| 令和 8年 3月12日(木):初稿 |
|
○元夫である抗告人(原審申立人)が、元妻である相手方(原審相手方)に対し、夫婦関係調整調停事件及び面会交流調停事件(前件調停事件)において、平成27年9月18日成立した調停の調停条項3項の、抗告人が相手方に対し当事者間の子である未成年者の養育費として平成27年9月以降月額15万円を支払うとの定めについて、相手方妻の父母すなわち祖父母と子が養子縁組をしたことや、抗告人の収入が減ったことなどの事情変更を理由として、令和3年11月以降の支払を定める部分について取り消すことを求めました。 ○原審千葉家裁は、未成年者が祖父母(監護親の父母)と養子縁組をしたことなどを養育費の額に影響を及ぼすべき事情の変更に当たらないとして、抗告人の本件申立てを却下するとの審判をしたため、抗告人元夫が即時抗告しました。 ○これに対し、母方祖父母は、本件養子縁組により、同居の孫である未成年者を養子としたところ、未成年者に対する扶養義務は、第一次的には養親が負い、非親権者である実親は、養親が無資力その他の理由で十分に扶養義務を履行できないときに限り、次順位で扶養義務を負うものと解されるから、本件養子縁組により抗告人が第一次的な扶養義務者ではなくなったとの事情変更により、前件調停での抗告人が相手方に対して未成年者の養育費として月額15万円を支払うとの定めを取り消すのが相当であるとして、原審判を取り消し、前件調停事件で成立した養育費の支払の定めを取り消した令和5年6月13日東京高裁決定(判タ1521号118頁、判時2639号71頁)関連部分を紹介します。 ○裁判所が,相手方に対し,祖父母の年収が分かる資料及び資産の全体を記載した陳述書等の資料の提出を求めたにもかかわらず,何らの資料が提出されなかったことから養親である母方祖父母は,無資力その他の理由により十分に未成年者の扶養義務を履行することができないと認めることはできないとしました。祖父母は結構な収入があると思われます。 ********************************************* 主 文 1 原審判を取り消す。 2 当事者間の千葉家庭裁判所市川出張所平成26年(家イ)第1089号夫婦関係調整調停事件及び平成27年(家イ)第136号面会交流調停事件について平成27年9月18日に成立した調停の調停条項3項に基づき,抗告人が相手方に対して未成年者の養育費として月額15万円を支払うとの定めにつき,令和3年11月以降の支払を定める部分について,取り消す。 3 手続費用は,第1,2審とも,各自の負担とする。 理 由 第1 事案の概要等(以下,略称は,特記しない限り,原審判の例による。) 1 本件は,元夫である抗告人(原審申立人)が,元妻である相手方(原審相手方)に対し,千葉家庭裁判所市川出張所平成26年(家イ)第1089号夫婦関係調整調停事件及び平成27年(家イ)第136号面会交流調停事件(以下併せて「前件調停事件」という。)において,平成27年9月18日成立した調停の調停条項(以下「前件調停条項」という。)3項の,抗告人が相手方に対し当事者間の子である未成年者の養育費として平成27年9月以降月額15万円を支払うとの定めにつき,令和3年11月以降の支払を定める部分について取り消すことを求める事案である。 2 原審は,抗告人の本件申立てを却下するとの審判をした。そこで,抗告人が,原審判を不服として即時抗告した。 3 本件抗告の趣旨は別紙抗告状に、本件抗告の理由は同抗告理由書及び同抗告人準備書面(1)に各記載のとおりであり,相手方の意見は同相手方準備書面(5)に記載のとおりである。 第2 当裁判所の判断 1 当裁判所は,当事者間の前件調停事件に係る前件調停条項3項に基づき,抗告人が相手方に対して未成年者の養育費として月額15万円を支払うとの定めにつき,令和3年11月以降の支払を定める部分について取り消すのが相当であると判断する。その理由は,原審判を次のとおり補正するほかは,原審判「理由」第2の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1)原審判1頁23行目から同24行目にかけての「未成年者をもうけたが,」の次に「抗告人において,他の女性と不貞関係となり,家庭を顧みなかったことなどもあり,相手方において,平成26年7月,未成年者を連れて抗告人と同居していた自宅を出,相手方肩書住所地所在の相手方の両親宅(以下「母方祖父母宅」という。)に転居して抗告人と別居した後,」を加え,同25行目の「甲35,乙1」を「甲35,乙1,14,15,手続の全趣旨」に改める。 (中略) (7)原審判3頁14行目冒頭から同7頁22行目までを以下のとおり改める。 「(2)本件養子縁組について ア 母方祖父母は,本件養子縁組により,同居の孫である未成年者を養子としたところ,一般に,未成年者との養子縁組には,子の養育を全面的に引き受ける意思が含まれると解される上,未成年者養子制度の目的からいっても,未成年者に対する扶養義務は,第一次的には養親が負い,非親権者である実親は,養親が無資力その他の理由で十分に扶養義務を履行できないときに限り,次順位で扶養義務を負うものと解される。 これを本件について見るに,母方祖父母は,25年以上にわたり,不動産の委託管理,駐車場の経営等を目的とする同族会社であるDの代表取締役又は取締役を務め,その本店及び母方祖父母宅の敷地である土地を共有し,Dは,E内に宅地を所有していることは,前記認定のとおりである上,当裁判所が,相手方に対し,母方祖父母の年収が分かる資料及び資産の全体を記載した陳述書等の資料の提出を求めたにもかかわらず,何らの資料が提出されなかったことからすると,養親である母方祖父母は,無資力その他の理由により十分に未成年者の扶養義務を履行することができないと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる資料はない。 以上によれば,本件養子縁組により,未成年者に対する第一次的な扶養義務者は,養親である母方祖父母となり,未成年者の実父である抗告人は,第一次的な扶養義務者ではなくなったことが認められる上,養親である母方祖父母が無資力その他の理由により十分に扶養義務を履行することができないときに当たるということもできないので,本件においては,前件調停条項3項の基礎とされた事情に変更が生じ,当初の調停合意の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至ったというべきである。 イ これに対し,相手方は,〔1〕養子縁組によって実親の扶養義務が消滅するのは,監護親である実親が再婚し,再婚相手と未成年者が養子縁組をして,実親,養親及び未成年者が家族を形成し,非監護親である実親の権利も義務も排除して子の養育を引き受ける場合を前提としており,祖父母や他の親類が養親となる場合は,実親の存在を排除していないこと,〔2〕本件養子縁組後も,相手方は実母として,抗告人からの養育費と自己の収入により未成年者を監護養育してきたことからすると,本件養子縁組をもって,養親である母方祖父母が未成年者の扶養義務を引き受けたと見ることはできず,本件養子縁組の事実は養育費を減額すべき事情の変更には当たらない旨主張する。 しかしながら,上記〔1〕の点については,祖父母が未成年者である孫と養子縁組をする場合(民法798条ただし書)でも,未成年者は養父母の共同親権に服することになる以上(同法818条1項ないし3項),養父母は,法的には未成年者の扶養義務を全面的に引き受ける意思を表示したとみるのが自然であり,従前の非監護親である実親に対しては,養父母が無資力その他の理由で十分に扶養義務を履行できないときを除き,同順位での扶養義務の履行を求めるべき理由は見当たらない。 上記〔2〕の点についても,本件養子縁組当時,母方祖父は76歳,母方祖母は72歳であり,母方祖父母が,抗告人に対し,未成年者(当時7歳)の養育費の分担を事実上期待する意思を有していたとしても不自然ではないが,前記認定説示のとおり,本件においては,養親である母方祖父母が無資力その他の理由により十分に扶養義務を履行することができないときに当たると認めることができない以上,非監護親である実父に対し,養親である母方祖父母と同順位の扶養義務を課すことはできない。 したがって,相手方の上記主張は採用することができない。 ウ 相手方は,相手方が,抗告人の不貞によって,心身に不調を来たして母方祖父母宅に戻った後,相手方に不慮の事故等があった場合に,母方祖父母に未成年者の面倒を見てもらうために本件養子縁組がされたという経緯からすれば,抗告人が本件養子縁組の事実をもって扶養義務を免れたと主張することは信義則に反するとも主張する。 しかしながら,相手方が本件養子縁組をした趣旨や動機によって,未成年者に対して第一次的に扶養義務を負う者が変わるというのも相当とは解されないから,抗告人が本件養子縁組の事実をもって第一次的な扶養義務者ではなくなった旨主張することが,信義則に反するということはできない。 したがって,相手方の上記主張も採用することができない。 (3)小括 以上によれば,その余について判断するまでもなく,本件養子縁組により抗告人が第一次的な扶養義務者ではなくなったという事情の変更により,前件調停条項3項に基づき,抗告人が相手方に対して未成年者の養育費として月額15万円を支払うとの定めを取り消すのが相当である。 その取消しの始期については,当事者間の公平や当事者の意向等に鑑み,抗告人が本件審判に移行する前の調停を申し立てた令和3年11月とするのが相当である。」 2 その他,各当事者の主張に照らし,本件記録を検討しても,前記の認定判断を左右すべき事由は認められない。 第3 結論 以上の次第で,抗告人の本件申立ては理由があるところ,これと異なり,抗告人の本件申立てを却下した原審判は相当でなく,本件抗告は理由があるから,原審判を取消した上,前件調停条項3項を本決定主文2項のとおり変更することとして,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官 大竹昭彦 裁判官 武田美和子 裁判官 押野純) 以上:4,208文字
|
