平成30年 7月10日(火):初稿 |
○審判で認められた父親の子との面会交流が子の福祉に反するとして、面会交流禁止に変更された平成29年3月17日名古屋高裁決定(判時2367号58頁)全文を2回に分けて紹介します。 ******************************************* 主 文 一 原審判を次項及び第三項のとおり変更する。 二 当事者間の名古屋家庭裁判所一宮支部平成26年(家)第138号面会交流申立事件に係る平成26年9月24日付け審判において定められた未成年者と原審相手方との面会交流につき、平成28年12月1日以降、次項のとおり変更する。 三(1)原審相手方は、未成年者との面会交流につき、原審申立人との間でこれを許す新たな協議が成立するか、これを許す家庭裁判所の審判が確定し又は調停が成立するまでの間、未成年者と面会交流してはならない。 (2)原審申立人は、原審相手方から未成年者のために来た手紙や品物を未成年者に渡さなければならない。 四 本件手続費用は、原審及び当審とも各自の負担とする。 理 由 第一 事案の概要 一 本件は、未成年者の監護親(母親)である原審申立人(昭和46年××月××日生)が、名古屋家庭裁判所一宮支部平成26年(家)第138号面会交流申立事件に係る平成26年9月24日付け審判(以下「前件審判」という。)の主文により定められた、未成年者と非監護親(父親)である原審相手方(昭和39年××月××日生)との面会交流につき、新たな協議の成立等までの間、禁止することを求めている事案である。 原審判は、原審申立人の求めた面会交流の禁止は認めず、前件審判が、平成29年4月以降、原審相手方から原審申立人に面会交流場所を知らせるよう命じた部分(前件審判主文一項(4))につき、同月以降とあるのを平成30年8月以降と変更し、また、面会交流における原審申立人の同席を平成29年3月末日まで認めることを命じた部分(前件審判主文一項(5))につき、同日までとあるのを平成30年7月末日までと変更したところ、双方とも即時抗告した。 二 原審申立人の本件抗告の趣旨は、原審判を取り消した上、原審相手方は、未成年者との面会交流につき、原審申立人との間でこれを許す新たな協議が成立するか、又は、これを許す家庭裁判所の調停審判があるまでの間、未成年者と面会交流してはならない、と変更する旨の裁判を求めるものと解され、その理由は、別紙「即時抗告理由書」《略》(写し)及び別紙「主張書面」《略》(写し)に記載のとおりである。 三 原審相手方の本件抗告の趣旨は、原審判を取消した上、原審申立人は原審相手方の示した「子の養育フォーム2」に基づき、未成年者を原審相手方と面会交流させなければならない、との裁判を求めるものであり、その理由は、別紙「抗告理由書」《略》(写し)、別紙「反論書六」《略》(写し)、別紙「上申書七」《略》(写し)及び別紙「反論書七」《略》(写し)に記載のとおりである。 第二 当裁判所の判断 一 当裁判所は、未成年者らと原審相手方との面会交流のうち、遅くとも平成28年12月分以降については、本決定書主文第3項に記載のとおり、当分の間、直接的な面会交流は取り止め、間接的なものにとどめるのが相当であると判断するが、その理由は以下のとおりである。 二 認定できる事実 以下のとおり付加訂正するほか、原審判「理由」の「第二 当裁判所の判断」の一に記載のとおりであるから、これを引用する(略称については、特に断りのない限り原審判の表記に従う。ただし、原審判中の「当庁」を「名古屋家庭裁判所一宮支部」と読み替える。また、原審判中に摘示されている事件番号は、特に断りのない限り同支部のものである。)。 (1)原審判三頁三行目末尾の次に、次のとおり付加する。 「そして、少なくとも原審申立人が主張する原審相手方による上記暴行は、具体的かつ詳細で迫真性に富む後記ウの審判時の調査報告書に添付の原審申立人作成にかかる手書きのメモや《証拠略》の陳述書により事実であると認められ、後記ウ、エの審判及び抗告審の決定でも認定されているところであって、信用性の認められる上記メモ書き及び陳述書によれば、産前産後の原審申立人に対する原審相手方の暴力暴言は、その程度に止まるものではなかったことが認められる。」 (2)原審判三頁16行目、5頁7行目、11頁21行目、14頁11行目、15行目、23行目の各「裁判官」をいずれも削除する。 (3)原審判三頁26行目末尾を改行した次に、次のとおり付加する。 「原審相手方は、上記審判に対して即時抗告したが(名古屋高等裁判所平成20年(ラ)第235号)、平成20年10月6日、同抗告は棄却された。抗告審の決定書では、原審判の認定説示をそのまま引用した上、未成年者にとって原審相手方との面会交流が楽しい時間であれば、たとえ短い時間であっても試行の回を追うごとに原審相手方に懐くと思われるが、四回の試行面会では回を追うごとに逆の反応となっており、原審相手方との面会交流自体が未成年者の負担となっている旨の説示が付加されている。」 (4)原審判11頁7行目の「施行」を「試行」と改める。 (5)原審判13頁6行目の「主張するが、」の次に「確かに、原審相手方は、原審申立人を面会交流に非協力的であると非難し続けており、面会交流を実施していく上で原審申立人との信頼関係・協力関係を築いていく意識に乏しい面が窺われる。しかし、面会交流における信頼関係は、連れ去りの危険がないことや取り決めたルールを守って実施すること、子の前で相手の悪口を言わないことなど、面会交流を行う上で必要な範囲で確保されていれば足り、これまでに実施された試行面会や原審申立人が面会交流の具体的方法を提案していたこと等に照らすと、本件において、」を付加する。 (6)原審判13頁8行目の「相手方は、」の次に「原審相手方との面会交流が未成年者にとって心理的負担となっていることが明らかな状況を踏まえても、これを原審申立人による悪影響によるものとして、原審申立人に対する批判的態度を崩さず、原審申立人の悪影響を弱めるために頻繁な面会交流を行うべきである旨主張している。しかし、原審申立人が未成年者に対して片親疎外を招くような悪影響を及ぼしているとはいえず、原審相手方は、同性の監護親の影響を受けやすいという」を付加する。 (7)原審判13頁9行目から10行目にかけての「相手方」を「原審申立人」と改め、13行目及び18行目の各「申立人」をいずれも「原審相手方」と改める。 (8)原審判14頁21行目末尾を改行した次に、次のとおり付加する。 「上記各決定が繰り返されたのは、未成年者がその強固な意思で原審相手方との面会交流を拒絶していることによるものであるが、これら決定書のうちには、原審相手方が未成年者を面会交流の指定場所に連れて行った様子がないこと(上記平成27年4月30日付け決定)、身体症状が出たのであれば医師を受診させて相談したり、面会交流変更の申立てをしたりすべきであるのにしていないこと(上記同年9月8日付け決定)を指摘したものがある。」 (9)原審判14頁26行目末尾を改行した次に、次のとおり付加する。 「この決定では、末尾の付言として、原審申立人に向けて、未成年者が面会交流を嫌がり履行が困難であるというのであれば、原審申立人において未成年者を強く説得して引渡場所まで連れて行き、その反応を原審相手方に目の当たりにして理解してもらう必要がある旨説示し、他方、原審相手方に向けては、裁判所で決定された事項であるとはいえ、未成年者との面会交流は、監護者の理解を得て行うことが未成年者や当事者双方の心身の安定と利益にもっとも適うから、原審相手方としても、より良い面会交流実現に向けて、原審申立人代人理人と十分に協議し、監護親である原審申立人の理解を得るような柔軟な振舞いが求められる旨説示している。その上で、「当裁判所は、いたずらに間接強制の増額の紛争を繰り返すことなく、当事者双方の相互理解の努力の上に、面会交流が実現できるように期待するところである。」と結んでいる。 しかるに、原審相手方は、この決定に執行抗告し、平成28年8月23日、上記抗告は棄却された(名古屋高等裁判所平成28年(ラ)第197号)。 抗告審の決定では、「一件記録によれば、これまでにも再三にわたり、抗告人(原審相手方)と未成年者との面会交流が試行されてきたこと、相手方(原審申立人)も、本件審判で定められた面会交流の実施に応じるよう未成年者に対する働きかけを行ったことが認められ、未成年者と非監護親との面会交流を実施することの意義については、相手方(原審申立人)も、一般的な知識理解を有していることがうかがわれる。」と判示されている。 原審相手方は、上記各間接強制の決定に基づき、実際に何度も間接強制の手続を踏んでおり、その度に、原審申立人に対し、その所属する県教育委員会や勤務校の校長から電話がかかってくるが(給与等の差押えに関してのことと思われる。)、間接強制のことを原審申立人が未成年者には極力隠そうとしても、聡明な未成年者はそのことを鋭く察知し、「嫌がったのは自分なんだ。母親は関係ない。自分のせいだ。」と叫んだり、「絶対にお金は払わせないから。」と言って車の中に立てこもったり、間接強制のお金は自分が支払うと言って、布団の上にお金を並べ「足りない!足りない!」と取り乱したりしたことがある。 原審申立人に科せられた間接強制金は、少なくとも平成27年3月から平成28年7月まで累増する5回分の合計172万円にのぼるが、原審申立人は、これらを親族から借りるなどして支払っており、これにより母子の経済生活は逼迫している。」 (10)原審判16頁8行目の「実施すれば、」の次に「未成年者を更に追い詰めることとなり、家出を誘発したり、更に重い身体症状や疾患を生じさせ、これらが常態化、深刻化しかねないこと、未成年者は「自分のために、自分がいるから母が苦しめられる」と悩んでいるが、これは過酷な現状をそのまま受け入れられず、自分を悪者にすることで現状を受け止めざるを得ないためであり、被虐待児やいじめの被害児の心の動きと同様であって、自信喪失や自己否定などが高じて抑うつなどを引き起こしやすいなどともいわれ、子の健康な自己肯定感の形成が疎外されることに加え、」を付加する。 (11)原審判18頁1行目の「写真」の次に「(原審申立人によれば、そもそもそのような写真は存在しないとのこと)」を付加する。 (12)原審判20頁3行目末尾を改行した次に、次のとおり付加する。 「なお、調査官は、この時点では間接強制にまつわる未成年者の尋常でない反応が記載された原審申立人提出の平成27年8月20日付けの陳述書を読んでいるはずであるが、未成年者が自ら敢えて「嫌がらせ」の語を用いたにもかかわらず、上記の点を念頭に置いた上での質問を行った形跡はない。」 以上:4,529文字
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