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借主従業員の賃借建物内自殺につき責任否定判例紹介3

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平成23年11月24日:初稿
○「借主従業員の賃借建物内自殺につき責任否定判例紹介2」の続きで今回は裁判所の判断です。
 ポイントは、
建物の賃貸借契約における賃借人は、賃貸借契約終了時に賃貸物である本件貸室を返還すべき義務を負うが、貸借物を返還するのに付随して、本件貸室や本件建物の価値を下げないように、その建物に入居させていた従業員が本件貸室内で自殺しないように配慮すべき義務まで負うと認められるかは疑問が残る。基本的には、物理的に賃借物の返還があれば賃借人の債務の履行としては十分であり、心理的あるいは価値的に影響を与えるような事由についてまで付随義務として認めることは加重な債務を負担させることになるからである。
ですが、裁判官の迷いも感じられる記述であり、一刀両断できない微妙なところがあります。

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第3 当裁判所の判断
1 主位的請求の請求原因その1(債務不履行責任)の(1)(当事者)は当事者間に争いがない。

2 主位的請求の請求原因その1(債務不履行責任)の(2)(賃貸借契約)について
(1)原告らは、本件賃貸借契約の貸主が原告らであると主張する。しかし、証拠(甲3、乙1の1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば、本件貸室については、原告X2と被告との間で、平成元年9月29日の契約締結から平成11年9月27日の更新まで、いずれも賃貸期間2年間として更新されてきたことが認められ、原告X1が貸主であると認めるに足る証拠はない。このことは、前記1で争いがないように、本件建物が原告X2と原告X1が各持分2分の1で共有していること、原告らが親子であり同居していること(弁論の全趣旨)等の事実が認められるとしても左右されるものではない。よって、原告X2と被告との間で本件貸室の賃貸借契約が締結されていたこと、これが平成13年9月30日が経過したことで法定更新されたことを認めることができる(これは、予備的請求の請求原因(1)(賃貸借契約)であり、当事者間に争いはない。)。そして、原告X2が原告X1を代理して契約締結を行ったとの主張も、賃貸借契約書等(乙1の1ないし6)に原告X1の顕名がないからこれを認めることはできない(代行権限を与えたとの主張であるとしても、これを認めるに足る証拠はない。)。

(2)原告らは、民法100条但書の主張もするが、被告において、本件賃貸借契約の貸主が、原告X2のみではなく原告X1も表示したことを知り得べきも事情は何らうかがわれないのであり(本件賃貸借契約は、平成元年から何度も更新されているが、いずれの契約締結時においても、不動産業者が仲介し、取引主任者が入り、重要事項説明等も行われて契約が締結されている。乙1の1ないし6)、この主張も認められない。

(3)よって、その余を判断するまでもなく、原告X1の被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求(主位的請求の請求原因その1(債務不履行責任))を認める余地はない。

3 主位的請求の請求原因その1(債務不履行責任)(3)について
 原告X2の代理人であるaが、被告に対し、平成16年1月、本件賃貸借契約につき、解約の申入れを行い、被告がこれに応じたため、賃貸期間を同年3月31日までとする合意解約が成立したことは当事者間に争いがない。なお、aは、被告に対し、この解約申入れの際に、本件建物を解体する予定であることを話しており、その後、本件土地が売却されそうであることを告げたことを認めることができる(弁論の全趣旨)。

4 主位的請求の請求原因その1(債務不履行責任)(4)及び(5)について
(1)前記3のとおり、被告が原告X2に対し、本件賃貸借契約の合意解約により、本件貸室を平成16年3月31日までに明渡す義務を負うこと、平成16年3月30日、本件貸室に入居していた被告の従業員であったAが、同室内で本件自殺を行い、同日その事実が発覚して警察を呼ぶ騒動となったことは当事者間に争いがない。

(2)そこで、被告において、本件貸室を返還すべき債務に付随して、又は使用者責任として、本件貸室の明渡しが円滑に行えるようにする債務あるいは本件貸室の明渡しが終了するまで、その建物に入居させていた従業員が本件賃室内で自殺しないように配慮する義務を負うといえるか検討する。

(3)証拠(各掲記の他、乙14)及び弁論の全趣旨によれば、次のような事実を認めることができる。
〈1〉原告X2は被告との間で、平成元年9月29日本件賃貸借契約を締結し、以後平成11年9月27日まで、いずれも賃貸期間2年間として合意更新し、平成13年9月30日の経過で法定更新していたものである。平成15年12月下旬頃、aの代表者であるBが被告を訪問し、建物老朽を理由とする解約申入れを口頭で行い、平成16年1月13日頃発信の書面で、再度、本件賃貸借契約を同年3月末日で終了する旨の解約申し入れをした(乙2)。

〈2〉被告は、これを受け、Aに対し、3月末日までに退去するように申し入れた。Aは特に反対しなかった。

〈3〉原告X2と被告の間で、解約の合意ができていたため、原告X2は、被告に対し、同月11日、敷金(11万8000円)及び引越費用(10万円)等合計21万8000円を支払った(乙8)。

〈4〉同日、Aは被告に対し、自己都合退職の申し入れをし(乙4)、同月15日、制服及び保険証を返還し(乙4)、同月16日退職金26万1200円を受領した(乙5)。Aは、他のタクシー会社に面接に行こうか話していた。

〈5〉同月22日被告の港南営業所の所長であるCが本件貸室に行くと、Aがいて、就職活動をしていること、同月30日までには引っ越すことを話した。

〈6〉同月29日、Cが再度本件貸室に行くと、Aがいて、30日までに引っ越すと言っていた。

〈7〉同月30日午前9時頃、Cが本件貸室に行くと、ノックしても返答がないため、施錠はなく、中の様子をうかがうと、Aが自殺をしていた。

(4)そもそも、建物の賃貸借契約における賃借人は、賃貸借契約終了時に賃貸物である本件貸室を返還すべき義務を負うが、貸借物を返還するのに付随して、本件貸室や本件建物の価値を下げないように、その建物に入居させていた従業員が本件貸室内で自殺しないように配慮すべき義務まで負うと認められるかは疑問が残る。基本的には、物理的に賃借物の返還があれば賃借人の債務の履行としては十分であり、心理的あるいは価値的に影響を与えるような事由についてまで付随義務として認めることは加重な債務を負担させることになるからである。

 そして、前記(3)認定のような事情によれば、本件においては、原告X2は、建物の朽廃を理由として、建物を取り壊し、その敷地を更地にして本件土地を売却することを想定して本件賃貸借契約の解約申入れをしたものであり、現実にそのとおりになっていること(本件自殺のあった本件貸室が存在しなくなった状態でその敷地が売却されている。)、Aに自殺の兆候がみられなかったこと等からして、被告において、Aが本件貸室内で死亡すること、本件自殺により本件土地の価格が低下することまで予見可能であったものとは解されず、本件貸室の賃借人である被告において、土地の価格が下落しないように、その従業員が本件貸室内で自殺しないようにすべき注意義務があるとまで考えることは相当ではない。

(5)よって、被告には、本件賃貸借契約に基づく返還債務に付随義務として従業員が本件貸室内で自殺しないように配慮する義務を負わない。

以上:3,111文字

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