令和 4年 6月 7日(火):初稿 |
○現在取扱中の事件に関連して、面会交流の具体的要件を定めた審判例を探しています。相手方母と離婚した申立人父が、相手方母に対し、前件調停で成立した未成年者との面会交流の内容を変更し、未成年者の宿泊を伴う面会交流の実施を求める調停を当裁判所に申し立て、調停不成立となったため、審判に移行しました。 ○これに対し、一定程度の宿泊付きの面会交流を実施したとしても、未成年者に過剰な精神的・肉体的負担を課すおそれは生じないというべきであるから、未成年者の宿泊を伴う面会交流を否定する事情は認められないとしたうえで、未成年者は、申立人が相手方らと別居して以来5年間以上も申立人と同居していないので、毎月の面会交流の度に申立人方に宿泊するとなると未成年者に過大な負担を与えることになりかねないとしながら、現時点においては、小学校の長期の休暇期間等を中心に年4回の面会交流を1泊の宿泊付きのものとして始めることが相当であるとした令和3年10月19日千葉家裁審判(REX/DB)を紹介します。 ************************************************ 主 文 1 当事者間の当裁判所平成30年(家)第474号面会交流申立事件について平成30年9月10日にされた審判の別紙実施要領第1項を,別紙新実施要領第1項のとおりに変更する。 2 手続費用は各自の負担とする。 理 由 第1 申立ての趣旨 当事者間の当裁判所平成30年(家)第474号面会交流申立事件について平成30年9月10日にされた審判の別紙実施要領第1項を次のとおり変更する。 毎月第1土曜日の午前10時からその翌日の午後4時まで 第2 当裁判所の判断 1 本件に至る経緯 一件記録によれば,本件に至る経緯として,以下の事実が認められる。 (1)申立人(昭和50年△月△日生)は,平成24年6月27日,相手方(昭和51年△月△△日生)と婚姻するとともに,相手方を代諾者として,相手方の連れ子の姉妹(以下「養子姉妹」という。)と養子縁組をした。 (2)平成25年△月△△日,申立人と相手方の長女となる未成年者が出生した。 (3)申立人は,平成28年9月3日,単身実家に転居し,相手方らと別居した。 (4)申立人は,平成28年10月31日,当裁判所に対し,相手方との離婚を求める調停を申し立てたが,同調停が不成立となったため,平成29年4月6日,当裁判所に対し,離婚訴訟を提起した。 (5)また,申立人は,平成29年5月11日,相手方が申立人と未成年者との面会を同年3月以降拒むようになり,申立人は未成年者と会えなくなったと主張して,相手方に対し,申立人と未成年者との面会交流を認めることを求める調停を当裁判所に申し立てた(当裁判所平成29年(家イ)第655号)。 (6)前項の調停事件は,不成立となって審判に移行した(当裁判所平成30年(家)第474号。以下「前件審判事件」という。)。 当裁判所は,平成30年9月10日,前件審判事件について,前項の調停事件や当事者間の離婚訴訟の中で実施された家庭裁判所調査官による面会交流場面観察において申立人と未成年者との交流が良好であることが確認されたことなどから,申立人と未成年者の面会交流を実施することが相当であると判断した上,1回の面会交流の時間については,申立人が性的な意図を持って面会交流を求めていることなどを根拠に3時間程度が限度であるとする相手方の主張を排斥し,さらに,申立人と相手方とが離婚訴訟で係争中であることや,相手方が家庭裁判所調査官による面会交流場面観察が実施されるまでは申立人と未成年者の面会交流を拒絶してきたことなどに鑑み,間接強制を視野に入れて面会交流の時間や受渡場所・方法等を具体的に定めておくことが必要であると説示して,相手方に対し,別紙の実施要領(以下,単に「実施要領」という。)により申立人を未成年者と面会させることを命じる審判をした(以下「前件審判」という。)。 (7)相手方は,前件審判を不服として東京高等裁判所に抗告した(同裁判所平成30年(ラ)第1747号。以下「前件抗告事件」という。)が,同裁判所は,平成31年2月8日,相手方の抗告を棄却する決定(以下「前件決定」という。)をし,前件審判は,同月13日,確定した。 (8)申立人と相手方とは,令和2年3月14日,申立人と相手方とを離婚し,養子姉妹及び未成年者の親権者をいずれも相手方と指定する裁判の確定により,離婚した。 (9)申立人と養子姉妹とは,令和2年6月4日,離縁した。 (10)申立人は,令和2年9月14日,相手方に対し,実施要領第1項を変更して未成年者の宿泊を伴う面会交流の実施を求める調停を当裁判所に申し立てた(当裁判所令和2年(家イ)第1205号)が,同調停事件は,当事者間の合意が成立せず,令和3年6月2日,本件審判に移行した。 2 当事者の主張 (1)申立人 前件審判確定後,令和元年11月を除いて実施要領で定められた内容に従って申立人と未成年者との面会交流が実施されているところ,面会交流中,未成年者は申立人と過ごす時間をとても楽しんでおり,帰る際には遊び足りない様子を見せている。 未成年者は,前件審判当時は5歳で幼稚園に在園していたが,現在は小学校に入学しており,年齢相応に心身も発達しているから,父親である申立人と一緒であれば,1泊程度の間母親である相手方と離れて過ごすことが可能な程度に成長している。 また,前件審判時には申立人と相手方との間で離婚訴訟が係属していたが,現在は相手方を未成年者の親権者に指定する判決が確定しており,申立人と相手方との間に面会交流に影響を与えるような法的紛争は存在しない。 よって,申立人は,未成年者が非監護親である申立人との間で充実した関係を築いていくためにも,相手方に対し,未成年者との毎月1回の面会交流を毎回1泊の宿泊を伴ったものに変更することを求める。 (2)相手方 申立人は,相手方と同居していた間,洗濯をしたことはなかったにもかかわらず,養子姉妹の下着を勝手に洗濯して干したり,就寝していた養子姉妹の寝室に入って二女の身体に覆い被さるなどのいたずらをしたりしたことがあるから,未成年者に対しても取り返しのつかない行動に走る可能性を否定できない。また,申立人は,毎日晩酌をしているため,未成年者が夜間に急な体調不良等を訴えた場合に適切な医療機関を受診させることは期待できないし,そもそも,感情の起伏の激しい申立人に対し,未成年者が体調不良を訴えること自体困難であると想定される。 その上,申立人は,新型コロナウィルスの感染拡大により不要不急の外出自粛が求められている最中の令和3年3月の面会交流において未成年者を連れて千葉県立博物館に出かけるなどしており,未成年者の安全に配慮する姿勢が見られない上,面会交流の際には未成年者の水分補給や食事について配慮してほしいとの相手方の要請に十分な対応をしておらず,未成年者は,面会交流終了後は毎回空腹とのどの渇きを訴えている。 相手方は,これまでの申立人との一連の紛争を通じて申立人に対する信頼を完全に喪失しており,申立人に対する不信感,恐怖感は増す一方であって,宿泊付きの面会交流に申立人が無事に対応できることに対する信頼はない。 したがって,相手方は,未成年者の宿泊付きの面会交流を求める申立人の要望に応じることはできない。 3 本件申立ての当否 (1)前記1(6)及び(7)のとおり,申立人と相手方との間では,申立人と未成年者との面会交流に関し,前件審判が確定しているところ,即時抗告ができる審判が確定した場合には,同じ事情を前提に審判の取消し又は変更をすることは許されないと解されていること(平成23年法律第51号による改正前の非訟事件手続法19条3項,家事事件手続法78条1項2号)に照らして,確定した審判については,原則として,前の審判後に生じた事情の変更がある場合に限り,その審判を変更する審判をすることが許されるものであると解されるが,申立人は,前件審判事件及び前件抗告事件の審理においても長期休暇等における未成年者の宿泊付きの面会交流を求めていたものであり,それに対し,前件決定は,「長女(未成年者)の年齢や相手方(本件申立人)と長女が抗告人(本件相手方)と相手方の別居後2年以上同居していないことに照らせば,面会交流の再開直後から宿泊付きの面会交流を行うことは,長女に過剰な精神的・肉体的負担を課すことになると認められ,現時点で宿泊を伴う面会交流を実施することは相当でない」と説示しているから,本件においては,実施要領による面会交流が行われるようになってから相当の期間が経過した後の時点で未成年者の宿泊を伴う面会交流の実施の当否を検討することは,前件審判確定時に予定されていたことであったと認められる。 そこで,宿泊を伴う面会交流実施の当否について検討するに,宿泊付きの面会交流を拒否する相手方においても申立人と未成年者との関係が悪いなどとは主張していないことに照らして,前件決定後に行われている実施要領に従った面会交流における申立人と未成年者との交流は依然として良好であり,未成年者は,申立人との間で親和的な関係を維持,形成しているものと認められる。 また,本件審判の時点では前件審判確定後2年6か月以上が経過しており,前件審判確定時には幼稚園児であった未成年者も8歳に成長して小学校3年生に進級しているから,洗面や入浴等といった身の回りのことについてはそれなりに自分自身で対応することが可能となっていると推認される。 そうすると,一定程度の宿泊付きの面会交流を実施したとしても,未成年者に過剰な精神的・肉体的負担を課すおそれは生じないというべきである。 (2)これに対し,相手方は,前記2(2)のとおり,宿泊付きの面会交流を認めることはできないと主張する。 しかしながら,申立人が性的な意図を持って面会交流を求めている旨の主張は,前件審判及び前件決定において,それを基礎付けるに足りる資料はないとして排斥されており,本件においても同様であるから,採用に値しない。 また,申立人が晩酌をすることを理由に夜間の緊急事態に対応することができないとの懸念も,未成年者が宿泊をする日は申立人が晩酌を控えれば解消されることであるし,そもそも,酩酊した場合はともかくとして,飲酒をした人は急病等への適切な対応が一般的に困難となるということ自体,論理に飛躍があるといわざるを得ない。もとより,未成年者と申立人との関係に照らせば,未成年者が申立人に体調不良を訴えることが困難であると認めることもできない。 さらに,相手方は,申立人が新型コロナウィルス感染防止等の未成年者の安全に配慮する姿勢に乏しい上,未成年者の水分補給や食事について十分な配慮に欠けていると主張するが,未成年者が面会交流終了後に毎回空腹とのどの渇きを訴えていることを裏付ける資料は見当たらないし,不要不急の外出の自粛が要請されているとしても,子との1か月に1度の面会交流の際に,非監護親が新型コロナウィルス感染防止対策の施されている公的施設に子を連れて行くことが社会的に許容されない行為であるとまでは認め難く,それをもって申立人は未成年者の安全に配慮する姿勢に乏しいと評価することは,相当でないというべきである。 結局のところ,相手方は,相手方が申立人に対する信頼を完全に失っていることから宿泊付き面会交流に反対しているものと認めざるを得ないところ,そのような監護親の非監護親に対する主観的な嫌悪感は,非監護親と子との面会交流を妨げる事情にはなり得ないから,相手方の主張は,採用できない。 (3)以上のとおり,本件においては,未成年者の宿泊を伴う面会交流を否定する事情は認められない。 そうすると,宿泊付きの面会交流の頻度や日数等が問題となる。 申立人は,毎月1回の面会交流の全てを1泊の宿泊付きのものとすることを求めているが、未成年者は,申立人が相手方らと別居して以来5年間以上も申立人と同居していないのであって,そのような事情に鑑みれば,毎月の面会交流の度に申立人方に宿泊するとなると未成年者に過大な負担を与えることになりかねない。 したがって,現時点においては,小学校の長期の休暇期間等を中心に年4回の面会交流を1泊の宿泊付きのものとして始めることが相当であり,具体的には,1月2日,3月25日以降最初に到来する土曜日並びに8月及び10月の第1土曜日に宿泊することとし,その時間は,宿泊日の午前10時から翌日の午後2時までと定めることとする。 4 結論 よって,実施要領第1項を別紙新実施要領第1項のとおりに変更することとして,主文のとおり審判する。 令和3年10月19日 千葉家庭裁判所家事部 裁判官 小池晴彦 (別紙)新実施要領 1 面会交流の日時 (1)毎年■月,■月,■月,■月,■月,■月,■月及び■月の第■■曜日の午前10時から午後4時まで (2)毎年1月2日の午前10時から翌日の午後2時まで (3)毎年3月25日以降最初に到来する土曜日(3月25日が土曜日であれば同日)の午前10時から翌日の午後2時まで (4)毎年■月及び■月の第■■曜日の午前10時から午後2時まで 以上 (別紙)実施要領 1 面会交流の日時 毎月■■曜日の午前10時から午後4時まで 2 受渡場所及び受渡方法 (1)受渡場所 ■■ (2)受渡方法 相手方は,上記面会交流開始時刻に未成年者を上記(1)の受渡場所に連れて行き,未成年者を申立人に引き渡す。申立人は,上記面会交流終了時刻に未成年者を同所に連れて行き,未成年者を相手方に引き渡す。 3 その他の条件等 (1)相手方は,上記2の未成年者の受渡場面以外,申立人と未成年者との面会交流に立ち会わない。 (2)当事者双方は,協議により合意したときは,面会交流の日時,受渡場所,受渡方法を変更することができる。 (3)当事者双方は,未成年者の体調等その福祉に最優先に配慮し,前項の協議を行うものとする。 以上 以上:5,781文字
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