情報保護法では、事業目的で過去6ヶ月に遡って5000人を超える個人情報を1日でも保有したことのある事業者を「個人情報取扱業者」と定め、この「個人情報取扱業者」に対し、個人情報の「取得」、「利用」、「管理」等についてのルールを定めています。 ○「個人情報取扱業者」がそのルールを破ったからと言って直ちに罰せられるのではなく、ルール違反について主務大臣から「助言」、「勧告」、「命令」が出され、それでも尚ルール違反を続けた場合に「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられます。 ○ですから個人情報保護法での罰則は大したことがありませんが、事業者にとって個人情報を漏洩した場合で恐ろしいのは民事賠償責任と信用の失墜です。ソフトバンクBBが会員の個人情報を漏洩した事件では、同社がユーザーに渡したお詫び見舞い金券総額は数十億円に達し、且つ事件以降サービスを解約する会員が相次いだそうです。 ○個人情報漏洩についての民事賠償の問題はあくまで私人間の紛争解決方法を定める民法の問題で個人情報保護法は基本的には無関係です。しかし個人情報保護法の成立によって侵害が認められる範囲が広まったことは確かで例え「個人情報取扱業者」に該当しなくても個人情報を保有する組織、個人は、その管理には万全を期すべきで安易に他人の氏名や電話番号等を第3者に教えてはいけません。 ○安易に他人の氏名電話番号等の個人情報を第3者に教えた場合の責任は、平成17年11月16日更新情報「氏名・自宅住所電話番号はプライバシーか」に記載しています。 ○プライバシーとは、最も厳しい解釈の学説では「自己情報コントロール権」として捉え、この見解によれば自己に関する情報を「いつ、どのように、どの程度まで、他者に伝達するかを自ら決定する」ことをいい、個人情報の収集、管理・利用、開示・提供の全てにつき、本人の意思に反してはならないことが原則とされます。 ○このプライバシー権は、憲法第13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」に基づくものと言われています。 ○交通事故、遺産分割の話しを聞きたいという会員もいるとのことで表題に「遺産・事故まで~」と上げましたが、これらについては質問があればお受けし、無ければこれだけは知って頂きたいポイントだけお話申し上げます。 以上:2,605文字
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