平成27年10月 6日(火):初稿 |
○「未成熟子の家裁調査官調査実施後有責配偶者離婚を認めた裁判例紹介1」を続けます。 ******************************************* 第3 当裁判所の判断 1 判断の大要 当裁判所は,控訴人と被控訴人の婚姻が控訴人の不貞行為によって破綻し婚姻を継続し難い重大な事由があると認められるところ,当分の間別居生活を続ける旨の調停が成立した後約13年の別居期間が経過しようとしており,子らはいずれも高校生に成長し,当審における家庭裁判所調査官の事実調査の結果からも経済的な面を別とすれば離婚によって大きな影響を受ける可能性は低いこと,これを踏まえて当審で合意された一部和解において,控訴人が離婚慰謝料150万円及び二男の大学進学費用150万円の各支払を約束し債務名義が作成されていることなどの事情をも考慮すれば,現時点においては,破綻の経緯やその後の事情等を十分考えに入れたとしても有責配偶者である控訴人の本件離婚請求を信義誠実の原則に反するものとして棄却すべき理由はないものと判断する。 2 離婚請求の当否について (1) 認定事実 当裁判所の認定する事実は,当審における訴訟経過,主張立証及び弁論の全趣旨をも踏まえ,次のとおり補正又は補足するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第4 判断」1(1),(2)記載のとおりであるから,これを引用する。 ア 婚姻後の同居及び別居の期間 原判決6頁2ないし4行目の「原・被告が同居していた期間(家庭内別居期間を含む)が約10年であるのに対し,その別居期間は,平成6年5月から現在(本件口頭弁論終結時)まで12年以上に及んでいる。」を次のとおり改める。 「昭和61年2月の婚姻後,平成6年5月の別居までの間の控訴人と被控訴人の同居期間は,約8年間(そのうちいわゆる家庭内別居の期間が約2年間)であるのに対し,別居後の平成6年7月14日に成立した調停で当分の間別居生活を続けることとされた後の調停に基づく別居期間は,当審における本件口頭弁論終結時までで約13年間に及ぼうとしている。」 イ 長男の生活状況 6頁8行目から同10行目の「しかし,長男は,最近,夜中に電話で呼び出されて出ていき,朝まで帰ってこないなど,素行に問題が生じてきている。」を次のとおり改める。 「長男は,中学卒業後から,新聞配達などのアルバイトを続けている。アルバイトや趣味の音楽活動のため,家にいる時間が少なく,母(被控訴人)や弟と家で話をしたり一緒に外出したりすることも少ない。しかし,推薦入学で大学の経済学部に合格しており,高校卒業後は,大学に進学し,大学近くの寮で生活する予定で,ほぼ自立できる状況になっている(調査結果の報告)。」 ウ 二男の生活状況 6頁下から12行目の文末に次のとおり加える。 「二男は,幼時から控訴人と別れており,父親に親和する気持ちはない。父母の離婚についても関心はなく,特に心配していることはない。高校卒業後は大学への進学を希望しているが,長男はその場合の経済面を心配している(調査結果の報告)。」 エ 子らの持病による生活の支障の有無 6頁下から9行目の「通院が必要である。」の後に次のとおり加える。 「しかし,子らがいずれも高校生となった現在では,子らの持病である喘息やアレルギー等の症状も軽くなっており,持病やそのための通院治療などにより,日常生活や学校生活に支障が生じているようなことはない(甲17の1〜5,18,20,乙10〜12,18〜20,調査結果の報告)。」 オ 家庭に父親がいないことが子らに及ぼす不利益 6頁下から7ないし9行目の「また,子らは,家庭に父親が不在であることから,学校の先生や同級生から不利益な扱いを受けることもある様子で,被告にとって心配の種となっている。」を次のとおり改める。 「子らは,平成14年に大阪に転居してから,父親である控訴人との間で連絡をとることもなくなった。長男は,離婚した場合,控訴人が子らに対する経済的責任を果たしてくれないのではないか,あるいは,将来就職に際して不利になるかもしれないという不安を持っている。二男は,物心ついた頃には既に父親が家にいなかったこともあり,日常生活上,父親の存在をあまり意識せずに育ってきている。夫婦の別居による経済的な問題は別として,家庭に父親がいないことによって子らの日常生活や学校生活に直接の不利益が生じていることについては,長男についてこれを推測し心配している旨の被控訴人本人の供述はあるが,不利益が生じた具体的な事実を述べるものではない。被控訴人の供述によっても,ほぼ自立し大学に推薦入学予定という長男のしっかりした生活状況からみても,直接かつ具体的な不利益が生じているとまでは認めるに足りず,他にそのような不利益を裏付けるに足る的確な証拠はない。」 カ 被控訴人の家賃支払の状況 6頁下から3行目の文末に次のとおり加える。 「被控訴人と子らは,平成14年4月から,被控訴人の実家の近くである大阪市都島区において,家賃月額10万円の借家を借りて住んでいる(乙4の4頁,乙9,14の1〜6,15,16,被控訴人本人)。」 キ 婚姻費用の支払状況 7頁9行目の文末に次のとおり加える。 「婚姻費用の支払が遅れた原因は,控訴人が江崎グリコ株式会社に勤務していた時に成立した調停で,平成6年7月から別居期間中,毎月20万円(毎年6月と12月に各18万円を加算)の婚姻費用を分担することを約束したものの,これが転職による収入低下によって困難になったことにもある。婚姻費用の支払が遅れていた平成13年をみても,控訴人の年間所得(支給総額)432万7772円に対し,同年中の婚姻費用支払額は256万円となり,年間に分担すべき額276万円を20万円下回っているが,所得の59.2%の婚姻費用を支払っている。平成14年をみても,年間支払額205万円であり,同年の年間所得623万4950円に対する割合は32.9%となる。平成16年6月の婚姻費用減額審判(甲13)においては,平成14年11月分以降の婚姻費用を月額11万7000円,平成16年4月分以降の婚姻費用を月額12万6000円に減額しており,控訴人は,平成15年6月以降は,現在まで,調停及び審判によって定まったこの婚姻費用を遅れることなく支払っている。(甲13,19)」 ク 子らの医療費 7頁11,12行目の全文を次のとおり改める。 「子らの医療費(健康保険の自己負担分)は,平成17年4月から平成18年3月までの1年間をみると年間で6万円程度となっている(甲18)。ほかに,高額の医療費が必要になると見込まれる具体的な見通しが現に存在しているものではない。」 ケ 慰謝料及び二男の大学入学のための養育費の支払約束 7頁下から11行目の文末に次のとおり加える。 「控訴人は,当審において成立した一部和解において,離婚慰謝料150万円と二男が大学に入学する場合の養育費150万円(毎月払いの養育費とは別)の支払を約束し,債務名義を作成した。この約束は,被控訴人の控訴人に対する訴訟,審判手続におけるその余の請求及び申立てを制限しないことを前提としてされたものである。したがって,被控訴人が上記の支払を超える慰謝料や財産分与の支払を求めることは,その当否は訴訟や審判で判断されるとはいえ,訴えや申立て自体は上記の一部和解の合意によって妨げられるものではない。」 (2) 婚姻を継続し難い重大な事由の有無 前記第2の1の前提たる事実及び原判決を補正・補足し引用して示した上記(1)の認定事実によれば,二男の出生直後である平成2年9月からの控訴人の丙山との間の継続的な不貞行為,平成4年頃からの家庭内別居,その後平成6年5月3日から現在まで続く別居生活(同年7月別居調停成立),別居後の平成11年7月からの控訴人と丙山の同居の継続により,別居から約13年,家庭内別居からは約15年を経過した現時点においては,控訴人と被控訴人との間の婚姻関係は,回復が全く不可能な程度に破綻しており,民法770条1項5号に定める離婚事由である婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる。 被控訴人は,控訴人にその気持ちがあるのなら,再び親子4人で生活をしてもよいと思っているというが,控訴人は,被控訴人との夫婦共同生活を再び始める意思を全く持っていない。そして,長期間別居し,別居後,控訴人は丙山と同居し夫婦同然の内縁関係を続け,その間,調停,審判,訴訟等により争いを重ねてきた今日までの夫婦関係の経過ないし推移をみれば,被控訴人が述べる思いだけでは,夫婦共同生活を再び営むことが可能であるとは,客観的には到底認められない。 (3) 控訴人の離婚請求が信義誠実の原則に反して許されないか否か 上記認定判断によれば,婚姻を継続し難い重大な事由が生じた主たる責任は,二男出生直後から丙山との不貞関係を継続し,別居後,実質的な内縁関係を結ぶまでに至った控訴人にあることは明らかである。そして,控訴人と被控訴人との間には,18歳の長男と16歳の二男の2人の未成熟の子がいる。 しかし,以下の事情に照らせば,控訴人が有責配偶者であり,未成熟の子があるからといって,控訴人の離婚請求を信義誠実の原則に反するものとして棄却すべきものとは認められないというべきである。 すなわち,未成熟の子があるといっても,長男は間もなく大学進学をして寮生活を始める予定であり,ほぼ自立する状況になっており,家庭裁判所調査官の調査によっても両親の離婚によって心情的な影響を受ける可能性は極めて少ないと判断される。長男は,離婚により控訴人が父親としての経済的責任を果たさなくなるのではないか,就職に不利になるのではないかなど,漠然とした不安を持ってはいるが,いずれも具体的なものではない。むしろ,控訴人は,婚姻費用減額審判がされた後は,月額12万6000円の婚姻費用を遅れずに支払っており,本件訴訟においても,1人当たり毎月5万円の養育費の支払の申出をしているほか,当審における一部和解において,離婚慰謝料150万円のほかに,二男の大学進学費用150万円の支払を約束し,債務名義を作成している。このような事実及び現在の控訴人の社会的な立場からみても,離婚したからといって控訴人が父親としての経済的責任を果たさなくなると予想するのは相当でない。 二男は,既に3歳の時から控訴人と別居しており,控訴人に親和する気持ちはない。もっとも,家庭裁判所調査官の調査によると二男はかなり屈折した形ではあるが控訴人との関係を求めている可能性はある。しかし,父母の離婚には関心はなく,離婚後のことについても特に心配していない。現在は,高校2年に進学し,熱心に部活動に加わり,大学進学への意欲を示すなどしており,上記において検討した経済的な点はともかくとして,離婚によって二男が心情面で影響を受ける可能性は低いと判断される。 子らの持病も,現在の症状及び通院状況は,日常生活や学校生活に支障を生じるほどのものではない。医療費の支出額も年間6万円程度にすぎず,将来において,高額の医療費が必要になることが具体的に見込まれているものでもない。被控訴人の生活状況についてみても,不安定なパート勤務とはいえ,大阪への転居後既に約5年間勤続しており,養育費の支払なども考慮すれば,子らの成人に至るまでの生活を支えていくことができると認められ,離婚により精神的,社会的,経済的に極めて過酷な状況に追い込まれる事情は認められない。被控訴人は,パート勤務の不安定なことを主張するが,パート勤務が一般的に不安定な職種であるという程度を超えて,具体的に職業の継続や将来の生活に不安があるとまでは認められない。 このように,当分の間別居生活を続ける旨の調停が成立した後約13年の別居期間が既に経過しようとしており,別居後,控訴人が丙山との間で既に約8年,内縁関係ともいえる同居を続けているのに対し,婚姻後の同居期間は約8年(約2年の家庭内別居の期間を含む。)にとどまり,控訴人と被控訴人はともに46歳に達し,子らも高校生になっていることなどからすると,婚姻関係を破綻させた控訴人の責任及びこれによって被控訴人が被った精神的苦痛や前件離婚訴訟で詳細に認定されている生活の苦労などの諸事情や,さらには前件離婚訴訟の確定後の期間等の点を考慮しても,今日においては,被控訴人の婚姻継続の意思及び離婚による精神的・経済的・社会的影響などを重視して,控訴人の離婚請求を信義誠実に反するものとして棄却するのは相当でない。 被控訴人が今日までに受けた精神的苦痛,子らの養育に尽くした労力と負担,離婚により被る精神的・経済的不利益などについては,慰謝料等の支払や前記のように特別に加算された養育費の支払などを通じて補償されるべきものであって,そのために本件離婚請求自体を容認できないものということはできない。 3 親権者の指定について 子らの親権者の指定については,被控訴人を親権者として指定すべきことについて両親間において意見が一致している。被控訴人の監護実績や当審における家庭裁判所調査官による事実調査の結果によってうかがわれる子らの親権者指定についての真意等からしても,子らの親権者は,被控訴人と定めるのが相当である。 4 養育費について 控訴人と被控訴人の収入,子らの年齢・生活状況,婚姻費用の分担額が審判により月額12万6000円と定められていること,控訴人が1人当たり月額5万円の養育費の支払の申出をしていること,そして,これとは別に二男の大学進学費用として150万円の養育費を毎月の養育費に加えて控訴人が被控訴人に対して支払う旨の債務名義が成立していることなどの事実を考慮すれば,控訴人が被控訴人に対して支払う子らの月々の養育費は,本判決が確定した日から子らがそれぞれ満20歳に達する月まで,1人当たり月額5万円とするのが相当である。 5 結論 以上によれば,現時点においては,控訴人の離婚請求は認容すべきものである。 よって,本件控訴は理由があるから,控訴人の離婚請求を棄却した原判決を取り消してこれを認容し,子らの親権者を被控訴人と定め,控訴人に対し上記養育費の支払を命ずることとし,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 小田耕治 裁判官 富川照雄 裁判官 小林久起) 以上:5,926文字
|