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柔道整復師施術過誤損害賠償認容平成20年6月26日広島高裁判決紹介1

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平成28年 2月 6日:初稿
○柔道整復師の五十肩の患者に対する治療について,治療上の過誤,転医助言義務の懈怠があったとしてその損害賠償責任が認められた平成20年6月26日広島高等裁判所判決(判例タイムズ1278号257頁)を2回に分けて紹介します。
一審平成19年7月25日山口地裁宇部支部判決(判例集未登載)は、原告の主張する被告の過失及び治療行為と原告主張の損害との因果関係を否定し,原告請求を棄却したため,原告が一審判決を不服として控訴したものです。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は控訴人に対し,金110万円及びこれに対する平成18年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じて15分し,その14を控訴人の,その余を被控訴人の負担とする。
3 この判決の上記1(1)は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は控訴人に対し,金1515万5053円及びこれに対する平成18年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,右肩関節の痛み治療のため柔道整復師である被控訴人から施術を受けた控訴人が,被控訴人には施術に伴う診療契約上の義務違反があり,その結果症状悪化などの損害を被ったとして,債務不履行に基づき,損害賠償を求めている事案である(附帯請求は,訴状送達日の翌日からの遅延損害金。控訴人は,原審においては,平成15年12月25日からの遅延損害金を請求していたが,当審において減縮した。)。

2 本件における前提となる事実関係並びに争点及びこれに対する当事者の主張は,後記4に付加するもののほか,原判決の事実及び理由中第2の2及び3(1頁下から3行目から4頁22行目まで)のとおりである(ただし,引用部分中第2の3の(3)[4頁16行目以下]を次のとおり改める。)から,これを引用する。

(3) 控訴人の損害
 控訴人は,被控訴人の上記過失により,次のとおりの損害(合計1515万5053円)を被ったと主張し,被控訴人はこれを争う。
ア 入院雑費       6万2400円
 1日1200円×52日
イ 入通院慰謝料       200万円
ウ 後遺障害慰謝料      550万円
 控訴人の後遺障害は,1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すものとして,第10級10号に該当する。
エ 後遺障害逸失利益 609万2653円
 基礎年収     244万8740円
          (平成12年の女子平均年収349万8200円の7割相当額)
 労働能力喪失率  27%(第10級10号)
 労働能力喪失期間 11.65年(平均余命の1/2)
 ホフマン係数   9.2151
オ 弁護士費用        150万円

3 原審は,原審で控訴人が主張した被控訴人の過失及び被控訴人の行為と控訴人主張の損害との因果関係をいずれも否定し,被控訴人には損害賠償義務は認められないとして控訴人の請求を棄却した。
 これに対し,控訴人が控訴を提起したものである。そして,控訴人は,当審において,新たに被控訴人の責任原因として,転送義務違反及び問診義務違反を主張した。

4 当審における当事者双方の主張ないし主張敷衍
(控訴人)
(1) 原判決の認定判断の誤り

ア 原判決は,控訴人に三角布を使うよう指示し,肩周辺や首,肘の周辺の筋肉を緩める治療を施した被控訴人の治療が柔道整復師としての治療の水準に合致していなかったと評価することはできない旨判断するが,そもそも上記治療は柔道整復師が行いうる施術の範囲になく,医師による臨床的判断によるべきものであって,原判決はこの点において基本的に誤っている。また,被控訴人による施療行為の評価及び控訴人の凍結肩との因果関係に関する原判決の認定判断も誤りである。

イ 被控訴人の治療行為の違法性
 いわゆる五十肩に対する診断及び治療は医師による治療行為の分野であり,柔道整復師が行いうる施術の範囲に属さないものであるところ,被控訴人は,これを頸椎捻挫と称して肩関節の安静(固定)を指示したものであり,本件において被控訴人が行った施療行為(控訴人に対する上記指示を含む。以下「本件施療」という。)は違法である。

 初診時における控訴人の被控訴人ヘの説明内容その他本件の経緯に照らせば,被控訴人が,控訴人の右肩の痛みは五十肩によるものであり(被控訴人は,控訴人に頸椎捻挫等が存在したと主張するが,そのような事実を認めるべき証拠はない。),その治療として整形外科医が従前から運動療法を施行していることを十分に認識していたものである。

 なお,被控訴人が行った本件施療は,初診時である平成12年(以下,月日のみで記すものは同年を指す。)6月14日から10月23日まで4か月半という長期間に及ぶものであり,到底,応急的,一時的な処置でないことは明らかである。

ウ 本件施療の誤り
(ア) 一般臨床医が行なう五十肩に対する標準的な治療法は,
① 急性期(発症初期)においては,安静と薬物療法
② 亜急性期(1~2週間後)においては,緩やかな運動療法,温熱療法,鎮痛剤投与
③ 慢性期においては,積極的な運動療法,温熱療法,ヒアルロン酸の関節内注入であることが認められる。

(イ) 控訴人の場合,五十肩を発症してからすでに5か月以上が経過し,慢性期にあるものであるから,関節包の癒着を防止し可動域を改善するために積極的な運動療法等が必要とされるものであった。

(ウ) しかるに,被控訴人は,控訴人の右肩の痛みが五十肩によるものであることを十分認識しながら,初診時から直ちに安静を指示し,少なくとも10月2日から同月23日まで22日間三角布で右肩関節を固定するよう指示したものであるから,被控訴人の指示は明らかに誤りである。

エ 被控訴人の誤った施療と控訴人の凍結肩との因果関係
 控訴人は,6月14日の初診時から,被控訴人に右肩の安静(固定)を指示され,これを守ったところ,その後段々と右肩が動かなくなり,7月10日には被控訴人にその旨伝えて更に指示を受けたが,8月1日以降は字を書くのに力が入らない,洗髪ができない,箸が使えない状況となり,被控訴人の上記指示により症状は改善するどころか益々悪化していった。

 更に,被控訴人は,10月2日には「入院と同様の安静として20日間様子をみる」として三角布による右肩の固定を指示したが,その後,控訴人の症状は悪化の一途をたどり,右肩の痛みや可動域の制限は顕著になった。
 以上の経過に照らせば,被控訴人の指示に基づく長期にわたる右肩関節の固定と右肩関節の凍結との間に相当因果関係があることは明らかである。

(2) 転送義務違反(当審における新主張)
ア 被控訴人は,控訴人の症状を頚部捻挫等と診断し,施術録にも頚部捻挫,右肩関節捻挫,右肘関節捻挫と診断名を記載しているが,控訴人は被控訴人作成の施術録にあるような申告をした事実はなく,これはあくまで被控訴人が柔道整復師として控訴人に施療を行なうためにつけた便宜的こじつけ的な診断名であったと認められる。控訴人の真の病名は上記主張のとおり五十肩である。

イ 柔道整復師の義務
 柔道整復師は限定された範囲と方法においてのみ治療行為が許されるに過ぎないから,診療中の患者の症状を常に観察し,柔道整復師として許容される範囲の施術をもってしては回復が困難である場合は勿論,症状が通常の過程をたどらず悪化する徴候がある場合は施術を中止し,専門医による診療を促し,これを受ける機会を失わせないようにすべき法的義務を負うものである。

ウ 被控訴人の義務違反
 本件においては,初診時及び7月10日の被控訴人の指示によっても,控訴人の症状は一向に良くなっておらず,8月1日以降症状は一層悪くなっており,遅くとも9月6日に控訴人が字が書けない,掃除機が使い辛い,箸が使えないなどの症状を告げた時点においては,もはや柔道整復師として許容された範囲の施術をもってしては回復が困難と判断されるものであるから,被控訴人には控訴人に対して専門医による診療を促し,医師に転送する義務があったというべきである。

 しかるに,被控訴人は医師に転送するどころか,22日間という長期間にわたって三角布で右肩を固定させるという誤った指示を行い,その結果,控訴人を右肩関節の拘縮,凍結に至らしめたものであり,被控訴人に上記転送義務の違反があることは明らかである。

(3) 問診義務違反(当審における新主張)
ア 控訴人は,被控訴人を受診する際,従前丙山整形外科医院(以下「丙山整形」という。)に通院し,五十肩と診断されて運動療法を受けている旨を説明しているのであるから,被控訴人としては,更に問診を行うなどして治療上必要な情報を得るべき職務上の義務を負っていたものである。具体的には,「何時ころから肩が痛いのか,どのような運動療法を受けていたか,運動療法以外にどんな治療を受けたか」などについて確認すべきであった。

イ しかるに,被控訴人は,これらの問診を怠り,不十分な情報により安易に本件施療を行ったものであり,被控訴人に施術上の問診義務違反があったことは明らかである。

 (被控訴人)
(1) 本件施療の適法性・相当性

 打撲や捻挫に対する施術を医師の同意なく行うことは柔道整復師の業務範囲として柔道整復師法(以下「法」という。)により認められているところ,被控訴人が控訴人に対して行った本件施療は,控訴人が筋肉を痛めて強い痛みを訴えていたことに対する短期間の応急措置であって,必要な配慮も怠っていなかったものであるから,何ら違法性を有しないものである。

 また,被控訴人は,痛みがあるときには右肩を三角布で吊るようにとの指示をした際にも,その日数を指定したことはない。
 そして,当時被控訴人の本件施療による施術効果は挙がっていたものであり,著しい効果を挙げる障害となったのは,被控訴人の指示を無視した控訴人の就労であった。
 本件施療における被控訴人の指示・判断は柔道整復師の権限内の行為でありかつ適切なものであって,何ら違法・不当性を有しない。
 仮に控訴人が主張するような症状が残っているとするなら,安静期に必要な安静をとることも適切な治療を受けることもなかったため,症状をこじらせ,痛みをこらえて労働を継続した控訴人にこそその責任があるというべきである。

(2) 被控訴人の施術の対象とその相当性
 被控訴人は,初診の際の控訴人の申告に基づき,控訴人のその前夜(6月13日深夜)の寝返りに伴う捻転に起因する頸椎捻挫等の症状に対する施術を行ったものである。被控訴人は,初診時における控訴人の各痛みからそれぞれその症状を導いており,あくまでも五十肩は被控訴人の施術(本件施療)の対象外であり,したがって,被控訴人が丙山整形における治療について控訴人に聞く必要もなかったものである。

 なお,五十肩の存否は被控訴人の関知するところではないが,仮に控訴人の五十肩が当時既に慢性期にあったとすれば,運動療法によって症状が軽快したはずであるのに,実際にはそれほどの治療効果が挙がらず,そのために控訴人は被控訴人の施術を受ける気になったのであって,被控訴人は柔道整復師として可能な範囲で精一杯の施術をし,指示を出しており,何ら違法不当な点はない。

 被控訴人による本件施療は6月13日の寝返り時の受傷に対するものであるから,急性期治療として開始されることは当然であり,しかも,安静にするようにとの被控訴人の指示を控訴人が守らなかったため痛みが継続している以上,全期間を通じて急性期治療を続けざるを得ないことになる。すなわち,三角布の使用を控訴人に指示した被控訴人の措置は適切であり,この点についての原判決の認定判断は正当である。

(3) 本件施療と控訴人主張の結果との因果関係
 仮に平成11年12月3日に始まった控訴人の右肩の痛みが五十肩であるとすると,控訴人はそれから3か月後の平成12年2月1日に至ってようやく丙山整形で受診しており,控訴人は,その間の急性期に全く治療を受けずに我慢して仕事を漫然と続け,安静にしていなかったことになり,これにより以後の症状回復が困難を極めることも当然である。

 控訴人が主張する障害は,上記のとおり控訴人自身の過失によるものであり,その責任を被控訴人に転嫁するのは不当である。

(4) 転送義務違反について
ア 控訴人は,被控訴人の「就労をしない方がよい」との指示を振り切って仕事を続けており,これが諸症状の快復が遅々として進まなかった原因であって,被控訴人による本件施療とは無関係である。
 そして,本件施療は,五十肩を治療の直接の対象としているものでもなく,五十肩の治療を丙山整形で受けることを禁止していたものでもない(丙山整形での治療を継続するか否かは控訴人自ら決定したものである。)から,本件の具体的事情の下で被控訴人に転送義務は生じない。したがって,被控訴人に何ら義務違反はない。

イ また,被控訴人による三角布使用の指示は10月2日であるところ,控訴人は同月23日には山口労災病院を受診している。この3週間の転医の遅れがなかったならば控訴人の現在の症状は発生しなかったことが立証されない限り,仮に被控訴人に転送義務違反があったとしても,控訴人主張の障害との因果関係は認められないものである。

(5) 問診義務違反について
 控訴人が主張する五十肩は元々「肩関節周辺に痛みがあるのに検査で異常がない場合の総称」であり,検査を実施できる者でなければ五十肩の診断を下すことは不可能である(それ故,被控訴人はこれに関知しなかったものである。)。
 問診は患者からの訴えに基づいてなされるものであるが,仮に五十肩であるとの申告を控訴人から受けても,整形外科医でもない被控訴人が立ち入るべき分野ではなく,被控訴人に問診義務違反はない。


以上:5,820文字

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