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特別縁故者財産分与申立後申立人相続人への分与等認定家裁審判紹介

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令和 4年10月27日(木):初稿
○被相続人の叔父Jが、財産分与申立をした後に、死亡し、その共同相続人の妻と子3名が手続を受継した第1事件と、被相続人の従姉妹Eが申し立てた第2事件について、判断した令和3年3月29日山口家裁周南支部審判(判時2527号○頁)全文を紹介します。

○事案概要は以下の通りです。
・被相続人父Gが昭和48年、母Hが平成30年、兄Iが平成20年に死去し、相続人無くして平成30年(母Hより後)死去
・母Hの弟の叔父Jが申立後死去し、妻と子3名が手続受継
・母Hの妹Kの子E(従兄妹)が申立


○審判は、第1事件申立人叔父Jと第2事件申立人Eは,被相続人との間に具体的,現実的な縁故関係があり,相続財産を分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度の特別の関係があったと認められ,「被相続人と特別の縁故があった者」(民法958条の3第1項)に当たると判断した上で,申立て後,死亡した者が特別縁故者に該当する場合であっても,その相続人に相続財産を分与することの相当性は,諸事情を勘案して判断することが相当であり,各相続人に分与する財産の割合も必ずしも法定相続分に従う必要はないとしました。

○具体的には第1事件は、Jの妻Aに45万円、被相続人の永代供養を行うことを表明している長男Bに335万円、二男・三男に各15万円とし、第2事件申立人Eには不動産・火災保険と400万円の分与を認めました。Eは財産分与認定を停止条件として分与財産一部を被相続人及びその家族との関係が親密であったLQ夫婦に贈与する契約が成立していることを考慮されたいと主張しましたが、これは認められませんでした。

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主   文
1 被相続人の相続財産から第1事件申立人Aに対し金45万円を,第1事件申立人Bに対し金335万円を,第1事件申立人Cに対し金15万円を,第1事件申立人Dに対し金15万円をそれぞれ分与する。
2 第2事件申立人に対し,被相続人の相続財産から別紙「財産目録」記載1の不動産全部及び3の保険並びに金400万円を分与する。
3 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣

1 第1事件
第1事件申立人らに対し,被相続人の相続財産を分与する。
2 第2事件
第2事件申立人に対し,被相続人の相続財産を分与する。

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所の事実の調査結果
によれば,次の事実が認められる。
(1) 被相続人及び当事者等の親族関係
ア 被相続人(昭和34年○○月○○日生)は,婚姻歴がなく,子ももうけなかった。その父であるGは昭和48年○○月に,その母であるHも平成30年○○月にそれぞれ死亡した。唯一のきょうだいで,兄(ただし,被相続人とは双子で,同一日に出生した。)であるIも婚姻したり,子をもうけたりすることなく,平成20年○○月に死亡した(以下,父Gは「父G」と,母Hは「母H」と,Iは「兄I」とそれぞれいう。)

イ J(昭和19年○○月生。以下「J」という。)は,母Hの弟であり,被相続人の叔父に当たる。

ウ 第2事件申立人(昭和54年○○月生)は,母Hの姉妹(K)の子であり,被相続人の従姉妹に当たる。第2事件申立人の母Kは,平成30年に死亡している。

エ L(昭和17年○○月生。以下「L」という。)は,母H及びJのきょうだいで,兄I及び被相続人の伯父に当たる。

(2) 被相続人の生活及び当事者等との交際の状況
ア 母Hは,昭和32年,父Gと婚姻した後もしばらくの間,父GとともにM市での実家(借家)での生活を継続し,兄I及び被相続人も出生後,同実家で生活していた。当時,中学生であったJは,母Hが作った重湯を飲ませるなどして兄I及び被相続人の育児を手伝っていた。

イ 父G,母H,兄I及び被相続人は,兄I及び被相続人が3歳くらいのころに近くの借家を借りて,転居した。その後は,Jと被相続人の交流もあまりなくなったが,時折会って食事をともにすることはあった。Jと母Hとの間でもJが母Hを見舞うなど,一定の交際は続いており,母Hが,自分亡き後の被相続人のことをJに頼みたいという旨をいうこともあった。Jは,兄I及び母Hの葬儀にも参列し,母Hの葬儀の際には,喪主である被相続人に冗談のように「僕の時はおじさんよろしくお願いします」と言われた。

ウ Lは,N県内に居住していたが,母H,兄I及び被相続人からなる家族とは親しく交流しており,兄Iを自己の経営する会社で雇用する,いろいろと相談に乗る,兄Iが同県内で死亡した際は,葬儀,相続手続,保険金受領及び兄Iの遺産や生命保険金を元手とした母HによるO市内での住居購入(平成21年。この際,住居とするために購入された不動産は,別紙「財産目録」記載1の各不動産であり,一括して「本件住居」という。)を取り計らう,時にはO県まで出向く,相談に乗るなどの援助を行うこともあった。

エ 第2事件申立人が昭和54年に出生した当時,母H及び被相続人は,第2事件申立人の住居の近隣に居住していた。第2事件申立人は,平成11年に婚姻により転居するまでの間,近隣に住む被相続人と交流があり,第2事件申立人は被相続人を「お兄ちゃん」と呼び,被相続人は幼少の第2事件申立人の世話をよくしていた。ただ,兄Iとは,兄Iが既にN県内に転居していたため,会ったこともなかった。その後,母H及び被相続人は,平成21年に購入した本件住居に転居した(前記ウ参照)。そのころ,被相続人は,第2事件申立人に対し,「自分は結婚しないし,母Hが死亡したらお前にやる」という旨を言われたことがあった。母H及び被相続人の上記転居の前後を通じて交際や生活上の協力関係は続いており,例えば,母Hや被相続人が第2事件申立人を訪ねる,第2事件申立人が母Hを買物やドライブに連れて行く,第2事件申立人が母Hや被相続人を訪ねるなどということがあった。

オ 平成27年ころ,母Hは病気で入院し,退院できないまま,平成30年に死亡した。第2事件申立人は,入院中の母Hを見舞い,被相続人に頼まれて本件住居の合鍵を預かった。一人暮らしの被相続人のため食事を持って行ったこともあった。母Hの葬儀には第2事件申立人も参列した。被相続人も,一人暮らしになった以降,「第2事件申立人の子供にお菓子を買ったのでとりに来い」「Lからお歳暮が届いたのでとりに来い」という旨を連絡して,第2事件申立人を本件住居に呼び寄せて会話をするなど,第2事件申立人と月1回程度の面会の機会をもっていた。そのころ,第2事件申立人は,被相続人から本件住居につき「お前の家になるけえのう」と言われたことがあった。

カ 被相続人は,自らが契約者兼被保険者である平成16年2月契約の生命保険契約につき,死亡時の保険金受取人を母Hとしていたが,平成30年○○月○○日,死亡時の保険金受取人を第2事件申立人に変更した。保険金受取人変更前から連絡先として第2事件申立人の氏名,住所及び電話番号を届け出ていた。

その後,被相続人の死亡に伴い第2事件申立人は保険金1256万2356円を受領した。(前記エ,オの被相続人の第2事件申立人に本件住居を譲るかのような被相続人の発言は第2事件申立人の陳述以外の証拠資料がないが,被相続人が第2事件申立人を保険金受取人と変更し,保険金の金額も葬儀や供養といった最低限の後事のために要する金額を明らかに超えていること,本件住居のような不動産は家産として重視されることが多く,被相続人が親密な血縁者に承継させようとすることは自然といえることに照らすと,第2事件申立人に財産を残そうとする被相続人の意思が推認でき,この意思に整合する第2事件申立人の上記陳述内容は信用できると認められる。)

(3) 被相続人の死亡
ア 被相続人は,母Hから相続した本件住居(ただし,被相続人の生前には相続登記はされず,母H名義のままであった。)で一人暮らしをしていたが,平成30年○○月○○日,勤務先に出勤してこないため,警察が通報を受けて,本件住居の内部を確認したところ,既に死亡している被相続人を発見した。死亡の日時は,同月○○日午後と推定された。被相続人は,特に健康上の問題を指摘されておらず,前触れのない突然の死亡であった。

イ 警察は,前同月○○日,第2事件申立人に被相続人の死亡を連絡した。Jは,第2事件申立人から連絡を受けて,被相続人の葬儀の手配を引き受け,その費用も立て替えた。そのほか,未払の医療費,各種手続の費用等も立て替えた。Jの妻A及び第2事件申立人も葬儀等に参列した。

(4) 相続財産管理人選任後の経過
ア Jは,被相続人は,法定相続人となるべき者がいなかったため(前記(1)ア参照),平成30年11月,被相続人の相続財産管理人選任を申し立て(山口家庭裁判所周南支部平成30年(家)第5068号相続財産管理人選任申立事件),予納金50万3775円も納付し,山口家庭裁判所周南支部は,相続財産管理人を選任した。J納付の予納金は,相続財産管理人選任の官報公告費用3775円のみ使用され,その余の50万円は,令和2年3月に還付された。公告による相続債権者受遺者への請求申出の催告を経て,相続人捜索の公告もなされたが(山口家庭裁判所周南支部令和元年(家)第5043号相続人捜索の公告申立事件),期間満了日である令和2年2月17日までにその権利を主張する者がいなかった。

イ Jは,令和2年2月28日,第1事件を申し立てた。Jは,P家の墓じまいや永代供養のために必要となる費用300万円程度の分与を希望していた。自宅不動産を所有していない第2事件申立人のため,本件住居及び建物の改修費用を第2事件申立人に分与することも希望していた。

ウ 第2事件申立人は,令和2年4月15日,第2事件を申し立てた。第2事件申立人は,自宅不動産を所有していないため,本件住居及びその建物の改修費用の分与を受けることを希望していた。ただし,その後,相続財産全部の分与を希望する旨に希望を変更している。

エ 被相続人の主な遺産は,本件住居,現金及び預貯金であった。相続財産管理人は,預貯金の整理,債務支払等の清算を行い,この中でJに対する葬儀費用その他の立替金(前記(3)イ)を償還するため,Jに対し,Jが預かっていた被相続人の所持金及び香典を控除した残額47万3912円を支払った。また,相続財産管理人は,本件住居のため,火災保険(保険期間は令和2年7月3日午前11時から令和3年7月3日午後4時まで)に加入した。令和2年8月17日現在の相続財産の状況は,別紙「財産目録」のとおりであって(ただし,本件不動産に係る「固定資産評価額」は平成30年の固定資産税評価額であり,保険の「金額」は火災等があったときの支払限度額である。),固定資産税評価額合計722万円程度の本件住居,これに附属する火災保険及び3614万円程度の預金からなる。相続財産管理人の報酬は未精算であり,今後も管理費用追加支出の可能性がある。

オ 本件住居は,昭和48年新築の鉄骨造りの建物であるが,建築基準法上の接道要件の関係で,建替えに困難がある。本件住居を改修するために要する金額は工事費用241万1869円,残置された家財道具の廃棄費用22万円及び庭木の処理及び切断の費用2万9700円で,合計266万1569円程度と見積もられている。

カ Jは,令和2年○○月○○日死亡した。そのため,Jの共同相続人(妻及び子ら)である第1事件申立人らは,令和3年3月15日,第1事件の手続を受継した。〔なお,このように特別縁故者に対する相続財産分与を申し立てた者が,申立て後,死亡したときは,その者の相続人は,その者の申立人としての地位を承継して財産の分与を求めうると解される。ただし,特別縁故者に対する相続財産の分与は,特別縁故者その人に対するものであっても,家庭裁判所が「相当と認めるとき」(民法958条の3第1項)に限り行われるべきものであるから,申立て後,死亡した者が特別縁故者に該当する場合であっても,その相続人に相続財産を分与することの相当性は,被相続人と死亡した特別縁故者の相続人との間及び死亡した特別縁故者とその相続人との間の関係,申立て後,死亡した者が特別縁故者と認められる事情に対するその相続人の関わりの有無,程度等の諸事情も勘案して判断することが相当であって,各相続人に分与する財産の割合も必ずしも法定相続分に従う必要はないというべきである。〕

キ 第1事件申立人らは,特別縁故者に対する相続財産分与の申立てにつき,Jの生前の希望(前記イ)と同様の意向を有しており,相応の金額の分与を受けたときは,第1事件申立人B(J及び第1事件申立人A夫婦の娘である第1事件申立人Cの夫で,J及び第1事件申立人A夫婦の養子でもある。)において,墓じまい,永代供養等,被相続人及びその家族の供養のための費用に充てることを予定している。

ク 第2事件申立人は,令和3年2月10日,L及びその妻であるQ(以下「Q」という。)との間で,第2事件において,第2事件申立人に対する相続財産の分与審判が確定することを停止条件として,第2事件申立人から分与審判で分与された財産総額から弁護士費用,相続税相当額,不動産の固定資産税評価額及び建物リフォーム費用240万円を控除した残額の15パーセントをL及びQに対しそれぞれ贈与する旨の書面による贈与契約を締結した。この贈与契約では,その趣旨として,L及びQの被相続人,母H及び兄Iに対する支援,被相続人の遺産に対する貢献などを考慮し,L及びQが既に申立期間(民法958条の3第2項)経過のため,特別縁故者に対する相続財産分与の申立てができないことを実質的に補填する意味もあるという旨がうたわれている。

2 前記1の認定事実を総合して検討すると,J及び第2事件申立人は親戚として被相続人やその家族と交際や生活上の協力関係があったものであり(前記1(1),(2)),かなり以前の過去の時期ではあるが,同じ,又は近隣の建物に居住し,相当に親密な交際や生活上の協力関係のあった時期もあった。

被相続人の生前の意向を見ても,身寄りのない自分が死亡した後の後事や財産をJや第2事件申立人に託そうとする意向を示す言動が認められ,被相続人とJ及び第2事件申立人との間で,そのような意向を生じるような信頼関係とこれを形成させたに至る親密な交際や生活上の協力関係があったことがうかがえる。Jは,被相続人死亡後の葬儀等にも尽力し,今後も被相続人らP家の供養を行う意向であった(前記1(3)イ,(4)イ)。

 以上の事情を総合すると,J及び第2事件申立人は,被相続人との間に具体的,現実的な縁故関係があり,相続財産を分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度の特別の関係があったと認められ,「被相続人と特別の縁故があった者」(民法958条の3第1項)に当たる。


3 ただ,J及び第2事件申立人が被相続人と生計を同一にしていた時期はなく,Jが幼少時の被相続人の世話をしたことを除けば,被相続人の療養監護に努めたともいえない。前記2で認定した交際や生活上の協力関係の程度も,通常の親戚付き合いの程度を顕著に超えるものとまではいえない。

被相続人の相続財産はかなり多額であるが,母H及び兄Iから受け継ぎ,又はともに維持・形成してきたものと推察され,それ以外の親族に資産維持・形成における特別な寄与があったことは明らかでないこと,Lも被相続人及びその家族との関係は親密であったこと(前記1(2)ウ,オ,(4)ク)も指摘できる。第2事件申立人の被相続人との交際や生活上の協力関係の程度は,Jと比較しても,やや緊密であったといえるが,既に被相続人の財産からの出捐に由来して多額の保険金を受領していることも考慮する必要がある(前記1(2)カ)。

 なお,第2事件申立人がL及びQとの間で停止条件付き贈与契約を締結していること(前記1(4)ク)は,第2事件申立人が本審判で分与される財産を独り占めするのではなく,被相続人及びその家族との関係が親密であったL及びその妻Qとも分かち合おうとしていることを示すから,分与の相当性をより基礎付けるものといえる。

ただし,L及びQは,自身では申立期間内(民法958条の3第2項)に特別縁故者に対する相続財産の分与を申し立てていないから特別縁故者として相続財産の分与を受ける余地がない者であり,第2事件申立人と停止条件付きの贈与契約を結ぶことで,いわば第2事件申立人を介して,申立期間の制限を超えて実質的に相続財産の分与を受けるような結果をもたらすことは申立期間の制限の潜脱となって相当でないから,L及びQと被相続人との間の交流や関係を第2事件申立人のそれと同視したり,第2事件申立人に対する分与にL及びQが期間内に申し立てをすれば分与を受けられたであろう財産の額を上乗せしたりすべきではない。

4 以上の認定判断を総合すると,第1事件に関してはJが分与を受ける財産を用いて被相続人らP家の墓じまいや永代供養を行おうとしており,第1事件申立人Bがこの遺志を引き継いで墓じまいや永代供養を行う予定であること(前記1(4)イ,キ)に照らし,そのために必要な費用及び尽力に対応する分として,まず第1事件申立人Bに対し320万円を分与することとし,さらに被相続人の生前及び死後におけるJによる尽力に対する謝礼の趣旨も勘案して90万円を分与して,Jの相続人である第1事件申立人らの法定相続分に応じて,これを分配することが相当である(第1事件申立人Aは45万円,その余の第1事件申立人らは各15万円)。

 第2事件に関しては,被相続人の生前の意向(前記1(2)エ,オ)及び第2事件申立人の希望(前記1(4)ウ)を考慮して,本件住居に係る不動産である別紙「財産目録」記載1の不動産及びこれに附属する火災保険である同記載3の保険に加え,本件住居の改修を行うための費用として必要な金額及び被相続人の生前及び死後における第2事件申立人による尽力に対する謝礼の趣旨も勘案して400万円を分与することが相当である。

5 よって,相続財産管理人Rの意見を聴いた上,主文のとおり審判する。
 山口家庭裁判所周南支部 (裁判官 若松光晴)
以上:7,498文字

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