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被害者の対自賠責保険会社直接請求権が国に優先するとした地裁判決紹介

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令和 5年 3月 8日(水):初稿
○Cが運転する普通乗用自動車が、原告が運転する原動機付自転車に正面衝突した交通事故により人的損害を被った原告が、普通乗用自動車を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の保険会社である被告に対し、自動車損害賠償保障法16条1項に基づき、保険金額の限度における約104万円の損害賠償額の支払請求権(直接請求権)を行使しました。

○労災保険給付は、損害の填補を目的とするものであるが、所得補償的機能も有しており、他の社会保険給付も損害額からの控除により損害填補の機能を果たしていることからすれば、損害填補の性格を強調して労災保険給付を他の社会保険給付と別異に取り扱う合理的な理由はなく、本件交通事故について原告が平成30年6月8日に行使した直接請求権に対する同年7月27日の本件支払において、被害者優先説は適用され、原告が労災保険給付を受けてもなお填補されない損害は、傷害につき、440万1977円であるから、原告は、国に優先して被告から保険金額の限度である120万円の支払を受けることができ、原告の被告に対する自賠法16条1項に基づく保険金額の限度における残約104万円の損害賠償額の支払請求は、理由があるとして、原告の請求を認容した令和2年11月2日大阪地裁判決(自保ジャーナル2086号165頁)関連部分を紹介します。

○この判決は控訴審でも維持されましたが、何と最高裁で覆されています。別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 被告は,原告に対し,103万9212円及びこれに対する令和元年8月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請

 主文同旨

第二 事案の概要
 本件は,平成28年1月5日午前6時10分頃,Cが運転する普通乗用自動車が,原告が運転する原動機付自転車に正面衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)により人的損害を被った原告が,前記普通乗用自動車を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の保険会社である被告に対し,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)16条1項に基づき,保険金額の限度における損害賠償額の支払請求権(以下「直接請求権」という。)を行使した事案である(附帯請求は,これに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの平成29年法律44号による改正前の民法所定の遅延損害金の支払請求である。)。

 被告は,原告の本件事故に係る損害額を傷害につき997万9262円と算定したものの,国が本件事故を第三者の行為によって生じた業務災害であるとして原告に対し労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき合計864万2146円の療養補償給付及び休業補償給付を行ったため,国が労災保険法12条の4第1項に基づき代位取得したとして,国に対し平成30年7月27日に自賠責保険の保険金額120万円のうち103万9212円(=約120万円×864万2146円/997万9262円)を支払い,原告に対し残16万0788円しか支払わなかった(いわゆる案分説。以下「本件支払」という。)。

 ところで,最高裁判所第一小法廷(民集72巻4号432頁)は,平成30年9月27日,交通事故の被害者が,労災保険法に基づく給付(以下「労災保険給付」という。)を受けてもなお填補されない損害について直接請求権を行使する場合は,他方で労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され,被害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険の保険金額を超えるときであっても,被害者は,国に優先して自賠責保険の保険会社から保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができるとの判決を言い渡した(いわゆる被害者優先説。以下「本件最高裁判決」という。)。

 そこで,被告は,本件最高裁判決の言渡の日までは案分説が「慣習」であったから,本件支払において被害者優先説は適用されない等と主張して,また,本件支払は,民法478条が適用又は類推適用されて有効であると主張して,原告の請求を争う。
 加えて,被告は,訴状送達の日の翌日当時,自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」が経過していないと主張して,遅延損害金の起算点も争う。

第三 当裁判所の判断
1 認定事実

 争いのない事実,証拠並びに弁論の全趣旨(略)によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告の直接請求権について
争いのない事実,証拠並びに弁論の全趣旨(略)によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告の直接請求権について
ア 本件事故(平成28年1月5日)は,Cが飲酒の上で運転する普通乗用自動車が,追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制に反し,かつ,交差点において,追越しをし,対向右折待ち停車中の原告が運転する原動機付自転車に正面衝突して,逃走したものである。

イ 原告(昭和18年○○月○○日生)は,本件事故により,q2センターに,左下腿デグロービング損傷・左脛腓骨開放骨折等の傷病名で,平成28年1月5日~2月16日・4月11日~5月13日の合計76日間,入院し,平成30年3月5日まで通院し(実54日),清掃員として勤務していた有限会社q3を休業した。なお,同日,左足関節の機能障害・左下腿遠位部の痺れと筋力低下等,左下肢の傷痕の障害を後遺し,前者は「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」(自賠法施行令別表二10級11号)に該当するものと,後者は同12級相当として,同併合9級と判断された。

ウ したがって,原告の人的損害額は,傷害につき,次の通り,合計1304万4123円と認められる。
(ア)治療費 833万9588円
(イ)入院雑費 11万4000円(=1500円/日×76日間)
(ウ)通院交通費 7,629円(=15円/キロメートル×2.6キロメートル×[退院1+入退院2+通院実54日×往復2]+駐車場代3300円)
(エ)装具レンタル費 5万2030円
(オ)休業損害 203万0876円(=約93万7130円/年÷365日×791日〔平成28年1月5日~平成30年3月5日〕)
(カ)入通院慰謝料 250万円(入通院期間,通院頻度,Cの飲酒運転・逃走等を考慮した。)
 なお,原告の人的損害額は,後遺障害につき,合計833万5351円(=逸失利益93万7130円/年×27%×6.4632〔平均余命の2分の1である8年間に対応するライプニッツ係数〕+後遺障害慰謝料670万円)と認められる。

(2)本件支払について
ア 国は,本件事故が第三者の行為によって生じた業務災害であるとして,原告に対し,療養保障給付及び休業補償給付として,合計864万2,146円の労災保険給付を行った。
 このことから,本件事故に係る原告の被告に対する直接請求権が,864万2146円の限度で国に移転した。原告も,平成28年2月16日,q4労働基準監督署長に対し,原告の被告に対する直接請求権を,政府が労災保険給付の価額の限度で取得することを承知する旨の念書を提出していた。
 したがって,原告が労災保険給付を受けてもなお填補されない本件事故に係る損害額は,傷害につき,440万1977円(=1304万4123円-864万2146円)である。

イ 本件事故当時,Cが運転していた普通乗用自動車について被告を保険会社とする自賠責保険の契約が締結されていた(争いがない)。
 本件事故に係る自賠責保険の保険金額は,傷害につき120万円と認められる。原告は,平成30年6月8日,国は,同年6月14日,被告に対し,直接請求をした。

 被告は,原告の人的損害を997万9262円と判断し,同年7月20日,原告に対し,傷害につき,本件事故に係る自賠責保険の保険金額のうち16万0788円(=120万円-103万9212円)を支払い,同年7月27日,国に対し,103万9212円(=約120万円×864万2146円/997万9262円)を支払った(本件支払。案分説)。
 なお,被告は,原告に対し,同年7月20日,後遺障害につき,本件事故に係る自賠責保険の保険金額である616万円を支払った(争いがない)。

ウ Cは,原告に対し,合計205万円(平成28年2月29日に100万円,同年4月15日に40万円,同年5月26日に60万円,同年9月8日に5万円)を賠償した。

エ 原告は,平成30年10月17日,被告に対し,本件支払に関し,異議申立をしたものの,被告は,同年11月7日付けで,本件支払を妥当なものと判断したため,原告は,令和元年8月7日,本件訴えを提起し,訴状副本は,同年8月14日,被告に送達された。

         (中略)


(4)本件最高裁判決について(顕著な事実)
ア 平成25年9月8日に発生した交通事故の被害者は,平成26年10月31日まで治療を受け,複数の障害を後遺したところ,国が,この交通事故を第三者の行為によって生じた業務災害であるとして,この被害者に対し,労災保険法に基づき保険給付を行ったものの,なお填補されない損害額が,自賠責保険の保険金額を超えて存在したため,平成27年2月,この加害車両を被保険自動車とする自賠責保険の保険会社であるq5保険会社に対し,直接請求権を行使する訴えを提起した。

イ 東京地方裁判所は,平成28年8月29日,被害者の直接請求権と社会保険者が代位取得した直接請求権が競合する場合の相互の関係について,被害者優先説を採る旨の判決を言い渡し,東京高等裁判所も,平成28年12月22日,同旨の判決を言い渡した。
 これらの判決は,本件最高裁判決の言渡しに伴って,公刊された。

ウ 本件最高裁判決は,平成30年9月27日,被害者優先説を採る旨の判決を言い渡した。
 その理由は,次の通りである。
「(1)自賠法16条1項は,同法3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときに,被害者は少なくとも自賠責保険金額の限度では確実に損害の填補を受けられることにしてその保護を図るものであるから(同法1条参照),被害者において,その未填補損害の額が自賠責保険金額を超えるにもかかわらず,自賠責保険金額全額について支払を受けられないという結果が生ずることは,同法16条1項の趣旨に沿わないものというべきである。

(2)労災保険法12条の4第1項は,第三者の行為によって生じた事故について労災保険給付が行われた場合には,その給付の価額の限度で,受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権は国に移転するものとしている。同項が設けられたのは,労災保険給付によって受給権者の損害の一部が填補される結果となった場合に,受給権者において填補された損害の賠償を重ねて第三者に請求することを許すべきではないし,他方,損害賠償責任を負う第三者も,填補された損害について賠償義務を免れる理由はないことによるものと解される。労働者の負傷等に対して迅速かつ公正な保護をするため必要な保険給付を行うなどの同法の目的に照らせば,政府が行った労災保険給付の価額を国に移転した損害賠償請求権によって賄うことが,同項の主たる目的であるとは解されない。したがって,同項により国に移転した直接請求権が行使されることによって,被害者の未填補損害についての直接請求権の行使が妨げられる結果が生ずることは,同項の趣旨にも沿わないものというべきである。」

2 主たる請求について
(1)当裁判所の判断
 前記1(3)エの最高裁判所第三小法廷平成20年2月19日判決は,〔1〕交通事故の被害者において,未填補損害額が自賠責保険金額を超えるにもかかわらず,自賠責保険金額全額について支払を受けられないという結果が生ずることは,直接請求権の趣旨に沿わないこと,〔2〕保険者が代位取得した直接請求権を行使することによって,被害者の未填補損害額についての直接請求権の行使が妨げられる結果が生ずることは,代位取得の趣旨に沿わないことを指摘して,老人保健法に基づく医療の給付について,被害者優先説を採用するべきことを判示したものである。労災保険給付について,前記〔1〕の点は当然,前記〔2〕の点も,異なるものではなかった。

 確かに,労災保険給付は,損害の填補を目的とするものである(前記最高裁判所第三小法廷平成20年2月19日判決は,医療の給付が社会保障の性格を有する公的給付であり,損害の填補を目的として行われるものではないことも理由として指摘していた。)。しかし,労災保険給付は,所得補償的機能も有しており,一方,他の社会保険給付も損害額からの控除により損害填補の機能を果たしていることからすれば,損害填補の性格を強調して労災保険給付を他の社会保険給付と別異に取り扱う合理的な理由はなかった。

 以上からすれば,平成28年1月5日に発生した交通事故について原告が平成30年6月8日に行使した直接請求権に対する同年7月27日の本件支払において、被害者優先説は適用される。
 したがって,原告が労災保険給付を受けてもなお填補されない損害は,前記1(2)アの通り,傷害につき,440万1977円であるから,原告は,国に優先して被告から保険金額の限度である120万円の支払を受けることができる。 
 よって,原告の被告に対する自賠法16条1項に基づく保険金額の限度における残103万9212円の損害賠償額の支払請求は,理由がある。

(2)被告の主張
ア 被告は,案分説が,本件最高裁判決言渡の平成30年9月27日まで,「慣習」であったと主張する。
 しかし,案分説が「慣習」であったかどうかはともかく,前記(1)の通り,被害者優先説を採用した最高裁判所第三小法廷平成20年2月19日判決が言い渡されたこと,前記1(3)オ及びカ並びに(4)イの通り,平成20年6月6日公布・平成22年4月1日施行に係る保険法25条2項が,私保険においても,被害者優先説を採用したこと,前記最高裁判所第三小法廷平成20年2月19日判決の判例解説が平成23年12月10日発行され,労災保険給付においても,被害者優先説が妥当し得る等と言及されていたこと,本件最高裁判決の第1審及び原審が,それぞれ平成28年8月,同年12月,いずれも労災保険給付において被害者優先説を採用する判決を言い渡していたことからすれば,遅くとも本件支払の平成30年7月27日には,もはや前記1(3)ア及びイの自動車損害賠償保険料率算定会本部の各査定事務所に対する通知や厚生労働省労働基準局の手引が示す案分説は,改められるべきものとなっていたことが認められる。

 ところで,被告は,自賠責保険が,強制保険で,保険金額が法定され,一律・低廉な保険料という特質から,被害者間における公平性の確保,地域格差の発生防止,大量事案の迅速な解決等が強く要請されるため,明確な基準といえる本件最高裁判決言渡の前の支払に遡って従前の案分説と異なる被害者優先説を適用するべきではない旨の主張をする。しかし,前記最高裁判所第三小法廷平成20年2月19日判決は,既に従前の保険実務を改めることを求める判断を示していたというべきであって,本件最高裁判決の第1審及び原審も,案分説を否定していたところである。損害保険料率算出機構が,平成26年4月から平成30年9月26日まで,被害者の直接請求権と国の直接請求権とが競合した事案を,1654件扱い(前記1(3)ウ),その中に,従前の取扱いを改めずにあえて案分説に従った支払をした例が相当数存在したとしても,前記認定に影響する性質の事実ではない。

イ 被告は,案分説に従った本件支払は,民法478条が適用または類推適用されると主張する。
 国は,労災保険給付により原告の直接請求権の一部を代位取得しており,受領権者以外の者ではなく,原告に劣後するにすぎないから,民法478条が適用される前提を欠くため,類推適用の余地について検討するところ,前記アの通り,案分説は当時被害者優先説に改められるべきものとなっていたから,国は,社会通念に照らして原告と同順位の外観を有するものとはいえない。また,本件支払において案分説に従うべきものと信じた被告に過失がなかったとはいえない。
 したがって,被告の前記主張は理由がない。

3 附帯請求について
(1)自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは,保険会社において,被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいうと解すべきであり,その期間については,事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期,損害賠償額についての争いの有無及びその内容,被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断するのが相当である(最高裁判所第一小法廷平成30年9月27日判決・民集72巻4号432頁)。

(2)前記1(2)イ及びエの通り,原告は,平成30年6月8日,被告に対し,直接請求をしたこと,被告は,原告に対し,同年7月20日,本件支払をしたこと,争いは,損害賠償額についてではなく,本件支払に関し,被害者の直接請求権と社会保険者が代位取得した直接請求権が競合する場合の相互の関係についてであること,本件最高裁判決が,同年9月27日に言い渡されたこと,原告は,同年10月17日,被告に対し,異議申立をしたこと,被告は,同年11月7日付けで,本件支払を妥当と判断したことからすれば,訴状送達の日である令和元年8月14日には,前記必要な期間が経過したと認められ,その翌日である同年8月15日から,遅滞の責任を負う。

4 結論
 以上によれば,原告の請求は理由があるから,認容することとして,主文の通り判決する。
大阪地方裁判所第15民事部 裁判長裁判官 寺垣孝彦 裁判官 永野公規 裁判官 須藤奈未
以上:7,496文字

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