令和 5年12月11日(月):初稿 |
○原告が、原告の配偶者Cと被告との間に不貞があったと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料500万円及び遅延損害金の支払を求め、被告は、原告・Cの夫婦関係は破綻しており、慰謝料支払義務がないと争いました。 ○これに対し、配偶者Cと被告は、性的関係を持つようになった後も、配偶者Cと原告は性交をしており、これも婚姻関係が破綻した夫婦間でなされるものとは考え難く、これらからすると、配偶者が、原告から暴力を受けたとして警察に相談して一時避難し別居していることや、その後、配偶者が原告との離婚手続を弁護士に依頼していることなどの事情をもってしても、婚姻関係が破綻していたと認めることはできず、ほかに、既に婚姻関係が破綻していたと認めるに足りる証拠はないとして、120万円の慰謝料支払義務を認めた令和4年6月28日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。 ○認定された不貞期間は4ヶ月に複数回とありますが、不貞が離婚原因では無くても100万円以上の慰謝料支払義務を認めるのは、ちと高すぎる感もします。裁判官は、不貞行為慰謝料100万円前後を基準としているようです。 ******************************************** 主 文 1 被告は、原告に対し、120万円及びこれに対する令和2年5月31日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを4分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、500万円及びこれに対する令和元年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、原告の配偶者であるC(以下「C」という。)と被告との間に不貞があったと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料500万円及びこれに対する令和元年8月1日からの平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いがないか証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。) (中略) 3 争点及び当事者の主張 本件争点は、〔1〕被告とCの不貞行為の開始時期、〔2〕原告とCの婚姻関係が破綻していたか、〔3〕被告に故意または過失があるか、〔4〕損害額(慰謝料額)であり、当事者の主張は次のとおりである。 (1)争点〔1〕(被告とCの不貞行為の開始時期)について (原告の主張) Cは、令和元年7月26日から28日にかけて、被告と二人きりで旅行をし不貞関係に至った。 Cは、同年8月下旬からは、被告が代表取締役を務める株式会社アートハウジング名義で契約され同社が賃料を負担する住居での生活を始め、被告と不貞関係を続けている。 (被告の主張) 被告が、令和元年7月26日から28日にかけてCと旅行をしたことは否認する。 被告がCと交際を開始したのは、Cが原告と別居し離婚についての話合いを始めた後である。 (2)争点〔2〕(原告とCの婚姻関係が破綻していたか)について (被告の主張) 遅くとも令和元年7月の時点において、原告とCの婚姻関係は、原告のCに対する家庭内暴力が原因で破綻していた。 (原告の主張) 原告とCは、令和元年8月13日に別居した後も連絡をとっており、性交もしているから、婚姻関係が破綻していないことは明らかである。 (3)争点〔3〕(被告に故意または過失があるか)について (原告の主張) 令和元年8月13日の別居後に、原告が被告に対しCとの交際をやめるように言っており、被告が、Dと原告との婚姻関係が破綻していると誤認することはあり得ない。 (被告の主張) 被告は、Cからシングルマザーであると聞かされており、Cが婚姻していることを知ったのは、Cが警察に保護された後のことである。そして、Cは原告から暴力を受けて別居をし離婚に向けた手続もしており、被告は、Cと原告との婚姻関係が破綻していると認識していた。 (4)争点〔4〕(損害額(慰謝料額))について (原告の主張) 被告とCの不貞は、継続性、計画性、妊娠と中絶という結果の重大性、原告の子の平穏な家庭環境の破壊などから違法性が高く、原告の精神的苦痛は大きく、これを慰謝するには500万円をくだらない。 (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点〔1〕(被告とCの不貞行為の開始時期)について 前提事実(6)のとおり、Cと被告は、遅くとも令和元年10月、性的関係を持つようになった。 原告は、Cと被告が、令和元年7月26日から28日にかけて旅行をして不貞関係に至ったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、また令和元年10月以前に、被告がCと不貞行為をしたと認めるに足りる証拠はない。 2 争点〔2〕(原告とCの婚姻関係が破綻していたか)について 前提事実のとおり、原告とCは、Cが令和元年8月13日に警察に相談に行き、一時避難とさせられた後にもメッセージのやり取りをしていたところ、その中には、Cから原告に長女が家族の写真を持ってきて飾っていることを伝えたり、原告からCには恋しいとの思いを伝える内容のやりとりや(前提事実(4))、Cが原告宅に行くに当たり、原告に食べ物やコーヒーを買っていってあげようとする内容のやりとり(前提事実(12))、さらには、原告とCとが互いに愛情を伝えあう内容のやりとり(前提事(12))があり、これらは婚姻関係が破綻した夫婦間でなされるものとは考え難い。また、Cと原告とは令和2年8月23日には性交をしており、これも婚姻関係が破綻した夫婦間でなされるものとは考え難い。 これらからすると、Cが、令和元年8月13日に原告から暴力を受けたとして警察に相談して一時避難し別居していること(前提事実(3))や、その後、Cが原告との離婚手続を弁護士に依頼していること(前提事実(7))などの事情をもってしても、婚姻関係が破綻していたと認めることはできない。ほかに、婚姻関係が破綻していたと認めるに足りる証拠はない。 3 争点〔3〕(被告の故意または過失)について (1)前提事実並びに証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば、ア 被告は、Cが働くパブに客として訪れたことからCと知り合い、Cからは、シングルマザーとして子供と二人で暮らしているとの話を聞いていたこと、イ 被告は、令和2年1月、Cから、原告とは離婚をしておらず離婚のための手続きを日本人に依頼しているところである旨の話を聞いたこと、ウ 被告は、Cから、原告と離婚していないとの話を聞いた際に、原告との婚姻関係は前から破綻している旨の話を聞いたことが認められる。 (2)まず、上記(1)ア及びイのとおり、被告は、令和2年1月にCから配偶者がいることを聞かされるまでは、Cからシングルマザーであると聞かされていたのであって、被告において当時Cに配偶者がいると疑うべきであったという事情も見当たらない。 そのため、令和2年1月にCから配偶者がいることを聞く以前に、被告がCと性的関係をもったことについては、故意も過失も認められず、不法行為は成立しない。 (3)次に、被告は、令和2年1月にCから配偶者がいることを聞いた後にも、同年5月までの間、Cと複数回性的関係をもったことが認められる(上記1イ、前提事実(8))。 被告は、Cから、婚姻関係は前から破綻しているとの話を聞いてこれを信じていたと陳述するが,その話の真偽について特段の確認もせずに信じたことには過失があるといえる。よって、令和2年1月にCと原告が婚姻関係にあることを知った後にも同年5月までの間に性的関係を複数回もっていたことには、不法行為が成立する。 4 争点〔4〕(損害額(慰謝料額))について 被告は、Cが原告と婚姻関係にあることを知った後にも4か月程度にわたり複数回不貞行為をし、Cが妊娠するに至っている一方、Cは原告から暴力を受けたとして警察に相談して一時避難をするなどして原告と別居するに至っており、同別居の原因はCと被告との不貞にあるとはいえず、また、原告からCへの暴行が激しいものであったことがうかがわれること(乙1、2)や、Cが現に弁護士に原告との離婚手続を委任していることにも照らすと、原告とCの婚姻関係は円満なものであったとはいいがたい。そこで、これらの事情を考慮すると、慰謝料として120万円を認めるのが相当である。 なお、遅延損害金の起算日は不法行為終了日となると解されるが、被告とCは令和2年5月まで性的関係をもっていたと認められるものの、その具体的な日を認定することはできないから、同月31日とするのが相当である。 5 以上より、原告の請求は120万円及びこれに対する令和2年5月31日からの民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第6部 裁判官 望月千広 以上:3,726文字
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