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遺言条項解釈に当たっての基本指針を明らかにした最高裁判決紹介

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令和 4年12月15日(木):初稿
○遺言内容が、大雑把な表現で、遺言として有効かどうかの質問を受け、遺言条項の解釈について裁判例を探しました。

○遺言の解釈に当たつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するに当たつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文書を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当であるとの基本的指針を明らかにした昭和58年3月18日最高裁判決(判タ 496号80頁、判時1075号115頁)全文を紹介します。

○最高裁は、上記指針に基づき、被相続人の遺産の一部である不動産を妻に遺贈する旨の条項に続いて妻が死亡後は被相続人の弟等がこれを一定の割合で分割所有する旨の条項が記載されている遺言書について、妻に対する条項のみを法的に意味のあるものとし弟等に対する条項は被相続人の希望を述べたにすぎないものであるとした原審の判断には違法があるとして、これを破棄し、差し戻しました。

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主  文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理  由
 上告代理人○○○○の上告理由について
一 上告人らが本訴において主張するところは、
(一) 主位的請求原因として、
(1)訴外柘植A(以下単に「A」という。)は、昭和49年3月7日に自筆の遺言書(以下「本件遺言書」という。)を作成し、昭和51年10月17日に一部字句の訂正をした、
(2)Aは、本件遺言書において、妻である被上告人の死亡を停止条件として、弟妹である上告人柘植静枝及び同柘植三郎に対し第一審判決別紙目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)の持分各10分の1、同柘植隼太に対し同持分20分の3をそれぞれ遺贈する旨の遺言をした、
(3)そして、Aは昭和51年12月24日に死亡し、右のとおり遺贈の効力が生じた、
(4)しかるに、被上告人は、Aから本件不動産の単純遺贈を受けたものとして、本件不動産につき長崎地方法務局時津出張所昭和52年6月13日受付第6118号をもつて遺贈を原因とする自己単独名義の所有権移転登記を経由した、
(5)よつて、上告人らは、被上告人との間において、上告人らがAから前記のとおりの遺贈を受けたことの確認を求めるとともに、被上告人に対し、右登記の抹消登記手続を求める、というのであり、

(二) 予備的請求原因として、
(1)Aの遺言のうち本件不動産の遺贈に関する部分は、内容が不明確であつて、遺言者Aの真意を把握することができないから無効である、
(2)よつて、上告人らは、被上告人との間において、右遺言部分が無効であることの確認を求める、
というのである。

二 原審は、上告人らの右主張について判断するにあたり、
(1)Aが本件遺言書により遺言をしたこと、
(2)Aが昭和51年12月24日に死亡したこと、
(3)本件遺言書に、Aの遺産の一部である本件不動産について、「被告人にこれを遺贈する。」(以下「第一次遺贈の条項」という。)とあり、続いて、「被上告人の死亡後は、上告人静枝二、訴外柘植八郎二、上告人三郎二、同隼太三、訴外馬場五郎三、同高野九州男三、同高野多美子三、同高野芳子二の割合で権利分割所有す。但し、右の者らが死亡したときは、その相続人が権利を継承す。」(以下「第二次遺贈の条項」という。)と記載されていること、以上の事実を確定したうえ、右事実に基づいて、

(1)本件遺贈は、一般に「後継ぎ遺贈」といわれるものであつて、第一次受遺者の遺贈利益が、第二次受遺者の生存中に第一次受遺者が死亡することを停止条件として第二次受遺者に移転する、という特殊な遺贈である、
(2)ところで、この種の遺贈は、受遺者に一定の債務を負担させる負担付遺贈とも異なり、現行法上これを律すべき明文の規定がない、
(3)そのため、右遺贈を有効とした場合には、第一次受遺者の受ける遺贈利益の内容が定かではなく、また、第一次受遺者、第二次受遺者及び第三者の相互間における法律関係を明確にすることができず、実際上複雑な紛争を生ぜしめるおそれがある、
(4)関係者相互間の法律関係を律する明文の規定を設けていない現行法のもとにおいては、第二次受遺者の遺贈利益については法的保護が与えられていないものと解すべきである、
(5)したがつて、上告人らに対する第二次遺贈の条項は、Aの希望を述べたにすぎないものというべきであり、また、被上告人に対する第一次遺贈の条項は、これとは別個独立の通常の遺贈として有効である、と判示した。

三 しかしながら、右判断は、にわかに是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。

 しかるに、原審は、本件遺言書の中から第一次遺贈及び第二次遺贈の各条項のみを抽出して、「後継ぎ遺贈」という類型にあてはめ、本件遺贈の趣旨を前記のとおり解釈するにすぎない。ところで、記録に徴すれば、本件遺言書は甲第1号証(検認調書謄本)に添付された遺言状と題する書面であり、その内容は上告理由書第1、1に引用されているとおりであることが窺われるのであつて、同遺言書には、

(1)第一次遺贈の条項の前に、Aが経営してきた合資会社柘植材木店のAなきあとの経営に関する条項、被上告人に対する生活保障に関する条項及び馬場五郎及び被上告人に対する本件不動産以外の財産の遺贈に関する条項などが記載されていること、
(2)ついで、本件不動産は右会社の経営中は置場として必要であるから一応そのままにして、と記載されたうえ、第二次遺贈の条項が記載されていること、
(3)続いて、本件不動産は換金でき難いため、右会社に賃貸しその収入を第二次遺贈の条項記載の割合で上告人らその他が取得するものとする旨記載されていること、
(4)更に、形見分けのことなどが記載されたあとに、被上告人が一括して遺贈を受けたことにした方が租税の負担が著しく軽くなるときには、被上告人が全部(又は一部)を相続したことにし、その後に前記の割合で分割するということにしても差し支えない旨記載されていることが明らかである。

右遺言書の記載によれば、Aの真意とするところは、第一次遺贈の条項は被上告人に対する単純遺贈であつて、第二次遺贈の条項はAの単なる希望を述べたにすぎないと解する余地もないではないが、本件遺言書による被上告人に対する遺贈につき遺贈の目的の一部である本件不動産の所有権を上告人らに対して移転すべき債務を被上告人に負担させた負担付遺贈であると解するか、また、上告人らに対しては、被上告人死亡時に本件不動産の所有権が被上告人に存するときには、その時点において本件不動産の所有権が上告人らに移転するとの趣旨の遺贈であると解するか、更には、被上告人は遺贈された本件不動産の処分を禁止され実質上は本件不動産に対する使用収益権を付与されたにすぎず、上告人らに対する被上告人の死亡を不確定期限とする遺贈であると解するか、の各余地も十分にありうるのである。

原審としては、本件遺言書の全記載、本件遺言書作成当時の事情などをも考慮して、本件遺贈の趣旨を明らかにすべきであつたといわなければならない。

四 以上によれば、前記原審認定の事実のみに基づき原審が判示するような解釈のもとに、被上告人に対する遺贈は通常のものであり、上告人らに対する遺贈はAの単なる希望を述べたものにすぎないものである旨判断した原判決には、遺贈に関する法令の解釈適用を誤つた違法があるか、又は審理不尽の違法があるものといわざるをえず、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、右の点について更に審理を尽くす必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である
 よつて、民訴法407条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (鹽野宜慶 木下忠良 宮﨑梧一 大橋進 牧圭次)
以上:3,595文字

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