令和 7年10月23日(木):初稿 |
○原告元妻が、被告は原告とその元夫Cが婚姻関係にあることを知りながら、平成14年頃からCと不貞行為に及び、平成27年以降Cと同居し不貞行為を継続し、これが令和4年1月に発覚し、原告とCの婚姻関係は破綻し、同年4月に原告とCは離婚したとして、被告に対し不法行為に基づく損害賠償として慰謝料500万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めました。 ○これに対し、原告とCとの婚姻関係は、被告とCとの不貞関係の開始の時点で破綻に向かっていたところ、被告の貢献ないし支援もあって破綻せずにいたが改善もないままに時間が経過し、その後に破綻に至った経過に照らすと、原告とCの婚姻関係の破綻に対する被告の不法行為が寄与した程度は限定的というべきであり、慰謝料は50万円が相当であるとした令和6年4月30日東京地裁(LEX/DB)全文部分を紹介します。 ○被告は、Cが原告との婚姻関係は破綻しているとの説明を信じて平成23年から男女関係となり、平成27年からは同居しました。Cは、平成26年7月から令和3年12月まで原告に生活費、家賃等の婚姻費用として合計5460万3348円を支払い、さらに住宅ローンとして1487万2000円を支払っていたことから、原告との婚姻意思が認められ、婚姻破綻の主張は認められませんでした。しかし、判決は、被告がCと不貞関係となった平成23年頃から令和3年12月まで、Cが原告との経済的一体性を維持し、ひいては原告がCとの婚姻関係を維持できたのは、被告の現在も続くCに対する貢献ないし援助によるところが大きいとして、不貞行為慰謝料は50万円に限定して認めました。 ○元夫Cが原告に多額の婚姻費用支払継続ができたのは被告の貢献によることが明らかな事案であり、私としては、仮に慰謝料が発生しても、実質支払済みとして棄却して然るべきと思います。 ********************************************* 主 文 1 被告は、原告に対し、50万円及びこれに対する令和4年9月2日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告の、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、500万円及びこれに対する令和4年9月2日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告は原告とその夫が婚姻関係にあることを知りながら原告の夫と不貞行為に及んだと主張して、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料500万円これに対する訴状送達の日の翌日である令和4年9月2日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実又は掲記の証拠及び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実) (1)原告とC(以下「C」という。)は、平成2年9月10日に婚姻の届出をし、長男(平成3年○○月○○日生)をもうけた(甲1の1、1の2)。 (2)Cと被告は、遅くとも平成23年頃交際を開始し、その頃から同居している(乙4、6)。 (3)令和4年1月頃、被告とCの交際が原告に発覚し、原告とCは同年7月8日離婚の届出をした。 2 争点 (1)被告とCとの交際・同居の経緯と原告とCとの婚姻関係 (原告の主張) ア 被告は、Cが原告と婚姻関係にあることを知りながら、遅くとも平成14年頃にはCと交際して不貞行為をするようになり、平成23年頃にはCと同居していた。 そして、令和4年1月頃に被告とCが同居していることが発覚したことから、原告とCの婚姻関係は破綻するに至った。 イ 平成14年以降の別居はCの単身赴任を理由とするもので、婚姻の趣旨に反する別居ではなかった。 平成19年以降、原告がCの住居を訪れることはなかったが、Cは長男が大学に進学する平成22年頃まで、原告及び長男が住む高知の自宅をほぼ毎週末訪れていた。その後も、原告とCは日常的にメールでの連絡や食品その他日用品のやり取りをしていたし、定期的に集まって食事をしたり家族旅行をしていた。また、Cは、令和3年11月まで原告への婚姻費用を支払い、原告が平成29年に手術を受けた際には同意書への署名をしていた。 したがって、原告とCの婚姻関係は、被告とCの不貞関係が発覚するまで破綻していなかった。 被告が、Cとの同居生活は夫婦共同生活そのものであった旨主張するのは開き直りというべきである。 (被告の主張) ア Cは、平成14年頃に大阪の会社に就職していたが、平成17年10月頃に被告と知合い、平成23年頃、被告に交際を申し出るようになった。被告は、当初その申出を断っていたが、Cから原告との婚姻関係が破綻しているとの説明を受けたことから、Cとの交際を開始した。 平成14年の入社以降Cの年間給与は平成30年までの最高額が約800万円でその後450万円となっていたが、Cは、平成26年7月から令和3年12月まで原告に生活費、家賃等の婚姻費用として合計5460万3348円を支払い、さらに住宅ローンとして1487万2000円を支払っていた。被告は、平成27年4月以降、これらの支払で困窮していたCと被告の所有するマンションで同居するようになり、Cと支え合いながら生活をしていた。 なお、Cは、勤務先の会社で不正経理を行ったことにより8011万2000円の損害賠償義務を負った。会社の第三者委員会による調査では、不正経理の利益の大部分は上記の原告への生活費、家賃の支払や、住宅ローンの支払に充てられたとの結論が出されている。被告は、Cの会社に対する損害賠償について何ら責任はないにもかかわらず、年齢等を考慮するとCに弁済の見込みがないことから、自分名義の不動産に抵当権を設定したり、Cに代わって弁済をしている。一方で、会社の代理人によると、原告は、会社からの事実確認に対し、「私には関係がない。どうぞ刑務所に行ってもらってください。」と言ったとのことである。 イ 原告は、平成14年頃から、大阪の会社に勤めるCとは別居と同居を繰り返していたところ、長男が高知県の高校に進学した平成19年4月頃以降、Cの住むマンションを訪れることもなく完全に別居状態となり、Cへの日常生活の支援をすることもなかった。Cは、被告との交際開始後、原告と顔を合わせるのは年に1度あるかないかであった。 Cと被告との交際開始時点で別居期間が4年に及んでいたこと、別居期間中原告とCとは没交渉状態であったことなどからすると、原告とCには共同生活の実態がなかった。そして、上記アの同居生活が夫婦共同生活そのものであることからすると、原告とCとの婚姻関係は、遅くともCと被告との交際ないし同居開始の時点で破綻していたというべきである。 (2)損害 (原告の主張) 被告の不法行為によりCとの婚姻関係が破綻し、離婚に至った原告の精神的苦痛に対する慰謝料は500万円を下回らない。 (被告の主張) 否認し、争う。 第3 争点に対する判断 1 事実認定 前提事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1)原告、C及び長男は平成14年頃高知県の自宅に居住していたところ、Cはその頃転職のため一人で大阪に転居し、その後原告及び長男が大阪に転居してCとの同居を再開した。 平成16年頃、原告は、長男の高知県内の中学校への進学に合わせて高知県内の自宅に戻ったが、長男が兵庫県西宮市内の中学校に転校したことから、Cが借りていた西宮のマンションでCとの同居を再開した。その後、原告は、平成19年頃に長男が高知県内の高校に進学するのに合わせて高知県の自宅に転居し、長男が東京の大学に進学を希望したことから、平成23年頃に長男とともに東京に転居した。 原告は、平成19年頃の転居以降、Cの住居を訪れることはなかったが、Cと被告との交際が発覚するまでは、Cとメールや日用品のやり取りをするほか、年に数回東京や大阪で長男とともにCと食事をするなどの交流をしていた。また、Cは、平成29年頃原告が手術を受ける時、同意書に家族として署名をすることがあった(甲5ないし7、9ないし11、原告本人)。 (2) ア Cは、平成26年7月から令和3年12月まで7年6か月の間に、原告及び長男の東京の住居の家賃(年額約210万円)、生活費及び長男の小遣いとして合計5460万3348円(1年当たり平均728万円)、高知の自宅のローン合計1487万2000円を支払った上、自分の住居の家賃等の支払をしていた(甲8、乙2、4、原告本人)。 被告は、平成23年頃から西宮のマンションでCと同居していたが、Cが上記の原告への支払に苦しんでいたことから、平成27年以降、生活費を節約するために被告所有の大阪のマンションで原告と同居するようになった(乙5、6、被告本人)。 イ Cは、平成14年頃以降大阪の会社に勤務していたところ、経理部長を務めながら不正経理を行い、それによって得た利益で原告及び長男の家賃や生活費、自宅のローンなど上記アの支払を行っていた。 被告及びCは、令和4年7月28日、上記会社との間で、Cが行った不正経理により会社に与えた損害8011万2000円を会社に賠償する責任を負うこと、被告はCの債務のために自分の所有する不動産に会社のための抵当権を設定することなどを合意した。そして、被告は、現在、仕事の確保に苦労しているCに代わり、会社に対する毎月の支払を半分以上負担している(乙1、6、被告本人)。 2 争点(1) (1) ア 前提事実(2)、乙第6号証及び被告本人尋問の結果によると、Cと被告は平成23年頃から交際を開始し、その頃から不貞関係にあったと認めるのが相当である。原告は、Cと被告が平成23年より前から不貞行為をしていたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。 イ Cの婚姻意思は、原告がCの住居を訪れなくなってから、被告との不貞関係を開始するまでの約3年間に、一定程度薄れていたというべきである。しかし、Cは、被告と交際ないし同居をするようになってからも、令和3年12月まで原告の生活費、原告との夫婦共有財産となる自宅のローンの支払を継続し(前記1(2)ア),原告との経済的な一体性を維持していた。 さらにCが原告及び長男との交流を一定程度保っていたとうかがえること(前記1(1))を併せると、Cは、被告との不貞関係を継続する一方で、原告との婚姻意思を全く失ってはいなかったと認めるのが相当である。そうすると、原告とCの婚姻関係は、被告とCとの不貞関係の開始によっても直ちに破綻には至らなかったが、令和4年1月にCの不貞行為が原告へ発覚したことで客観的に破綻し(前提事実(3))、修復が不可能になったというべきである。 そうすると、原告とCとの婚姻関係が被告とCとの交際又は同居の前から破綻していたとの被告の主張は採用できない。 (2)そして、被告はCとの交際開始の時点でCが原告と婚姻関係にあったことを認識していたのであり(乙6)、仮にCから原告との婚姻関係が破綻していると説明されていたとしても、それを安易に信じたことについては過失があるというべきである。 以上によると、平成23年頃以降Cと不貞関係にあり、その後原告とCとの婚姻関係を破綻させたことについて、被告には不法行為が成立する。 3 争点(2) (1)被告は、遅くとも平成23年頃からCと同居し、生活費を節約するために所有するマンションを二人の住居とするなどしていたものであり(前提事実(2)、前記1(2)ア)、Cの生活や就労は被告によって支えられていたというべきである。また、Cは勤務していた会社で不正経理を行い、その利益から原告及び長男への多額の生活費等を支払っていたところ、被告は、Cの会社に対する債務について物上保証をし、毎月の支払を半分以上負担しているが、原告がCの債務について負担した形跡はない(前記1(2)イ)。 そうすると、被告がCと不貞関係となった平成23年頃から令和3年12月まで、Cが原告との経済的一体性を維持し、ひいては原告がCとの婚姻関係を維持できたのは、被告の現在も続くCに対する貢献ないし援助によるところが大きいというべきである。 (2)原告とCとの婚姻関係は30年以上にわたって継続していたが、前記2のとおり、被告の不法行為により破綻するに至っている。 他方で、Cは、被告との不貞関係が始まった時点で原告に対する婚姻意思が薄れており、その後原告とは被告との交際の発覚まで一定程度の交流を保っていたものの、本件の証拠上、その交流が密なものであったとは認め難い。そうすると、原告とCとの婚姻関係は、被告とCとの不貞関係の開始の時点で破綻に向かっていたところ、上記(1)のとおり被告の貢献ないし支援もあって破綻せずにいたが改善もないままに時間が経過し、令和4年1月に破綻に至ったものと認められる。このような経過に照らすと、原告とCの婚姻関係の破綻に対する被告の不法行為が寄与した程度は限定的というべきである。 以上によると、被告の不法行為によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は50万円が相当である。 第4 結論 よって、原告の請求は主文の限度で理由がある。 東京地方裁判所民事第37部 裁判官 安川秀方 以上:5,510文字
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