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不貞行為慰謝料1000万円請求に対し110万円を認めた地裁判決紹介

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令和 6年 6月 3日(月):初稿
○原告妻が、婚姻生活30年以上経過している自身の配偶者訴外Cと被告とが不貞行為に及んでおり、これにより精神的苦痛を被った旨を主張し、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料1000万円と弁護士費用の支払を求め、被告は、不貞行為開始時点で原告と訴外Cの婚姻関係は破綻しており、被告には故意・過失が存在せず、損害賠償義務はないと争いました。

○これに対し、被告は、訴外Cとの交際を開始した時点において、同人に妻子がいること自体は告げられていたことが明らかで、本件の不貞行為の開始時点で、原告と訴外Cとの婚姻関係が破綻していたとまで認めるに足りる事実、証拠は見当たらず、むしろ、両名及び子らの間では、相応に平穏な家庭生活が維持されていたことがうかがわれ、外部から見て婚姻関係の形骸化をうかがわせるような客観的事情があったとは解し難いから、被告には、不貞行為につき少なくとも過失があることは明らかであるとして、慰謝料110万円と弁護士費用の支払を命じた令和5年3月28日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

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主   文
1 被告は、原告に対し、121万円及びうち110万円に対する令和3年7月18日から、うち11万円に対する同年11月3日から各支払い済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告の、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、1100万円及びうち1000万円に対する令和3年7月18日から、うち100万円に対する同年11月3日から各支払い済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は、原告が、自身の配偶者である訴外C(以下「訴外C」という。)と被告とが不貞行為に及んでおり、これにより精神的苦痛を被った旨を主張し、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料等合計1100万円及びこれに対する不法行為日以後の日(1000万円については令和3年7月18日、100万円については同年11月3日(訴状送達日の翌日))から支払い済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実等)
(1)当事者等
ア 原告と訴外Cとは、平成5年10月17日に婚姻し、両名の間には4名の子が生まれた(争いがない)。
イ 被告は、訴外Cの小学校の同級生であった(弁論の全趣旨)。

(2)被告と訴外Cとの交際関係等
 被告は、訴外Cと、遅くとも令和3年6月27日以降、性交渉を含む交際をするようになった(上記の限度で争いがない。)。

3 争点及びこれに対する当事者の主張

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記第2の2の前提事実に加え、証拠(甲21、27、30、乙14、証人C、原告本人、被告本人のほか、後掲括弧内の各証拠。ただし後記認定に反する部分を除く。書証につき特に頁数を示す場合には「甲21・1頁」などという。なお、尋問結果につき該当箇所を特に示す場合には、便宜上、陳述記載書面(民事訴訟規則68条2項)の該当箇所を指して「証人C 1頁」などと記載する。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)原告と訴外Cとは、令和2年9月頃以降、寝室を別にするようになった。その理由は、同時期頃に長女が自宅を出て同人の部屋が空くこととなったことから、原告が上記の部屋を使用することを希望したことや、新型コロナウイルスの感染リスクを下げるなどという理由によるものであった。
 その他、原告と訴外Cとは、令和3年6月頃には一緒にコンサートに行く旨のやり取りをするなどし、その他、日常生活に関する交流を保っていた。また、原告は、早朝に出勤する訴外Cのために朝食を用意するなどの対応をしていた。

 また、家族の家計については、訴外Cが管理し、原告に対して毎月の生活費を交付し、また原告がクレジットカードを使用することがあるというものであり、少なくとも令和3年6月14日頃(後記(3))までの時点で、家計の管理状況につき特に変化があった形跡は見当たらない。(甲19の1から19の5,甲21・4頁、甲27・4、5頁、証人C 10から13頁、原告本人1から3頁)

(2)訴外Cと被告とは、小学校6年生の時点で同級生であり、その後は特に交流がなかったところ、令和2年12月頃、被告が訴外Cの勤務先に連絡した。その経緯は、訴外Cが外科医として勤務していたところ、被告が自身の母の転院先を探している際に、インターネットで訴外Cの情報を発見したというものであった。
 その後、被告の母は、訴外Cの勤務先に通院するようになり、また、訴外Cと被告とは連絡先メールアドレスを交換して連絡を取り合うようになった。その後には、いわゆるスマートフォンのアプリケーションである「LINE」(文章や画像等によるメッセージを簡易な方法で送受信することができ、互いのメッセージが時系列順に一覧できるなどの機能を有する。以下、単に「LINE」という。)によるやり取りも行うようになった。

 そして、訴外Cと被告は、両名が自認する範囲で、令和3年5月16日頃からプライベートで会うようになり、野球観戦、食事等を共にするようになった。
 また、時期等の詳細は判然としないものの、訴外Cは、被告に対し、原告との婚姻関係に関し、部屋が1階と3階とで分かれているから家庭内別居状態である旨、1年以上もスキンシップがない旨などを述べたことがあった(ただし、原告の認識によれば、部屋が分かれていた点以外は事実と異なる。)。(甲27・1、2頁、乙3、4、証人C 1から5、19、20、28頁、原告本人13頁、被告本人1から3、12、13頁、弁論の全趣旨)

(3)原告は、令和3年6月14日頃、訴外Cと被告のLINEによるやり取りを発見した。原告は、訴外Cを追求し、両者が互いに取り乱して動転するなどの状況となり、その中で、訴外Cが離婚を求める旨などを述べたことがあった。
 その後の同月15日、原告は、訴外CのLINEのアカウントを使用して、被告に対し、訴えますから覚悟してくださいなどという旨のメッセージを送信した。
 また、上記同日、被告と訴外CはLINEによるやり取りを行い、同人は、原告が訴外Cと被告のやり取りを見て取り乱している旨などを説明し、被告は、LINEの会話内容はお互いのために全て削除したほうがよいと思う旨などを述べた。(甲14、証人C 5、13、14頁、原告本人3、4、10頁、被告本人5,8頁)

(4)被告と訴外Cとは、令和3年6月27日、横浜市内で合流し、食事を共にするなどした上、いわゆるラブホテルを利用して不貞行為に及んだ。
 その後の同月28日には、被告は訴外Cに対し、LINEにより、レシート類は用心のため破棄したほうがよいと思う旨などを述べた。
 なお、他の不貞行為の有無については、詳細は判然としないものの、ビジネスホテルのデイユースを使用するなどの方法により、上記の不貞行為を初回として複数回(訴外Cの説明によれば2回)あったことがうかがわれる。(甲1、15、甲21・5頁、証人C 5、6、13、14頁、被告本人6、7、13、14頁)。

(5)被告と訴外Cとは、令和3年7月14日、東京都内で合流し、百貨店を訪れ、食事を共にするなどした(同日に直接不貞行為に及んだ形跡は見当たらない。)(甲2)。

(6)原告は、被告に対し、代理人弁護士に委任した上、令和3年7月18日到達の内容証明郵便により、被告が訴外Cと遅くとも同年6月頃から不貞関係にある旨、これにより1000万円を請求する旨などを通知した。
 また、訴外Cは、原告から、令和3年7月19日までに被告との関係について追及を受け、ビジネスホテルのデイユースなどは今の時代は当たり前であるなどと述べる旨の対応をした上、同日、その対応状況をメールにより被告に連絡した。
 これを受けて、被告は、デイユースの件も具体的なことを言われたら訴外Cの言うとおりに対応すればよいだろう、こちらからホテルの話をする必要はないと思う旨などを返信した。(甲4の1、4の2、22)

(7)訴外Cは、令和3年7月21日、原告及び子らの追及を受け、同人らの前で、被告に対して電話をした。その際には、訴外C及び被告とも、不貞行為はしていない旨の態度を取っていた。
 また、被告は訴外Cに対し、上記同日(上記電話の後と解される。)、メールにより、「私を守ってくれるって言ったよね?本心を聞かせて。」などと述べた。
 その後、訴外Cと被告とが直接会ったことはない。(甲16、証人C 6から8、24、25頁、原告本人6、7、14、15頁)

(8)訴外Cは、「以下、離婚を決意した経緯です。」との記載から始まる文書(乙10の2)を作成して弁護士に送付し、その内容を被告にも提供したことがあった。その時期については、訴外Cによれば記憶が明確でないものの、文書の作成及び被告への提供ともに、子らの追及を受けて電話をした(前記(7))頃以降の時点であった。

 上記文書の内容は、自宅を新築した時期(令和元年7月)頃から夫婦間の性交渉がほぼ皆無となった旨、令和2年9月頃からは原告が夫婦の寝室に来なくなり、家庭内別居となった旨などの夫婦関係に関する不満や、従前からの原告の金銭管理・使用状況や、自身に対する態度等に関する不満などを述べ、離婚の意思は変わらないなどとするものであった。ただし、訴外Cの説明によれば、上記文書は相当飲酒して作成したものであって、内容的に不正確な部分や大げさな部分を含んでいた。また、訴外Cが、上記弁護士に正式に委任して原告と離婚の交渉をしたり、法的手続に及んだ形跡は見当たらない。(乙10の2、証人C 11から13頁、弁論の全趣旨)

(9)原告は、令和3年6月30日及び同年7月16日、医療機関を受診し、慢性胃炎、胃食道逆流症、過敏性腸症候群との診断を受けた。
 その後、原告は、同年8月26日には大学病院の精神科を受診し、適応障害との診断を受け、薬物治療を受けることとなった。その後、更に別の病院も受診するなどし、通院を続けている。(甲3、8、28、29、弁論の全趣旨)

2 争点(1)(被告が不貞行為を開始した時点で、原告と訴外Cとの婚姻関係が破綻していたと認められるか否か)について
(1)被告は前記第2の3(1)のとおり主張するので、検討する。
 まず、原告と訴外Cとが、令和2年9月以降は寝室を別にしていたこと自体は認められる(認定事実(1))。しかし他方で、夫婦間の日常生活に関する交流は保たれ、家計についても訴外Cが管理する状況に特に変化はなく、寝室を別にすることとなった理由も、訴外Cの職業及び当時の状況に照らして理解し得るものである(同認定事実)。そうすると、夫婦間において家庭内別居に至っていたとまで言うべき理由は何ら見当たらない。

 また、訴外Cが弁護士宛てに作成した文書(認定事実(8))については、その内容のみを見れば、訴外Cの離婚の意思及びその理由となる夫婦間の不和を示すものとも解し得る。しかし、上記文書については、同人自身が内容的に不正確である旨を自認し、また実際に弁護士に対して正式に委任するに至ってはいないというのである(同認定事実)。そうすると、上記のとおり日常生活や家計管理に関して特に変化がなかったことと併せれば、婚姻関係の破綻を示すものとは言えない。

 その他、本件記録を検討しても、本件の不貞行為の開始時点で、一定程度の不和や、性的接触に関する価値観の相違等があったかどうかはともかく、原告と訴外Cとの婚姻関係が破綻していたとまで認めるに足りる事実、証拠は見当たらない。むしろ、両名及び子らの間では、相応に平穏な家庭生活が維持されていたことがうかがわれる。この点に関する被告の主張は、結局のところ、上記文書に現れた内容その他の訴外Cの認識、説明等に依拠したものであり、客観的裏付けを欠くものと言うほかない。

(2)以上から、争点(1)についての被告の主張を採用することはできない。

3 次に、被告は前記第2の3(3)のとおり、被告に故意又は過失があることを争う旨の主張をするので、検討する。
(1)上記主張については、従前は明示的に争われておらず、書面による準備手続を経た本件第3回口頭弁論期日(人証調べ)において当裁判所が争点を確認した際にも(婚姻関係の破綻の有無及び損害のみを争点として掲げている。)、特に指摘がなかったところ、弁論終結を予定していた本件第4回口頭弁論期日(令和5年2月14日実施)において、何ら事前の明示的な予告等をすることなく、当日提出された最終準備書面において主張されたものである。

 このような主張の態様は、少なくとも、著しく相当性を欠くと言うべきことは明らかである。しかし、後記(2)で検討する内容に照らせば、時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条1項)の要件を満たすとまでは言い難いことから、ここで判断する。

(2)前記認定事実に照らせば、被告は、訴外Cとの交際を開始した時点において、同人に妻子がいること自体は告げられていたことが明らかである(認定事実(2))。そうすると、婚姻関係が既に破綻していたと信じるのについて相当の理由があったなどの特段の事情がない限り、不貞行為についての故意又は過失が認められるものと解される(原告の主張も、この点を当然の前提とするものと解される。)。

 そして、前記説示のように、訴外Cと原告とは客観的に見れば同居を継続し、家計も訴外Cが管理する形で一体であり、その他、相応に平穏な家庭生活が維持されていたことがうかがわれるのであって(前記2(1))、外部から見て婚姻関係の形骸化をうかがわせるような客観的事情があったとは解し難い。

 また、被告は、不貞行為の開始前である令和3年6月15日の時点で、原告から訴えるなどという旨のメッセージを受け、さらに,訴外Cの説明により原告が取り乱した状況にあることを把握していた(認定事実(3))。この経過は、少なくとも、原告としては婚姻関係を重視し、被告に対する責任追及をする意思を示したものであることは明らかであって、このような経過の後に不貞行為を開始したことについては、他に婚姻関係の破綻を示す確実な客観的状況を確認したなどというのでもない限り、少なくとも過失が否定されるものとは到底考えられない。
 その他、本件記録を検討しても、前記の特段の事情を認めるに足りる事実、証拠は何ら見当たらない。 

(3)以上から、被告には、不貞行為につき少なくとも過失があることは明らかである。

4 争点(2)(原告の損害額)について
(1)前記前提事実及び認定事実に基づき検討すると、原告と訴外Cとは、不貞行為の時点において、30年弱にわたり婚姻関係を継続し、4人の子らを含めて生活してきており(前提事実(1)ア)、相応に平穏な家庭生活を維持してきたことがうかがわれる。よって、原告が不貞行為により相当の精神的苦痛を被ったことは明らかであり、令和3年6月頃以降の通院経過(認定事実(9))もそれを示すものと解される。

 他方で、本件で認定することのできる不貞行為の回数や期間は、判然としない部分もあるものの、同月から同年7月にかけての複数回(訴外Cの自認する範囲では2回)という程度であり(認定事実(4)、(7))、不貞行為の態様として悪質なものとは言い難い。また、子らの年齢に照らせば(詳細は本件記録上不明であるものの、令和2年の時点で三男が19歳である(甲21・3頁、乙10の2、弁論の全趣旨)。)、明らかな未成熟子のいる事案と比較すれば、慰謝料を一定程度抑制的に算定せざるを得ない。

 また、不貞行為の開始時及びその後に原告が追及した際の対応等の経緯(認定事実(4)、(6)、(7))を見ると、被告と訴外Cの双方が相談した上、不貞行為を否定する旨の対応をすることとした経過がうかがわれ、その他、慰謝料の算定において特に増額又は減額の検討をすべきほどに一方が主導的であったり、事後的経緯につき特別の悪質性があるとまでは解することができない。

(2)以上の点、その他本件記録に現れた一切の事情を考慮すれば、本件の慰謝料としては110万円が相当である。
 また、本件と相当因果関係のある弁護士費用としては、11万円が相当である。
 この点に反する双方の主張を採用することはできない。

5 まとめ
 以上によれば、原告は、被告に対し、損害額合計121万円の限度で不法行為に基づく損害賠償を請求することができる。なお、遅延損害金については、前記第2の1の請求内容に照らし、慰謝料部分と弁護士費用部分を区別して請求する趣旨と解されるので、これに対応して110万円については令和3年7月18日、100万円については同年11月3日を起算日とする限度で認容する。

第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、主文記載の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第44部 裁判官 金田健児
以上:7,144文字

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