平成27年 7月23日(木):初稿 |
○「不貞行為相手慰謝料500万円支払認容平成21年3月27日大阪家裁判決理由紹介」の続きでその控訴審である平成21年11月10日大阪高裁判決(家月62巻10号67頁)の主文と理由全文を紹介します。 ○一審平成21年3月27日大阪家裁判決(家月62巻10号83頁)では、夫の不倫行為相手方に対し500万円もの慰謝料支払を命じましたが、控訴審大阪高裁では、夫からの離婚請求が棄却されるべきものであり,法律上の婚姻関係は今後も継続していくこと等,本件における一切の事情を考慮すると,上記共同不法行為による妻の精神的苦痛に対する慰謝料としては,150万円をもって相当と認められるとして、500万円が3分の1以下の150万円に減じています。 ○なお、当事者の表示が、一審では妻がB、認知無効対象長男がCでしたが、控訴審では妻がC、認知無効対象長男がBと入れ替わっています。一審では認められなかった長男に対する認知無効の確認請求が控訴審では認められています。 *********************************************** 主 文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 控訴人Aの被控訴人Cに対する請求をいずれも棄却する。 3 控訴人Aの大阪府a市長に対する平成14年×月×日付け届出による被控訴人Bに対する認知が無効であることを確認する。 4 控訴人らは,被控訴人Cに対し,連帯して150万円及びこれに対する平成19年×月×日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被控訴人Cのその余の請求をいずれも棄却する。 6 被控訴人Bの控訴人Aに対する請求を棄却する。 7 訴訟費用は,第1,2審を通じ,控訴人Aと被控訴人Cとの間においては,控訴人Aに生じた費用の6分の1を被控訴人Cの負担とし,被控訴人Cに生じた費用の3分の1を控訴人Aの負担とし,その余は各自の負担とし,控訴人Dと被控訴人Cとの間においては,控訴人Dに生じた費用の20分の19を被控訴人Cの負担とし,被控訴人Cに生じた費用の30分の1を控訴人Dの負担とし,その余は各自の負担とし,控訴人Aと被控訴人Bとの間においては,控訴人Aに生じた費用の3分の1を被控訴人Bの負担とし,その余は各自の負担とする。 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 (1) 証拠(甲1,5,7の1,2,甲17の1ないし3,乙A2,8ないし10,11の1ないし7,乙A15ないし18,37ないし40,44の1ないし8,乙A45,乙B1,丙1,3,4,証人F,控訴人A本人,被控訴人C本人,控訴人D本人〔これらの人証はいずれも原審におけるものである。以下同じ。〕)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア 控訴人Aと被控訴人Cは,平成10年春ころ被控訴人Cがホステスとして勤務していた○○のクラブに控訴人Aが客として訪れたことから出会い,それから半年程したころ,大阪府a市にあるA宅で初めて肉体関係を持ち,その後,被控訴人CがA宅をしばしば訪れるようになって交際を深めていった。 控訴人Aは,平成12年×月には被控訴人Cと被控訴人Bを連れて遊園地に出かけたり,A宅で被控訴人Bの誕生祝いをしており,また,平成13年×月にはA宅で被控訴人Bを交えて被控訴人Cの誕生祝いをしたことがあった。 被控訴人Cは,平成14年×月×日ころ,控訴人Aの子(戸籍上は両者の間の二男であるE)を懐妊したことに気付いた。控訴人A,被控訴人C及び被控訴人Bは,同月×日ころから同年×月×日ころまで,○○○に旅行した。 控訴人Aは,平成14年×月×日,a市役所において,被控訴人Cとの婚姻及び被控訴人Bを認知する旨の届出をした。この認知の届出は,控訴人Aが,被控訴人Cとの婚姻に伴い,被控訴人Cの子である被控訴人Bを家族の一員として養育していく意思でなされたものであった。 控訴人Aは婚姻後もA宅で一人暮らしを続け,被控訴人C及び被控訴人Bは□□のC宅で暮らしながら,A宅に通うという生活となった。控訴人Aは,被控訴人Cに対し,毎月の婚姻費用として,50万円程度を渡すようになった。 被控訴人Cは,平成14年×月×日,二男Eを出産したが,その数日前にはA宅で被控訴人Bの誕生祝いを行った。 イ 控訴人D(昭和44年×月×日生)は,平成12年ころ,被控訴人Cが勤務していた○○のクラブに入店し,控訴人A及び被控訴人Cと面識を持つようになった。 控訴人Aと控訴人Dは,平成14年×月×日から同月×日ころまで○○○に旅行し,その際に肉体関係を持ち,両者の交際が始まった。両者は,平成15年×月,平成16年×月,同年×月,同年×月,平成17年×月及び同年×月にも一緒に海外旅行をした。控訴人Dは,上記交際中,遅くとも平成15年秋ころには,控訴人Aには,被控訴人Cという妻があることを明確に認識した。 この間,控訴人Aは,平成14年×月にA宅において控訴人A,被控訴人C,被控訴人B及び二男Eの家族4人でクリスマスパーティーをし,平成15年×月×日には被控訴人Cと二人で大阪のbホテルに宿泊し,同年×月×日から同月×日ころまで家族4人で○○○に旅行し,同年×月×日にはA宅において家族で二男Eの誕生祝いをし,同年×月には家族でクリスマスパーティーをし,平成16年×月には被控訴人Bの誕生祝いをし,同年×月には被控訴人Cの誕生祝いやクリスマスパーティーをし,平成17年×月には家族で△□に泊まりがけで遊びに行くなどした。 ウ 被控訴人Cは,平成17年×月ころ,控訴人Aが当時控訴人Dの住んでいた○□のマンションに出入りしていることを知り,両名が交際しているのではないかと疑うようになったが,両名が関係を否定したことから確証を得られなかった。ただ,被控訴人Cは,同年×月ころ,控訴人Dの勤務先に複数回電話をかけたり,控訴人Dの自宅マンションを訪問して同人を詰問し,同人が警察官を呼んだこともあった。 控訴人Aは,調査会社に依頼して被控訴人Cの身辺を調査していたところ,平成18年×月×日から×日にかけてFがC宅に宿泊したことを知った。 エ 控訴人Aは,大阪家庭裁判所に夫婦関係調整調停事件(平成18年(家イ)第××号)を申し立てたが,平成19年×月×日,同調停は不成立となった。なお,被控訴人Cは,同調停において,調停委員から離婚に応じる場合の条件を尋ねられ,取得を希望する不動産の折り込みチラシを裁判所に持参したほか,養育費として9000万円を一括で支払うことを求める旨の回答をした。 控訴人Dは,同月中旬ころ,○□のマンションから現住所地のマンションに転居したが,被控訴人Cは,同月×日ころの深夜,控訴人Aが転居先マンションから出てきた現場を押さえ,控訴人Aと諍いになった。このため,控訴人Dは,c署の警察官を呼んだ。被控訴人Cは,この諍いの際に控訴人Aから暴行を受けたとしてc署に被害届を提出した。 控訴人Aは,同年×月×日,被控訴人Cを相手方として大阪地方裁判所に面談強要禁止仮処分命令の申立てをしたが(平成19年(ヨ)第×××号),同月×日,同事件の審尋期日において,被控訴人Cが,その代理人弁護士を通じてする以外は,控訴人Aに直接接触しないことを約束したため,控訴人Aは同申立てを取り下げた。 (2) 控訴人らは,被控訴人CがFと肉体関係を持った旨主張する。 証拠(甲7の1,2,甲29,証人F,当審証人G,被控訴人C本人)によれば,被控訴人Cが,Fの××を訪問し,平成18年×月×日から×日にかけ,Fと深夜まで飲食を共にした後,Fの運転する自動車でC宅まで送ってもらい,FをC宅に泊めたこと,上記自動車の駐車場所からC宅へ向かう途中,酩酊していたFが被控訴人Cの肩を抱いたことがあったこと,上記訪問の何日か後にも,FがC宅を訪問したことがあったことが認められる。これらの状況からすると,控訴人らが,被控訴人CとFに男女関係があると主張することも理解できなくはない。 しかしながら,証拠(証人F,当審証人G,被控訴人C本人)によれば,Fと被控訴人Cは,Fの後輩と被控訴人Cの兄が友人であったことから10年以上前からの知人であったこと,平成18年×月×日の深夜に被控訴人CがFを伴って帰宅した際,C宅には,被控訴人Cから依頼されて被控訴人B及びEの世話をしていたG(被控訴人Cの母)がいたこと,Gは,飲酒により酩酊していたFをそのまま帰宅させると飲酒運転をさせることになってしまうため,Fに対してC宅に泊まっていくよう勧めたこと,Fは子供部屋で,被控訴人C,G及び子らは別の和室で別々に就寝したことが認められ,上記認定に反する証拠はない。そして,これらの認定事実によれば,Fと被控訴人Cとが深夜まで飲食を共にして,Fが被控訴人Cを自宅まで送り届け,その際に被控訴人Cの肩を抱いたという行動があったからといって,直ちに両者が男女関係にあったとまで推認することはできず,まして,同日に被控訴人CがFと肉体関係を持ったことを認めるに足りないというべきである。 なお,控訴人Aは,被控訴人Cの不貞の証拠として,甲8(平成18年×月に被控訴人Cがピルを飲んでいた旨の会話の録音),甲12(被控訴人Cの自動車の位置情報)を提出するが,ピルを飲んでいたことや被控訴人Cが自動車でFの自宅付近等を通行したことが直ちにFとの肉体関係を推認させるものということはできない。また,甲34,38(同年×月×日に被控訴人CがFの××近くの飲食店前に自動車を駐車していた写真)も,直ちに被控訴人CとFとが男女交際していたことを推認させるものではない。 また,被控訴人Cは,甲7が違法収集証拠であるから排除されるべきである旨主張するが,調査会社に依頼して行動を調査することが著しく反社会的な手段であるということはできず,被控訴人Cの上記主張は採用することができない。 2 控訴人Aの離婚請求及び慰謝料請求(第1事件)について (1) 上記のとおり,被控訴人Cに不貞な行為があったとは認められないから,民法770条1項1号に基づく控訴人Aの離婚請求は理由がない。 (2) 控訴人Aは,被控訴人Cとの婚姻関係は,被控訴人Cの浪費癖,嫉妬心,暴力及び暴言等によって平成14年夏前ころには完全に破綻するに至った旨主張し,控訴人A本人も同旨の供述をする。 しかしながら,被控訴人Cが控訴人らの男女関係を疑い出した平成17年×月より前の時点における被控訴人Cの暴力及び暴言等の事実を認めるに足りる的確な証拠はないし(甲28も,それ自体から衣服等の損壊時期や損壊行為の主体を示す証拠ではない。),上記1の認定事実によれば,控訴人Aは,平成14年×月×日の婚姻後も被控訴人C,被控訴人B及びFと同居したことはなかったものの,夫・父として毎月婚姻費用を50万円程度負担し,平成17年×月に至るまでの3年以上にわたって度々被控訴人Cや子らの誕生祝いや家族旅行等の交流を重ねていたのであるから,実質的な婚姻共同生活が営まれていたというべきである(したがって,仮に現時点から振り返って控訴人Aが被控訴人Cの平成17年×月より前の過去の言動に不満を有することがあったとしても,婚姻関係を破綻させるほどのものではなかったと評価せざるを得ない。)。 そして,上記1の認定事実によれば,同月以降,被控訴人Cが,控訴人らの男女関係について疑いを深めていったことによって被控訴人Cと控訴人Aの婚姻関係が円満を欠く状態になっていったことは明らかであるが,控訴人らの男女関係がそれより3年前の平成14年×月から継続していたものであることからすれば,婚姻関係が上記のように円満を欠く状態になった責任は,もっぱら控訴人Dとの交際をした控訴人Aにあるというべきである。 (3) 離婚請求は,信義誠実の原則に照らしても容認されうるものでなければならないが,別居が年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び,未成熟子が存在しない場合には,相手方配偶者が離婚により極めて過酷な状態に置かれる等著しく社会正義に反する特段の事情がない限り,有責配偶者からの離婚請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない(最高裁昭和62年9月2日大法廷判決・民集41巻6号1423頁参照)。 これを本件についてみると,控訴人Aと被控訴人Cの婚姻関係は,当初から同居を伴わないものであったものの,平成17年×月ころまでは順調なものであったのであり,その後円満を欠く状態になってから現時点までの期間は4年程度にすぎないし,両者の間の実子であるEが現在7歳にすぎないことを考慮すると,自ら不貞行為をした控訴人Aが,現時点において被控訴人Cに対して離婚を求めることは,信義誠実の原則に照らして容認されないというべきであり,控訴人Aの民法770条1項5号に基づく離婚請求も理由がない。 したがって,控訴人Aの離婚請求及び離婚に伴う慰謝料の請求はいずれも理由がない。 3 被控訴人Cの慰謝料請求(第3事件)について (1) 上記1の認定事実のとおり,控訴人らは,平成14年×月以降,少なくとも平成17年×月ころまでの3年近くにわたって男女関係を継続し,控訴人Dにおいても遅くとも平成15年秋ころには,控訴人Aに被控訴人Cという妻があることを知っていたのであるから,その後も控訴人Aとの男女関係を継続したことは,被控訴人Cの婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を違法に侵害した共同不法行為を構成するというべきである。 (2) そして,上記認定の平成17年×月までの被控訴人Cと控訴人Aの婚姻関係の状況及びそれより後の婚姻関係の悪化の状況に,上記判示のとおり控訴人Aからの離婚請求が棄却されるべきものであり,法律上の婚姻関係は今後も継続していくこと等,本件における一切の事情を考慮すると,上記共同不法行為による被控訴人Cの精神的苦痛に対する慰謝料としては,150万円をもって相当と認められる。 したがって,被控訴人Cは,控訴人らに対し,連帯して慰謝料150万円及びこれに対する反訴状送達の日の後の日である平成19年×月×日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 4 控訴人Aの認知無効確認請求(第2事件)について (1) 前提事実及び上記1の認定事実によれば,控訴人Aと被控訴人Bとの間には,血縁上の父子関係がないにもかかわらず,控訴人Aは,被控訴人Cとの婚姻に伴い,同人の子であった被控訴人Bの父として養育する意思で認知をしたということができる。 (2) 上記のような認知(不実認知)の無効を認知者自身が主張することができるかについては,認知者自身による認知の取消しを否定する民法785条との関係で,これを消極に解する見解もあり得るところである。 しかしながら,認知が,血縁上の父子関係の存在を確認し,その父子関係を法律上の実親子関係にするための制度であり,同法786条が,子その他の利害関係人が,認知に対して反対の事実を主張すること(不実認知の無効確認を求めること)ができる旨規定することからすれば,認知者自身も不実認知の無効を主張することができると解するのが相当である。そして,このことは,上記認知が母との婚姻に伴って子を養育する意思でなされたものであり,認知者と母との法律上の婚姻関係が継続しているといった事情があっても同様である(ただし,このような事情が,認知者が被認知者の母である妻に対して負担するべき婚姻費用の金額の算定において,民法760条の「その他一切の事情」として考慮されるかどうかは別の問題であり,認知者が認知の際に自分の子として養育する意思を有していた以上,婚姻費用の増額事由として考慮されるべきであると解される。)。 (3) したがって,控訴人Aは,被控訴人Bに対し,認知の無効確認請求をすることができる。 5 被控訴人Bの損害賠償請求(第4事件)について (1) 控訴人Aは,被控訴人Bの損害賠償請求は,本訴である認知無効確認請求の請求原因事実と関連性がなく,不適法であると主張する。 しかしながら,上記反訴請求は,本訴である認知無効確認が認容されて控訴人Aと被控訴人Bとの間の実親子関係が否定されることを請求原因事実としているのであるから,本訴の目的である請求と関連するものであると解するのが相当である。 (2) そこで,上記損害賠償請求が認められるかを検討すると,仮に認知の際に認知者が子として養育していく意思を有していたとしても,本来無効である不実認知について無効確認を求めることが違法な行為ということはできないし,上記判断のとおり,仮に認知が無効であることが確認されたとしても,婚姻に伴って養育する意思で認知がなされた事実は,認知者が被認知者の母である妻に対して負担するべき婚姻費用(夫婦間に未成熟子がある場合には当然にその養育費を含むものとして算定される。)を算定する際に増額事由として考慮されるべき場合があると解されるから,認知が無効とされることによって養育費相当額の逸失利益が生じるとの主張は採用できない。 (3) したがって,被控訴人Bの控訴人Aに対する損害賠償請求は理由がない。 6 結論 以上の次第で,第1事件及び第4事件の請求はいずれも棄却すべきであり,第2事件の請求は認容すべきであり,第3事件の請求は控訴人らに対して連帯して慰謝料150万円及びこれに対する反訴状送達の日の後の日である平成19年×月×日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容するべきである。 よって,当裁判所の上記判断と一部異なる原判決を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 安原清藏 裁判官 坂倉充信 和田健) 以上:7,312文字
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