| 令和 7年11月11日(火):初稿 |
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〇原告が、原告の夫と被告との不貞行為により精神的苦痛を受けたとして、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料300万円と弁護士費用等の請求をしました。 ○原告は、被告は原告の夫Aと令和2年11月以降毎日電話・LINEで連絡を取り令和3年2月にはAが借りたマンションに住み、Aと不貞行為に及んだと主張すると、被告はAとは肉体関係はなく交際もせず、Aの会社業務を手伝っただけで、LINEメールの遣り取りも冗談に過ぎず不貞行為はないと主張しました。 ○これに対し、被告とAとのメッセージのやり取りは、ほぼ毎日のように行われており、Aから被告に対し、直接好意を伝えるメッセージや、被告からも頻繁にメッセージを送っており、また、Aが被告のために本件マンションを賃借したこと、Aが被告に金銭の援助をしていたこと、Aが本件マンションをしばしば訪れて被告と会っていたこと、同人らに抱き締めるなどの身体的接触があったことを示すやり取りも認められ、原告の婚姻共同生活の平和を侵害するものとして、不貞行為に当たるものと認めるのが相当であり、肉体関係の有無や、被告としてはAと交際するつもりがなかったことは、この判断を左右しないとして、慰謝料100万円の支払を命じた令和6年4月10日東京地裁判決(LEX/DB)判決本文を紹介します。 ○Aが原告との離婚を決意したのは、それまでの原告の言動等にも一因があることがうかがわれるが、それを考慮しても、本件の事実経過や各証拠に照らせば、婚姻関係破綻の直接的な原因は、被告との不貞関係にあったと認定しています。不貞行為を原因としての婚姻破綻が認められると慰謝料は、100万円程度になるのが普通です。 ******************************************** 主 文 1 被告は、原告に対し、110万円及びこれに対する令和2年11月27日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを3分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する令和2年11月27日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、原告の夫と被告との不貞行為により精神的苦痛を受けたとして、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料等330万円及びこれに対する不法行為後の日である令和2年11月27日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(証拠等を記載しない事実は当事者間に争いがない。以下,証拠について枝番を全て挙げる場合には枝番の記載を省略する。) (1)原告と訴外A(以下「A」という。)は、平成26年に婚姻した夫婦である。(甲1) (2)被告は、勤務していた飲食店に客として訪れたAと知り合い、遅くとも令和2年11月27日以降、Aとの間で、LINEのメッセージや電話により頻繁に連絡を取り合う関係にあった。被告は、令和3年5月頃以降、Aが経営する会社(以下「本件会社」という。)名義で借りたワンルームマンション(被告の肩書住所地のマンション。以下「本件マンション」という。)に寝泊りしている。 (3)原告は、令和4年5月5日頃、Aと被告との間でやり取りされたLINEのメッセージを見て、同人らが不貞関係にあると考え、Aの携帯電話から、被告に対し、Aとの関係を解消するようにとのメッセージを送った。(甲2、5) (4)Aは、令和4年10月13日頃、自宅を出て原告と別居し、原告に対し、弁護士を通じて離婚協議を申入れた。(乙3、弁論の全趣旨) 3 争点及び当事者の主張 (1)不貞行為の有無 (原告の主張) 被告は、遅くとも令和2年11月27日以降、毎日、AとLINEや電話で連絡を取り、令和3年6月には、本件会社の寮としてAが借り上げた本件マンションに住み、Aから生活費等を渡され、A名義のクレジットカードで買い物等をしていた。Aは、本件マンションを度々訪れて宿泊し、被告と不貞行為に及んだ。 (被告の主張) 被告は、Aから仕事を与えられたり、一緒に飲みに行ったりする仲であり、Aとの間に肉体関係はなく、交際もしていない。被告は、令和3年5月頃、当時の交際相手からモラハラやパワハラを受けていることをAに相談したところ、Aから、本件会社の業務を手伝うことを条件に、被告が日本にいるときの居住場所を用意する旨の申出を受けて、本件マンションに寝泊りするようになった。もっとも、被告は、1年のうちの大半は海外に滞在しており、日本にいるのは4か月程度であるし、被告が海外に滞在している間は別の者が本件マンションを利用していたのであり、Aが被告を本件マンションに住まわせていたというわけではない。Aから受けた送金は仕事の対価である。被告からAに対して「愛している」、「好きだ」といったメッセージを送ったことはないし、その他のメッセージも、冗談や、Aの機嫌を取るために送ったに過ぎない。 (2)損害額 (原告の主張) 原告とAの婚姻生活は、本件不貞行為が発覚するまで良好であったが、本件不貞行為により婚姻関係が破綻した。被告は謝罪するどころか不貞行為の事実を否認し、慰謝料の支払を拒否するなど不誠実な対応を取っていることにより、原告の精神的苦痛は拡大しており、その損害は300万円を下らない。 また、被告の態度により本件訴訟の提起を余儀なくされたことにつき、上記損害額の1割に当たる30万円を弁護士費用として請求する。 (被告の主張) 争う。Aは、原告のAに対する嫉妬深い言動や精神的DV等に嫌気が差し、離婚を決意したのであって、婚姻関係破綻の原因は、主として原告にある。 第3 争点に対する判断 1 争点1について (1)前提事実に加え、証拠(甲2、5)及び弁論の全趣旨によれば、被告とAとのLINEのメッセージのやり取りは、ほぼ毎日のように行われており、Aから被告に対し、「愛してる」といった直接好意を伝えるメッセージや、自らを「彼氏」、被告を「彼女」と称するメッセージが送られているほか、被告からも頻繁にメッセージを送っており、Aと連絡が取れない際には別紙のとおり自身の気持ちを伝えるメッセージを送ったりしていたことが認められる(甲2の5、5頁)。また、Aが被告のために本件マンションを賃借したこと(甲5、47頁、139頁等)、Aが被告に金銭の援助をしていたこと(甲5、35頁等)、Aが本件マンションをしばしば訪れて被告と会っていたこと、同人らに抱き締める等の身体的接触があったこと(甲2の5、6頁)を示すやり取りも認められる。 以上によれば、被告とAの関係は、原告の婚姻共同生活の平和を侵害するものとして、不貞行為に当たるものと認めるのが相当である。 (2)被告は、Aとの間に肉体関係はなく、LINEのメッセージについてもAの機嫌を取っていただけであるなどと主張し、これに沿う証拠(乙3)を提出する。しかし、上記(1)の交際態様は客観的にみて原告の平穏な婚姻共同生活の維持という権利ないし法的利益に対する侵害と認められるものであり、肉体関係の有無や、被告としてはAと交際するつもりがなかったことは、上記判断を左右しない。 また、Aからの送金が仕事の対価であることを示す的確な証拠はなく、その他、不貞行為に当たらないことを示す事情として被告が主張する事情はいずれも、上記判断を左右するものとはいえない。 2 争点2(損害額)について 前提事実に加え、証拠(甲4、7から10)及び弁論の全趣旨によれば、原告とAは、Aと被告との関係発覚を契機として別居に至ったものと認められる。Aが離婚を決意するに至ったことについては、それまでの原告の言動等にも一因があることがうかがわれるものの(乙3)、このことを考慮しても、本件の事実経過(前提事実(3)、(4))や上記各証拠に照らせば、婚姻関係破綻の直接的な原因は、被告との不貞関係にあったというべきであるから、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料として、100万円を認めるのが相当である。 また、原告が弁護士に委任して訴訟提起することを余儀なくされたことにつき、その1割に当たる10万円を、損害として認めるのが相当である。 第4 結論 よって、原告の請求は主文1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第37部 裁判官 中井彩子 以上:3,544文字
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