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競落建物内動産類無断処分不動産業者に損害賠償を命じた地裁判決紹介

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令和 5年 8月29日(火):初稿
○土地建物を競売で取得しても、建物内に残っている動産類は競売の対象では無い場合、その所有権は債務者等に残っており、建物所有者となっても勝手に処分はできません。土地建物を競売により取得した不動産業者が、建物について引渡命令の申立てを行うことなく、建物内の動産類を保管するなどの措置を取ることなしに、これを廃棄処分しました。

○これに対し、動産類の所有者が、勝手に処分された動産類の価値は1000万円を下らず、処分されたことの慰謝料500万円と弁護士費用等合計1650万円の損害賠償請求を、その不動産業者に請求し、民訴法248条により、動産類の損害を総額で100万円とし、動産損害の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料200万円と弁護士費用合計330万円の支払を認めた平成14年4月22日東京地裁判決(判時1801号97頁)理由部分を紹介します。

○本件では大量の動産類が競落建物内に残っており、建物占有者は動産類所有者になりますので、建物競落不動産業者は先ず裁判所に引渡命令申立をすべきでした。この手続を経ずに建物内に入り、動産類を処分する行為は違法な自力救済と評価されました。

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主  文
1 被告は、原告Aに対し、金330万円及びこれに対する平成9年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告Aのその余の請求及び原告Bの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用中、原告Aと被告との間に生じたものはこれを3分し、その2を原告Aの、その余を被告の各負担とし、原告Bと被告との間に生じたものは原告Bの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事  実

第1 当事者の求めた裁判

1 請求の趣旨
(1) 被告は、原告Aに対し、金1650万円及びこれに対する平成9年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は、原告Bに対し、金330万円及びこれに対する平成9年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は被告の負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第2 当事者の主張

     (中略)

理  由
1 争いのない事実等(証拠により容易に認定し得る事実を含む。認定に用いた証拠等は、認定事実の末尾に記載する。)
 被告は、不動産の売買及び仲介、賃貸並びに管理業を行う株式会社である。

 原告Aは、平成5年4月、本件不動産を購入したが、その際、住宅金融公庫から借入れを行い、この借入金債務を担保するために本件不動産に抵当権を設定した。その後、原告Aの住宅金融公庫に対する返済が滞ったため、平成8年11月25日、公庫住宅融資保証協会から住宅金融公庫へ代位弁済が行われ、平成9年1月21日、札幌地方裁判所において、公庫住宅融資保証協会を債権者として、本件不動産に対する不動産競売開始決定が行われた。そして、同年8月5日、被告が、本件不動産を落札し、本件不動産について売却許可決定を受け、同年9月9日に、代金を納付して本件不動産の所有権を取得した。

 被告は、平成9年9月10日、本件不動産について引渡命令の申立てを行うことなく、本件建物内に立ち入り、残置されていた動産を廃棄処分にした。なお、被告は、原告Aに対して、本件不動産に残置してあった動産について引取りの要請、催告を行わなかった。

 原告Aは、平成9年9月14日、札幌地方裁判所から「配当期日呼出状及び計算書提出の催告書」の送達を受けて、初めて、本件不動産が競落されたことを知り、同月18日ころ、札幌地方裁判所に対して、売却許可決定の謄本の交付を申請した。そして、同月20日、同謄本を受け取り、本件不動産を競落したのが被告であることが分かったので、同月22日に、被告に電話をかけ、本件建物内に残置してあった動産の所在を確認したところ、被告の担当者であるC(以下「C」という。)から、ごみ焼却場に捨てた旨の回答を受けたため、原告AはCに対して激しく抗議した。Cは、翌23日に、急遽、札幌から東京の原告A宅を訪れ、謝罪した(甲第5号証、第8号証、証人Cの証言、原告A本人尋問の結果及び弁論の全趣旨)。

2 本件の争点
 本件の争点は、被告の担当者が本件建物内に残置されていた動産を廃棄したことについて、被告に、原告ら主張の不法行為責任が認められるか否かであり、具体的には、〈1〉平成9年9月10日当時、本件建物内には、原告Aの所有に係る別紙動産目録記載の各動産及び原告Bの所有に係る衣類、バッグ類、書籍等が存在し、これらの物品を被告の担当者であるCが、原告らに無断で廃棄したか否か、〈2〉被告の担当者の上記行為により原告らが被った損害の有無及びその額である。

3 争点に対する当裁判所の判断
(1) 被告の不法行為責任の有無
 原告らは、平成9年9月10日当時、本件建物内には、原告Aの所有に係る別紙動産目録記載の各動産及び原告Bの所有に係る衣類、バッグ類、書籍等があり、被告がこれらの動産を原告らに無断で廃棄処分にしたと主張するのに対し、被告は、被告が初めて本件建物内に入った上記日時当時、本件建物内には、茶だんす様のものと段ボール箱数個程度のごみと同視し得るものしか残っておらず、被告が廃棄処分にしたのは、これらのものだけであると主張する。

 そこで、この点についてみるに、甲第8号証から第12号証まで、第15号証、乙第1号証、証人Cの証言及び原告A本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨(ただし、乙第1号証の記載中及び証人Cの証言中の後記信用し難い部分を除く。)によれば、次の事実が認められる(一部、上記争いのない事実等を含む。)。

 原告Aは、その母及び長男と共に、平成7年7月末ころ、本件建物から必要最小限の荷物を搬出して、東京に転居し、当時、既に原告Aと離婚していた原告Bも、旭川に転居した。それ以降、本件建物は、空き家の状態であったが、原告Aは、東京の現住所のマンションが手狭であり、また、当時、札幌の本件建物に戻る可能性もあったことから、本件建物に、ほとんどの家財道具(別紙動産目録の「品目」欄記載の各動産。ただし、「購入価格」欄及び「現在価格」欄は除く。以下「本件残置動産類」という。)を置いたままにしていた。原告Aは、同年12月に、一度、冬物の衣類を取りに本件建物に戻ったことがあるが、それ以降、本件建物に行くことはなかった。原告Bは、時々、旭川から本件建物に行くことがあったが、本件残置動産類を搬出することはしていない。

 公庫住宅融資保証協会から、平成9年1月20日、本件不動産について競売の申立てがされ、札幌地方裁判所は、同月21日、競売開始決定をした。同裁判所から本件不動産の現況調査を命じられた執行官Dが、同年2月17日、本件不動産の立入調査を行ったが、その時には、本件建物内に、原告Aの所有に係るストーブ、桐だんす2棹、茶だんす、シングルベッド2台、寝具、洋服だんす、整理だんす、三面鏡(ドレッサー)、神棚(お宮)、仏壇、学習机・イス、本箱、スチール棚等の多数の家財道具及びガムテープで梱包された多数の段ボール箱等の大量の動産類が、引越し直前のように、整然と整理された状態で存在し、執行官Dは、近隣の者の陳述及び本件建物内の状況から、本件建物は、債務者兼所有者である原告Aが、「ストーブ、食器棚、タンス、ベッド、机等の家財道具多数、梱包物、雑物等を残置して、空家の状態で占有している」と判断し、その旨を現況調査報告書に記載した。これを基に作成された本件不動産の物件明細書(平成9年6月12日作成)の本件建物についての「備考」欄には、「平成9年2月17日現在、空家である(残置物あり)。本件所有者は、引渡命令の対象となる。」と記載されている。

 同年5月ころ、競売開始決定が原告Aの下に送付されてきたので、原告Aは、原告Bに連絡し、相談をしたところ、原告Bは「直ぐには売れないだろう」との意見であったので、本件建物内の上記家財道具については、原告Aに無断で処分されることはないであろうと考え、裁判所からの何らかの通知があるまで、そのままにしておくことにした。

 本件建物は施錠されており、その鍵は、原告A及び原告Bのみが所持していたので、原告ら以外の者が、原告らに無断で本件建物に入ることは、特段の方法を用いない限り、できない状態であった。執行官Dが、前記現況調査の際に、本件建物に入る際には、解錠を専門とする業者を同伴し、この業者により解錠した上で、本件建物内に入ったのであり、執行官Dは、この業者に解錠料を支払っている。また、本件建物の出入口は一か所しかなく、その向かいには住宅が建ち並んでおり、近隣の住民に気づかれずに、本件建物内に存在した前記の大量の動産類を搬出することは困難な状況にある。

 被告は、同年8月5日、本件不動産を落札し、本件不動産について売却許可決定を受け、同年9月9日に、代金を納付して本件不動産の所有権を取得した。本件建物を競落した被告は、当初から本件建物の転売を予定しており、当時、本件建物の購入希望者がいたことから、本件建物を早急に引渡し可能な状態にする必要があった。

 被告の担当者Cは、同月10日、本件建物内に立ち入り、本件建物内に大量の動産類等が残置されていることに気づいたが、本件建物について引渡命令の申立てを行うことはもとより、本件建物内に残置されている動産類を保管する等の手立てを何ら講ずることなく、同日、直ちに、引越し業者(運送業者)に依頼して、本件建物内に残置されている動産類のすべてを、4トン程度のトラックで搬出させて焼却場に運び、廃棄処分にした。

 被告は、同月17日、競落した本件不動産を訴外山田展大に売り渡す旨の契約を締結し、同人への札幌法務局西出張所同年10月28日受付第30068号所有権移転登記手続を了した。

 原告Aは、同月14日、札幌地方裁判所から「配当期日呼出状及び計算書提出の催告書」(甲5)の送達を受けて、初めて、本件不動産が競落されたことを知り、同月20日、本件不動産を競落したのが被告であることが分かったので、同月22日、被告に電話をかけ、本件建物内に残置してあった動産の所在を確認したところ、被告の担当者Cから、ごみ焼却場に捨てた旨の回答を受けたため、原告AはCに対して激しく抗議した。Cは、翌23日に、急遽、札幌から東京の原告A宅を訪れ、床に土下座して謝罪し、原告Aの抗議に対し、「東京に居る被告の会長と相談する。個人では無理なので会長にこれから会う。足りなければ自腹を切ってでも弁償する」などと発言したほか、原告Aの長男が、学習机等の思い出の物品がなくなってしまったことにつき抗議したのに対し、謝罪した上、「自分の子供の机や勉強道具を捨てたい気持ちです」などと発言した。

 以上の事実が認められ、乙第1号証の記載中及び証人Cの証言中、上記認定に抵触する部分は信用し難く、他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

 上記認定事実によれば、原告Aが東京に転居した平成7年7月末以降、本件建物内には原告A所有の本件残置動産類が存在したこと、本件不動産の現況調査を命じられた執行官Dが平成9年2月17日に本件不動産の現況調査を行った際にも、本件残置動産類が、引越し直前のように、整然と整理された状態で存在したことが認められ、これらの事実と、〈1〉被告の担当者であるCの原告Aらに対する謝罪、弁明の内容やその態度、〈2〉当時の本件建物の管理状況(施錠されていたこと等)、〈3〉被告は、当初から本件建物の転売を予定しており、当時、本件建物の購入希望者がいたことから、本件建物を早急に引渡し可能な状態にする必要があったため、競落した日の翌日、被告の担当者Cが本件建物に立ち入り、その日のうちに残置されていた動産類等を焼却場に搬出し、直ちに廃棄しており、このような被告側の行為により、原告らとしては、その時点における本件残置動産類の存在を立証することが極めて困難であること等の前記認定の事実関係及びこれにより窺える事実等を合わせ考慮すると、被告の担当者Cが本件建物内に入った平成9年9月10日当時においても、本件建物内の状況は、上記現況調査当時と同様の状況にあり、本件建物内に原告A所有の本件残置動産類が存在したものと認めるのが相当である。

 そうだとすると、平成9年9月10日当時、本件建物内には、原告A所有の大量の動産類が存在し、原告Aが本件建物を占有していることが明らかな状態にあったのであるから、被告としては、上記物件明細書に明記されているとおり、民事執行法83条の規定に基づき、本件建物について札幌地方裁判所に引渡命令の申立てをし、当該命令の原告Aへの送達(同法29条)を経てから、同法168条の規定に則り、本件建物の明渡し執行の手続を取るべきであったものというべきである(本件建物内に存する動産類については、同条4項の規定に従い、執行官が債務者である原告Aに引き渡すか、引き渡すことができないときは、執行官が保管しなければならない。)。

 しかるに、被告の担当者Cは、前記認定のとおり、本件建物について引渡命令の申立てを行うことはもとより、本件建物内に残置してあった動産類を保管する等の手立てを何ら講ずることなく、前同日、直ちに、引越し業者(運送業者)に依頼して、本件建物内に残置されていた動産類のすべてを搬出させ、廃棄したのであるから、原告Aらが長期にわたり本件建物に居住せず、その間、本件残置動産類が2年以上も本件建物内に残置されていたことを考慮しても、被告の担当者Cの上記行為は、本件残置動産類に係る原告Aの所有権を侵害した違法行為というべきであり、そのことについて少なくとも過失があるといわざるを得ない。

 したがって、被告は、原告A所有の本件残置動産類の廃棄処分について、不法行為責任を負うべきである。

(2) 原告Aが被った損害額について
ア 物的損害
 前記のとおり、原告Aは、その所有に係る本件残置動産類を、被告により違法に廃棄されたのであるから、これにより原告Aに損害が生じたことは明らかである。
 しかしながら、その損害額については、次のとおり、損害の性質上、その額を立証することが極めて困難であると認めるのが相当である。

 一般に、動産の滅失による損害額は、当該動産の時価、すなわち、購入時の代金額から経年を考慮して減額した価額又は同種、同等の代替物の購入費用等をもって算定すべきものであるが、本件のように、原告Aが相当以前に梱包等をし、長期間にわたって本件建物内に残置し、上記の経緯で被告により廃棄された多種多様、かつ、多数大量の物品(本件残置動産類)について、同原告が、個々的に上記の事実を立証することは、極めて困難であると認められる。

 そこで、当裁判所は、民訴法248条の規定に基づき、相当な損害額を認定することとするが、本件残置動産類の品目及び上記現況調査の際に写真撮影された本件残置動産類の状況(甲第8号証)等を総合考慮すれば、その損害額は、総額で100万円と認定するのが相当である。

イ 慰謝料について
 不法行為により物品が毀損、廃棄された場合において、当該物品に係る財産的損害が填補される場合であっても、当該物品を喪失したことにより、被害者が、特段の精神的苦痛を被ったと認められるときは、被害者は、財産的損害についての賠償のほかに、当該精神的苦痛を慰謝するための慰謝料を請求することができると解すべきである。

 そこで、本件について、上記特段の事情の有無について検討するに、原告A本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告によって廃棄された本件残置動産類の中には、原告Aが祖父母の代から受け継いだ桐だんす2棹や茶だんす等が含まれているほか、仏壇、神棚等もあり、これらのものは原告Aにとって、何物にも代え難い貴重なものであること、しかるに、これらの物品が、被告により焼却場に運ばれ、ごみの類と一緒に、廃棄されたことにより、原告Aは、多大の精神的苦痛を被ったことが認められ、これらの事情は、慰謝料請求を認めるべき上記特段の事情に当たるものというべきである。
 そして、その慰謝料額は、前記認定の事実関係を総合すれば、200万円とするのが相当である。


ウ 弁護士費用について
 本件事案の難易、審理経過、本訴認容額に鑑み、被告の上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、30万円と認めるのが相当である。

(3) 原告Bの請求について
 本件全証拠によるも、被告が廃棄した動産の中に原告Bの主張に係る動産が存在したこと、及び被告の原告Aに対する上記不法行為により原告Bが精神的苦痛を被ったことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告Bの請求は、その理由がない。

4 以上の次第で、原告Aの請求は、被告に対して金330万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成9年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告らのその余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用について民訴法64条本文、61条を、仮執行宣言について同法259条1項を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 高橋利文 裁判官 世森亮次 裁判官 平田直人は、転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 高橋利文)

(別紙)
 物件目録
(省略)
以上:7,229文字

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