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メールの遣り取りが不貞行為証拠なるかどうか判断した裁判例紹介3

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平成28年 5月27日(金):初稿
○「メールの遣り取りが不貞行為証拠なるかどうか判断した裁判例紹介2」の続きで、平成24年11月28日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)裁判所の判断部分全文を紹介します。メールの遣り取りについて、「これらは全体として,被告とAの不適切な交際を想起させるようなものであり,Aの妻であった原告が,被告とAの不貞関係を疑ったことは無理からぬものであるものの,これらを総合しても,現実に被告とAが性交渉を持ったと認めることは困難であり,不貞関係の存在を認めることはできない。」と被告Y女と原告の夫A男との性関係を認めませんでした。

○しかし、「被告がこれらのメールを送付したことは,原告らの婚姻生活の平穏を害するものとして社会的相当性を欠いた違法な行為であり,被告は,原告に対し,不法行為責任を負うものというべきである。」として、原告に対し30万円の慰謝料支払を命じています。別コンテンツで私なりに解説します。

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第3 争点に対する判断
1 争点(1)(不貞行為の存否)について

(1) 原告は,原告の主張①ないし③の事情を挙げて,Aと被告が平成21年頃から平成23年4月頃まで不貞関係を持ったと主張するのに対し,被告は,これを否定し,証人Aも,被告とは,メールのやり取りをしたり,二人で一緒に池袋駅から自宅まで歩いて帰ったり,喫茶店等で話をしたことがあるのみであり,不貞関係を持ったことはない旨供述する。

(2) そこで,原告のいう不貞関係の根拠のうち,まず,本件報告書の点(原告の主張①)について検討する。
ア 証拠(甲3,原告本人)によれば,原告は,平成22年12月頃,Aが被告を含む複数の女性との間でメールのやり取りをしており,浮気をしていると感じたため,平成23年1月,探偵社にAの行動調査を依頼したこと,探偵社は,同年3月8日から4月まで延べ20時間にわたり調査を行い,同月20日,本件報告書を作成して原告に提出したことが認められる。

 そして,証拠(甲3)によれば,探偵社社員は,平成23年3月8日,同月15日,同月29日,同月30日,同月31日及び同年4月1日にAの行動を監視したが特段不審な行動はなく,同年3月11日に被告の行動を監視したが特段不審な行動はなかったが,同年4月18日には,Aは,退社後の午後7時頃JR池袋駅北改札付近で被告と待ち合わせ,合流後,二人で腕を組んで歩き出し,午後7時16分頃,豊島区東池袋一丁目にある喫茶店に入店し,テーブル席に向かい合わせで座って飲み物を飲みながら会話し,午後8時2分頃,退店し,同3分頃二人で腕を組みわずかな間路上でキスを交わし,同4分頃から同33分頃まで腕を組むなどして歩き,同33分から3分程度同区上池袋三丁目の路上で立ち止まり会話した後別れたが,別れ際に二人は抱き合ってAが被告の額にキスをし,その後,Aは,歩いて原告ら自宅に帰り,被告は一人で近くにある居酒屋に入店して飲食し,飲食後歩いて被告の自宅に帰ったことが認められる。

イ 被告は,上記4月18日の行動について,脳腫瘍の術後後遺症と服薬のためバランスがとりづらく,Aに手を取ってもらったことはあるが,抱き合ったりキスを交わしたことはないと供述し(被告本人),証人Aもこれに沿った供述をする。しかし,二人はその日歩いている間相当の時間腕を組んで歩いていると認められること及び後で検討するメールの内容からして相当程度親密な関係にあると考えられることからすると,上記のとおり認定するのが相当であり,被告及びAの上記供述は採用することができない。

ウ 上記認定の4月18日の被告らの行動は,JRの駅で待ち合わせ,喫茶店で話をし,歩いて双方の自宅近くまで一緒に帰り,その間,二人で腕を組んで歩いたり,路上でわずかな間抱き合ってキスを交わし,別れ際にAが被告の額にキスをしたというもので,これらの行為は不貞行為を推認させるに十分なものとはいえない。そして,かえって,同日,二人はわざわざ待ち合わせていながら,喫茶店に入ったのみで,食事も一緒にしていないこと,また,探偵社が両者の行動を監視した他の日には特段不審な行動がなかったことからすると,本件報告書から被告らの不貞行為を認めることは困難である。

(2) 次に,被告が原告ら自宅に招かれていたという点(原告の主張②)について検討する。
 原告は,探偵社の調査員が,原告ら自宅のマンションのエントランスにいる被告を見たが,不倫相手と思わず,写真を撮らなかったところ,後日,被告の顔を確認した際,その人物が被告であることを確認したと供述・陳述する(甲6,原告本人)。
 しかし,被告がマンションのエントランスにいたことを裏付ける写真等の客観的資料はない上,後日エントランスにいた人物と被告が同一人物であったとする調査員の認識が正確であるかも判然としないのであって,原告の上記供述等は採用することができない。

 ところで,被告からAに宛てた平成23年2月22日付けメール(甲7の2)には「Aんちのロビーまでは行ったのよ」「花持ってね」との記載があり,このメールからすると,その頃,被告が原告ら自宅マンションのロビーまで行った可能性は認められる。しかし,これに続けて「今日は会えなくて良かったんだよ。家族が外出しててAんちでAに会ったら,多分心がしぼんだかもなぁ。私そんなに図々しくないつもりなの」とある(甲7の2)ことからすると,被告が上記ロビーまで行ってAに会おうとしたことがあったとしても,必ずしも,Aが事前に被告を招いたとはいえないし,家族が外出している状況で秘密に上記マンションを訪れる意図であったわけではない旨の記載があるのであり,これをもって,被告とAの不貞行為の証拠とすることはできない。
 そして,他に被告が原告ら自宅に招かれていたことを認めるに足りる証拠はない。

(3) 本件メールのやり取り(原告の主張③)について判断する。
ア 被告が作成してAに宛てた本件メールには,次のような表現がある。
(ア) 「大丈夫・・やだナ恥ずかしい、おやすみA チュ」(甲4の1)。

(イ) 「明日仕事納めでしょ?それに夜家に居ないとまた疑われるよ」(甲4の2)

(ウ) 「そんなんでも会いたいんだけどね」(甲4の3)

(エ) 「coffeeご馳走さま、もう少しだけギュウしてほしかったけれど,眠さには勝てないから」(甲4の4)

(オ) 「今週はA忙しい?いつ一緒に居られる?」(甲4の5)

(カ) 「HだねA、バイアグラはいらないよ,私Hじゃないもん」「お泊まりするの?お泊まりグッズ持って?出来たらスゴイね。そうしたいけど,なんだか色々心配だな。大人だからな。」(甲4の6)

(キ) 「違う(-_-)HはA。だよね、そっか,会社お休みしてねん?来週,出来るのかな?私は・・・うん,どこか休める」(甲4の7)

(ク) 「大好きな誕生日に一緒に居てくれてMOREありがとう」(甲4の8)

(ケ) 「今電卓を叩きながらAのこと考えてる」(甲4の9)

(コ) 「やっぱりAにそばに居てほしい」(甲4の10)

(サ) 「ボクが[パパはどうしてここ歩くんだろ?・・・]て不思議そうな顔をしてたよ」(甲4の11)

(シ) 「チュ」(甲4の12)

(ス) 「熱が38℃になってた、チュってしたから,よく消毒してね、Aに会えなくなった・・・逢いたい」(甲4の13)

(セ) 「逢いたい」(甲4の14)

(ソ) 「血まみれになるからギュウはできないよ、終わったらして」(甲4の15)

(タ) 「だって,どうしても気になってしまうんだもの・・・一番辛い日だし,スゴイの見られたくないし、わかって,お願い」(甲4の16)

(チ) 「ちゅ」(甲4の17)

(ツ) 「大好きだよ」(甲4の18)

(テ) 「Aとよからぬ計画話しした日の夜からダメ!って体が答えたらしい」(甲7の1)

 また,Aが被告に宛てた本件メールには,次のような表現がある。

(ト) 「夜逢いたいのに・・・お見舞いに来てくれる?」(甲5の1)

(ナ) 「お見舞いは?そばにいてくれればいい」(甲5の2)

(ニ) 「生理か。。。ちょっと早かったのかな。。。」(甲7の3)

(ヌ) 「え~今日こそいちゃいちゃしようと朝から楽しみにしていたのに。。。」(甲7の4)

(ネ) 「今日はYちゃんの身体から逢えて嬉しいっていっぱい出てて嬉しかったよ。イチャイチャしたいとも出てたけど」(甲7の5)

(ノ) 「逢いたいよぅ。この間みたいにいっぱいぶちゅぶちゅしてのんべんだらりと過ごしたいよぅ。」(甲7の6)

(ハ) 「でもYちゃんは俺のことすごく好きだよ。」(甲7の7)

(ヒ) 「帰るね。疲れた。おっぱい。」(甲7の8)

(フ) 「金曜日いちゃいちゃできる?」(甲7の9)

(ヘ) 「俺の彼女はYちゃんでYちゃんの彼氏は俺なんだから」(甲7の10)


イ これらのメールから被告とAとの不貞関係の存在を推認できるか検討する。
(ア) まず,被告が,Aと会いたい,一緒に居たい,一緒に居てくれて感謝する,Aのことを考えている,好きだなどという気持ちを伝えるかのようなメール表現(ア(ウ),(オ),(ク),(ケ),(コ),(セ),(ツ))については,これが仮想の話ではなく,実際に被告がAと会うことを前提としているものかどうかはともかくとして,仮にそうであるとしても,被告がAに好意を持っていて,会って一緒に居たいという感情を表現したものであって,これらの表現から性的な行為の存在までを推認することは困難である。また,メール表現ア(イ),(サ)は,Aの家族について言及したものであり,原告として不快な感情を抱くものとはいえるが,同様に性的な行為の存在を推認させるものではない。

(イ) 「チュ」という表現は,キスを連想させるものであるところ,メールの中での挨拶的なもの(ア(ア),(シ),(チ))と,現実に被告とAがキスをしたことを前提とするかのようなもの(ア(ス))があるが,いずれにせよ,性交渉の存在までを推認させるものではない。

(ウ) 「ギュウ」という表現を用いたもの(ア(エ),(ソ))は,言葉自体としては男性が女性を抱きしめる様子を連想させるものであり,性的行為の存在を想起させないではないが,それ自体ではあいまいな表現というよりほかない。このうちア(エ)は喫茶店に行った後のやり取りと受け取るのが自然であり,性交渉の存在を推認することは困難である。ア(ソ)については,「血まみれ」というのが,生理中の性交渉を想像させる余地のある表現ではあるが,内容があいまいな部分が残る上,文脈としては,生理中に性交渉を持ったというよりも,やんわりとこれを断った表現であり,これをもって被告がAと性交渉を持ったことの確かな根拠とすることはできない。メールア(タ)も同様であり,生理中の状況をAに見られたくないという内容に受け取ることができるが,内容があいまいである上,文脈としては,むしろAの要求を断るようなものである。

(エ) 被告がAと宿泊することを話題としているかのような表現(ア(カ))及び勤務先を休む計画等を話題としているかのような表現(ア(キ),(テ))は,「H」という表現が使われている箇所もあり,被告とAの密会を暗示するようなものではあるが,これらのメールの記載から現にそのような計画が実行されたとまで断定することはできず,これから被告とAの性交渉の存在を確かに認定することはできない。

(オ) Aが被告に宛てたメール(ア(ト)ないし(ヘ))には,「いちゃいちゃ」「ぶちゅぶちゅ」など被告とAの不適切な関係を暗示するかのようなものがあるが,これらも,上記「ギュウ」などの表現と同様,その内容はあいまいであり,Aと被告との性交渉の存在を認める確かな証拠とまではいえない。

(カ) 本件メールの個々の検討は上記のとおりであるが,これらは全体として,被告とAの不適切な交際を想起させるようなものであり,Aの妻であった原告が,被告とAの不貞関係を疑ったことは無理からぬものであるものの,これらを総合しても,現実に被告とAが性交渉を持ったと認めることは困難であり,不貞関係の存在を認めることはできない。

(4) そして,その他の証拠を総合しても,被告とAの不貞関係を明確に認定することはできない

2 争点(2)(不貞行為が認定できない場合の不法行為の存否)について
(1) 原告が争点(1)で主張する事情①(本件報告書に記載された行動)は,それ自体では,直ちに原告らの婚姻生活の平穏を害するものとまではいえないし,同②(被告が原告ら自宅に招かれていたこと)については,そのような事実自体を明確に認定できないことは,上記1のとおりである。

 しかし,上記1(3)ア(ア)ないし(テ)のような表現を含むメールを送ることについては,このようなメールは,性交渉の存在自体を直接推認するものではないものの,被告がAに好意を抱いており,原告が知らないまま被告とAが会っていることを示唆するばかりか,被告とAが身体的な接触を持っているような印象を与えるものであり,これを原告が読んだ場合,原告らの婚姻生活の平穏を害するようなものというべきである。

 そして,これらのメールは,AのIDとパスワードを知っていればヤフーのブラウザで閲覧できるものであるところ(証人A),Aの妻である原告が上記ID等を知っていることは想定できるのであり,現に原告はこれを閲覧しており,被告としては,これが原告に読まれる可能性がある状況下で,このようなメールを送付したものと認められる。

 そうすると,被告がこれらのメールを送付したことは,原告らの婚姻生活の平穏を害するものとして社会的相当性を欠いた違法な行為であり,被告は,原告に対し,不法行為責任を負うものというべきである。

(2) これに対し,被告は,メール中にある「ギュウ」という表現は,Aが手かざしで痛みを和らげる能力があると言っており,その手当てのことをいうものであり,上記1(3)ア(ソ),(タ)のような表現(甲4の15,同16)なども,生理中に手当てをしてもらうのは嫌だということを述べたものにすぎないと供述する(被告本人)。しかし,これらのメールの文面をみても,手かざしないし手当ての効果等についての記載は全くなく,かえって,他のメールには「HはA」などAが性的な関心を持っていることを示す記載があるのであって,被告の上記供述は採用することができない。

3 争点(3)(損害)について
(1) 被告がAに送付したメールの内容その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告の上記不法行為によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料額は,30万円とするのが相当である。

(2) 被告は,本件調停において解決金の支払債務が認められ,慰謝料300万円が支払済みであることが認められたのであるから,原告の被告に対する慰謝料請求を認めることはできない旨主張する。

 しかし,上記で認定した損害は,被告がAに宛ててメールを送付した行為によって原告が被った損害であるところ,本件調停で認められた慰謝料債務は婚姻関係を破綻させたAの行為についてのものであり,解決金債務もAが原告に対し婚姻生活に起因して負った債務の清算という趣旨のものであるから,Aがこれらの債務を支払ったこと又は債務を認めたことにより,当然に原告の損害が填補されるなどして,被告の債務が消滅するという関係にはない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

第4 結論
 以上によれば,原告の請求は,主文第1項の支払を求める限度で理由がある。
 なお,上記のとおり本件調停が成立していること等を考慮すると,仮執行宣言は,必要性に疑問があり,相当でないから,これを付さない。
 (裁判官 太田晃詳)
以上:6,512文字

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