令和 5年 7月29日(土):初稿 |
○「不貞行為をした妻からの夫への離婚・財産分与請求を認めた家裁判決紹介」の続きで、同じ平成24年6月28日千葉家裁判決(ウエスト・ロージャパン)の財産分与として被告夫に対し、原告妻へ1600万円の支払を命じた部分を紹介します。 ○原告の不貞行為について、判決は,別居後とはいえ婚姻関係破綻が認められる以前の時期から原告がDと不貞関係にあった事実が認められ、被告が,平成22年1月以降も,原告との婚姻関係の修復を真摯に考えていたことが十分にうかがわれることから、被告の被った精神的苦痛を慰謝する必要性が認められるとして,この点を財産分与の中で考慮し,本来的な意味での清算的財産分与の額から150万円程度を控除した額の限度で,被告に対して財産分与を命じるのが相当としました。 ○退職金について、別居開始時に原告夫が自己都合退職した場合の退職金額は1617万3000円であることに争いがないところ、原告妻は459万円、被告夫は296万5000円と主張し、判決は被告の主張を採用しました。 ********************************************* 主 文 1 原告と被告とを離婚する。 2 原告と被告との間の長男A(平成14年○月○日生),二男B(平成15年○月○日生)及び長女C(平成17年○月○日生)の親権者をいずれも原告と定める。 3 被告は,原告に対し,1600万円を支払え。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 理 由 第1 請求 1 主文第1,2項と同旨 2 被告は,原告に対し,相当額の財産分与をせよ。 第2 事案の概要 原告と被告は,平成10年12月21日に婚姻した夫婦であり,両名は,平成14年○月○日に長男A(以下「長男」という。),平成15年○月○日に二男B,平成17年○月○日に長女Cをそれぞれもうけた。 原告,被告及び子らは,現在の被告宅(以下「自宅」という。)において生活していたが,平成22年1月頃,被告が自宅を出て転居して以降,原告及び子らと被告は,2年以上にわたり別居している。 本件において,原告は,原告と被告との間の婚姻関係は完全に破綻しているとして,被告に対し,離婚を求めるとともに,上記子らの親権者を自らに定めること及び相当額の財産分与を求めている。これに対し,被告は,婚姻関係の破綻は認められないと主張し,予備的に,原告の不貞行為を理由に本件請求が有責配偶者からの離婚請求に当たると主張して,離婚自体を争うとともに,原告の不貞行為によって被告が受けた精神的苦痛と被告の財産状況を併せ考えれば,財産分与は認められるべきではない旨も主張する。 第3 争点及びこれらに関する当事者の主張 1 争点 本件における主な争点は,下記のとおりである。 (1) 離婚原因及び有責配偶者からの離婚請求に関して ア 婚姻を継続し難い重大な事由が認められるか否か(争点①) イ 原告が有責配偶者であると認められるか否か(特に,原告が訴外D(以下「D」という。)との不貞行為を開始した時期が婚姻関係破綻以前であると認められるかが争われている。)(争点②) (2) 財産分与に関して ア aマンションB棟810号室(以下「本件不動産」という。)の評価額(争点③) イ 被告の退職金に係る財産分与の額(争点④) 2 争点に関する当事者の主張 (中略) (4) 争点④(※被告の退職金に係る財産分与の額) (原告の主張) 被告が,別居開始時に自己都合退職した場合の退職金額は1617万3000円である。この金額は,特定の階級で勤務した期間において1年ごとに割り振られる点数に,2万7000円を乗じて定められているところ,被告の合計点数599点のうち,340点が実質的婚姻期間において得られたものであるから,退職金に係る財産分与の額は, 340点×2万7000円÷2=459万円 とすべきである。 (被告の主張) 被告が,別居開始時に自己都合退職した場合の退職金額は1617万3000円である。そして,被告の勤続年数30年のうち,実質的婚姻期間は約11年間であるから,退職金に係る財産分与の額は, 1617万3000円×(11÷30)×0.5≒296万5000円 とすべきである。 第4 当裁判所の判断 1 離婚が認められるか否かに関して (中略) 2 財産分与に関して (1) 本件においては,分与対象財産確定のための基準時を平成22年1月末日とするのが相当である(第1回弁論準備手続調書)。 (2) 被告所有の資産 ア 保険の解約返戻金 原告と被告の婚姻後に被告が契約した学資保険や医療保険に係る解約返戻金額は,上記基準時点と近接した平成22年3月の時点において,376万7555円であったと認められる(甲11の1,甲34の1,2)。 イ 自動車 被告が婚姻後に取得した自動車の評価額は39万7000円であると認められる(甲35,36)。 ウ 預貯金 被告が基準時に有していた預貯金の額は,500万円であると認めるのが相当である(第2回口頭弁論期日における当事者の陳述,被告本人)。 エ 本件不動産 (ア) 資産価値の評価(争点③) 被告は,平成15年4月17日に本件不動産を代金5410万円で購入し,以来これを所有しており(甲3,乙19の1),その処分価値は少なくとも5600万円と見込まれる(甲38,39)。この点,被告は,固定資産税評価額に基づいて評価を行うべきであると主張するが,原告が提出した二つの業者の査定書が,いずれも東日本大震災による市況への影響まで考慮した上で,一方は6098万円(甲38),他方は5620万円(甲39)という類似した評価を示していることを考えると,本件証拠関係上,あえて固定資産税評価を基準にすべき理由は見当たらない。 ところで,本件不動産には,被告を債務者とし,京葉銀行を債権者とする貸金返還請求権(住宅ローン債権)を被担保債権として抵当権が設定されている(甲3)。上記住宅ローンの基準時における残高は3109万5599円である(乙17)。 そうすると,本件不動産の資産としての価値は,5600万円から3109万5599円を控除して得られる2490万4401円とみるべきである。 (イ) 実質的共有財産とみるべき部分 被告は,平成19年におけるローンの繰上返済(約1128万円)に,被告が婚姻前に取得した特有財産であるマンションの売却益を充てたため,不動産の評価額全額を実質的共有財産とみるべきではない旨主張する。 この点,被告が上記マンションの売却代金約3000万円を受領した時期が平成14年1月ないし5月である(乙18の1ないし3)のに対し,約1128万円の繰上返済がされたのは平成19年に入ってからである(乙17,乙19の2ないし4)事実が認められる(このように約5年の時期のずれが生じた理由について,被告は,マンションの売却益を貯蓄に充てるか繰上返済に充てるかを慎重に検討するなどしていたこと等を挙げている。)。 確かに,特有財産の変形物ともいうべき売却益が得られてから約5年間が経過することにより,その売却益は実質的共有財産とも混和したであろうと思われるから,一般論としては,当該売却益がなければ繰上返済がなされなかったという意味での因果性が希釈化される可能性は否定できない。 しかし,他方で,平成19年に上記の繰上返済がされた際,上記売却益以外に多額の返済に充てるべき原資が得られていたことを具体的に裏付ける証拠は見当たらない(仮に,原告のいうように,被告の給与収入だけから年額300万円程度の貯蓄を形成できるのであれば,少なくとも上記の繰上返済以降,相当な額の流動資産が形成されているはずであるところ,それだけの流動資産が実際に形成されているとは認められない。)。 そうすると,上記の売却益が平成19年の繰上返済に寄与したと推認すべきことを前提として,本件不動産に対する被告の特有財産からの寄与を2割(購入代金に占める上記繰上返済額のおおよその割合)と評価するのが相当である。 そうすると,不動産の資産価値のうち実質的共有財産とみるべき部分は,2490万4401円に0.8を乗じて得られる1992万3521円とみるのが相当である。 オ 退職金(争点④) 被告が基準時点で自己都合退職した場合の退職金額は,被告の勤務先の退職金規程(乙3)により,次のとおり算出される。 すなわち,被告の勤務先における退職金額は,社員職務等級ごとに年単位で割り当てられる職務指数の合計点数に,2万7000円を乗じて算出される。被告の場合,基準時までの各等級ごとの勤務年数及び職務指数は, 実務職1 1年×5点=合計5点 実務職2 2年×7点=合計14点 実務職3 3年×10点=合計30点 実務職4 4年×13点=合計52点 実務職5 5年×16点=合計80点 特別職1 6年×26点=合計156点 特別職2 7年×32点=合計224点 特別職3 1年×38点=合計38点 総計 599点 となる(なお,各等級ごとの勤務年数については,当事者間に争いがない(第7回弁論準備手続調書)ため,被告の主張のとおり認定する。)。したがって,基準時点における被告の退職金見込額は,1617万3000円となる。 ところで,基準時までの被告の勤務年数約29年(昭和56年4月ないし平成22年1月)のうち,実質的婚姻期間は約11年(平成10年12月ないし平成22年1月)であるから,上記退職金見込額のうち財産分与の対象となるのは, 1617万3000円×11/29=613万4586円に限られる。 この点,原告は,実質的婚姻期間11年間における職務指数合計に2万7000円を乗じた額を分与対象とすべき旨主張する。 しかし,被告が実質的婚姻期間において相対的に高い点数の割当を受けられるのは,婚姻以前からの被告の長期間にわたる勤務の積み重ねがあるからこそだと思われるから,単純に実質的婚姻期間における点数割当の全てを実質的共有財産の計算に反映させることは,被告にとって酷な結果を招くというべきである。よって,原告の上記主張を採用することはできない。 カ 以上を総合すると,被告所有の資産で実質的共有財産とみるべき部分は,合計3522万2662円であると認めるのが相当である。 (3) 原告所有の資産 原告と被告の婚姻後に原告が契約した医療保険の基準時点における解約返戻金額は,3万9335円である(甲12)。原告には,その他にみるべき資産はない。 (4) 分与額の算定 本件では,被告が報道機関に勤めて収入を得る一方,原告は主に主婦として子らの養育に務めてきたことがうかがわれるから,清算的財産分与における寄与割合は双方とも2分の1ずつとみるべきであり,この点については当事者間にも争いがない。 もっとも,本件においては,原告が,別居後とはいえ婚姻関係破綻が認められる以前の時期からDと不貞関係にあった事実が認められる。そして,被告が,平成22年1月以降も,原告との婚姻関係の修復を真摯に考えていたことが十分にうかがわれることをも考慮すると,被告の被った精神的苦痛を慰謝する必要性が認められる。そこで,この点を財産分与の中で考慮し,本来的な意味での清算的財産分与の額から150万円程度を控除した額の限度で,被告に対して財産分与を命じるのが相当である。 したがって,以下の計算結果をもとに,分与額を1600万円とするのが相当である。 (計算式) (35222662-39335)×0.5-150≒16091664 3 親権者の指定に関して (中略) 4 以上をまとめると,まず,本件においては婚姻を継続し難い重大な事由の存在が認められ,かつ原告が有責配偶者に当たることも立証されていないから,原告の離婚請求を認容すべきである。併せて,被告に対して1600万円の財産分与を命じるとともに,子らの親権者をいずれも原告と定めるのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (裁判官 佐藤政達) 以上:4,940文字
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