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性関係はなくても不法行為責任として慰謝料30万円を認めた地裁判決紹介

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令和 7年 5月31日(土):初稿
○被告が原告の夫Cの存命中に不貞関係をもったとして、原告が被告に対し、民法709条に基づき損害賠償金等330万円の支払を求めました。

○被告は無償で異性であるCを生活空間の区別がつかない2LDKの所有マンションに同居させ、洗濯や食事等の家事の一部を担って同居生活を営んでおり、事実上夫婦と同様の関係をもったといえ、被告がCに代わって原告に対する送金や要介護認定の申請手続をし、Cの入通院への付添いをしている関係は、性交渉の有無にかかわらず、原告のCとの夫婦生活上の平穏を侵害するものであり、不法行為に該当するものと認められるなどとして、被告に慰謝料30万円の支払を命じた令和6年2月8日東京地裁判決(LEX/DB)。関連部分を紹介します。

○不法行為責任を認めても、認容額は請求額の1割相当額で、おそらく弁護士費用程度の金額しか認めなかったところに裁判官の苦渋の判断がしのばれます。

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主   文
1 被告は、原告に対し、33万円及びこれに対する令和2年6月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その9を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する平成21年6月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の要旨

 原告は、被告が原告の夫の存命中に不貞関係をもったと主張し、被告に対し、民法709条に基づき損害賠償金の支払及びこれに対する不法行為開始後の日である平成21年6月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。

2 前提事実
 以下の事実は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により認定できる。
(1)原告(昭和23年生)は、昭和45年12月29日、C(昭和12年生。以下「C」という。)と婚姻した。
(2)原告とCとの間には、長男(昭和47年生)、長女(昭和53年生)及び二女(昭和55年生)がいる。
(3)Cは、令和2年6月5日、死亡した。
(4)被告は、本件当時、原告とCが婚姻関係にあることを知っていた。

第3 争点に対する当事者の主張
1 争点1(不貞関係)について

     (中略)

第4 争点に対する判断
1 認定事実

 弁論の全趣旨及び後掲の証拠(枝番号があるものは全ての枝番号を含む。)によれば、以下の事実が認められる。
(1)Cは、証券会社に勤務していたが、平成9年に60歳で定年退職して将棋講師としての稼働を始め、同年6月頃からは、原告方を出て、少なくとも平日は原告と別居し、その住居や勤務先を原告には伝えなかった(甲6、原告本人1頁、16頁~17頁)。また、Cは、足を悪くしたことなどを理由に定年よりしばらく前から原告と性交渉をもたなくなった(原告本人19頁)。

(2)Cは、上記別居後は、土曜日などに、将棋教室や大会のため原告方近隣を訪れた後、原告方に1泊することがあったほか、孫らの行事に参加していた(甲6、13、原告本人3頁~4頁、13頁、16頁、被告本人26頁)。

(3)被告は、昭和60年頃、当時の被告の勤務先近くのラウンジでCと知り合い、その後、月一、二回程度の頻度で被告が費用を負担してCと昼食をとることがあったほか、Cが被告の自宅アパートを日中に訪れたことが4回程度あった(乙3、被告本人1頁~6頁、18頁)。

(4)被告は、平成20年9月、自宅アパートの近傍に2LDKのマンション(各居室の扉に施錠ができないもの。)を購入して転居し、母と同居して生活していたが、母が死亡した後の平成二十一、二年頃、Cに対し、無償で、母の使用していた部屋の利用や、被告方での有償の将棋教室の開講を許した。その後、Cは、徐々に生活道具を運び入れ、トイレや風呂、リビングを利用して同マンションで被告と同居して生活するようになり、被告は、Cの衣類を被告のものと一緒に洗濯したり、Cに食事を提供したりすることがあった。(甲9、10、乙3、被告本人6頁~11頁、16頁、25頁)

(5)原告は、被告に対し、平成25年、離婚調停を申し立て、その申立書には、別居をした日が平成9年6月であること、申立ての動機は、性格が合わない、異性関係、精神的に虐待する、家族をすててかえりみない、家族と折合いが悪い、同居に応じない、生活費を渡さないことであり、そのうち生活費を渡さない点が最も重要であることが記載されていた。同申立ては、Cの不出頭により不調に終わり、原告は、以後、Cに対して離婚調停や離婚訴訟を提起していない。また、この頃原告とCとが会話をする機会があったが、Cは離婚に応じる旨述べることはなかった。(乙1、2、原告本人2頁~3頁、17頁)

(6)Cは、平成9年の別居後も、上記離婚調停申立ての前頃までは、原告に対して生活費を振込送金していた(原告本人14頁)。被告は、Cが死亡する1年半程度前には、三、四回、Cから依頼されて原告に対して生活費の送金をしたことがあるほか、平成30年頃には、Cの要介護認定の申請手続を代行し、Cの入通院に付き添うなどしていた(乙3、被告本人12頁~13頁、21頁)。

(7)Cは、疾病が重篤になった後の令和2年4月23日頃、被告方を離れて原告方に戻り、その後、入通院治療を経て同年6月5日に死亡した。被告は、その間もCと連絡を取り合うなどし、Cの死後はその命日等に墓参した。(甲6、乙3、4、原告本人5頁、9頁)

2 争点1(不貞関係)について
(1)被告は、平成二十一、二年頃から、無償で、異性であるCを生活空間の区別がつかない2LDKの所有マンションに同居させ、洗濯や食事等の家事の一部を担って同居生活を営んでおり(認定事実(4))、事実上夫婦と同様の関係をもったといえる。また、被告が、Cに代わって原告に対する送金や要介護認定の申請手続をし、Cの入通院への付添いをしていること(認定事実(5))も、そのような関係を現すものといえる。

 被告がCとそのような関係をもつ行為は、性交渉の有無にかかわらず、原告のCとの夫婦生活上の平穏を侵害するものであり、不法行為に該当するものと認められる。なお、被告とCとの同居は令和2年4月23日頃終了しているが、被告は、その後もCと連絡をとるなどしており(認定事実(6))、Cの死亡まで交際関係は維持されていたと認められる。

(2)以上に加えて、原告は、〔1〕上記同居より前から性交渉を伴う交際関係があったこと、〔2〕上記同居後も性交渉があったことを主張する。
 しかし、上記〔1〕について認定事実(3)のとおりの交遊関係を認めることができるものの、この程度の交遊関係をもって、不法行為に当たる不貞関係ということはできないし、それ以上の被告とCとの関係を具体的に示す証拠はない(原告が根拠と主張する昭和60年頃からの交際を自認する発言(甲4)は認定事実(3)の交遊関係を述べるものとみても不自然ではないし、上記(1)の事実から、直ちに同居前の被告とCの交際関係を推認することはできない。)。

 また、上記〔2〕について、被告は、Cとの性交渉はなかったと供述するところ、これは当時のCの年齢(七十二、三歳)を考慮すると直ちに排斥することができない。
 以上に照らして上記〔1〕及び〔2〕の原告の主張は採用できない。

3 争点2(婚姻関係の破綻)について
(1)認定事実のとおり、Cは、定年(平成9年)のしばらく前から原告との性交渉をもたなくなり、同年6月頃からは、少なくとも平日は原告と別居し、その就労先や居所を原告に知らせていなかったというのであり(認定事実(1))、原告とCとの婚姻関係が相当形骸化していたとみるべき事情が存在する。

 しかし、他方において、原告とCは、離婚せずに婚姻関係を維持しており、平成二十一、二年までに、両名の離婚意思をうかがわせる事情は見当たらないこと、Cは、原告との別居後も土曜日等に原告方に宿泊し、孫らの行事に参加し、原告に生活費を送金していて(認定事実(2),(6))、家族としての関係性は、外形上一定程度維持されていたといえることを考慮すると、原告とCの婚姻関係が、被告の不法行為開始時点において破綻していたと認めることはできない。

(2)被告は、平成26年の離婚調停申立て前後頃の事実(認定事実(5))をもって婚姻関係の破綻を主張するが、これは、被告の不法行為開始後の事情であって、不法行為責任を免れさせ得るものとは認められない。かえって、被告が離婚調停申立て後も離婚に応じる様子も示さず、原告も、調停不調後に離婚に向けた具体的行動をとっていないこと(認定事実(5))、Cが令和2年4月23日頃被告方を離れて原告方に戻り、原告がこれを受入れていること(認定事実(7))などの事情は、原告及びCに平成二十一、二年当時も離婚意思がなかったことをうかがわせる事情とみることができる。 

(3)したがって、婚姻関係の破綻の抗弁は採用できない。

4 争点3(損害額)について
 本件における婚姻期間及び不貞関係をもった期間は長いこと、他方において、不貞関係の態様は前述のとおりであって、性交渉を伴ったとは認められないこと、その開始時期が、別居後12年程度経過し、原告とCの婚姻関係が相当形骸化した後であること、同時点において原告とCに夫婦として養育すべき未成熟子はいなかったこと(甲1)が認められ、これに加えて、原告の主張する被告による墓参等の不法行為後の事情や、被告の主張するその当時の原告の対応状況(乙4、原告本人9頁)、その他本件に現れた一切の事情を併せ考慮すると、相当な慰謝料額は30万円と認めるのが相当である。

 また、本件事案の内容、審理経過及び認容額等に鑑みれば、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は3万円と認められる。
 なお、原告は、不貞関係の維持により日々生じる損害の全体について遅延損害金の支払を求めているものであるから、付帯請求の起算日は、その全てが遅滞に陥った日である令和2年6月5日(不貞関係をもった最後の日であるCの死亡日)から認めるのが相当である。

第5 結論
 よって、原告の請求には主文1項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第44部 裁判官 村木洋二
以上:4,351文字

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