令和 4年10月13日(木):初稿 |
○原告は夫Cと、平成8年5月に結婚し、平成9年に長女を儲け、平成29年3月に夫Cは、原告と長女が暮らす自宅から出て別居し、同年4月以降、被告と男女関係になり、原告と夫Cの婚姻関係が破綻したとの事実関係認定で、被告に慰謝料100万円の支払を認めた令和3年2月22日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。 ○不貞行為の違法阻却事由である婚姻関係の破綻の認定には、少なくとも別居が必要とされていますが、この判決は、「原告とCは,平成29年3月に別居した後も,同年6月までは一緒にデパートに買い物に行ったり外食をしていたものであり,少なくとも,被告がCとの男女交際を開始した同年4月当時,原告とCの婚姻関係が破たんしていたとはいえない」として、別居だけでは婚姻関係破綻は認められないとしていることに注意が必要です。 ○別居後の不貞行為ですから認定慰謝料額は数十万円単位で良いのではとも思いますが、原告は1100万円もの慰謝料請求をしており、100万円はその1割で、請求に対する認定割合は大変小さいものです。請求額が大きいため認定額も大きくなったと、疑問を感じる判決ですが、多くの裁判官は、不貞行為第三者慰謝料について100万円前後を考えているようです。 ******************************************** 主 文 1 被告は,原告に対し,110万円及びこれに対する令和元年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する令和元年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,原告が,被告に対し,被告が原告の配偶者であるC(以下「C」という。)と不倫関係にあると主張し,不法行為に基づく損害賠償として,慰謝料1000万円及び弁護士費用相当額100万円の合計1100万円並びにこれに対する不法行為日の後である令和元年12月23日(訴状送達日の翌日)からの民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いがないか証拠等により容易に認められる。) (1)原告(昭和35年生)とC(昭和38年生)は平成8年5月に婚姻し,平成9年には同人らの長女が出生した(甲1)。 (2)Cは,平成29年3月1日,原告と長女が暮らす自宅から出ていき,以後,同人らと別居している。 (3)被告(昭和31年生)とCは,平成25年頃にボランティア団体の活動を通じてCと知合い,遅くとも平成29年4月からは男女交際をしている(乙1)。 3 争点及び当事者の主張 本件争点は,〔1〕平成29年4月より前に被告とCとが男女交際していたと認められるか,〔2〕原告とCの婚姻関係が破たんしていたと認められるか,〔3〕被告の故意または過失が認められるかであり,当事者の主張は次のとおりである。 (1)原告の主張 ア〔1〕平成29年4月より前に被告とCとが男女交際していたと認められるかについて Cには妻子がいたのであるから,Cと男女交際を開始するには慎重になるはずであって,被告が,Cと原告との別居から2か月足らずでCと男女交際を始めるなど考え難い。よって,被告とCとの男女交際は,平成29年3月1日より前からであったと考えるのが合理的である。 イ〔2〕原告とCの婚姻関係が破たんしていたと認められるかについて Cは,平成29年3月1日に自宅を出てからも,度々自宅を訪れ,原告と二人で食事や買い物に行き,性交渉も持っていたのであり,婚姻関係は破たんしていなかった。原告は,平成29年5月中旬に,調査会社から,被告とCが同棲していることの調査結果の報告を受け,離婚を考えるようになったものである。 ウ〔3〕被告の故意または過失が認められるかについて Cと原告との別居は長期間続いていたわけではなく,Cからの話のみをもって,既婚者であるCとの男女交際を開始した被告には,少なくとも過失がある。 (2)被告の主張 ア〔1〕平成29年4月より前に被告とCとが男女交際していたと認められるかについて 被告は,原告とCとの別居後に,Cと食事に行ったりCの悩みを聞いたりするようになり,その後に男女交際を開始したのであって,それより前に男女交際をしていたことはない。 イ〔2〕原告とCの婚姻関係が破たんしていたと認められるかについて 原告とCとの間では,平成25年頃から会話や性交渉が一切なく,家庭内別居の状態にあり,婚姻関係は破たんしていた。そして,被告とCが男女交際を開始したのは,原告とCが別居した後であるから,不法行為が成立する余地はない。 ウ〔3〕被告の故意または過失が認められるかについて 被告は,Cから「平成25年頃からすでに家庭内別居の状態にあり,夫婦仲が疎遠になっていた」という事情を具体的に聞かされていた上,男女交際開始時点では現にCと原告とは別居していたのであるから,原告とCの婚姻関係の破たんを疑う余地はなかったのであり,被告に何ら過失はない。 第3 当裁判所の判断 1〔1〕平成29年4月より前に被告とCとが男女交際していたと認められるかについて 前記前提事実のとおり,被告とCは,遅くとも平成29年4月からは男女交際をしている。 原告は,原告とCの別居から2か月足らずで男女交際を始めることが考え難いと主張するが,必ずしもそのようにいうことはできず,原告が主張する事情を検討しても,平成29年4月よりも前に被告とCが男女交際していたことを認めるには足りない。 2〔2〕原告とCの婚姻関係が破たんしていたと認められるかについて 証拠(甲4,5,7)によれば,原告とCは,平成29年3月に別居した後も,同年6月までは一緒にデパートに買い物に行ったり外食をしていたものであり,少なくとも,被告がCとの男女交際を開始した同年4月当時,原告とCの婚姻関係が破たんしていたとはいえない。 3〔3〕被告の故意または過失が認められるかについて 被告の陳述書(乙1)によれば,被告は,Cから,Cとの原告との関係について,数年前から夫婦仲が疎遠になっていること、平成26年頃に原告からCに対して離婚の申し出があり,Cも離婚したい気持ちがあったものの長女が成人していないので返事を保留にしたこと,平成29年3月に入ってから別居していることなどの話をされていたことが認められる。 その上で,被告は,その陳述書において,Cと原告の夫婦関係が修復できない状態にあることは明らかであると思っていたと述べるが,そうであったとしても,被告は,Cが原告と婚姻していることを認識していた(乙1,弁論の全趣旨)のであるから,Cの上記話をもってCと原告との婚姻関係が破たんしていると信じることには過失があったといえる。 4 以上より,被告が,平成29年4月からCと男女交際をしたことは,原告の婚姻共同生活の平和を維持する利益を害するものであり不法行為にあたる。 その損害については,前記2の事情からはCと被告との交際が婚姻関係破たんの要因になっているといえることなどのほか,被告がCと交際を始めたのがCと原告との別居後でありCから前記3のとおりの話をされていたことなども考慮し,慰謝料として100万円を認めるのが相当である。また,弁護士費用相当額として10万円を認める。 5 よって,原告の被告に対する請求は,不法行為による損害賠償として110万円及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第10部 裁判官 望月千広 以上:3,257文字
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