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傘で突かれた傷害とPTSD発症の因果関係を認めた高裁判例紹介

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平成31年 4月24日(水):初稿
○「傘で突かれた傷害とPTSD発症の因果関係を認めた地裁判例紹介」の続きで、その控訴審平成27年12月9日名古屋高裁金沢支部(自保ジャーナル1969号136頁)関連部分を紹介します。

○被控訴人が、控訴人らの当時4歳の子に、子ども用の傘の先端で腰を突かれたため傷害を受け、外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したなどと主張して、上記子の監督義務者(親権者)である控訴人らに対し、民法714条1項、709条に基づき、損害賠償を求めました。

○控訴審も外傷によるPTSDの発症を認めましたが、後遺障害の程度は、原判決認定7級(労働能力喪失率56%)を下肢のしびれ等の障害と併せても9級(労働能力喪失率35%)相当とし、損害額を原判決認定1914万円から約590万円と大幅に減額しました。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1)控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して589万5719円及びこれに対する平成18年5月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 その余の控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その1を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は、1項(1)について仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 控訴の趣旨

1 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 上記取消部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。

第二 事案の概要
1 本件は、被控訴人が、控訴人らの当時4歳の子に、子ども用の傘の先端で腰を突かれたため傷害を受け、外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したなどと主張して、上記子の監督義務者(親権者)である控訴人らに対し、民法714条1項、709条に基づき、治療費、休業損害、逸失利益及び慰謝料等のうち5499万9999円及びこれに対する不法行為の日である平成18年5月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める事案である。

2 原審は、被控訴人は上記子の行為により反射性交感神経障害(RSD)及びPTSDを発症したものの、それのみが原因ではなく、被控訴人の精神的な脆弱性や夫の死などの事情も大きく寄与しており、5割の素因減額をするのが相当であると判断して、被控訴人の本件請求につき、控訴人らに対し連帯して1914万1963円及びこれに対する平成18年5月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却した。
 この原判決に対し、控訴人らのみが敗訴部分の取消し等を求めて控訴した。

         (中略)

第三 当裁判所の判断
1 事実関係等について

 本件の事実関係の認定及び鑑定の結果については、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」欄の第四の1及び2に記載されたとおりであるから、これを引用する。

         (中略)

2 本件行為と被控訴人の症状との因果関係について
(1)被控訴人は、本件行為により仙腸関節障害になったと主張するが、仙腸関節に機能的な障害が生じたことは認められるものの、器質的な障害が生じたとは認められないこと(したがって、後遺症としても極めて限定的な影響を及ぼすにとどまるというべきである。)は、原判決22頁2行目から20行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。

(2)被控訴人は、本件行為によりRSDないしCRPSタイプ1に罹患したと主張する。RSD(反射性交換神経性萎縮症)とは、交感神経の異常な反射亢進を基盤とする疼痛、腫脹、関節拘縮などを主徴とする病態であると言われてきたが、その症状を呈するものの中に交感神経が関与していない痛みの存在することが明らかとなって、国際疼痛学会においてCRPS(複合性局所疼痛症候群)と呼ぶことが提唱され、従来のRSDがタイプ1、神経損傷と関係したカウザルギーがタイプ2とされた(もっとも、その後この区別は撤廃された。)。そして、RSDあるいはCRPSタイプ1の認定に当たっては、疼痛のほか、少なくとも関節拘縮、骨萎縮、皮膚変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)という慢性期の症状があり、これらが健側と比較して明らかに認められる必要があるとされている。

 ところで、P6鑑定人は、「(診療録からの類推であるが)RSDと従来から言われてきたものに相当する病態であろうと思料する。」との意見を述べているが、必ずしもRSDに該当すると鑑定しているわけではないし、その論調からしても明確な根拠があっての意見ではないことが明らかである。
 また、RSDないしCRPSタイプ1の慢性期における特徴的な症状(関節拘縮、骨萎縮、皮膚変化。しかも、これらが健側と比較して明らかに認められること)について、これを認めうる証拠はなく、かえって平成18年8月のc病院における骨シンチグラフィ検査で異常所見が認められなかったことや、平成19年9月のi大学病院における造影腰椎・仙椎MRI検査でも異常が認められなかったことに照らすと、上記の症状はないといって過言ではない。
 したがって、RSDないしCRPSタイプ1の発症をいう被控訴人の主張は理由がない。

(3)被控訴人は、仙腸関節障害、PTSD、うつ状態及び関節拘縮等の現在のところ病名が明らかでない症状が複合関連して特殊な性状の疼痛が発生したとも主張するが、その主張自体からしてあいまいであるし、少なくとも仙腸関節に器質的な障害が生じたとは認められないことは上記のとおりであって、被控訴人のいう特殊な性状の疼痛があるといえるとしても、本件行為に起因したものとは到底認め難い。

(4)PTSDの発症
 上記認定によれば、被控訴人は、本件行為により激しい衝撃を受け、その場に倒れ込んで腰から下に力が入らないような状態になり、控訴人P3らに抱えられて自宅玄関に運び込まれたが、「救急車を呼びたい。」と言ったものの拒否され、ようやく父親に送られてB病院を受診したのであり、その後も、右下肢の脱力や疼痛が収まらずに車椅子移動が続いたというのであるから、被控訴人は、本件行為により重傷を負うような出来事を体験し、かつ、相当強い精神的衝撃(強い恐怖又は戦慄)を受けたものと認めることができる。そして、その後の身体状態も併せ考慮すれば、被控訴人について、本件基準(DSM-〈4〉の診断基準)のAの要件を充足すると解することができる。

 控訴人らは、被控訴人は、本件行為当日から平成18年8月12日まで心的葛藤や恐怖等の精神症状を訴えておらず、精神症状が確認できるのは、本件行為から3ヶ月半が経過した後にbクリニックを受診してからのことであると主張するが、証拠(略)によれば、被控訴人は、B病院での入院中からP4の顔や自分を突いたと思われる傘の色や形が頭から離れず、うたた寝しているときでも夢に出てきた旨供述しており、これは、上記の受傷状況やその後の身体状況等に鑑みても、十分信用できるといって差し支えない(B病院の診療記録にその旨の記載がないのは、当時においては、被控訴人自身も周囲の医療関係者も、そのような精神症状を重視していなかったにすぎないと考えられる。)。したがって、控訴人らの指摘する事情を考慮しても、本件基準の充足は否定されない。

 そして、上記認定のとおり、P8鑑定に加え、P7医師の診断結果も併せれば、被控訴人について、本件基準のBないしFの各要件を充足することも認めることができるから、被控訴人は、本件行為によりPTSDが発症したものと解すべきである(なお、P8鑑定人は、本件基準のA要件がPTSDの診断の要件ではないなどとは述べていない。)。

 なお、P7医師作成の平成18年8月30日付け診断書には、被控訴人は、当時、加害者の家族が謝罪せず孫に保険がかかっていると笑って言ったなどと訴えていたことが記載されているが、それと併せて、子どもが家にいると分かると体が震えるとか、夜もよく眠れず、事故被害に関する悪夢をよく見るといったことも訴えていたことが記載されているから、本件基準のB要件の充足等が否定されるものではない。

(5)後遺障害の程度
ア 上記認定に係る被控訴人の精神症状に照らせば、その程度はそれなりに重いといえなくはないが、被控訴人自身の心因的な影響も相当にあることが容易にうかがわれるし、被控訴人は、夫の死亡前は夫に連れられて頻繁に外出していたこと、P8鑑定が指摘しているとおり、被控訴人の抑うつ状態は、夫の死という本件行為とは別の原因によって悪化していることも考え合わせると、本件行為と相当因果関係にあるものとして、PTSDによる後遺障害の程度は「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」(障害等級表の9級7号の2)に該当すると解するのが相当である。

 また、上記のとおり、被控訴人の仙腸関節に機能的な障害が生じたものではあるが、これに関する後遺症が残存しているとしても、本件行為の内容に加え、被控訴人は、本件行為から約2週間後の平成18年5月26日には杖歩行が可能となり、症状が軽快してB病院を退院していること、同病院のP5医師が症状固定を受けて作成した診断書には、その際の診断内容として「右殿部大腿の痛みや下肢のしびれが残っており歩行には杖を要す。」という極度であったことを考え合わせると、せいぜい局部に神経症状を残すものとして、障害等級表の14級9号相当の後遺症が残存したにすぎないと解すべきである。

 そうすると、上記のPTSDによる後遺障害である9級7号の2と併せれば,被控訴人の後遺障害の程度は9級相当のものと評価される。

イ 次いで、後遺症の症状固定時期について検討すると、証拠(略)によれば、被控訴人は、P7医師に勧められて、e心理センターでEMDR(眼球運動による脱感作と再処理)の治療を受けるようになり、平成19年3月8日の時点では、家族でスキー場に行くなど精神的に安定した状態であったこと、同年4月5日の時点でも、家族の付添いのもとで外出ができ、その後も夫が死亡するまでは、子どもが目の前を通り過ぎるといった出来事がない限り、概ね安定した精神状態を保つことができたことが認められる。 
 これらの事情からすれば、被控訴人の精神症状について、平成19年3月9日の時点で症状固定したと認めるのが相当である(なお、同日は、P5医師の診断により、仙腸関節の機能的障害が症状固定した日でもあることが認められる。)。

3 素因減額について
 被控訴人のPTSDの発症やその精神症状の程度が、全て本件行為の影響であるといえるかは、本件行為の衝撃が被控訴人にとってそれなりに大きいものであったことを考えても相当でなく、被控訴人の腰部等に器質的な傷害ないし障害は認められなかったこと、被控訴人が35歳の頃に精神的ストレスから拒食症となり、約1ヶ月間、病院に入院するなどしたことがあること、P8鑑定人は、被控訴人について「摂食障害の診断基準は満たさないが、ストレスに起因して摂食が低下し、入院も必要な状況となっており、精神的な脆弱性、素因はあると考えられる。」、「現在の精神症状には当初の事故による影響のほか、不自由な身体、夫の死、加害者への不満、夫の死後家族にかかった負担の増加の影響も無視はできない。」旨の鑑定意見を述べていることなどを考え合わせると、被控訴人自身の精神的な脆弱性が相当大きく寄与しているものと認めるのが相当である。

 そこで、本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、後記認定に係る被控訴人の損害から5割の素因減額をするのが相当である。
 なお、被控訴人は、病状の悪化について、控訴人ら、P4及びその祖父母の被控訴人に対する対応に原因があり、特にP4の言動について縷々主張するが、当審で提出された証拠(略)を含めても、これを認めるに足りる的確な証拠はないから(なお、平成18年8月30日付けのbクリニックP7医師の診断書には、被控訴人が主張するようなP4の具体的な発言は記載されていないし、同クリニックのカルテにもそのような記載は見あたらない。)、被控訴人の上記主張は採用できない。

4 被控訴人の損害(弁護士費用を除く。)について
(1)治療費や薬剤代等(134万1036円)、入院雑費(2万4000円)、通院交通費(28万3150円)、寝具や装具等の費用(23万7092円)、休業損害(24万7500円)、入通院慰謝料(170万円)について、それぞれ損害と認められることは、原判決24頁10行目から27頁13行目まで及び同28頁4行目から6行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。なお、各病院の治療等が上記の症状固定時期を半年余り越えて継続しているが、原判示の限度において、本件行為と相当因果関係にあるものと認める。
 ただし、原判決24頁11行目の「前記3の認定事実」を「前記1及び2の認定事実等」に改める。

(2)後遺症による逸失利益 520万1353円
 被控訴人の後遺障害が、障害等級表の9級相当であることは、上記認定のとおりであり、その労働能力喪失率は35%と認めるのが相当である。労働能力喪失期間は、上記認定のとおりの本件行為の内容、被控訴人の精神症状の程度(殊にその程度は、夫の死という本件行為とは別の原因によって明らかに悪化した。)、P6鑑定人やP8鑑定人の鑑定意見に加え、被控訴人が平成22年3月に転居して、本件行為を引き起こしたP4らの家族から遠ざかったことを考え合わせると、本件行為と相当因果関係にあるものとして、症状固定日から5年とするのが相当である。

 そこで、被控訴人の後遺症による逸失利益について、343万2500円(平成18年賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の女子労働者の全年齢平均賃金)を基礎収入として算定すると、次の計算式のとおり520万1353円となる。
343万2500円×0.35×4.3295(5年のライプニッツ係数=520万1353円(円未満切捨て、以下同じ。)

(3)後遺症慰謝料 690万円

(4)以上の小計は、1593万4131円となる。

(5)上記のとおり、被控訴人の損害については5割の素因減額をするのが相当であるから、素因減額による修正後の損害額は、796万7065円となる。

5 損益相殺について
(1)本件行為後、控訴人らが保険契約を締結していたh保険会社から、本件行為を保険事故として、医療機関等に支払われた101万1826円及び被控訴人に支払われた44万0020円の合計145万1846円が、損益相殺として本件の損害から控除されるべきであることは、原判決28頁19行目から29頁14行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。

(2)証拠(略)によれば、被控訴人は、本件行為による後遺障害について、平成20年12月4日頃、障害基礎年金の給付を受けることとなり、平成21年1月15日から同年12月15日まで、合計131万9500円の給付を受けたことが認められる。これは、損益相殺として本件の損害(休業損害及び後遺症による逸失利益)から控除されるべきである。

 被控訴人は、障害基礎年金を受給したのは、症状固定時期である平成19年3月9日の後であり、しかも、その受給理由は平成20年9月7日当時の仙腸関節障害を理由としているから、損益相殺の対象とはならない旨主張するが、証拠(略)によれば、障害基礎年金の対象となる傷病の原因又は誘因は平成18年5月11日の転倒とされており、その他の精神・身体の障害の状態としてPTSDが掲げられていることが認められるところ、PTSDの発症を含め、本件行為によって被控訴人に生じた後遺障害を対象としているものと解すべきであるから、被控訴人の上記主張は採用できない。

(3)証拠(略)及び当審における調査嘱託の結果によれば、被控訴人は、平成22年1月15日以降、遺族厚生年金を受給していることが認められるが、遺族厚生年金は、本件行為とは関係のない被控訴人の夫の死を理由に支給されたものであり、併給調整の結果として障害基礎年金が支給されなくなったからといって、遺族厚生年金を本件の損益相殺の対象とすることはできないし、障害基礎年金に相当する額について障害基礎年金の支給を受けていると評価することもできない。
 したがって、遺族厚生年金について損益相殺的調整を行うべきであるとする控訴人らの主張は採用できない。

(4)そうすると、上記(1)及び(2)の合計277万1346円については、被控訴人の損害が填補されたものと認められるから、上記の損害額からこれを控除すると、519万5719円となる。

6 まとめ
(1)弁護士費用の損害
 上記損益相殺後の被控訴人の損害額、本件事案の性質、訴訟の経緯、事案の難易等を総合考慮すると、弁護士費用の損害を70万円と認めるのが相当である。

(2)以上の次第であるから、弁護士費用を含む被控訴人の損害額は、589万5719円となり、被控訴人の本件請求は、控訴人らに対し連帯して589万5719円及びこれに対する平成18年5月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

第四 結論
 よって、前記と異なる限度で原判決を変更し、その余の控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成27年10月5日) 名古屋高等裁判所金沢支部第1部 裁判長裁判官 内藤正之 裁判官 鳥飼晃嗣 裁判官 大野博隆
以上:7,262文字

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