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相続させる遺言と異なる遺産分割協議を有効とした地裁判決紹介

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令和 4年 9月30日(金):初稿
○特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言が残されたとしても、相続人間において、この遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないとした平成14年2月7日さいたま地裁判決(裁判所ウェブサイト)関連部分を紹介します。


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主   文
1 被告は,原告らに対し,金539万6300円及びこれに対する平成13年11月9日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し,その9を原告らの負担とし,その1を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 
 
事実及び理由

第1 請求

1 被告は,原告らに対し,別紙物件目録4ないし6記載の各建物を収去し,別紙物件目録3記載の土地を明け渡せ。
2 被告は,原告らに対し,別紙物件目録1及び2記載の土地を引き渡せ。
3 主文1項同旨(遅延損害金起算日は平成13年10月11日付け準備書面送達日の翌日)。
4 訴訟費用の被告負担。
5 仮執行宣言

第2 事案の概要
1 原告らと被告間の別紙物件目録1ないし3記載の土地(以下「本件土地」という。)に関する賃貸借契約について,本件土地の公租公課を被告が負担する約定が存在するところ,原告らは,被告がこれに違反したため,契約を解除したと主張して,本件土地上の被告所有の同目録4ないし6記載の建物の収去及び本件土地の明渡し,並びに被告の負担すべき公租公課の支払いを請求している。他方被告は,本件土地の所有者は原告Aだけであり,その余の原告らは所有権を有していない。また,被告には債務不履行はない。あるとしても信頼関係が破壊されたとはいえない特段の事情が存在する等と主張して契約解除の効力を争っている。

2 証拠上明らかな事実(争いのない事実を含む。)

         (中略)

3 争点と当事者の主張
(1) 第1の争点は,原告A以外の原告らが本件土地の所有者であるか否か,すなわち,同原告らの所有権は,本件遺産分割に基づくものであるところ,その内容は本件遺言に反するものであることから,本件遺産分割が有効か否か問題となる。
(被告)
 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言があった場合には,特段の事情のない限り,当該遺産を当該相続人に単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものであり,なんらの行為を要せず当該遺産の所有権は当該相続人に移転(承継)される(最判平成3年4月19日第2小法廷)から,かかる遺言に他の相続人も拘束され,相続人間でこれに反する遺産分割を行う余地はない。したがって、本件遺言に反した本件遺産分割は無効であり,原告A以外の原告らは本件土地の所有権を取得しない。

(原告ら)
 本件遺言が遺産分割方法の指定であるとしても,指定を受けた相続人が,自らの意思で,その遺産に関する権利を放棄することは可能であり,被告引用の判例も,その趣旨まで否定するものではない。遺贈の放棄(民法986条)に準じて,当該相続人は,遺言の利益を放棄できると解すべきである。したがって、本件では,原告Aは,本件遺言の内容を理解したうえで,その利益を放棄し,かつその余の原告らと本件土地の取得関係につき協議をしたものであるから,本件遺産分割は有効である。

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件遺産分割の効力)について

(1) 特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合には,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該不動産は当該相続人に相続により承継される。そのような遺言がなされた場合の遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、上記の協議又は審判を経る余地はない。以上が判例の趣旨である(最判平成3年4月19日第2小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。

しかしながら,このような遺言をする被相続人(遺言者)の通常の意思は,相続をめぐって相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから,これと異なる内容の遺産分割が全相続人によって協議されたとしても,直ちに被相続人の意思に反するとはいえない。被相続人が遺言でこれと異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別,そうでなければ,被相続人による拘束を全相続人にまで及ぼす必要はなく,むしろ全相続人の意思が一致するなら,遺産を承継する当事者たる相続人間の意思を尊重することが妥当である。

法的には,一旦は遺言内容に沿った遺産の帰属が決まるものではあるが,このような遺産分割は,相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能であるし,その効果についても通常の遺産分割と同様の取り扱いを認めることが実態に即して簡明である。また従前から遺言があっても,全相続人によってこれと異なる遺産分割協議は実際に多く行われていたのであり,ただ事案によって遺産分割協議が難航している実状もあることから,前記判例は,その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から,これを不要としたのであって,相続人間において,遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず,その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである。

(2) 本件においては,本件土地を含むDの遺産につき,原告ら全ての相続人間において,本件遺言と異なる分割協議がなされたものであるところ,Dが遺言に反する遺産分割を禁じている等の特段の事情を認めうる証拠はなく,原告らの中に本件遺産分割に異議を述べる者はいない上,被告は本件遺産分割については,第3者の地位にあり,その効力が直ちに被告の法的地位を決定するものでもないことを考慮すると,本件遺産分割の効力を否定することはできず,本件土地は原告らの共有に属すると認められる。被告の主張は採用できない。

2 争点2(被告の債務不履行)について

         (中略)


4 結論
 原告らの本訴請求は,539万6300円及びこれに対する平成13年11月9日から完済に至るまで年5分の割合による金員の支払を求める(被告は支払義務があることを争わない。)限度で理由があり,その余の請求は理由がない。
 よって,主文のとおり判決する。 (裁判官 永井崇志)
 
以上:2,747文字

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