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”別れさせ工作委託契約”を公序良俗違反としない簡裁判決紹介

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令和 3年 6月22日(火):初稿
○夫が浮気をしても、妻が夫との婚姻関係を維持したいと思ってる場合は、夫と浮気相手女性を別れさせたいと願うでしょう。その妻の願いを適える「別れさせ屋」と言う商売があると聞いています。夫の浮気相手の女性に工作員を近け、浮気相手女性が工作員に対し恋愛感情を持つように仕向けて、浮気相手と夫の関係を終了させるものです。

○ネットにはこのような「別れさせ屋」のサイトが結構あります。料金は着手金が60~70万円というところが多いようです。この「別れさせ屋」が料金未払の顧客に支払請求をして認められた事案があります。私の感覚では、「別れさせ屋」との契約自体が公序良俗違反として無効とされるのではと思っていました。

○被告との間で別れさせ工作委託契約を締結した原告が、被告に対し、本件契約の目的を達成したとして、工作委託料として70万円の支払を求め、被告が原告に対し、本件契約及びこれに付随する調査委託契約が公序良俗に違反し無効であるとして、支払済み報酬60万円の返還を求めた事案があります。

○この事案について、平成30年1月12日大阪簡裁判決(LEX/DB)は、別れさせ工作のすべてが公序良俗に反するとは言えないが、契約の目的等が著しく社会的相当性を欠き、当事者の意思決定の自由を奪ったり、歪めるようなときは公序良俗に反する場合があるというべきであるところ、本件契約が道徳的に問題があるにしても、意思決定の自由が歪められ、それが看過できないほど社会的相当性を逸脱し、公序良俗に反するとまではいえないとし、原告の本訴請求を認容し、被告の反訴請求を棄却しました。

○世の中には色々な商売があるものですが、「別れさせ屋」の商売が適法と認められたもので、この判決で、この商売が増えたかも知れません。被告が不服として大阪地裁に控訴しており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 被告は,原告に対し,金70万円及びこれに対する平成29年1月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 被告の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は本訴反訴を通じて被告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請

1 本訴
 主文1項と同旨

2 反訴
 原告は,被告に対し,60万8000円及びこれに対する平成29年8月25日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 請求原因の要旨

(1)本訴
 別紙「請求の原因」記載のとおり。なお,訴状送達の日の翌日は平成29年1月20日である。

(2)反訴
 被告が,原告に対し,原・被告間の本件契約及びこれに付随する平成28年4月15日付調査委託契約が公序良俗に違反し,無効であるとして,上記両契約に関して被告が支払った60万8000円の返還とこれに対する反訴状送達の日の翌日(平成29年8月25日)から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

2 当事者の主張の要旨
(1)本件請求について
(被告)
 契約書には加筆された部分がある。また,本件工作が成功した証拠を提示され,成功報酬40万円の請求を受けたことはない。
(原告)
 契約書は複写式であり,原告は,被告が着手金残金を支払わず,住所欄に部屋番号を記載していなかったことから,現地で調査し,判明したのでメモ代わりに書き込んだものであるが,合意の成立に影響はない。
 成功報酬の請求については,原告は,平成28年5月には対象者と指定女性を別れさせ,同年7月17日にその証拠を入手し(甲2号証),被告に成功及び証拠がある旨を伝えて,着手金残額30万円と成功報酬40万円の支払を請求した。

(2)原告の報告義務違反(債務不履行)とこれに基づく解除について

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 前提事実(争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)

(1)本件契約の締結等
ア 被告は,原告との間で,平成28年4月18日,以前交際していた女性(指定女性)と復縁を希望していたことから,指定女性が新しい交際相手である対象者と出会系サイトで知り合ったと聞き,対象者と指定女性の交際を終了させることを目的とする工作を依頼し,本件契約を締結した。

イ 被告は,同年4月15日,本件契約に先立って,対象者の住所,氏名等を知らなかったことから,その割り出しのための調査委託契約を締結し(甲5号証),その費用として10万8000円を同月15日,指定口座に振り込んだ(乙4号証)。

ウ その後,調査により対象者の人相,自宅住所を特定できたので,割り出し調査を終了し,被告との間で上記4月18日に原告事務所で本件契約を締結した。

エ 契約内容は,工作期間が同月19日から同年7月19日までで,工作費用として着手金80万円,工作の目的達成による成功報酬として40万円を支払うというもので,報酬については2段階の規定になっている(甲1号証)。

オ 原告は,契約に当たり,本件契約関係者の指定女性,対象者,被告ともいずれも独身であることを確認した。

カ 女性工作員は対象者との接触に成功し,対象者と連絡先を交換し,食事をするなどした。

(2)工作内容,経過等
ア 工作内容は,当初対象者に女性工作員を近づけて恋愛感情を抱かせて,指定女性に別れを告げさせるように仕向けるというものだったが,被告の提案により変更し,対象者が女性工作員と浮気をしている事実を指定女性に暴露することで,2人が別れるように仕向けるということになった。

イ 暴露は平成28年5月14日に行うことにし,当日,対象者と指定女性がいる電車内に女性工作員とその友人役の工作員が乗り込んで声をかけ,その後降車駅近くの喫茶店で話をし,暴露を実行した。二股をかけられた形の女性2人は対象者と別れる旨発言したが,女性工作員は指定女性と交流し,対象者と別れたことを確認するため指定女性と連絡先を交換した。

ウ 平成28年7月17日付のラインに,指定女性からの対象者と別れた旨の内容のメッセージが残っている(甲2号証)。

(3)本訴事件の訴状が被告に対して平成29年1月19日に,反訴事件の訴状が原告に対し同年8月24日に,それぞれ送達された。

2 本件請求について
 契約書に加筆があるのは被告住所欄の部屋番号の部分であり(甲1号証,乙1号証),契約の成否に影響はないといえること,契約書では成功報酬の定めがなされており,原告は,被告に対し,証拠を得たとする平成28年7月17日以後の同月22日,まず着手金の残金支払を求め,その上で証拠を見せる旨告げ,その後も被告と連絡を取ろうとしていることが認められる(甲3号証)ことから,被告の主張は理由がない。

3 原告の報告義務違反(債務不履行)とこれに基づく解除について
 ラインによるやり取り(甲3号証)によれば,原告と被告の間で本件工作に関して頻繁にやり取りがなされ,報告がなされていたが,平成28年5月14日のいわゆる暴露工作後の同年6月以降は被告側が応じない状態が多くなっていたことが認められる。契約期間は同年7月19日までとされているところ(甲1号証),その間に被告から本件契約の解除の意思表示がなされたことや原告との間で契約解除の合意がなされたことを認めるに足りる証拠は見当たらず,被告の解除の主張は理由がない。

4 本件契約の報酬減額等の合意の有無について
 契約書の文言からは,80万円の金額が3か月間の工作期間の上限額であると解することはできない。契約書では着手金の支払時期について特別の定めは記載されていないが,対象者と連絡先の交換ができた時点で支払う旨の合意がされていたことについては争いがない(甲4号証,原告,被告の供述)。

 被告によれば,契約書の8条に契約料金の変更の規定があり,原告のホームページ上には分割払いが可能であるとあること,原告との間で,上記金額が上限額であるとの説明を受け,報酬の減額,返金に応じることを双方で確認したということであるが,それらについてやり取りがなされたとしても,その結果,かかる合意が成立するに至ったことを認めるに足りる証拠は見当たらず,被告の主張は理由がないというべきである。

5 被告の支払済金額について
 被告は,原告に対して支払った金額は合計71万6000円である旨主張する(平成29年5月17日付け「陳述書」)。しかし,本件契約とは別契約の割り出し調査費用が10万8000円であり,この費用分については本件契約締結日(平成28年4月18日)と整合しないこと,被告本人尋問で被告は,原告代理人の質問に対して,支払った合計金額は60万8000円である旨答えていること,本件契約及び付随契約の調査委託契約が無効であるとして支払った金額の返還を求める反訴請求額が60万8000円であること,領収証(乙3号証)の内訳が「調査工作代として」となっていること等に鑑みると,被告が原告に支払った金額は合計60万8000円であり,本件契約の着手金としての支払分は,持参による30万円と振込による20万円の計50万円であると認められる。

6 本件契約の公序良俗違反の有無について
(1)公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とされる(民法90条)。公の秩序とは国家社会の一般的秩序,善良の風俗とは社会の一般的道徳観念をいい,公序良俗違反の類型として,人倫に反するもの,正義の観念に反するもの,他人の無思慮,窮迫に乗じて不当の利益を得ようとするもの,個人の自由を極度に制限するものなどが挙げられている。

(2)被告は,今回の契約自体が自由恋愛が保証されるべき若い男女が自然発生的感情で別れるのでなく,心理を誘導して破綻に追い込んでおり,社会通念上行き過ぎた面があり,公序良俗に反する旨主張する

(3)別れさせ工作のすべてが公序良俗に反するとは言えないが,契約の目的,依頼者,対象者等の関係者の配偶者の有無等の状況,工作の内容,方法等が著しく社会的相当性を欠き,当事者の意思決定の自由を奪ったり,歪めるようなときは公序良俗に反する場合があるというべきである。本件契約についてみると,関係者は全員独身であり,別れさせ工作の内容は,指定女性に対し,対象者が女性工作員と交際していることを暴露して指定女性が対象者と別れることを決心するように仕向けるというものである。

 女性工作員が工作のため対象者と肉体関係を持ったことを裏付けるものはない。肉体関係があった旨告げたとする点は,被告が入手したマンションの間取りを告げるなどしてそのように思わせた可能性があり,他にこれを裏付けるものは見当たらない。対象者の二股行為によって愛想をつかして交際を終了させるか否か,対象者の説明,説得により継続するか否かは指定女性の意思によることになる。

 そうすると,本件契約が道徳的に問題があるにしても,意思決定の自由が歪められ,それが看過できないほど社会的相当性を逸脱し,公序良俗に反するとまではいえないというべきである。


7 成功報酬について
 被告は,本件工作が失敗である旨主張する。前記のとおり,被告主張の契約の解除の事実は認められず,遅くとも工作期間中である平成28年7月17日までに指定女性が対象者と別れたことが認められ,本件工作がその遠因になったことは被告も認めており,原告は,被告に対し,成功報酬の請求をすることができるものと解される。

8 結論
 以上をもとに判断すると,原告の本訴請求は理由があるから認容し,被告の反訴請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪簡易裁判所 裁判官 小山敏幸

(別紙)請求の原因
1 工作契約の締結

 原告と被告は、平成28年4月18日、別れさせ工作委託契約を締結(以下「本件契約」という)した。
 契約の内容は、被告が指定する女性(以下「指定女性」という)と、同人が交際している男性(以下「対象者」という)の交際を終了させることを目的として工作をし,工作費用として着手金80万円、工作によって交際が終了し目的を達成できたら金40万円を被告が原告に支払うというものであった。工作期間は、平成28年4月19日から同年7月19日、着手金の支払時期は、女性工作員が対象者と連絡先の交換ができた時とした。

 具体的な工作の内容は、対象者に女性工作員を近づけ、工作員が対象者に好意をもっているように装うことで、対象者に工作員と交際したいと思わせ、対象者が指定女性との交際を終了させるように仕向ける、というものであった。 
 ちなみに、当事者3名は全員未婚者である。
 なお、原告は、契約に先だって工作を引き受けた場合の、具体的な流れ及び金額などの内容を説明していた。

2 工作の実施
 契約締結日の翌日から原告は女性工作員を手配して工作を開始した。
 女性工作員は、被告から教えられた対象者の情報を元に、対象者を待ち構えて、道を聞くふりをして対象者と接触した。そうしたところ、対象者から女性工作員を食事に誘ってきたので、女性工作員は対象者と連絡先を交換し、食事を共にした。

 あまりに工作員と対象者の接触を短期間で多くすると対象者に不審に思われる可能性があるので、少し時間を置いた方がいいと原告は被告にアドバイスをしたが、被告が早期に目的を達成してほしいと申入れるので、被告の了解を得た上で、工作内容を変更することにした。
 変更内容は、対象者が工作員と交際したいと思い対象者が指定女性と別れるまで接触を続けるのではなく、工作員が対象者を誘って連絡先を交換し、何度か食事に行っていることを指定女性に知らせるというものであった。

 平成28年5月14日、工作員は指定女性と対象者がデートしている現場で対象者に声をかけ、対象者から食事に誘われ何度か食事したことを指定女性に伝えた。
 このことにより、指定女性は遅くとも同年5月末までには対象者との交際を辞めた。このことは指定女性と接触を持っている女性工作員が確認している。
 よって、原告は、本件契約の目的を達成した。

3 被告の未払
 原告は、平成28年4月下旬、対象者と連絡先の交換ができたこと、食事をともにしたことを被告に伝えた。
 同月28日に被告は、着手金の一部の50万円のみを支払い、着手金残金30万円は支払期日を同年5月末日に延ばしてほしいと申し入れた。原告はこれを受け入れた。

 しかし、被告は、平成28年5月末日が経過しても金30万円を支払わず、今も支払っていない。
 また、原告は、被告に指定女性と対象者が別れた旨を伝え、成功報酬40万円の請求をしたが、被告は金40万円を今でも支払っていない。

4 よって、原告は、被告に対し、工作委託契約に基づき、金70万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
以上
以上:6,116文字

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