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高低差のある土地の境界擁壁修繕費用負担に関する高裁判例紹介

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令和 6年 4月24日(水):初稿
○「高低差のある土地の境界擁壁修繕費用負担に関する判例紹介」の続きで、その控訴審昭和62年9月29日東京高裁判決(ウエストロー・ジャパン)全文を紹介します。

○一審昭和61年2月21日横浜地裁判決(判タ638号174頁、判時1202号97頁)は、隣地との間に約4mの高低差のある低地所有者から高地所有者に対し所有権に基づく妨害予防請求としてなされた擁壁の改修請求について、土地相隣関係調整の見地から、低地所有者に改修費用の3分の1を負担させて認容しました。

○これに対し、控訴審東京高裁判決は、「侵害を生ずる原因となるべき物の所有者(相手方)は、右侵害の蓋然性が不可抗力により生じたことを主張、立証しない限り、これが自己の故意、過失によって生じたか否かにかかわりなく、右予防措置を講ずべき義務を負うものであり、かつ、これに要する費用も、その多寡を問わず全額、右相手方において負担すべきものと解するのが相当」として、低地所有者への改修費用の負担は無しとしました。

○この高裁判決は、上告審令和元年3月3日最高裁判決(ウエストロー・ジャパン)において、「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。」として維持され、確定しています。

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主   文
一 第一審原告と第一審被告Y1との間において、
1 第一審原告のX事件の控訴に基づき、原判決主文第二項及び第三項中第一審被告Y1に関する部分を次のとおり変更する。
(一) 第一審被告Y1は、第一審原告に対し、原判決別紙土地目録(一)記載の土地と(二)記載の土地との境界に沿って設けられている擁壁を、原判決別紙擁壁設計図記載のとおりの鉄筋コンクリート造倒立T型擁壁に改修せよ。
(二) 第一審原告の第一審被告Y1に対するその余の請求をいずれも棄却する。
2 第一審被告Y1のY事件の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、第二審を通じ(X、Y事件とも)、これを五分し、その一を第一審原告の、その余を第一審被告Y1の、各負担とする。
4 主文第一項1(一)は、仮に執行することができる。
二 第一審原告と第一審被告Y2との間において、
1 第一審被告Y2のY事件の控訴を棄却する。
2 控訴費用は、第一審被告Y2の負担とする。

事   実

第一 当事者の求めた裁判

 (X事件につき)
一 第一審原告

(一) 原判決を次のとおり変更する。
(二) (主位的請求)
(1) 第一審被告Y1(以下「第一審被告Y1」という。)は、第一審原告に対し、第一審被告Y1所有にかかる原判決別紙建物目録(二)記載の建物(以下「第一審被告Y1所有建物」という。)のうち、原判決別紙土地目録(一)記載の土地(以下「第一審原告所有土地」という。)と同目録(二)記載の土地(以下「第一審被告Y1所有土地」という。)との境界(以下「本件境界」という。)までの最短水平距離が6・98メートル以内の部分を撤去せよ。

(2) 第一審被告Y1は、第一審原告に対し、第一審被告Y1所有土地につき、本件境界から計測して最大の仰角が30度を超える部分に存する大谷石その他の土砂を除去して、崖の勾配を30度以下とせよ。

(三) (予備的請求)
 主文第一項1(一)と同旨

2 第一審被告Y1は、第一審原告に対し、第一審被告Y1所有建物のフーチング基礎につき、原判決別紙フーチング基礎改修工法記載のとおりの工法に従ってこれを改修し、かつ、その鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さを六センチメートル以上とする工事をせよ。

3 第一審被告Y1は、第一審原告に対し、第一審被告Y1所有建物の基礎ぐい10本につき、標高マイナス18・18メートル以深にある砂層を支持地盤とする鋼くい又はPC溶接継手くいを用い、別紙基礎構造打直し工法その他の方法記載のいずれか一の工法に従い、5・8トンの地震時水平外力に対して安全に耐え得る基礎ぐいの打直し又はくい先端地盤の改良等の工事をせよ。

4 訴訟費用は、第一、第二審とも第一審被告Y1の負担とする。

二 第一審被告Y1
 第一審原告のX事件の控訴を棄却する。
(Y事件につき)
一 第一審被告Y1、同Y2(以下「第一審被告Y2」という。)
1 原判決中第一審被告Y1、同Y2の敗訴の部分を取り消す。
2 原審甲事件につき、第一審原告の第一審被告Y1、同Y2に対する請求をいずれも棄却する。
3 原審乙事件につき、第一審原告は、第一審被告Y1に対し、金1285万1500円及びこれに対する昭和54年3月20日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、第二審とも第一審原告の負担とする。
5 3項につき仮執行宣言

第二 当事者の主張
 当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実摘示欄の「第二 当事者の主張」(原判決四枚目裏六行目冒頭から17枚目裏7行目末尾まで及び引用にかかる36枚目表1行目の「土地目録」から41枚目表8行目の「損害一覧表」の末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

一 第一審原告
1 5枚目表1行目の「土地のうち」の次に「横浜市a区b町147番14の山林」を、2行目の「残りの」の次に「同所同番一の山林」を、それぞれ加える。
2 9枚目裏4、5行目を次のとおり改める。
 「 (ロ) 本件基礎ぐいは、ほぞ式モルタル充填継ぎくいであって、地震時等には、継ぎ目が塑性ヒンジとなり、折れ曲がり、復元性がないため、水平外力に耐えられない。」
3 9枚目裏末行の「ある項」を「第一項(先端支持力を算出するための項)」と改める。

4 15枚目表1行目の「争う。」の次に次のとおり加える。
「 本件擁壁が倒壊する危険性は、もともと、その地盤である第一審被告Y1所有土地固有の性質及び形態に内在していたが、第一審被告Y1がアパート経営により利益をあげる目的で、昭和42年3月ころから同年夏ころにかけて、追加擁壁を積んだうえ、宅地造成等規制法違反の盛土造成工事を行ったため、その危険性が一層増大し、第一審原告所有土地の所有権が侵害される蓋然性が高まるとともに、第一審原告及びその家族の生命までおびやかされるに至ったものである。しかして、第一審原告は、第一審被告Y1が第一審被告Y1所有土地を取得する前から、第一審原告所有土地上に平穏に居住していたものであるから、本件擁壁が新擁壁に改修されたとしても、何ら新たに利益を受けるわけではなく、ただ第一審被告Y1の行為によって生じた被害が回復することになるにすぎない。このような事実関係のもとでは、本件擁壁改修費用の負担につき、民法所定の相隣関係の法規の類推適用はありえず、右費用は、全額、第一審被告Y1が負担すべきである。また、自ら違法な盛土造成工事を行って危険を発生させた第一審被告Y1が、右費用の負担を第一審原告に請求するのは、信義則に反し、権利の濫用に該当するから、許されない。」

5 17枚目裏7行目を次のとおり改める。
「 第一文の事実のうち、本件増築工事につき、第一審被告Y2名義で建築確認申請がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。同3項のうち、第一審原告が、本件増築により本件擁壁が倒壊する危険性があるとして、本件増築に反対したことは認めるが、その余の事実は否認する。同4ないし6項の事実は否認する。第一審原告は、第一審被告Y2の違法な本件増築工事によって、自己及び家族の生命、財産等が侵害されるのを防止するため、建築工事禁止の仮処分申請をなし(横浜地方裁判所昭和53年(ヨ)第890号事件)、第一審被告Y1から第一審原告に対する工事妨害禁止等の仮処分申請(同裁判所同年(ヨ)第149号事件)に対しては、特別事情による仮処分取消申請(同裁判所同年(モ)第1962号事件)及び執行取消申請(同裁判所同年(モ)第1963号事件)を行うなど、第一審原告としてとりうる法的手段はすべてとったものであり、違法な自力救済を行ったことは全くない。」

6 37枚目表2行目の「b1町」を「b町」と改める。

二 第一審被告Y1、同Y2
1 14枚目裏3行目の 「本件擁壁」の次に「は、第一審原告が第一審原告所有土地を取得した昭和40年当時には、既に存在していたものであるところ、これ」を加える。
2 15枚目表8行目の「計画し、」の次に「自己の計算において、」を加える。
3 16枚目表2行目の「横浜市」の前に「本件増築工事を妨害する意図をもって、」を加える。
4 16枚目裏8行目の「陳述」を「陳情」と改め、10行目の「行動により」の前に「自力救済的」を加える。

第三 証拠
 証拠に関する事項は、原審訴訟記録中の書証目録、証人等目録及び当審訴訟記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理   由
一 当裁判所は、第一審原告の原審甲事件の請求は、第一審被告Y2に対し、本件擁壁を新擁壁に改修する工事が完了するまでの間、第一審被告Y1所有建物上に第一審被告Y2増築予定建物の増築工事を施工することの禁止を求め、第一審被告Y1に対し、全額、第一審被告Y1の費用負担において、本件擁壁を新擁壁に改修する工事をなすべきことを求める限度においては、理由があるからこれを認容すべきであるが、その余は理由がないからこれを棄却すべきであり、第一審被告Y1の原審乙事件の請求は、すべて理由がないからこれを棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決理由説示欄(原判決17枚目裏末行冒頭から32枚目表一行目末尾まで及び引用にかかる42枚目表1行目の「計算書」から43枚目表1行目の「擁壁設計図」の末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1 18枚目表6行目及び9行目の各「証言」の次に「及び弁論の全趣旨」を加え、10行目の「51年」を「52年」と、同行目の「塀」を「物置用建物の東側ブロック壁」と、それぞれ改める。

2 18枚目裏1行目及び3行目の各「証言」の次に「及び弁論の全趣旨」を加え、1行目の「昭和51年」を「昭和53年1月ころ」と改め、四行目の「53年」の次に「8月」を、末行の「成立に争いのない」の前に「昭和60年9月ころの第一審被告Y1所有建物の写真であることに争いのない甲第75号証の1ないし6、」を、それぞれ加える。

3 19枚目裏3行目の「9月から」から4行目の「3月にかけて、」までを「9月と昭和42年3月の二回に分けて、」と改め、10行目の「又は被告Y1所有土地の前所有者」を削る。

4 20枚目裏2行目の「透水性の」の次に「高い」を加える。
5 21枚目表2行目の「同層は、均質なものと仮定すれば、」を「同層及びそれ以深の地盤(いわゆる地山の部分)は、安定しており、」と改める。
6 22枚目裏3行目の「生じ」の次に「、昭和60年9月ころには、二階北西端の庇の一部が崩れ落ちたことがあり」を、四行目の「第67号証の1、2」の次に「、第75号証の一ないし六」を、それぞれ加える。

7 23枚目表8行目の「他の」の前に「本件全証拠によるも、」を加える。
8 23枚目裏6行目の「事情もない」の次に「(第一審被告Y1所有土地内の本件擁壁側には、二本以上の基礎ぐいは打ち込まれていない旨の原審証人Aの供述部分は、前掲甲第13号証の1、乙第10号証の1、2及び原審証人B、同C、同Dの各証言並びに原審における第一審被告Y2の本人尋問の結果と対比し、にわかに措信できない。)」を加える。
9 24枚目表1行目の「埋込み工法」を「くい打設予定箇所にアースドリルで深さ約4メートルの穴を掘った後、前記くいを埋め、くい頭をポータブル・ドロップハンマーで打撃して打込むという工法」と改める。

10 25枚目表10行目の「第57号証」を「第53号証」と改める。
11 25枚目裏1行目の「ある項」を「第一項(先端支持力を算出するための項)」と、4行目の「本件基礎ぐいが」から5行目の「ことによって、」までを「本件基礎ぐいは、前示のとおり、埋込み工法と打込み工法を併用して打設されたものであるから、」と、それぞれ改める。
12 26枚目表2行目の「請求の趣旨1項」を「第一審被告Y2に対する増築工事施工禁止請求」と改める。
13 26枚目裏9行目及び10行目の各「請求の趣旨2項(一)」を「第一審被告Y1に対する第一審被告Y1所有建物等撤去の主位的請求」と改める。
14 27枚目表末行の「請求の趣旨2項(二)」を「第一審被告Y1に対する本件擁壁改修の予備的請求」と改める。

15 29枚目表九行目冒頭から31枚目表3行目末尾までを次のとおり改める。
「しかしながら、所有権に基づく妨害予防請求権は、所有権の円満な行使を侵害する可能性が客観的に極めて大きい場合において、これを予防するため、現に侵害のおそれを生ずる原因をその支配内に収めている相手方に対し、これを除去して侵害を未然に防止する措置を講ずること等を請求する権利であるから、右侵害を生ずる原因となるべき物の所有者(相手方)は、右侵害の蓋然性が不可抗力により生じたことを主張、立証しない限り、これが自己の故意、過失によって生じたか否かにかかわりなく、右予防措置を講ずべき義務を負うものであり、かつ、これに要する費用も、その多寡を問わず全額、右相手方において負担すべきものと解するのが相当である。

そうすると、本件擁壁上部大谷石3、4段目までの倒壊の危険が不可抗力によって生じたことにつき、何ら主張、立証のない本件においては、第一審被告Y1の右主張は、その余の点につき判断するまでもなく、採用することができず、第一審被告Y1は、本件擁壁を新擁壁に改修するための費用を全額負担して、右改修工事を行うべきである。」

16 31枚目表4行目の「請求の趣旨3、4項」を「第一審被告Y1に対する本件フーチング基礎及び本件基礎ぐい等の改修請求」と、末行の「請求の趣旨3、4項」を「本件フーチング基礎及び本件基礎ぐい等の改修」と、それぞれ改める。

二 よって、原判決のうち、右と異なり、本件擁壁を新擁壁に改修する工事費の3分の1を第一審原告が負担するとの条件のもとに、第一審被告Y1に対し、右改修工事を命じた部分は相当ではなく、第一審原告の第一審被告Y1に対する請求のうち、右工事費を全額第一審被告Y1において負担して、右工事を施工すべきことを求める部分は理由があり、その余の部分は理由がないというべきであるから、第一審原告のX事件の控訴に基づき、原判決主文第二項及び第三項をその旨変更し、第一審被告Y1、同Y2のY事件の控訴は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法96条、95条、89条、92条、93条を適用し、なお、本件擁壁改修工事の緊急性に鑑み、同法196条により、職権をもって仮執行宣言を付することとして、主文のとおり判決する。
 東京高等裁判所第14民事部
 (裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 鈴木經夫 裁判官 山崎宏征)

以上:6,216文字

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