令和 7年 7月 9日(水):初稿 |
○原告が、夫Cと被告の不貞行為により精神的苦痛を受けたとして、被告に対し不法行為に基づき、慰謝料等合計330万円等の支払を求めました。被告は、Cとホテルに同宿した事実は認めるも性的関係はなかったと主張しました。 ○これに対し、本件宿泊当時、Cと被告が既に相当親密な関係にあったことを推認させるものであるところ、そのような関係にある成人男女が、あえてホテルの同じ部屋に宿泊していることからすれば、性的行為が行われたとみるのが自然として、1回の不貞行為を認め、慰謝料120万円・弁護士費用12万円合計132万円の支払を命じた令和6年1月23日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。 ○「15年間の密接な関係継続に慰謝料150万円を認めた地裁判決紹介」のように15年間の密接な関係に慰謝料150万円を認める判例もあれば、本件のように認定できる不貞行為1回で120万円もの慰謝料支払を認める判例もあり、不貞慰謝料金額は裁判官によって相当差があります。 ********************************************* 主 文 1 被告は、原告に対し、132万円及びこれに対する令和4年1月24日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し、その4を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する令和4年1月24日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、夫と被告の不貞行為により精神的苦痛を受けた旨を主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料等合計330万円及びこれに対する令和4年1月24日(不法行為日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(証拠等の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。) (1)原告(昭和50年○○月○○日生まれ)は、平成21年11月22日、古美術店を営むC(昭和24年○月○○日生まれ。以下「C」という。)と婚姻した。原告とCの間には、3人の子(平成24年○月生まれの長男、平成28年○月生まれの長女、平成31年○月生まれの二女)がいる。(甲6) (2)被告とCは、令和4年1月24日、「a」(以下「本件ホテル」という。)において、同じ部屋で宿泊した(以下「本件宿泊」という。)。 (3)原告は、令和4年7月7日頃、東京家庭裁判所に対し、Cを相手方とする夫婦関係調整調停(離婚)を申し立てた(甲5)。 3 争点及び当事者の主張の骨子 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件宿泊の際の不貞行為の有無)について (1)Cは、30年来の知人である被告に対し、カニを食べに行こうなどと言って宿泊を前提とした旅行の約束をした上で、本件ホテルの部屋を一室だけ予約した(被告本人2、5頁、証人C 9頁。Cは第三者に予約をお願いしたかもしれないとも述べるが、当初から被告と同じ部屋で宿泊するつもりであったことは認めている。)。また、被告も、別の部屋を希望したりすることもなく、Cと同じ部屋に泊まることを受け容れている(被告本人9頁)。 これらの事実は、本件宿泊当時、Cと被告が既に相当親密な関係にあったことを推認させるものであるところ、そのような関係にある成人男女が、あえてホテルの同じ部屋に宿泊していることからすれば、性的行為が行われたとみるのが自然である。 (2)被告は、Cとはプライベートな事情まで深く話すような間柄ではないなどと主張し、それまで二人きりで食事に行った経験すらなかったなどと述べる(乙7、被告本人8頁。Cも同旨〔証人C 1、8、9頁〕。)。しかしながら、そのような浅い関係性しかなかった被告を、いきなり宿泊を伴う旅行に誘うこと自体、相当不自然・不合理であるところ、その理由に関する明確な説明はない(証人C 9頁)。また、この誘いに乗り、同部屋での宿泊を受け容れた被告自身の態度とも整合しない。 被告は、宿泊した部屋は広くてプライバシーが保たれていたから性的行為には及んでいないなどとも主張して、同旨を述べる(被告本人4頁。Cも同旨〔証人C 2頁〕。)が、これを裏付けるに足りる的確な証拠ないし事情も見当たらない。 したがって、性的行為を否定する被告やCの供述はいずれも信用できないものといえ、これらを根拠とする被告の主張は採用できない。 (3)以上によれば、本件宿泊の際、被告とCの間には性的行為(不貞行為)があったと認めることが相当である(以下「本件不法行為」という。)。 2 争点2(被告の故意過失の有無)について (1)前記1(1)のとおり、本件宿泊当時、被告とCは相当親密な関係にあったことが推認できる上、Cは、自身の古美術店の常連客には原告と婚姻している事実を明らかにしていたことがうかがわれるから(甲2)、被告においても、C本人や共通する友人を通じて、当該事実を認識していた可能性は高いといえる。前記1(2)のとおり、本件宿泊に関する被告やCの供述は信用性に乏しいものであり、この点からも、被告において、Cと性的関係を持つことが不貞行為に当たることを認識していたことが疑われる。 もっとも、上記各事情を総合しても、被告において、Cが既婚者であることを認識していたとまではいえないところ、他にこの点を認めるに足りる的確な証拠ないし事情は見当たらない。 (2)被告は、Cの婚姻関係の有無を全く確認していない旨を述べるところ(被告本人8、9頁)、Cが過去に婚姻していた事実や子どもがいた事実を認識していたこと(乙7)からすれば、Cと性的関係を持つに当たり、適宜の方法で婚姻関係の有無等を確認することが期待されていたといえ、それは極めて容易に行うことができた。被告は、その程度の慎重さを欠いてCとの性的行為に至ったものであるから、本件不法行為に関し、過失が認められる。 3 争点3(婚姻関係破綻の抗弁の当否)について (1)原告が平成31年○月○○日にCに送信した電子メール(乙1。以下「本件メール」という。)には、Cの日々の言動に対する強烈な不満や怒りが綴られていた。原告は、本件メールにおいて、Cに対し、感情をコントロールして、すぐに怒鳴ったりしないようにすることを強く求め、これができず、話し合う気持ちもないのであれば、「ほんとに不本意ですけど、セックスレスの仮面夫婦として、同居しましょう。」〔乙1の1・26枚目〕などと綴っており、同年10月1日には別居を始めた(別居先は原告の現在の住所地である。)。これらの事情は、原告とCの婚姻関係が危機的な状況にあったことをうかがわせるものである。 他方で、原告は、本件メールの送信後にCが態度を改めたため、危機的な状況は回避された旨を述べており(原告本人18、19頁)、これに沿う内容のCとのやり取りや写真も存在する(甲8、9)。実際、本件メールが送信されて以降、同様の内容の電子メールは送られていない(証人C 11頁)。また、原告が別居を始めたのは、子ども達が通うインターナショナルスクールへの通学の利便性等を考えてのことであり(原告本人2、3頁)、別居先の賃貸借契約を締結したのはCであって、別居後も双方の住居を行き来したり家族旅行をしたりしていたこと(甲8、9、乙2、原告本人17頁)を踏まえれば、Cとの仲が険悪になったことが別居の直接的な理由であったとまでは認め難い。原告は、別居先から離れたインターナショナルスクール(乙3)に子ども達が通うようになった後も、別居を解消していないが、引越し費用の節約等の合理的な理由が存在したと認められ(甲7、原告本人17、18頁)、婚姻関係の破綻を推認させる事情とはいえない。 (2)これらの事情を踏まえれば、本件宿泊当時、原告とCの婚姻関係が破綻していたとは認めるに足りないというべきであるから(なお、被告は、原告が令和3年頃には別の男性と交際していた旨を主張し、Cも同旨を述べるが〔証人C 4、5頁〕、本件全証拠に照らしても、これを裏付ける的確な証拠ないし事情は見当たらないから、同主張は採用できない。)、被告の婚姻関係破綻の抗弁は採用できない。 4 争点4(損害額等)について 本件不法行為に至るまでの間、原告とCの婚姻期間は約12年間に及んでおり、3人の未成年の子がいた。婚姻期間中、夫婦関係に大きな亀裂が生じたこともあったが、前記3で述べたとおり、良好であるとはいえないまでも、少なくとも本件不法行為の頃まで危機的な状況が継続していたとはいえないところ、本件不法行為を契機として、原告とCの婚姻関係は破綻するに至ったことが認められる(原告本人8、9頁、前提事実(3))。 以上の事情に加えて、本件不法行為以前からCと被告は相当親密な関係にあったとみられるものの、認定できる不貞行為は1回にとどまることなど、本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、被告が原告に対して支払うべき慰謝料の額を120万円と認めることが相当である。また、本件不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用相当額の損害としては、12万円を認めることが相当である。 5 結論 (1)前記1ないし4で認定説示したとおり、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、132万円及びこれに対する不法行為日(令和4年1月24日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金を請求することができる。 (2)よって、原告の請求は、主文記載の限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第12部 裁判官 小西俊輔 以上:4,035文字
|