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婚姻費用算定基準で参考になる平成27年8月13日東京家裁審判全文紹介

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平成29年 3月 3日(金):初稿
○婚姻費用算定を算定するに当たって、大変参考になる
①婚姻費用の分担の支払の始期について,申立人が相手方に内容証明郵便をもって婚姻費用の分担を求める意思を表明した時期とし、
②申立人が居住する住宅のローンの支払を算定表によることができない特別の事情として考慮し、
③就学中である子ら(21歳及び19歳)について,算定表による算定に当たっての未成熟子としては取り扱うこととするが,その学費については,算定表によることができない特別の事情として考慮するのは相当ではない
とした平成27年8月13日東京家裁審判(判タ1431号248頁、判時2315号96頁)全文を紹介します。

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主  文
1 相手方は,申立人に対し,58万2000円を支払え。
2 相手方は,申立人に対し,平成27年○月から離婚又は別居解消に至るまで,毎月末日限り9万円を支払え。
3 手続費用は各自の負担とする。 

理  由
第1 事案の概要

 本件は,申立人が,相手方に対し,別居期間中の婚姻費用の分担を求めている事案である。
 本件記録及び手続の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
1 申立人(昭和44年○月○日生)と相手方(昭和41年○月○日生)は,平成5年○月○日に婚姻した夫婦で,同年○月○日に長男Cを,平成7年○月○日に長女Dを,平成12年○月○日に二男Eをもうけ,申立人肩書住所地にある当事者双方で共有(申立人の持分5分の1,相手方の持分5分の4)する自宅(以下「本件自宅」という。)で当事者間の子らと生活していたが,相手方は,平成25年○月○日,本件自宅を出て,申立人及び当事者間の子らと別居した。

2 申立人は,会社員として働いており,勤務先の会社から平成26年の給与収入として,約364万円を受け取っている。

3 相手方は,会社員として働いており,勤務先の会社から平成26年の給与収入として,約464万円を受け取るとともに,××から同年の給与収入として,約21万円を受け取っている。

4 相手方は,現在,賃貸住宅に居住し,毎月8万4000円の賃料を支払っている。

5 長男は,平成24年○月に私立の4年制大学の法学部に入学し,現在,大学4年生である。
 上記大学への学費その他の学校納付金は,大学2年次は92万7500円,大学3年次は94万7500円,大学4年次は96万7500円である(甲9)。

6 長女は,平成26年○月に2年制の美容関係の専門学校に入学し,現在,2年生である。上記学校への学費その他の学校納付金(任意の受験費用を除く。)については初年度は159万6000円(甲10),2年次は144万7000円(甲31)である。

7 相手方は,長男及び長女の上記各学校への進学について承諾していたが,これは長男及び長女が奨学金の貸与を受けることを前提としたものであった。実際,長男は,平成24年○月分から平成25年○月分までは,毎月5万円,平成25年○月分からは,毎月12万円の奨学金の貸与を,長女は,毎月12万円の奨学金の貸与をそれぞれ受けている。

8 二男は,公立の中学校に在籍しており,現在,中学3年生である。

9 申立人は,平成26年1月○日付けの内容証明郵便で,相手方に対し,婚姻費用として毎月10万円を支払うことなどを求めた。

10 申立人は,平成26年2月○日,本件につき東京家庭裁判所に調停の申立てをした(同年(家イ)第772号)。同裁判所は,平成27年○月○日,調停事件の解決のため,調停に代わる審判をしたが,申立人は,同年○月○日,この審判に対し,同裁判所に異議を申し立てた。

11 相手方は,申立人から内容証明郵便で婚姻費用の支払を求められた平成26年○月以降,申立人に対し,次のとおり,婚姻費用の支払をしており,その合計額は,94万8000円である。
(1)平成26年○月 7万円
(2)平成26年○月 6万円
(3)平成26年○月 6万8000円
(4)平成26年○月 6万5000円
(5)平成26年○月 1万5000円
(6)平成26年○月 8万円
(7)平成26年○月 6万円
(8)平成27年○月 6万円
(9)平成27年○月 7万円
(10)平成27年○月から○月まで 各8万円

12 相手方は,本件自宅の住宅ローン(以下「本件ローン」)を負担しているところ,申立人は,平成25年○月から平成26年○月まで,毎月約8万8000円,相手方に代わって,本件ローンを支払った。その後,相手方が,平成26年○月から同年○月まで,毎月約8万9000円,本件ローンを支払ったが,同年○月からは返済条件を変更して,次のとおり,本件ローンを支払っている。
(1)平成26年○月 約6万1000円(約5万5000円の手数料含む。)
(2)平成26年○月から平成27年○月 毎月約4万5000円
(3)平成27年○月以降 毎月約5万円

第2 当裁判所の判断
1 婚姻費用の具体的な分担額については,東京・大阪養育費等研究会提案の算定方式に基づく算定表(判例タイムズ1111号285頁参照。以下,単に「算定表」という。)を参考にして算定するのが相当である。

 そして,その分担の始期については,婚姻費用分担義務の生活保持義務としての性質と当事者間の公平の観点からすると,本件においては,申立人が相手方に内容証明郵便をもって婚姻費用の分担を求める意思を確定的に表明するに至った平成26年1月とするのが相当である。
 また,長男については,同月時点で既に成人に達しており,また,長女についても,平成27年○月に成人に達するものの,長男及び長女ともに就学中であることに鑑み,算定表による算定に当たっては,未成熟子として取り扱うのが相当である。

2 算定表による算定
 上記第1の1及び2で認定した事実によれば,申立人の総収入は約364万円,相手方の総収入は約485万円と認められる。
 そこで,これらの総収入を,平成26年○月から平成27年○月までは算定表の表18婚姻費用・子3人表(第1子及び第2子15~19歳,第3子0~14歳)に,二男が15歳になる同年○月以降については算定表の表19婚姻費用・子3人表(第1子,第2子及び第3子15~19歳)に当てはめると,本件は,平成26年○月から平成27年○月までは,月額8~10万円の範囲内に,同年○月以降については,月額10万円の境界線付近に位置付けられる。

3 算定表によることができない特別の事情の有無
(1)住宅ローンの支払
 相手方が,平成26年○月から同年○月までについては,毎月約8万9000円,同年○月については,約6万1000円,同年○月から平成27年○月までについては,毎月約4万5000円,同年○月以降については,毎月約5万円の本件ローンの支払を行っていることは,上記第1の12で認定したとおりである。

 このような場合,申立人は自らの住居関係費の負担を免れる一方,相手方は自らの住居関係費とともに申立人世帯の住居関係費を二重に支払っていることになるから,婚姻費用の算定に当たって住宅ローンを考慮する必要がある。もっとも,住宅ローンの支払は,資産形成の側面を有しているから,相手方の住宅ローンの支払額全額を婚姻費用の分担額から控除するのは,生活保持義務よりも資産形成を優先させる結果となるから相当でない。そこで,当事者双方の収入や住宅ローンの支払額,相手方の現在居住している住居の家賃の額や家計調査年報の当事者双方の総収入に対応する住居関係費の額などの一切の事情を考慮し,本件では,次のとおりの金額を婚姻費用の分担額から控除するのが相当である。
ア 平成26年○月から同年○月まで 3万円
イ 平成26年○月以降 1万円

(2)長男及び長女の教育にかかる学費等
 長男が私立の大学,長女が専門学校にそれぞれ通っていること,長男の通う大学への学費その他の学校納付金が,大学2年次は92万7500円,大学3年次は94万7500円,大学4年次は96万7500円であること,長女の通う専門学校への学費その他の学校納付金(任意の受験費用を除く。)が,初年度は159万6000円,2年次は144万7000円であることは,上記第1の5及び6で認定したとおりである。

 そこで,長男及び長女の教育にかかる学費等を算定表の幅を超えて考慮するかどうか検討するに,相手方は,長男が私立の大学に通うこと及び長女が専門学校に通うことについて承諾していたものの,これらの承諾は長男及び長女が奨学金の貸与を受けることを前提としたものであったことは,上記第1の7で認定したとおりであるところ,上記第1の5ないし7で認定した事実によれば,長男及び長女は毎月12万円の奨学金の貸与をそれぞれ受けており,長男及び長女の教育費にかかる学費等のうち,長男の通う大学への学校納付金については全て,また,長女の通う専門学校への学校納付金についても9割以上,各自の受け取る奨学金で賄うことができる。これに,算定表で既に長男及び長女の学校教育費としてそれぞれ33万3844円が考慮されていること,相手方が,現在居住している住居の家賃の支払だけでなく,本件ローンの債務も負担していること,長男及び長女がアルバイトをすることができない状況にあると認めるに足りる的確な資料がないこと,当事者双方の収入や扶養すべき未成熟子の人数その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,長男及び長女の教育にかかる学費等を算定表の幅を超えて考慮するのが相当とまではいうことはできない。

 申立人は,長男及び長女が奨学金の貸与を受けていることは,相手方の婚姻費用の分担義務を軽減させるべき事情とはならないと主張する。
 しかしながら,貸与とはいえ,これらの奨学金により長男及び長女の教育にかかる学費等が賄われていることは事実であり,しかも,これらの奨学金で賄われる部分については,基本的には,長男及び長女が,将来,奨学金の返済という形で負担するものであって,当事者双方が婚姻費用として分担するものではない(このことは,長男が相手方の別居を理由に奨学金の額を増額していたとしても,異なるものではない。)のであるから,奨学金の貸与の事実が,相手方の婚姻費用の分担義務を軽減させるべき事情にならないということはできない。

4 婚姻費用の分担額
(1)平成26年○月から同年○月まで並びに同年○月及び同年○月
 本件が,月額8~10万円の範囲内に位置付けられることを踏まえ,本件に顕れた一切の事情を考慮すると,相手方が申立人に対し支払うべき婚姻費用の額は,月額9万円とするのが相当である。

(2)平成26年○月から同年○月まで
 本件が,月額8~10万円の範囲内に位置付けられることを踏まえ,相手方の本件ローンの支払の関係で3万円を控除すべきことその他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,相手方が申立人に対し支払うべき婚姻費用の額は,月額6万円とするのが相当である。

(3)平成26年○月から平成27年○月まで
 本件が,月額8~10万円の範囲内に位置付けられることを踏まえ,相手方の本件ローンの支払の関係で1万円を控除すべきことその他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,相手方が申立人に対し支払うべき婚姻費用の額は,月額8万円とするのが相当である。

(4)平成27年○月以降
 本件が,月額10万円の境界線付近に位置付けられることを踏まえ,相手方の本件ローンの支払の関係で1万円を控除すべきことその他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,相手方が申立人に対し支払うべき婚姻費用の額は,月額9万円とするのが相当である。

5 過去の婚姻費用の支払
 平成26年○月から平成27年○月までの間の相手方の婚姻費用の額の合計額は,153万円(9万円×7か月+6万円×3か月+8万円×9か月)であるところ,上記第1の11で認定した事実によれば,相手方は,平成26年○月から平成27年○月までに,申立人に対し,94万8000円の婚姻費用の支払をしてきたのであるから,これを既払金として,平成26年○月から平成27年○月までの相手方の婚姻費用分担額から控除するのが相当である。

 なお,本件記録によれば,相手方が,平成26年○月,同居中に洗濯機等をクレジットカードで購入した関係で,債権回収会社に,5万3137円支払ったことが認められるが,この支払は,平成26年○月以降の申立人世帯の生活を支えるために行われたものというわけではないから,婚姻費用の支払と同視して,相手方の過去の婚姻費用分担額から控除することはしない。

 他方,申立人は,平成25年○月に,申立人が管理している相手方名義の預金口座から引き落とされた自動車保険料や相手方の携帯電話の解約料について,相手方が負担すべき費用であるとして,清算を求めているが,これらの費用について
 も,平成26年○月より前に引き落とされたものであることに照らし,清算の対象とはしない。
 そうすると,未払の婚姻費用は,58万2000円(153万円-94万8000円)となり,これについては一括で命じることとする。

6 結論
 以上検討したところによれば,相手方は,申立人に対し,平成26年○月から平成27年○月までの未払婚姻費用58万2000円を一括で支払うとともに,同年○月以降,月額9万円の婚姻費用を毎月末日限り支払うのが相当である。
 よって,主文のとおり審判する。
 (裁判官 齊藤敦) 
以上:5,442文字

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