令和 2年 7月 1日(水):初稿 |
○離婚後の非親権者父である抗告人が,親権者母である相手方に対し,子である利害関係参加人らとの面会交流を認める旨の和解離婚時の和解条項にもかかわらず面会交流が実現していないのは,利害関係参加人らが相手方から一方的な情報のみを聞かされ続けて片親疎外の状態に陥ったからであるなどと主張し,利害関係参加人らとの直接交流を求めました。 ○原審平成31年2月26日さいたま家裁は,利害関係参加人らの手続代理人も選任して意向調査等を行った上,相応の年齢に達している利害関係参加人らの拒否の意思が強固であることなどから,上記和解条項を変更し,手紙の送付等の間接交流のみを認める審判をしました。 ○これに対し、原審を基本的に維持しつつ,相手方から抗告人に対して利害関係参加人らの電子メールアドレスやLINEのIDを通知すべきことなどは認め,その限度で原審を変更した令和元年8月23日東京高裁決定(判時2442号61頁)を紹介します。 ******************************************** 主 文 1 原審判主文第3項ないし第5項を次のとおり変更する。 2 相手方は,抗告人に対し,二男及び三男がそれぞれ高校を卒業するまでの間,各学期の終了時において,二男及び三男の各成績表を送付しなければならない。 3 相手方は,抗告人に対し,二男及び三男がそれぞれ高校を卒業するまでの間,可能な限り,二男及び三男の近況を撮影した写真を送付しなければならない。 4 相手方は,抗告人に対し,長男,二男及び三男の電子メールのアドレス及びLINEのIDを通知するとともに,抗告人と未成年者らがこれらの通信手段を介して連絡を取り合うことを認めなければならない。 5 手続費用は,原審及び当審を通じて,長男,二男及び三男の手続代理人の報酬については抗告人の負担とし,その余は各自の負担とする。 理 由 (以下において略称を用いるときは,別途定めるほか,原審判に同じ。) 第1 抗告の趣旨 1 原審判を取り消す。 2 当事者間の東京家庭裁判所平成25年(家イ)第5525号ないし第5527号面会交流調停申立事件において平成26年11月17日に成立した調停の調停条項並びに当事者間のさいたま家庭裁判所平成27年(家ホ)第101号離婚等請求事件において平成28年1月28日に成立した和解の和解条項中第12項及び第14項を別紙のとおり変更する。 第2 事案の概要 1 本件は,元夫婦である当事者間において,抗告人(父)が,未成年者らを養育している相手方(母)に対し,平成28年1月に成立した本件和解において,少なくとも月1回の面会交流が定められたにもかかわらず,相手方がこれを実行しないとして,未成年者らと面会交流をする時期,方法等について定めることを求めた事案である。 原審は,平成31年2月26日,本件和解条項を変更して,間接的な面会交流にとどめる内容の審判をしたところ,抗告人がこれを不服として即時抗告をした。 2 抗告理由の要旨 (1) 抗告人と未成年者らの従前の父子関係は良好であって,三男は,別居の際には家族が離れ離れになるのは嫌だと言って泣く程であったにもかかわらず,別居後,相手方は,正当な理由もなく面会交流を拒否して,5か月もの間,抗告人と会わせようとせず,その後,未成年者らは,抗告人やその親族の自宅に行くことまでを嫌がるという不自然な態度を示すに至ったものである。 このような経緯からすると,未成年者らが抗告人に対する負の感情を増大させていったのは,面会交流を拒絶されている間,抗告人に非があるという一方的な情報のみを相手方から聞かされ続けたことに主たる原因があることは明らかであって,専門家の意見書にも指摘されているとおり,未成年者らは片親疎外の状態に陥ったというべきである。 (2) 平成28年3月の面会における抗告人の対応は,緊急手術のために病院に行かなければならなかったことによる緊急避難的な対応であって,父親として正当なものということができるし,そもそも祖父母の家に連れていかれただけで父親との信頼関係が崩壊するというのは社会通念に照らしてもあり得ない。そして,このことについて誤解した未成年者らが面会交流を嫌がったことから,抗告人は,平成28年4月の面会で,勉強が嫌だからと言って勉強をしないのは良くないといった具体例を示しつつ,面会交流の重要性を説いたにすぎない。 原審判は,このような抗告人の対応を否定的に評価するとともに,未成年者らの心が抗告人から離れたという現状を単に追認する判断をしているが,面会交流の意義について未成年者らが誤った理解をしている以上,公権力が介入してでも,未成年者らに正しい理解を促すことが子の福祉に合致する。そして,監護親である相手方は,未成年者らが望んでいないと述べるばかりで,面会交流に応じるように何ら説得しようとしないのであるから,相手方に対しては,面会交流に関して適切な指導助言を行う義務を課すべきである。 (3) 未成年者ら手続代理人は,面会交流の実現に向けて未成年者らの説得を行おうとしない点で問題がある上,未成年者らの具体的な発言内容を明らかにしないから,抗告人として,どのように未成年者らと接していくべきかを検討することすらできないし,未成年者らの意向が適切に把握されているのかの疑問も生じる。 (4) 間接交流については,面会交流の専門家がSNSの大きな効用を認めており,一方的ではあっても,SNSでメッセージを送信し続けるだけでも意義があると述べているのであるから,手紙の送付だけではなく,SNSによる交流をも認めるべきであることを予備的に主張する。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,抗告人と未成年者らとの面会交流については,当面,間接交流にとどめるべきであり,交流の条件としては,本件和解条項14項及び原審判主文第2項のほか,本決定主文第2項ないし第4項のとおり定めるのが相当であると判断する。その理由は,以下のとおり補正し,後記2を追記するほかは,原審判「理由」第2の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (中略) (8) 11頁17行目末尾に行を改めて以下のとおり加える。 (5) 未成年者らの現在の状況 未成年者らは全員,抗告人の強い希望で,抗告人の母校であるFの初等科ないし中等科に在学していたが,長男が外部進学を強く希望し,また,相手方と未成年者らがGに転居したこともあって,別居後,長男は私立H高校,二男はI中学校にそれぞれ入学し,また,三男は,J小学校に転校した。 長男は,高校卒業後の平成31年4月,K大学に入学し,自宅から通学している。 当審において,未成年者ら手続代理人が再度,未成年者らの意向確認を行ったが,全員,充実した学校生活を送っており,それぞれ学業等に忙しいので,今はそっとしてほしい旨の希望を述べており,抗告人との面会交流を拒否する姿勢に変化はない。」 (9) 12頁4行目の「本件においては,」の後に「未成年者らと抗告人の直接の面会を強行することは相当でなく,子らの福祉の観点から,より望ましい面会交流のあり方を検討することが必要な状況に至っているというべきであるから,本件和解に至る経緯やその後の実施状況等を勘案してもなお,現時点においては,」を,同5行目の「変更すべき事情が」の後に「新たに」をそれぞれ加え,同10行目の「前記2のとおり」の前に以下のとおり加え,同11行目の「あるところ,」を「ある。」と改める。 「同居当時,抗告人と未成年者らとの親子関係に格別の問題がなく,また,平成28年3月の面会の出来事も,抗告人の行動の是非はともかく,それ自体が未成年者らとの面会交流を禁止・制限すべき事由に当たるものではない。したがって,客観的には,抗告人と未成年者らの面会交流の実施が子の福祉に反するものとは考えられないが,他方,未成年者らの年齢,能力等に鑑みると,面会交流の実施の可否を判断するに際して,その意向を十分尊重すべきであるところ,」 (10) 12頁21行目から22行目の「主張するが」を「主張し,臨床心理士作成の意見書(甲41,43)を提出するが,当該臨床心理士は,未成年者らと実際に面会したわけでもなく,自らの見解に基づき意見書を作成したにすぎない上,」と改める。 (11) 13頁8行目から9行目の「全く不可能であるとまではいえない」を「期待される」と改め,同16行目冒頭から23行目末尾までを以下のとおり改める。 「ウ 抗告人は,間接交流の方法として,電子メールやLINE等のSNSを用いたメッセージの送信を主張するのに対し,相手方は,これが相当でない旨主張する。 確かに,前記のとおり,未成年者らは,抗告人との面会を強く拒否し,LINEでの連絡をも拒んでいるところではあるが,本来,可能な限り抗告人と未成年者らの交流の機会を確保することは,中長期的に見れば,子の福祉の観点からも望ましいことは論を俟たないし,また,そもそも本件においては,本件和解条項により直接の面会が認められており,抗告人と未成年者らの面会交流を禁止・制限すべき典型的な事由が存在するわけではないにもかかわらず,抗告人と未成年者らとの面会交流が,平成28年4月の面会以後,長らく途絶えているといった経緯が存在する。 そうすると,前述のとおり,直ちに直接の面会を再開するのは困難であるとしても,未成年者らとの関係修復を図るため,抗告人に対して,より簡便で効果的な連絡手段の利用を認める必要性が高いと考えられるし,それによる具体的な弊害が大きいわけでもない。 したがって,未成年者らが抵抗感を感じるであろうことを十分考慮しても,電子メールやLINEを用いたメッセージの送受信による間接交流を認めるべきであり,そのために,相手方において,未成年者らのアドレス等の連絡先を抗告人に通知するのが相当である(もとより,抗告人においては,メッセージの送信によって,より未成年者らの反感を増すことのないよう,送信頻度やその内容については十分な配慮が求められる。)。」 (12) 14頁1行目冒頭から3行目の「いわざるを得ない。」までを以下のとおり改め,同7行目の「前記認定の事実関係」から13行目の「考えられる反面,」までを削る。 「 その原因については,例えば,抗告人が通常の家庭とは異なる呼称を未成年者らに用いさせていたことや,Fに通学させることへの強いこだわり,より根本的には,抗告人が未成年者らの気持ちを十分に理解しようとせず,自らの考えを未成年者らに押し付けて,言うことを聞かせようとする姿勢への反感ないし抵抗感等が影響しているものと推測できるものの,それ以外にも様々な事情が影響しているものと考えられる。」 (13) 15頁1行目から2行目の「全く不可能であるとまではいえない」を「期待される」と,同22行目から23行目の「主文第2項から第4項までのとおり変更する」を「変更し,間接交流について,①手紙の送付,②高校卒業時までの成績表及び写真の送付(なお,長男については,現時点では既に高校を卒業したので,その対象から除くこととする。),③電子メールやLINEによる連絡について定める」とそれぞれ改める。 2 抗告理由に鑑み,必要な限度で補足する。 (1) 抗告人は,前記第2の2(1)のとおり,抗告人と未成年者らの従前の関係は良好であったから,未成年者らが抗告人に対する負の感情を増大させていったのは,抗告人との面会交流を拒絶し,抗告人について一方的な情報を聞かせるといった相手方の行為に主たる原因がある旨主張する。 しかし,別居直前の会話の録音内容(甲18の2,20の2)等を見ても,抗告人と未成年者らの関係に格別の問題がなかったという程度を超えて,良好な関係であったとまで認めることはできないし,引用に係る原審判「理由」第2の3(3)(補正後のもの)における説示のとおり,未成年者らが抗告人に対する抵抗感等を感じていた部分もあるというべきであって,実際,月1回の面会交流の際,未成年者らが楽しくなさそうな様子を示していたことは,抗告人自身も実感していたところである。 確かに,別居後,相手方が面会交流に否定的な姿勢を見せていた時期があるし,別居の原因について,抗告人に対して否定的な説明を未成年者らにしていた可能性も否定し得ないものの,その後,結果的には,1か月に1回の頻度で,抗告人と未成年者らとの面会交流が実施されていたのであるし,抗告人との面会交流を嫌がる未成年者らに対して,一応の説得を試みるなどしていたのであるから(引用に係る原審判「理由」第2の1(3)エ及びカ(補正後のもの)参照),抗告人に対する負の感情の主たる原因が,相手方による働きかけにあったとは認められない。 そして,その後,3年以上もの長期間が経過したことや,未成年者らの現在の年齢や判断能力にも照らすと,現時点においてもなお面会交流を拒絶する未成年者らの反応は,未成年者らの自発的な意思に基づくものと見るのが相当であって,相手方の影響を強く受けたものであるということはできない。 よって,抗告人の上記主張は採用することができない。 (2) 抗告人は,前記第2の2(2)のとおり,平成28年3月の面会や平成28年4月の面会の際の抗告人の行動は正当なものであるし,面会交流の意義について未成年者らが誤った理解をしている以上,監護親である相手方において,適切な指導助言を行う義務を課すべきである旨主張する。 しかし,抗告人の行動は,未成年者らにとって,自分たちをだまして実家に連れて行ったのではないかとの疑いを生じさせるものである上,その後,長時間にわたって自己の正当性を主張したことや,未成年者らの言い分に対して耳を傾けることなく,自らの考えを押し付けようとする面があったこと(なお,平成28年4月の面会の際には,「会えなくなったら,寂しくて自殺しちゃうかもしれないよ。自殺してほしい? 死んでほしいと思う?」等の不適切な発言もされていた。)等からすると,未成年者らが抗告人との面会交流に消極的になったのにも一応の理由があるというべきである。 そして,未成年者らの年齢や理解能力にも照らすと,面会交流の実施に際しては,未成年者らの意向を十分に尊重する必要があると考えられるし,その明確な意思に反して,直接の面会という負担の大きい面会交流を強制することも相当ではない。 確かに,上記のような抗告人の行動は,一般に面会交流を禁止・制限すべき事由に当たるとまで評価できないものであるが,一定程度の年齢・理解能力を有する未成年者らが面会交流を明確に拒否する意思を有している以上,監護親に対して,直接の面会の実施や,面会交流に前向きになるような説得を義務付けるのではなく,むしろ,抗告人の側で,手紙,メール,LINE等の方法を用いて,自らの思いを未成年者らに率直に伝えることによって,未成年者らの抵抗感等を和らげ信頼関係を構築するように努め,未成年者らの了解を得た上で,直接の面会の実施につなげていくべきものと考えられる。 よって,抗告人の上記主張は採用することができない。 (3) 抗告人は,前記第2の2(3)のとおり,未成年者ら手続代理人の活動姿勢を問題視するが,未成年者らの手続代理人という立場に照らして,同人の手続活動に不当な点は見当たらないし,いずれにせよ,現時点においても,抗告人との面会交流を拒否する未成年者らの意思に変わりがないことに特段疑いを抱くべき事情は存在しないから,本件結論に影響を及ぼすものとはいえない(なお,未成年者ら手続代理人において,未成年者らに本決定の内容を告知・説明する際,裁判所は,抗告人と未成年者らとの直接交流が不要と判断したわけではなく,いずれ父親である抗告人との直接交流が再開されることが望ましいと期待したものである旨適切に伝えられるべきであることをあえて付言する。)。 第4 結論 以上によれば,抗告人と未成年者らとの間接交流の具体的内容については,本件和解条項14項及び原審判主文第2項のほか,本決定主文第2項ないし第4項のとおり定めるのが相当であるところ,これと異なる原審判は相当でないから,上記のとおり変更することとし,主文のとおり決定する。 東京高等裁判所第4民事部 (裁判長裁判官 菅野雅之 裁判官 今岡健 裁判官 橋爪信) 以上:6,750文字
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