令和 3年 5月 9日(日):初稿 |
○「長女を夫、二女・三女を妻と分離して監護者を指定した高裁決定紹介」に続いて、監護者指定事件の審判例として平成28年12月16日福岡家裁審判(ウエストロージャパン)全文を2回に分けて紹介します。 ○事案は、夫婦が別居後、相手方夫がその母及び伯父の補助を得て長男・長女を監護しているのに対して、申立人妻が、相手方夫に対し、長男・長女の監護者をいずれも申立人妻として、長男A(12歳・小学6年生)・長女B(5歳)を申立人妻に引き渡すことを求めたものです。文字数の関係で、先ず裁判所の判断のうち経緯と事情説明部分を紹介します。 ******************************************** 主 文 1 未成年者A及び未成年者Bの各監護者をいずれも申立人と定める。 2 相手方は,申立人に対し,未成年者A及び未成年者Bを引き渡せ。 3 手続費用は各自の負担とする。 理 由 第1 申立ての趣旨 主文第1項及び同第2項に同旨。 第2 当裁判所の判断 1 一件記録(家庭裁判所調査官作成の調査報告書及び関連事件である当庁平成28年(家ロ)第1034号事件の記録を含む。)及び審問の結果によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 当事者等 申立人と相手方は,平成14年10月3日に婚姻した夫婦であり,平成16年○月○日に長男である未成年者A(以下「長男」という。)を,平成23年○月○日に長女である未成年者B(以下「長女」といい,長男と長女を併せて「未成年者ら」という。)をそれぞれもうけた。 現在,長男は12歳(小学6年生)であり,長女は5歳である。 長女は保育園や幼稚園には通っていない。 (2) 本件申立てに至る経緯 ア 申立人と相手方は,同居し,未成年者らと4人で生活していた。 相手方は,申立人の不貞行為を度々疑っていた。 申立人は,平成28年以降,相手方と離婚することを考え,同人と話し合ったが,話はまとまらず,手続代理人弁護士らに相談したり,同年5月上旬頃,自ら離婚調停を申し立てたりした。 申立人は,未成年者らを連れて相手方と別居するため,未成年者らを連れて,転居先を探すなどもしていた。 イ 申立人は,平成28年5月15日,未成年者らを知人に預け,日帰りで京都に行った。 同月16日夜,相手方の兄(以下「父方伯父」という。)が,申立人の不貞を疑い,なぜ離婚したいのかなどと言いながら,申立人に対し,首を押さえつけるなどの暴行を加え,申立人は,緊急搬送された。 申立人は,父方伯父による暴行を切っ掛けに,自宅に帰宅することができなくなったとして,同日以降,相手方及び未成年者らと別居するに至った。 ウ 申立人は,平成28年6月20日,本件申立て及び仮の地位を定める仮処分の申立てを行った。 なお,申立人は,別居後,相手方らとの接触を控えるよう手続代理人らから助言され,また,相手方は,未成年者らの意向等を理由として,未成年者らと申立人との間の面会交流を拒んでいることから,申立人は,同人が長男の授業参観に行った際及び本件審判手続における交流場面観察を除いては,未成年者らと接することができていない。 (3) 未成年者らの監護状況の推移 ア 申立人と相手方の同居期間中は,主に申立人が炊事,掃除,洗濯,未成年者らの通院時の付添い,未成年者らの習い事の送迎等を行っており,未成年者らを監護していた。 申立人は,自宅で英会話教室を開いており,保育園や幼稚園に通っていない長女もレッスンに参加させるなどして,その監護をしていた。 イ 申立人の別居後は,相手方が同人の母(以下「父方祖母」という。)及び父方伯父の補助を得て未成年者らを監護している。 父方祖母は,週に一度程度,その夫のおかずを作り置きするなどのため,福岡県柳川市内の自宅に戻るが,それ以外は,相手方方において,炊事,掃除,洗濯を行うほか,長女と一緒に過ごしている。父方祖母が自らの家に戻っている間は,相手方が炊事を行っている。 父方伯父は,相手方と約10年間,直接の交流がなかったが,申立人の別居後は,平成28年8月1日までの間,相手方らと同居して未成年者らの監護を補助してきた。父方伯父は,相手方との口論が増えたことから,一旦自宅に戻ったが,その後も,父方祖母の不在時等に相手方方を訪れ,未成年者らの監護を補助している。 なお,未成年者らの身だしなみは整っており,その健康状態も良好である。 ウ 相手方は,本件審判手続において提出された申立人の主張書面を長男に読み聞かせるなどしている。 (4) 申立人の生活状況,監護方針等 ア 申立人は,自宅等で英会話教室を開いているところ,これによって平均15万円程度の月収が得られているとして,月謝袋の写し等を提出している。申立人によれば,平成28年12月6日時点で,同年11月分の月謝として18万9500円を受領したという。また,英会話教室のない曜日には,福岡市博多区内の会社において時給900円で1日6時間程度稼働する見込みであるとして,雇用契約書を提出するとともに,平成28年10月分及び同年11月分の給与明細書(同年10月分合計支給額1万0125円,同年11月分合計支給額2万5185円)を提出している。 イ 申立人は,2LDKの賃貸物件において,単身居住している。家賃は,5万6908円である。申立人の自宅には,長男の机やベッド等が準備されている。 ウ 申立人は,平成28年5月12日に原発性甲状腺機能亢進症及びバセドウ病と診断され,服薬や通院をしているが,就労,家事,育児に支障はなく,その健康状態に特段の問題は認められない。 エ 仮に申立人が未成年者らを引き取った場合,申立人は,長男を転校させずに現在の小学校に通わせる方針であり,長女についても,保育園に通わせることを視野に,問い合わせ,候補を絞るなどしている。また,長男に対しては,スキンシップをとり,相手方を非難しないよう配慮しつつ,ある程度の時間をかけて,申立人に捨てられたなどの誤解を解いていき,長女に対しても,スキンシップを十分にとり,その心身の安定に努める意向を示している。 申立人は,ルーマニア国籍であるが,日本の永住権を取得しており,今後も日本で生活していく意向である。申立人の父母は他界しており,申立人の姉二人はルーマニアにいる。申立人は,監護補助者として,英会話教室の生徒や保護者,空手教室の保護者らの友人や知人数名の名前を挙げており,緊急時には,同人らに頼ることができる旨述べている。 また,申立人は,相手方と未成年者らとの間の面会交流に応じる意向である。 (5) 相手方の生活状況,監護方針等 ア 相手方は,平成27年1月から,電気工事の自営業を営んでおり,これによって30万円から50万円程度の月収が得られている。出勤時間は,現場によって異なるが,午前6時頃出勤し,午後6時頃帰宅している。 イ 相手方は,肩書住所地所在の相手方の自宅(4LDK)において,未成年者らと同居しており,前記のとおり,父方祖母と父方伯父も,しばしば相手方方を訪れている。住宅ローンの返済額は,月額9万1499円である。 ウ 相手方や父方祖母の健康状態に特段の問題は認められない。 父方伯父は,うつ病と診断され,仕事を辞めて生活保護を受給しながら週に1度通院している。 エ 相手方は,申立人との同居中,未成年者らに対し,「あっちへ行け。」等と言ったことはあるが,仕事で疲れていたこと等が原因であり,決して未成年者らを疎んじていたわけではなく,今後も,父方祖母や父方伯父と協力し合って未成年者らを監護していく方針である。長女の通園については,長女自身が行きたいとは言っていないことや,家庭が落ち着いていないことから,次年度以降の通園を考えている。 また,相手方は,申立人は自分で問題を起こして出て行ったとの認識を有しており,未成年者らも申立人を嫌がっているのであるから,申立人と未成年者らとの間の面会交流には応じられないとしている。 (6) 長男の認識 長男は,家庭裁判所調査官に対し,平成28年8月2日,要旨,次のとおり述べている。 以前は,申立人と行動を共にすることが多く,相手方とは月に1回程度サッカーや魚釣りをしており,家族に対して何の不満もなかったが,平成28年4月頃から,申立人と相手方の喧嘩が増えた。申立人の様子が変わり,偶然見た申立人の携帯電話機のSNS上に,見たことのない男性の写真やハートマーク等があった。申立人は,「外国の友達。」と答えたが,「ああ,男を作っとるね。」と思った。 申立人は,怒ったりすることが増え,長女が何かを壊したりした際,叩いたり,蹴ったりし,止めに入った長男に対し,「うるさい。黙れ。」等と言ったり,週末の夜から翌日の朝まで出掛けるようになった。とにかく申立人に腹が立っており,小学生がしないような考え(浮気)をしていることを許せないと思った。 また,長男が相手方に対し,「申立人には他に男性がいるようだ。」と告げ,相手方がこれについて申立人に尋ねた際,申立人は,「長男の言うことを信じるならば,長男をあげる。」と言ったが,長男は,それを隠れて聞いており,申立人に捨てられたと感じ,ショックを受けた。申立人から捨てておいて,今更会いたいとか,一緒に住みたいと言われても無理である。 (7) 交流場面観察の実施状況等 ア 相手方は,家庭裁判所調査官に対し,交流場面観察に先立つ面接において,要旨,次のとおり述べている。 未成年者らは申立人に会いたくないと言っている。 相手方は,未成年者らに対し,これまでの申立人との不和を全て話しており,長女に対しては,「申立人は,男の人ができたので,男の人のところに行った。」と説明している。長男に対しては,長男自身が申立人の不貞を疑っていたこと等から,相手方から,調査報告書や申立人提出に係る書面を長男の目の前で読み上げ,全てを伝えている。長男は,「あいつ(申立人),うそばっかり言いよる。」と言っている。長男がそのように思うようになったのは,長男と申立人との仲が近かったため,裏切られた気持ちが強く,怒りを持っているのだと思う。 イ 相手方との間の交流場面観察において,未成年者らは,相手方と玩具を用いて楽しく遊ぶ様子が観察された。 相手方や家庭裁判所調査官が退出すると,長男は,長女に対し,小声で,「ママに会いたくないと言って。」,「もうママのこと嫌いと言って。」と指示した。 ウ 申立人が入室すると,長男は,「出て行って。」と繰り返し述べた。長男は,申立人から「どうして。」と聞かれると,「うそ付いたけん。」と言い,「あの紙に書いとったよね。2回しか叩いてないって。何回叩いとると思うと。」と言った。長女は,立って両手を握りしめたまま,うつむいたり,長男や申立人を交互に見たりしていた。申立人が長女に「髪切って可愛いね。体操やってる。体柔らかくなった。」と話しかけると,長女はその都度うなずき,母に「見せてくれる。」と言われると,困ったような表情で長男を見た。長男が「出て行って。」と述べると,しばらく沈黙となった。 申立人が「この日を楽しみにしていたよ。」と言うと,長男は,「ふーん。俺は全然楽しみじゃなかった。俺は学校でみんなと遊びたかったと。勉強もしたかったと。」と声を荒げ,涙を流した。申立人が「ごめんね。でも裁判所が決めたことだから。」と言うと,長男は,「自分で問題引き起こしとろうが。」と叫んだ。長男は,「俺からしたら捨てられたと思っとるから出て行って。」と言い,申立人から「捨てられたじゃないよ。」と言われると,「捨てられた。会いたくないって分かる。違うと言うなら,出て行ったらすぐ帰って来るやろ。」と言った。 母が「救急車で運ばれたの覚えてる。」と尋ねると,長男は「覚えとるよ。うそばっかり言って。誰が信用するっていうとや。」と言った。 申立人は,家庭裁判所調査官に対し,「どうしたらいいんですか,助けてくれないのですか。」と言い,一旦中断した後,「ママ,あなたたちのこと好きから出て行くよ。」と言って退出した。 エ その後,長男は,家庭裁判所調査官に対し,「そもそも会いたくなかった。」と言った。すると,長女は,「私は会いたかった。」,「ママはいい顔して笑顔になってた。やっぱりママの笑顔いい。」,「Aはママのことあんまり好きじゃないけど,私は大大だーい好き。」と言い,申立人との交流に応じる意思を示した。 オ 長女は,申立人が入室すると,駆け寄って抱きつき,キスをした。長女が泣き始めると,申立人は「ドントクライ。ドントクライ。」と言い,何をして遊びたいかと問いかけた。その後,申立人が長女を抱き上げたり,長女が申立人の求めに応じてブリッジを披露したりした。申立人が拍手をすると,長女は,申立人に抱きつき,その膝に乗り,「ママのことずっとずっと心配していた。」などと述べた。長女と申立人は,玩具を用いて様々に遊んだ後,終了時刻となり,家庭裁判所調査官が長女に対し,「お父さんの所に行こうか。」と言うと,長女は自ら申立人に抱きついた。申立人が長女に靴を履かせようとすると,長女は,靴の説明をし始め,なかなか部屋を出ようとしなかった。 カ 長男は,家庭裁判所調査官に対し,申立人との交流を拒否する理由について,申立人に捨てられた,2回しか叩いていないなどうそばかりであるなどと不満を述べた。また,1,2日で帰ってくればよいのに,帰ってこなかった,現在,申立人がどこに住んでいるのかについても疑問を持っているなどと涙を流しながら述べた。 以上:5,581文字
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