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不動産売主なりすまし詐欺加担責任巨額損害賠償を弁護士に命じた判例紹介3

平成29年 7月13日:初稿
○「不動産売主なりすまし詐欺加担責任巨額損害賠償を弁護士に命じた判例紹介2」を続けます。
この平成28年11月29日東京地裁判決(金法2067号81頁)の裁判所判断部分2回目です。



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(9) 本件売買契約書の調印等
ア 平成26年2月26日午後2時頃,本件売買契約を締結するため,被告の事務所があるビルの地下にある会議室に,本件不動産の売主側関係者として自称B,被告及びF,買主側関係者として原告,G及び原告補助参加人,媒介業者としてI,コフジインテグレーション社と付き合いのある弁護士であるLなど,合計約10名が集まった。(証人G,被告本人)

イ 原告と自称Bは,前記アの日時において,Iから重要事項説明を受けた上で,本件売買契約書に署名押印した。(甲1,39)

ウ 被告は,作成済みの平成26年2月26日付けの本人確認情報は持参していたが,本人確認情報の提供によって登記申請をするに当たり,提供者が資格者代理人であることを証するために弁護士会が発行した職印に関する証明書を添付する必要があったところ(不動産登記法23条4項1号,不動産登記規則72条3項,不動産登記事務取扱手続準則49条2項2号),同証明書を持参していなかったため,途中で調印の場から席を外し,弁護士会にこれを取得しに行った。

 また,本人確認情報を提供して登記申請を行う場合,その提供者は登記申請代理人である必要があるところ(不動産登記法23条4項1号),被告は登記義務者(売主)側の登記申請委任状を持参していなかった。そこで,被告が席を外している間に,まず,自称Bが,原告補助参加人が持参していた代理人及び委任者の欄が空白になっている登記申請委任状に署名押印し,その上で,原告補助参加人が同委任状の代理人欄に被告の事務所及び氏名を代筆した。

 さらに,原告補助参加人は,被告が弁護士会から戻った後に,代理人欄のみを空白にして作成してあった登記申請書の義務者代理人欄に被告の事務所及び氏名の記載されたゴム印並びに職印を押捺した。そして,被告は,本人確認情報に職印を押捺し,本件住基カードのカラーコピーを原告補助参加人に交付した上で,原告補助参加人が被告を登記申請代理人とする登記申請委任状及び登記申請書を作成したことを了承した。

 これによって,被告を登記義務者であるBの登記申請代理人,原告補助参加人を登記権利者である原告の登記申請代理人とする登記申請委任状及び登記申請書並びに本人確認情報が完成したため,原告補助参加人は,これらの書面を受け取るとともに,原告から,登記移転手続の費用として,現金309万7300円の支払を受けた。(甲4ないし10の1,甲11,12,19,証人Z,被告本人)


(10) 登記移転手続と代金支払
ア 前記(9)の後,被告は他の打合せをするために自らの事務所に戻り,原告補助参加人とIは,東京法務局港出張所に行って登記申請書その他必要書類を提出した。原告とGは,売買代金を準備するために城南信用金庫銀座支店に向かった。(証人Z,同G,被告本人)

イ 原告とGは,午後4時頃,城南信用金庫銀座支店において現金2億4000万円を支払う準備をしていたところ,原告補助参加人から,登記申請が無事に終了したと連絡を受けたため,Fに連絡し,代金を現金で支払うから同支店に来てほしいと伝えた。その後,Fから,自動車で同支店に到着したとの連絡があり,Gが1億円の入ったジュラルミンケース2個を,同支店の職員が4000万円の入った紙袋をそれぞれ持ち,同支店の駐車スペースに向かったところ,Fが自称Bを乗せて運転する自動車が到着したため,Gは,自称B(ただし,GにおいてはBであると認識していた。)が同乗していたことを確認の上,上記ジュラルミンケース2個と紙袋を同自動車のトランクに入れて,同支店の職員がジュラルミンケースを開錠し,その中からビニールパックでまとめられた現金2億円を出した上で,ジュラルミンケースのみをトランクの外に出すことにより,現金2億4000万円を引き渡した。(証人G,同K,同F,原告本人)

ウ 原告は,その後,城南信用金庫銀座支店において,預金口座から現金750万円を払い戻し,Iに対し,一般媒介契約の報酬として同額を支払った。(甲26,27,原告本人)

エ 被告は,平成26年2月27日,本人確認情報の作成及び売買契約締結の立会いに対するBからの報酬名目で,31万5000円の支払を受けた。(乙14)

(11) 成りすましの発覚及びそれに関する事情
ア Bは,遺産分割により取得した本件不動産を他に売却してEに代償金を支払う必要があったため,平成26年1月31日,本件不動産の売買契約を締結したところ,同年3月28日,買主である不動産会社が本件不動産の引渡しを受ける準備として本件不動産の登記簿を確認した際に,同年2月26日に本件所有権移転登記がされていることが発覚した。このため,Bは,同年3月31日,東京地方裁判所に本件不動産の処分禁止仮処分を申し立て,その旨の命令が出された。(甲2の1ないし9,甲3ないし16,乙23,24)

イ Bは,住民基本台帳カードの発行を受けたことはなく,本件不動産の登記識別情報通知を紛失せずに保有していた。また,Bが他の相続人との間で行った上記遺産分割協議は,Bが相続財産を全て相続する内容のものではなく,自称Bが被告に提示した本件遺産分割協議書の内容とは異なるものであった。さらに,本件所有権移転登記の際に法務局に提出するために自称Bが持参した印鑑登録証明書の印章は,Bが印鑑登録している印鑑の印章と異なるものであった。

 これらの事情から,被告がBの本人確認情報を作成するために提示を受けた本件住基カード,本件確認書及び本件遺産分割協議書並びに本件所有権移転登記の際に提出されたB名義の印鑑登録証明書は,全て偽造されたものであることが判明した。(甲2の1ないし9,甲3ないし16,43,乙2,3,24,弁論の全趣旨)

ウ 本件住基カードの記載上,Bの生年月日は昭和10年○月○日であるのに対し,被告がカラーコピーをした本件住基カードに付されたQRコードを読み取ると,生年月日が昭和17年○月△日であることを示す「17○△」との数字を確認することができる。

 もっとも,住民基本台帳カードが導入されたのは平成15年8月25日であり,住民基本台帳カードにQRコードが導入されたのは平成21年4月20日であり,また,住民基本台帳カードの有効期限は10年であるから,平成26年2月26日の時点において発行されていた住民基本台帳カードには,QRコードが記載されているものと記載されていないものが存在していた。(甲10の1及び2,甲23,25の1及び2,乙16)

エ 本件遺産分割協議書には,被相続人であるCの死亡日が平成25年7月28日と記載されており,本件不動産の登記事項証明書に記載された相続開始日である平成25年2月28日と異なる。また,本件遺産分割協議書には,相続開始日が,本件遺産分割協議書の作成日と同じ日である平成25年12月10日と記載されている。(甲2の1ないし9,乙2)

オ Bの氏の読みは「△△」であるところ,被告が最初に自称Bに会った際,自称Bは,自らの氏を「□□」との読み方により名乗っており,Fも,同じ読み方で自称Bを紹介していた。(被告本人,弁論の全趣旨)

(12) 別件訴訟等
ア Bが,原告に対し,本件不動産の所有権移転登記抹消登記手続を求める訴えを提起したところ(東京地方裁判所平成26年(ワ)第7980号),平成27年10月27日,原告が被告に対して本件不動産の所有権移転登記について正当に登記を保持する権原がないことを認め,抹消登記手続をすることなどを内容とする和解が成立した。(甲40)

イ Gは,第二東京弁護士会に対し,自称Bの本人確認という事実関係の調査において必要とされる注意義務を怠ったことを理由に被告の懲戒請求をしたところ,同弁護士会が,平成27年10月26日,被告を懲戒しない旨の決定をしたため,さらに日本弁護士連合会に対して異議申出をしたが,日本弁護士連合会は,平成28年3月22日,同申出を棄却する決定をした。(乙16,27)

ウ 原告は,平成28年4月11日,自称BがBに成りすまして本件売買契約を締結し,原告から売買代金2億4000万円を騙取した行為が詐欺罪に該当するとして,被告訴人を,Bこと氏名不詳の者(自称B)として,刑事告訴した。(甲44)

2 争点(1)(不法行為の成否)
(1) 登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記を申請する等の場合で,不動産登記法第22条ただし書の規定により申請人が登記識別情報の提供をすることができないときにおいて,登記官は,登記義務者に対して当該申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料するときはその旨の申出をすべき旨の通知(事前通知)をしなければならないが(同法第23条1項),

 当該申請が登記の申請の代理を業とすることができる代理人(資格者代理人)によってされる場合であって,登記官が当該資格者代理人から当該申請人が登記義務者であることを確認するために必要な情報(本人確認情報)を受け,かつ,その内容を相当と認めるときには,上記事前通知を要しない(同条4項)。

 本人確認情報は,これを提供する資格者代理人が申請人の氏名を知らず,又は当該申請人と面識がないときは,資格者代理人が申請の権限を有する登記名義人であることを確認するために当該申請人から提示を受けた書類の内容及び当該申請人が申請の権限を有する登記名義人であると認めた理由を明らかにするものでなければならず,確認のために提示を受ける書類として,資格者代理人が提示を受ける日において有効な運転免許証や住民基本台帳カード等が定められており,運転免許証や住民基本台帳カードによる確認方法は,定められた書類のうちいずれか一以上の提示を求める方法による必要がある(不動産登記規則第72条1項3号,同条2項)。

(2) 本人確認情報に係る規定は不動産登記法及び不動産登記規則を根拠とするものであって,直ちに私法上の法律関係を規律するものではない。そして,契約の相手方の本人確認は,本来的には契約当事者がなすべきものである。しかし,登記手続に当たり,資格者代理人が,誤った登記義務者の本人確認情報を提供し,登記申請の委任を受けた場合,登記権利者において,資格者代理人が本人確認をして本人確認情報を提供し,登記申請の委任を受けているという事実に一定の信頼を寄せ,登記原因たる契約の締結に当たり,自らなすべき本人確認の一資料とすることは十分あり得ることであって,不合理なことではない。

 また,資格者代理人の制度は,直接的には登記義務者の権利を保護するものであるが,不動産登記制度は取引の安全を図ることを目的とするものであるから,当該登記を信頼して法律上の利害関係を有するに至った者も保護の対象に含まれると解すべきである。

 したがって,被告が,資格者代理人として本人確認情報を提供し,登記申請の委任を受けたという本件事実関係のもとにおいては,被告は,誤った本人確認をすることによって,原告が不測の損害を被る可能性があることについて,予見可能性を有し得る立場にあったとういうべきである。

(3) そこで,本件の具体的事実関係のもとにおいて上記予見可能性があったか否かを検討する。
ア 前記認定事実(3)イのとおり,被告は,自称Bが登記識別情報通知を紛失したとして本人確認情報の作成を依頼したのに対し,紛失した状況が不明であることから追加資料の提出を求めている。そして,証拠(乙2)によれば,自称Bが提出した本件遺産分割協議書の記載内容は,Hの死亡日が「平成44年9月17日」とされていること,相続開始日と被相続人の死亡日が異なっていること,上記相続開始日及び被相続人の死亡日がいずれも本件不動産の登記事項証明書に示された相続開始日(すなわち被相続人の死亡日)と異なっているという明らかに誤った内容を含むものであり(認定事実(11)エ),遺産分割協議の内容を正確に示すものではなく,そのままでは遺産分割協議に基づく登記申請に用いることができないことを容易に気付くことができる内容のものである。

 被告は,この点について,登記申請に先立ち法務局に確認したところ,上記のような誤記があった場合,窓口で補正する扱いが一般的であるという回答を受け,登記が完了しているのであるから申請の際には原本を補正して法務局に提出したのだろうと考えたと供述する。しかし,それだけでは,本件遺産分割協議書に誤った内容が記載されており,その訂正がされていないことについて合理的な説明になっていない。

 被告は,本件売買契約書の調印前に,自称Bに対し,本件遺産分割協議書の記載に誤りがあることを話したところ,自称Bが,「全部先生に任せてあるんで自分では分からない」と答えたと供述するが,それ以上の確認はしておらず,結局のところ,本件遺産分割協議書の誤記に関して調査,確認を何ら行ってないものと同然の状況にあるというほかはない。

イ 本件売買契約における決済は,最終的に,自称Bが現金で2億4000万円を受け取ることになったものであるところ,それ自体異例な決済方法であるし,昭和10年生まれで決済当時78歳の高齢であるはずの自称Bに上記のような多額の現金を交付することは,著しく安全を欠く行為といわざるを得ない。また,上記決済方法は,銀行振込による方法などと異なり,金銭が移動した痕跡が残らないものであり,成りすましによるものであった場合,その後の金銭の流れを調査することが著しく困難になる。

ウ 以上の事実関係を考慮すると,被告には,自称Bの本人確認において,成りすましによるものであることを疑うべき事情があったというべきであり,これによって原告が損害を被ることについての結果予見可能性があったものと認められる。


以上:5,793文字

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