平成29年 4月12日(水):初稿 |
○「別居期間4年10ヶ月に到りようやく婚姻破綻を認めた裁判例紹介(控訴審)」の続きで、不貞・暴力等の決定的な婚姻破綻理由がないのに別居期間2年3ヶ月(口頭弁論終結時)で婚姻破綻を認めて離婚を認容した平成10年12月21日仙台地裁判決を紹介します。 ○当HPの「結婚戦争での敗因分析の仕方」で紹介した事案の判決で19年も前に私が取り扱った事案ですが、破綻主義の考え方に立つ裁判官の判決で、当時は、決定的離婚事由がないのに2年3ヶ月程度の別居で婚姻破綻を認めるのは画期的判決でした。 ******************************************** 主 文 一 原告と被告とを離婚する。 二 原告と被告との間の長女A(平成○年○月○日生)及び長男B(平成○年○月○日生) の親権者を、いずれも原告と定める。 三 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第一 原告の請求 主文と同旨 第二 事案の概要 一 原告(昭和36年○月○日生)と被告(昭和○年○月○日生) は、平成3年○月○日婚姻の届出をした夫婦であり、二人の問には、長女A(平成○年○月○日生)及び長男B(平成○年○月○日生)がある(甲1)。 二 結婚当時から今日まで、原告は実父が経営する株式会社C建設(以下「C建設」という。)に勤務し、被告はD運輸株式会社に勤務している。 三 平成7年4月、被告の実父母と同居することを前提に、その援助も得て、E町の被告所有地に居宅が新築されたが、新居には被告の弟も同居することになった。 四 原告と被告は、平成8年8月13日、原告が被告の着替えを用意しなかったことでけんかとなり、原告は、二人の子を連れて実家に帰り、以後、今日まで二年以上別居している。 五 仙台家庭裁判所に対し、被告は平成9年3月夫婦関係円満調節の調停を申し立て、原告は同年4月離婚等の調停を申し立てたが、同年10月16日、いずれも不成立で終了した。(以上につき甲3、乙1、原、被告各本人) 六 原告は、離婚原因として、平成4年ころから家事や育児を原告に押し付ける被告の態度や言動が気になりだし、平成6年の新居の建築の際も原告に任せて非協力であった上に、新居には当初は話がなかったにもかかわらず被告の弟が同居することになり、また、原告は、働いていることから家事の一部を義母に手伝ってもらっていたため、義母に気兼ねしながらの生活であったにもかかわらず、被告は原告と口論になったりして機嫌が悪くなると長期間口を利かなくなることなどから、次第に互いの気持ちの通い合いや意思の疎通が感じられなくなっていたところ、平成8年7月ころ些細なことでけんかになったのを機に離婚を意識し、上四の同年8月13日のけんかを機に既に2年以上も別居するに至っており、原、被告の婚姻関係は完全に破綻しているから民法770条一項5号の離婚原因があると主張する。そして、ニ人の子らの親権者については、2年以上原告のもとで養育されており、原告の実父母の援助も得ることができ、原告には実父の経営する会社の社員として十分な収入もあるから、原告とするのが相当であると主張する。 これに対し、被告は、別居に至った原因は、客観的に婚姻関係を破綻させるに足るものでなく、別居期間も長期とはいえないから、未だ婚姻関係は破綻しておらず、婚姻を継続し難い重大な事情はないとし、2人の子らのためにも離婚は相当ではないと主張する。 第三 当裁判所の判断 一 証拠(甲3、乙1、原、被告各本人)を総合すれば、次の事実が認められる。 1 原告と被告は、昭和58年に友人を通じて知り合い、ともに仕事を続ける前提で結婚し、2人の子をもうけた。子らの世話は原告の実家の母が手伝ったが、原告は、長男が生まれる前の平成4年ころから、家事・育児についての被告の協力に不満を持つようになり、小さないさかいを繰り返すようになった。被告は、いさかいの結果機嫌が悪くなると、全く口を利かなくなったり、怒鳴ったりすることがあったが、そのころは離婚が問題となるほどの状況ではなかった。 2 結婚した当時、被告の父は糖尿病で体調が悪かったために既に退職して働いておらず、被告の母が働いていた(現在はやめている。) ことから、平成7年4月、被告の父母と同居することを前提に、その援助も得て、E町の被告名義で取得した土地に居宅が新築された。新築の過程で水道工事の問題や、道路の使用許可、電柱の問題等があったが、原告としては、その処理を専ら自分が担当させられたと感じており、しかも、被告はその結果が気に入らないために口を聞がなくなるということが何度か繰り返されるうち、原告は被告に対する不満が募っていった。 また、原告は、被告に対し、被告の父母と同居していた被告の弟が新居の建築後どうするのかについて尋ねたが、被告の返事ははっきりしなかったところ、結局、新居への引っ越しの一週間前に、義母と義弟から一緒に住まわせてほしいと頼まれ、承諾したが、原告は、被告から納得のいく説明を受けないままそのような結果となったことで被告に対して強い不信感を抱くようになった。 3 こうした状況の中で、原告は仕事を続けながらの家事・育児に負われる生活に疲れを感じるようになり、他方、被告は、原告が実家に子らの世話を頼むことや、家事の一部を被告の母に手伝ってもらうことに快い態度を示さず、機嫌が悪いと口を聞かないようになるため、原告も自分の殼に閉じこもるようになり、被告との意思の疎通ができないと感じるようになった。 4 平成8年7月、原告がお金がないという話をしたことに対し、被告が、被告と同等の収入だけで専業主婦でやりくりしている人がいるのに、金がないといわれる筋合いはないとして、原告に対して通帳を全部見せるように要求したことから口論となり、離婚という言葉も出て、原告はこのときから離婚を意識するようになった。 5 平成8年8月13日、長女は原告の実家に泊まりに行っていたところ、原告が被告の着替えを用意しなかったことで口論となり、長男がいる前で腕力が振るわれるような事態となったため、原告は、被告との離婚を決意し、長男を連れて実家に帰り、以後、被告とは別居するに至った。 6 その後、被告から原告に対して再三戻ってきてほしいという話があったが、原告は一貫してこれを拒絶し、他方、被告は離婚を拒絶したため、双方から調停が申し立てられたが、不調となり、本訴に至った。原告の離婚意思は固く、仮に、本訴の請求が認められなくとも、認められるまで何度でも訴えを出すと述べているほどである。 7 原告の年収は約720万円であり、被告の年収約800万円に匹敵している。原告が勤務するC建設は、社員5名、作業員約30名であり、原告の仕事は経理、総務的な仕事であるが、原告の他の兄弟でC建設の仕事に従事している者はなく、原告が跡取り的な立場にあり、2級の土木施工監理技師の資格を取り、現在1級を目指している。原告が働いている日中の時間は、原告の母が2人の子らの世話をしている。現在、子らは、月2回、原、被告があらかじめ決めた日に、原告が送り迎えをして被告方に行っており、養育状況に格別問題があることはうかがわれない。 8 他方、被告は、原告が働いていることについて、自分の年収だけで暮らして行くには十分であり、原告が働きに出る必要はなく、原告が働いているのは原告の希望にすぎないという考えである。また、家の新築の際も、被告としてもやるべきことはやっており、弟の同居も原告に話したと思っており、家事・育児への協力も、世間一般のサラリーマンと比べて非協力的であったとは思っていない。平成8年8月13日までは離婚などは考えられない幸せな家庭であったとし、同日のいさかいについても、被告の着替えの用意のことで口論とはなったが、被告は原告を殴っておらず、原告が被告の脇腹に蹴りかかってきただけであると述べ、離婚については、離婚理由はなく、原告の被告に対する不満については自分のどこが悪いのかという気持ちであり、基本的に原告のわがままであって、子らのためにも元の生活に戻るべきだと述べている。 二 以上に認定した事実によれば、原、被告の婚姻関係は、原告としては当初から仕事を続けることを前提としていたのに対し、被告は原告が仕事を続けるのを認めるという意識であり、その点の基本的な認識の相異が婚姻生活の過程で次第に明らかになり、平成8年7月のいさかい (上一の4)とこれに続く同年8月13日のいさかい(上一の5)という形で露見し、別居という事態に至ったものということができる。原告の述べる離婚原因は、どれもそれ自体は婚姻生活において日常的に起こりうる事態であり、原告としても解決の努力や忍耐が期待されたことではあるが、これらについて基本的に自己の非を認めない被告の態度からすれば、原告が夫婦としての意思疎通に困難を感じて離婚意思を固めるのに十分なものであったというべきである。 これに対し、被告は、離婚を拒絶し、元の生活に戻るべきだとは述べているが、他方で、また原告と一緒に暮らすことについては「改めることは改めてもらえればそれは可能なんじやないですか。」と述べ、原告の本人尋問における供述については「自分の非をなかなか認めない人なんだなと思いましたね。」と述べ、原告の不満を理解しようという姿勢はほとんど見られない。被告が離婚に応じない理由は、原告に対する愛情ではなく、自分に非はないということと、子らの問題だけであることがうかがわれる。 既に別居して2年以上が経過し、原告の離婚意思が固いことも考え合わせると、原、被告の婚姻関係は、既に破綻しており、民法770条1項5号の婚姻を継続し難い重大な事由があるといわざるを得ない。 三 原、被告間の長女A(平成3年○月○日生)及び長男B(平成5年○月○日生)の親権者については、子の福祉という視点から判断されるべきところ、原、被告のいずれにおいても子らに対する愛情に欠けることはなく、養育環境にもさほどの優劣はないと考えられる。しかし、子らは既に別居後2年以上原告方で生活しており、いずれも未だ年少で母親の存在が重要な時期であり、原告が働いている間預けられている原告の実母方も、幼いときからよく世話を受けてきたところであって、現在の養育状況に特に問題は認められないことからすれば、親権者はいずれも原告と定めるのが相当である。 四 よって、原告の請求は、理由があるから認容し、主文のとおり判決する。 仙台地方裁判所第一民事部 裁判官 佐藤道明 以上:4,319文字
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