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養育費債権での財産開示実施決定を弁済を理由に取り消した高裁決定紹介

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令和 5年 5月16日(火):初稿
○「民事執行法第4章第196条以下”財産開示手続”書式等」等に財産開示手続に関する説明をし、実際、3件程財産開示手続申立をしたことがありますが、内1件で生命保険契約が見つかり解約返戻金相当額を回収したことがあります。当たれば見つけものですが、財産開示手続はやってみる価値がある場合もあります。

○離婚した元妻である相手方が、元夫である抗告人との間で作成した執行証書に表示された養育費債権を請求債権として、抗告人夫に対し財産開示手続の申立てをし、原審が財産開示手続実施決定をしたところ、元夫が請求された養育費の期限到達分を支払い、執行抗告をしました。

○これに対し、本件請求債権については、原決定時点において確定期限が到来した分に未払があったものの、抗告人が原決定後に弁済をした結果、現時点において確定期限が到来した分に未払はないと認められるから、強制執行により弁済を得ることができる請求債権が存在することの疎明はないとして原決定を取り消し、元妻の申立を却下した令和3年9月29日東京高裁決定(家庭の法と裁判43号50頁)全文を紹介します。

○この決定は最高裁で覆されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 原決定を取り消す。
2 相手方の申立てを却下する。
3 手続費用は,第1審,第2審を通じ,相手方の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨
 主文と同旨

第2 事案の概要
1 本件は,離婚した元妻である相手方が,元夫である抗告人との間で作成した執行証書に表示された養育費債権を請求債権として,原審裁判所に対して抗告人に係る財産開示手続の申立てをし,原審裁判所が財産開示手続実施決定をしたところ,抗告人がこれを不服として執行抗告をした事案である。

2 抗告人の抗告理由及び意見は,別紙「執行抗告理由書」及び「反論書」(写し)のとおりであり,相手方の意見は,別紙「執行抗告に対する意見書」及び「執行抗告に対する意見書(2)」(写し)のとおりである。

第3 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1)抗告人と相手方は,婚姻し,その間に長女(平成22年○月生)及び二女(平成24年○月生)をもうけたが,平成28年12月21日,東京法務局所属公証人C作成に係る平成28年第452号養育費支払等契約公正証書(執行受諾文言のあるもの。以下「本件執行証書」という。)をもって,抗告人が相手方に対し,長女及び二女の養育費として,〔1〕平成29年4月から同年10月まで子1名につき月額2万5000円を,〔2〕同年11月から長女及び二女がそれぞれ満20歳に達した日の属する月まで子1名につき月額3万円を,毎月末日限り支払うことを合意した上で,離婚した。

(2)相手方は,令和3年2月16日,本件執行証書につき執行文の付与を受け,本件執行証書及び執行文の謄本は,同月18日,抗告人に送達された。

(3)相手方は,令和3年6月11日,原審裁判所に対し,本件執行証書に表示された養育費債権を請求債権とし,民事執行法(以下「法」という。)197条1項2号の事由(知れている財産に対する強制執行を実施しても,金銭債権の完全な弁済を得られないこと)があるとして,抗告人に係る財産開示手続の申立てをした。

(4)原審裁判所は,令和3年7月1日,別紙請求債権目録記載の養育費債権を請求債権(以下「本件請求債権」という。)として,抗告人について財産開示手続を実施する旨の決定(原決定)をし,同決定は,同月4日,抗告人に送達された。

(5)抗告人は,令和3年7月9日,本件抗告を申し立てた。
 抗告人の上記養育費の支払状況(同年8月2日まで)は,別紙「執行抗告に対する意見書」の別紙・養育費支払額一覧表に記載のとおりであり,原決定がされた同年7月1日時点で,上記養育費債権のうち確定期限が到来した分(同年6月分まで)合計27万5000円が未払いとなっていた。抗告人は,その後,同別紙のとおり,同年7月10日に16万円,同月12日に9万円,同年8月2日に6万円を相手方宛てに送金したほか,同年9月6日に8万5000円を相手方宛てに送金した(送金額合計39万5000円)ため,上記請求債権のうち現時点で確定期限が到来した分(原決定後に期限が到来した同年7月分及び8月分を含む。)は,その全額が支払済みとなった。


(1)以上の事実によれば,本件請求債権については,原決定時点において確定期限が到来した分に未払いがあったものの,抗告人が原決定後に弁済をした結果,現時点において確定期限が到来した分に未払いはないと認められる。
 そうすると,現時点において,強制執行により弁済を得ることができる請求債権が存在することの疎明はないから,知れている財産に対する強制執行を実施してもその「完全な弁済を得られないこと」の疎明もないといわざるを得ない。したがって,相手方の申立ては,法197条1項2号の要件を満たすものとはいえないから,理由がない。


(2)相手方は,法203条が本件のような執行力のある債務名義の正本に基づく財産開示手続について法182条(担保権の不存在又は消滅を理由とする不服申立て)等を準用していないことから,請求債権の弁済による消滅は,原決定に対する執行抗告の理由にならないと主張する。
 しかし,債務者の知れている財産に対する強制執行を実施しても債権者の請求債権の完全な弁済が得られないことの疎明があるというためには,〔1〕債権者の請求債権の存在及び数額と,〔2〕債務者の知れている財産の存否及びその価額(回収可能額)とを,〔2〕の額が〔1〕の額に満たないことが一応認められる程度に示す必要があるというべきであり,〔1〕に関し,請求債権の弁済の事実を考慮することができないと解すべき根拠は見当たらない。

 また,法203条は,執行力のある債務名義の正本に基づく財産開示手続について,債務者が請求権の存在及び内容を争うために請求異議の訴えという特別の手続を定めた法35条を準用していない。これは,財産開示手続に不服のある場合には実施決定に対する執行抗告によるべきであり,請求権の存在及び内容を争うために財産開示手続の不許を求める独自の利益に乏しいからであると解される。そうすると,法203条が,相手方の主張するように,実施決定に対する執行抗告において,請求債権の存否又は内容に関する事情の主張を許さない趣旨であるとまで解することは困難である。

 さらに,法197条1項各号の要件は,財産開示手続が債務者のプライバシーに属する事項の開示を刑事罰(法213条1項5号,6号)をもって強制するものであることに鑑み,この手続を行う必要性がある場合に限定して手続を実施するために設けられたものと解される。法197条1項2号に基づく財産開示手続の申立てがされている場合において,債権者の請求債権が全額弁済され,債務者の財産開示を強制する実質的な必要性を欠くにもかかわらず,当該事情の主張を許さず,財産開示手続を実施しなければならないものとすることは,同号の趣旨にも沿わないというべきである。
 よって,相手方の上記主張は,採用することができない。

(3)相手方は,抗告人が相手方に対し未払養育費を支払ったのは,原決定があった令和3年7月1日の後であり,この点からも原決定は正当であると主張する。
 この点,執行抗告に係る抗告裁判所は,抗告状又は執行抗告の理由書に記載された抗告理由に限り調査するのが原則である(法10条7項本文)が,既に適法に提出してある抗告理由を基礎付けるため,理由書等に記載していなかった事実を主張したり,これらの事実又は理由書等に記載した事実を証明するために後から証拠を提出したりすることもできると解するのが相当である。さらに,原決定に影響を及ぼす法令の違反又は事実の誤認の有無については,職権で調査することができるものとされている(同項ただし書)。このように,執行抗告の抗告審は,その範囲に限定はあるものの,原審で提出していなかった主張や証拠を新たに提出し得るのであるから,事後審ではなく,いわば制限された続審というべきである。

 これを本件についてみるに,一件記録によれば,抗告人は,執行抗告理由書において,令和3年7月12日までに合計25万円を支払い,同理由書の提出時点で確定期限が到来した養育費未払分はないことを執行抗告の理由として掲げていることが認められる上,原決定がされた令和3年7月1日時点では,相手方の抗告人に対する養育費債権のうち確定期限が到来した分(同年6月分まで)合計27万5000円が未払いとなっていたこと,抗告人は相手方に対し,同年7月10日に16万円,同月12日に9万円,同年8月2日に6万円及び同年9月6日に8万5000円(合計39万5000円)をそれぞれ送金し,確定期限が到来した同年8月分までは全額支払済みとなったことは,前記認定事実記載のとおりである。そうすると,抗告人は,執行抗告理由書において,弁済による請求債権の消滅を執行抗告の理由として記載し,その後,当裁判所に対し,それを基礎付ける事実を追加的に主張するとともに証拠を提出したのであるから,当裁判所は,それらの事実及び証拠をも参酌して判断すべきものと解される。
 したがって,相手方の上記主張も,採用することができない。

3 以上の次第で,本件抗告は理由があるから,原決定を取消し,相手方の申立てを却下することとして,主文のとおり決定する。
令和3年9月29日
東京高等裁判所第11民事部
裁判長裁判官 大竹昭彦 裁判官 原克也 裁判官 土屋毅
以上:3,981文字

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