平成19年 6月28日(木):初稿 |
○男女は結婚すると民法第752条「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」により同居、協力及び扶助の義務を負います。婚姻は、夫婦の精神的・肉体的・経済的結合であることから、夫婦が同居し、協力し、扶助することが婚姻の本質的義務とされています。 ○このうち同居について紛争が生じた場合、家事審判法の次の規定で家庭裁判所に同居審判の申立が出来ます。 第9条 家庭裁判所は、次に掲げる事項について審判を行う。 乙類 1.民法第752条の規定による夫婦の同居その他の夫婦間の協力扶助に関する処分 ○夫婦の同居に関する審判は夫婦同居義務の実体的権利義務自体を確定する趣旨のものではなく、これらの実体的権利義務があることを当然の前提として、その同居の時期・場所・態様などについての具体的内容を定める形成処分と解されています(昭和40年6月30日最高裁決定)。 ○そこで相手が嫌になって別居した夫或いは妻に対して、家庭裁判所に同居を命ずる審判の申立が結構なされ婚姻の維持継続の見込みがあること、同居を命ずることが公平の観念や個人の尊厳を害しないとみられること、婚姻期間と比較し別居期間が短いこと等を要件として、同居せよとの審判が出された例もあります(平成17年1月14日大阪高裁決定、家月57巻6号154頁等)。 ○同居審判については、上記最高裁の同居時期等の具体的内容を定める形成処分との決定を受け、実務では、具体的同居義務形成の相当性を判断基準にしており、婚姻破綻程度、離婚意思の有無と強弱、有責性の有無、同居命令の履行可能性等を考慮して同居命令を出すかどうかを決めています。 ○端的に言えば裁判所から同居せよとの命令が出れば逃げた相手が戻ってくる可能性があれば同居命令を出す実益はあるでしょうから、この点が一番重要な検討事項と思われます。しかし、この可能性の判断は極めて困難です。 ○いくら同居命令が出されてもこれを強制的に実現する方法はありません。夫婦同居はお互いの心の結びつきによって実現されるべきものであり、他からの「力」、最終的には国家権力による強制によって実現されるべきものではないからです。 ○逃げた相手を戻すには、相手に自発的に戻る気持を持たせることが重要です。家庭裁判所の命令と言う「力」で戻そうとすることは一般的には逆効果であり、仮に命令が出たのでやむなく戻ってきたとしてもその後の結婚生活が円満に行くとは思えません。相手に自発的に戻る気持を持たせるには、国の力など借りず自ら相手の気持ちに訴えるしかありません。ですから、逃げた夫或いは妻に対し同居を命じる家庭裁判所の審判を求めることは、無駄というのが私の結論です。 以上:1,101文字
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