仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 貸借売買等 > 売買等 >    

マンション売買契約動機の錯誤を要素の錯誤非該当とした地裁判決紹介

貸借売買無料相談ご希望の方は、「貸借売買相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
令和 5年10月25日(水):初稿
○「令和4年3月16日福島県沖地震東日本大震災より事務所被害甚大」記載の通り、令和4年3月16日発生した福島県沖地震では、昭和53年12月竣工の事務所があるマンションは揺れが大変強く、東日本大震災の揺れによる被害よりさらに大きな被害を受けました。

○ところが、平成27年竣工の自宅のあるマンションでは、地震発生時私は就寝中でしたが、地震の揺れで目が覚めましたが、起き上がることはなく、揺れが収まってからまた寝入りました。朝起きると本棚から落ちた本もなく全く被害がありませんでした。自宅のあるマンションは免震構造だったからで、事務所のあるマンションの惨状と比較して、免震構造の威力を実感しました。

○その免震構造は、「免震ダンパーの種類と構造」と言う記事によると、鋼材・鉛・免震オイル・減衰こまの4種類があるそうで、自宅のあるマンションの免震構造は、「建物の1階と2階の間に免震層を設けた「中間階免震構造」採用。積層ゴムとダンパーを用いた免震装置が地震のエネルギーを吸収します。」と仲介業者販売情報HPに説明されていますが、免震ダンパーの種類までの説明はありません。

○原告は、高層マンションの売買契約について、免震部材として設置されていた免震オイルダンパーに建築基準法等違反の疑いがあることなどが判明したことから、原告の錯誤に基づき締結されたたもので、契約無効として、支払済み売買代金7億5000万円の返還を求めました。

○これに対し、法令適合性に疑義がないとする買主原告の動機に錯誤があったとしても「要素の錯誤」に当たらないとした原告の請求を棄却した令和4年3月29日東京地裁判決(判時2565号○頁)関連部分を紹介します。訴額7億5000万円もの大型事件は仙台地裁では余り聞いたことがありませんが、東京地裁にはゴロゴロあると思われ、羨ましいところです。

***********************************************

主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、7億5000万円及びうち1億5000万円に対する平成27年11月27日から、うち6億円に対する平成30年7月13日から、各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は、原告と被告の間の別紙物件目録記載の物件(以下「本件物件」という。また、本件物件を含む東京都港区〈以下省略〉所在の「aマンション」の建物全体を「本件マンション」という。)に係る売買契約(以下「本件売買契約」という。)について、本件マンションに免震部材として設置されていた免震オイルダンパーに建築基準法等違反の疑いがあることが判明したことから、原告の錯誤に基づき締結された同契約は無効であるなどと主張して、不当利得返還請求として、本件売買契約に係る既払金7億5000万円及びこれに対する法定利息(①主位的に、手付金1億5000万円に対する支払日の翌日である平成27年11月27日から及び残代金6億円に対する支払日の翌日である平成30年7月13日から、各支払済みまで平成29年法律第45号による削除前の商法514号所定の商事法定利率(以下、単に「商事法定利率」という。)年6分の割合による金員、②予備的に、上記7億5000万円に対する令和2年3月3日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日である令和2年3月11日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による金員)の支払を求める事案である。

2 関係法令等の定め


              (中略)

4 争点
(1) 本件マンションに建築基準法等違反の疑義がある免震オイルダンパーが設置されていたことに関する錯誤無効の成否(争点1)
(2) 本件マンションの「免震建築物」該当性に係る錯誤無効の成否(争点2)
(3) 地震力に対する本件マンションの性能の高さに関する錯誤無効の成否(争点3)
(4) 地震力に対する本件マンションの性能の高さに関する詐欺取消しの成否(争点4)

5 争点に関する当事者の主張

              (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提事実並びに括弧内に記載した証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。


              (中略)

2 争点1(本件マンションに建築基準法等違反の疑義がある免震オイルダンパーが設置されていたことに関する錯誤無効の成否)について
(1) 原告は、本件売買契約の締結に際して、本件マンションに設置されていた免震オイルダンパー(本件ダンパー)につき建築基準法37条等に違反する可能性があるとの疑義があったにもかかわらず、かかる疑義がないと信じていたとの錯誤があり、民法95条本文に基づき、本件売買契約が無効であると主張する。

(2) この点について、ある建築物の基礎を構成する部材の法令適合性につき疑義がないことを前提として同建築物に係る売買契約を締結したものの、その後、同部材の法令適合性に疑義があることが判明した場合には、同建築物の買主の意思表示に動機の錯誤があるということができ、本件の原告には、かかる動機の錯誤があるといえる。
 もっとも、意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。そして、動機は、たとえそれが表示されても、当事者の意思解釈上、それが法律行為の内容とされたものと認められない限り、表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である(最高裁平成28年1月12日第三小法廷判決・民集70巻1号1頁参照)。
 そこで、これらの点について順次検討する。

(3) 上記動機の表示の有無
 まず、本件全証拠によっても、Cが被告に対し、本件ダンパーにつき建築基準法等の適合性に関する疑義がないことを動機として本件売買契約を締結することを明示的に表示したことを認めることはできない。
 もっとも、前記1の認定事実(1)エによれば、Cが本件売買契約締結直前に確認した資料であるパンフレット(甲3の1)及び説明資料(甲13)には本件マンションの免震性能に関する記載があることが認められるほか、一般に、マンションを含む建物の売買契約においては、建築物の安全性確保を目的とする法令に適合した物件であることを所与のものとして販売されることが取引通念の一つであると解されることに鑑みれば、原告において、本件売買契約を締結するに際し、本件ダンパーが建築基準法等の適合性に関する疑義がないことを動機としていることが黙示的に表示されていたものと認めることができる。

(4) 上記動機が本件売買契約の内容となっていたか否か
ア 続いて、Cが被告に対して黙示的に表示した上記動機が、本件売買契約の内容となっていたか否かを検討する。

イ 一般に、マンションの基礎部分においては極めて多数の部材が用いられる一方で、建築関連法規の数及び内容並びに所管省庁の運用・指針等が複雑かつ高度に専門的であることなどに照らせば、マンションの売買契約締結後に、同マンションに用いられた部材等の法令適合性につき何らかの疑義が存在することが事後的に判明する事態が生じ得ることは想定できるところである。そして、このような場合に、住宅販売事業者が講ずるべき対応策は個別具体的な状況を踏まえて種々考えられるところであって、必ずしも契約の効力を否定することだけに限られないから、当該売買契約の当事者において、上記のような事態が生じた場合にいかなる対応策を取ることを同契約の内容としていたかを具体的に検討する必要がある。

ウ そこで、本件売買契約の定めについてみると、被告は、本件売買契約において、本件マンションに用いられた部材等に法令適合性の疑義が判明した場合には、当然に本件売買契約を無効とし、又は原告に解除権が発生するなどの定めを置くこともできたにもかかわらず、かかる定めを設けず、前記1の認定事実(1)オのとおり、被告が本件物件の隠れた瑕疵について瑕疵担保責任を負うこと、被告が契約締結後にアフターサービスによる対応を行うこと及び瑕疵による毀損の程度が甚大で修復に多額の費用を要すると被告が認めた場合には解除権が発生するとの定めを置いている。すなわち、本件売買契約においては、本件マンションに用いられた部材等に法令適合性の疑義があることが事後的に判明したときには、基本的に契約の効力自体に影響を及ぼさないことを前提として、被告の責任において不備を是正することとしており、例外的に、瑕疵による毀損の程度が甚大で修復に多額の費用を要すると被告が認めた場合に限って契約関係を解消することを可能とすることとしている。

 したがって、本件マンションに用いられた部材等に法令適合性の疑義が判明した場合に、一律に本件売買契約の効力を否定することまでを共通の前提として、原告及び被告が同契約を締結したとはいえず、原告及び被告は、本件マンションに瑕疵担保責任やアフターサービスによって対応することが社会通念上著しく困難であると認められる甚大な瑕疵が存在することが事後的に判明した場合に限って契約の効力を否定することを想定して本件売買契約を締結したものと解される。

 そして、前記1の認定事実(3)ア及び弁論の全趣旨によれば、本件売買契約締結後に判明した本件マンションの瑕疵は、本件ダンパーが建築基準法37条2号に基づき国土交通大臣が定める技術的基準に適合しないおそれがあるとの疑義が存するというものであること、本件マンション竣工後に本件ダンパー全部につき交換工事が行われ、それにより、上記疑義が完全に解消されたことが認められる。そうすると、本件売買契約締結後に判明した本件ダンパーに係る上記瑕疵は、瑕疵担保責任やアフターサービスによって対応することが社会通念上著しく困難であると認められる甚大な瑕疵であったとはいえない。

エ 以上によれば、本件ダンパーに建築基準法等の適合性につき疑義がないとのCの動機は、原告及び被告の合理的意思解釈上、本件売買契約の内容となっていたとは認められない。


(5) したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の上記主張は採用することができず、本件売買契約締結に際して本件ダンパーが建築基準法等の法令に適合していることに関する錯誤があったことを理由として同契約が無効であるとはいえない。

3 争点2(本件マンションの「免震建築物」該当性に係る錯誤無効の成否)について
(1) 原告は、本件売買契約当時、本件マンションが、「免震建築物」に該当すると評価されたマンションであると信じていたが、本件ダンパーには本件不適切行為がされており、建築基準法37条2号及び建設省告示第1446号に違反していたことから、実際には、本件マンションが「免震建築物」でなかったのであり、原告にはこの点につき錯誤があり、民法95条本文に基づき、本件売買契約が無効であると主張するものと解される。

(2) そこで、上記錯誤の成否を論じる前提として、本件売買契約締結当時、本件マンションが「免震建築物」に該当するものでなかったかどうかにつき検討する。
ア 「免震建築物」の認定に関連する関係各法令の定めを整合的に解釈すると、建設省告示第2009号の第一の1号所定の「免震材料」(以下、単に「『免震材料』」という。)は、建築基準法37条2号及びその委任を受けた建設省告示第1446号により定められた大臣認定基準に適合するものであることが必要であり、かかる基準に適合する「免震材料」を緊結した床版により挟まれた「免震層」を配置した建築物が、「免震建築物」に該当するものと解される。

 この点につき、前提事実(4)イ及び前記1の認定事実(1)オによれば、KYB問題が発覚する以前において、日本建築センターにより本件マンションが「免震建築物」に該当することが確認されていたこと、本件ダンパーがKYB及びKSMによる調査によっても本件不適切行為がされたものであるか否かが確認できなかった「不明品」であることが認められるところ、本件ダンパーに実際に本件不適切行為がされたことや、本件ダンパーの性能が大臣認定基準等に適合していなかったことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、大臣認定基準等に適合しない「免震材料」である免震オイルダンパーが本件マンションに設置されていたとまでは認められず、本件マンションが「免震建築物」に該当しないということもできない。

 また、証拠(甲16、乙11)によれば、KYB問題が発覚する以前に日本建築センターにより作成された本件マンションに係る設計住宅性能評価書において、本件マンションが「免震建築物」に該当すると評価されていること、本件マンションにおいて本件ダンパーが設置されていた部分には、別紙図面のとおり、本件ダンパー以外の他の免震部材も設置されていたことが認められるところ、かかる部材が大臣認定基準等に適合しないものであることをうかがわせる証拠はない。そうすると、本件マンションに設けられた本件ダンパー以外の部材が大臣認定基準に適合しない「免震材料」であるということもできないから、このような点からみても、本件マンションが「免震建築物」に該当しないということはできない。

イ これに対して、原告は、①本件ダンパーの交換工事につき、そのスケジュール発表から着工までの期間が極めて短かったこと、②本件ダンパー12本のそれぞれについて建築基準法等違反の有無を検証することなく、本件ダンパーの全てを交換の対象としたこと、③被告が本件ダンパーの安全性検証を拒み続けたこと、④原告が本件ダンパーにつき鑑定嘱託を申し立て、当裁判所を通じてKYBに対し本件ダンパーを廃棄しないように求めたにもかかわらず、これらが全て廃棄されてしまったことなどを根拠として、本件ダンパーは本件不適切行為がされたものであって、建築基準法等に違反するものであると主張し、さらに、建築基準法等に違反する免震オイルダンパーが用いられていたことを前提として、本件マンションの「免震建築物」該当性が否定されるべきであると主張する。

 しかしながら、前記1の認定事実(3)イ並びに証拠(甲9、10、18)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、国土交通省の要請に従って本件ダンパーを全て交換する工事を行うこととしたものであること、交換工事を行った後の本件ダンパーについてはKYBの管理下にあったことが認められるところ、原告の主張する上記①~④の事実を考慮しても、本件ダンパーの性能が大臣認定基準等に適合していなかったこと、ひいては本件マンションが「免震建築物」に該当しないものであったことは、およそ認めることができず、上記認定を左右しない。

ウ 以上によれば、本件売買契約締結時において、本件マンションが「免震建築物」に該当しないものであったと認めることはできない。

(3) したがって、本件マンションの「免震建築物」該当性に係る錯誤は、その前提を欠くから、その余の点について検討するまでもなく、原告の上記主張は採用することはできず、本件売買契約締結に際して本件マンションの「免震建築物」該当性に係る錯誤があったことを理由として同契約が無効であるとはいえない。
以上:6,351文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
貸借売買無料相談ご希望の方は、「貸借売買相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 貸借売買等 > 売買等 > マンション売買契約動機の錯誤を要素の錯誤非該当とした地裁判決紹介