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フランチャイズ契約公序良俗違反で損害賠償を認めた高裁判決紹介

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令和 4年11月 4日(金):初稿
○「フランチャイズ契約競業禁止条項信義則違反で無効認定地裁判決紹介」の続きで、フランチャイザーの詐欺及び欺まん的顧客誘引であって不法行為に該当し、本件FC契約等は公序良俗に反し無効とした平成21年12月25日東京高裁判決(判時2068号41頁)の理由部分を紹介します。

○一審平成21年1月27日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)は、食堂経営のフランチャイズ契約を締結したフランチャイジー4名がフランチャイザーに対し、欺まん的顧客誘引により契約を締結させられ、契約上の経営指導義務の履行もされなかったとして,契約の公序良俗違反ないし詐欺取消しにより無効を主張し、支払済み加盟金・ロイヤリティの返還を求めたものです。

○その控訴審が平成21年12月25日東京高裁判決で、フランチャイザーがFC契約の締結勧誘の際,店舗物件確保困難の事実を告げず、さらに契約エリア内では店舗物件確保の支援がある等虚偽の説明をしたことを認定し、違法な勧誘行為でのFC契約は公序良俗違反で無効として、フランチャイジーの加盟金等の返還及び損害賠償の請求を全面的に認めた珍しい事案でした。

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4 以上の認定事実等に基づき検討する。
(1)控訴人X1及び控訴人X2に対する勧誘について
ア 前記認定事実によれば,被控訴人らは,東京都内における外食産業用店舗物件の確保が困難であることを知りながら,その共同の方針として,本件FC契約の締結勧誘の際には,店舗物件確保困難の事実を告げず,逆に,契約で定められたエリア内での店舗物件の確保は被控訴人VLの支援があるので容易であるとの説明を行うことを定め,この方針に沿って,控訴人X1及び控訴人X2に対しても,店舗物件確保困難の事実を告げず,逆に,被控訴人VLの支援があるので容易であるとの説明を行い,その旨誤信した控訴人X1及び控訴人X2との間で各本件FC契約を締結したという事実を推認することができる。

 11箇月以内に開店できない場合には支払った加盟金500万円は没収されるという契約条項になっているのであるから,店舗物件の確保が困難であることを知っていれば,加盟店側は契約を締結しないのが通常であり,被控訴人はそのことを知りながら被控訴人VLの支援により物件の確保が容易であると誤信させているのであるから,被控訴人らのこのような勧誘行為は,詐欺に該当する違法行為である。

 このような違法行為をした動機は,加盟店の利益を省みず,被控訴人らのみの利益(加盟金収入の増加,店舗数の増加及びヘラクレス市場への上場)を確保することにあったというべきであり,物件の立地条件が悪くてもずさんな立地診断により立地条件の悪さを隠して開店させたこと,開店後においても,契約勧誘時の説明の趣旨に反して,専門性のあるSVによる加盟店の経営支援を本気で履行しようとはしなかったことなどの事実は,このような利己的な動機を裏付けるものである。

イ ア記載の被控訴人FFの契約締結の動機及び詐欺に該当する勧誘行為の実態を考慮すると,控訴人X1及び控訴人X2と被控訴人FFとの間の本件FC契約並びに控訴人X2と被控訴人FFとの間の串家FC契約は,被控訴人FFが控訴人X1及び控訴人X2が外食産業の店舗確保等の情報に疎いことに乗じて,同控訴人らの犠牲の下に,不当な利益を得ようとするものであって,著しく不公正な取引である。形式的には意思の合致が存することを理由として,このような契約についてその効力を全面的に容認することは,わが国の公の秩序,善良の風俗に照らし,許されないものというべきである。

 このようなことから,上記本件各FC契約及び串家FC契約のうち,控訴人X1及び控訴人X2が各契約時に詐取されたも同然の加盟金及び加盟保証金の支払義務を定めた部分は,公序良俗に反するものとして無効というべきである。


(2)控訴人X3に対する勧誘について
ア 控訴人X3に対する勧誘についても(1)で説示したことが基本的に当てはまるが,それ以外に次の点を指摘することができる。すなわち,控訴人X3のP3の勧誘に当たった被控訴人VLのP6は,上野店の平成13年7月から同14年6月までの損益計算書を,上野店の平成14年7月から同15年6月までの損益計算書であると偽ってP3に交付し,これによりP3は,平成14年7月から同15年6月までの上野店の売上月額が真実は800万円内外であるのに,900万円~1000万円と誤信し,その結果,上野店と門仲店の譲受けと本件FC契約の締結を決断したものであって,平成14年7月から同15年6月までの上野店の真実の売上月額を知っていたら本件FC契約を締結しなかったものである。

 このようなP6の勧誘行為は,詐欺に該当する違法行為である。そして,このような違法行為をした動機は,加盟店の利益を省みず,被控訴人らの当時の契約締結数及び加盟店数の急拡大政策の下で,トークインからの譲受人を探して,新たに加盟金収入を得るとともに,店舗数の減少を食い止めるという被控訴人らの会社ぐるみの利己的な方針にあったものと認めることができる。

イ ア記載のP6の違法勧誘をした動機及び詐欺に該当する勧誘行為の実態を考慮すると,控訴人X3と被控訴人FFとの本件FC契約は,控訴人X3が上野店の経営状況についての正確な情報を知らないことに乗じて,控訴人X3の犠牲の下に,加盟金収入その他の不当な利益を得ようとするものであって,著しく不公正な取引である。形式的には意思の合致が存することを理由として,このような契約についてその効力を全面的に容認することは,わが国の公の秩序,善良の風俗に照らし,許されないものというべきである。

 したがって、控訴人X3と被控訴人FFとの本件FC契約のうち加盟金の支払義務を定めた部分は,上記(1)イと同様,公序良俗に反するものとして無効というべきである。
 

(3)経営指導義務違反について
 前記認定事実によれば,本件FC契約においては,被控訴人FFは,加盟店である控訴人らに対して,経営指導について専門性を有するSVを臨店させて加盟店の経営指導を行う債務を負っていたものというべきである。

 しかしながら,前記認定事実によれば,被控訴人FF及びその履行補助者である被控訴人VLは,経営指導について専門性のあるSVを必要な人員だけ揃える努力をすることを契約の準備段階から完全に怠り,SVの多くをチェックリスト項目の形式的チェック(これ自体は専門性を有する業務とはいえない。)しかできないような経験と能力に乏しい若手社員をもって充て,SVの研修,教育に費用と時間をかけることも怠ったまま,このような若手社員SVを中心に加盟店への臨店をさせたにとどまるものである。

経営指導を行う債務は,一定の結果を実現することを債務の内容とするものではないことを考慮に入れても,このように最初から専門性のあるSVの即戦力採用も社内育成も十分に行わず,加盟店の多くが専門性の乏しい若手社員のSVの臨店しか受けることができない状態を続けることは,経営指導義務の債務不履行に該当すること,これにより控訴人らに損害が生じたことは,明らかである。

したがって,被控訴人FFは,この経営指導義務の債務不履行により控訴人らに生じた損害(利益の減少又は損失の増加)を賠償する義務を負う。他方,被控訴人VLについては,加盟店勧誘時とは異なり,虚偽の事実を告げる等の行為をしていないのであるから,経営指導不行届をもって不法行為に該当するとみるのは困難である。

5 損害
(1)控訴人X1

ア 加盟金1050万円の返還請求について
 上記説示のとおり,控訴人X1と被控訴人FFとの本件FC契約のうち加盟金の支払義務を定めた部分は,公序良俗に反し無効である。したがって,控訴人X1による加盟金1050万円(2店分,消費税込み)の支払は根拠のないものとなり,その支払を受けた被控訴人FFは,1050万円を控訴人X1に返還すべき義務を負う。

 また,控訴人X1は,被控訴人らの共同不法行為(詐欺)により本件FC契約締結の意思表示をして,加盟金1050万円を被控訴人FFに支払ったのであるから,この1050万円は,不法行為と相当因果関係のある損害である。よって,共同不法行為者である被控訴人らは,各自1050万円を控訴人X1に賠償する義務を負う。

イ 経営指導義務違反による損害賠償請求について
 被控訴人FFが経営指導義務の債務不履行により控訴人X1に生じた損害(利益の減少又は損失の増加)を賠償する義務を負うことは,前説示のとおりである。しかしながら,この損害の性質上,その額を立証することは極めて困難である。控訴人X1は,支払済みロイヤリティの額が損害であると主張するが,そのように断定することはできない。

そうすると,民事訴訟法248条により,口頭弁論の全趣旨及び本件全証拠(特に,甲D2,乙D20)に基づき相当な損害額を認定することとなるが,本件においては,被控訴人FFの経営指導義務の不履行により1箇月につき1店舗当たり2万円相当の損害(損益の悪化)が生じたものと認めるのが相当である。

 新川店の営業期間は51箇月であるから同店の損害額は102万円となり,幡ヶ谷店の営業期間は47箇月であるから同店の損害額は94万円となる。そうすると,損害の合計額は196万円である。

ウ よって,控訴人X1に対し,被控訴人FFは1246万円,被控訴人VLは1050万円を支払うべき義務を負う。
 被控訴人らは,1050万円の限度で連帯支払義務を負う。

(2)控訴人X2
ア 加盟金及び加盟保証金合計1980万円の返還請求について
 控訴人X2と被控訴人FFとの本件FC契約及び串家FC契約のうち加盟金及び加盟保証金の支払義務を定めた部分は,公序良俗に反し無効である。したがって,控訴人X2による加盟金及び加盟保証金合計1980万円(3店分,消費税込み)の支払は根拠のないものとなり,その支払を受けた被控訴人FFは,1980万円を控訴人X2に返還すべき義務を負う。

 また,控訴人X2は,被控訴人らの共同不法行為(詐欺)により本件FC契約締結の意思表示をして,加盟金及び加盟保証金合計1980万円を被控訴人FFに支払ったのであるから,この1980万円は,不法行為と相当因果関係のある損害である。よって,共同不法行為者である被控訴人らは,各自1980万円を控訴人X2に賠償する義務を負う。

イ 経営指導義務違反による損害賠償請求について
 被控訴人FFに本件FC契約上の経営指導義務の債務不履行があるが,損害の性質上その額を立証することは極めて困難であることは,(1)イに記載のとおりである。
 そうすると,民事訴訟法248条により,口頭弁論の全趣旨及び本件全証拠(特に,甲A4,乙A14)に基づき相当な損害額を認定することとなるが,本件においては,被控訴人FFの経営指導義務の不履行により1箇月につき1店舗当たり2万円相当の損害(損益の悪化)が生じたものと認めるのが相当である。
 東池袋店の営業期間は45箇月であるから同店の損害額は90万円となる。

ウ よって,控訴人X2に対し,被控訴人FFは2000万円(ア及びイの合計額2070万円は控訴人X2の請求額2000万円を超過する。),被控訴人VLは1980万円を支払うべき義務を負う。
 被控訴人らは,1980万円の限度で連帯支払義務を負う。

(3)控訴人X3
ア 加盟金1680万円の返還請求について
 控訴人X3と被控訴人FFとの本件FC契約のうち加盟金の支払義務を定めた部分は,公序良俗に反し無効である。したがって,控訴人X3による加盟金1680万円(2店分,消費税込み)の支払は根拠のないものとなり,その支払を受けた被控訴人FFは,1680万円を控訴人X3に支払うべき義務を負う。

 また,控訴人X3は,被控訴人らの共同不法行為(詐欺)により本件FC契約締結の意思表示をして,加盟金1680円を被控訴人FFに支払ったのであるから,この1680万円は,不法行為と相当因果関係のある損害である。よって,共同不法行為者である被控訴人らは,各自1680万円を控訴人X3に賠償する義務を負う。

イ 経営指導義務違反による損害賠償請求について
 被控訴人FFに本件FC契約上の経営指導義務の債務不履行があるが,損害の性質上その額を立証することは極めて困難であることは,(1)イに記載のとおりである。

 そうすると,民事訴訟法248条により,口頭弁論の全趣旨及び本件全証拠(特に,甲B5,乙B9,10)に基づき相当な損害額を認定することとなるが,本件においては,被控訴人FFの経営指導義務の不履行により1箇月につき1店舗当たり2万円相当の損害(損益の悪化)が生じたものと認めるのが相当である。
 上野店及び門仲店の営業期間はいずれも15箇月であるから各店の損害額は30万円(合計60万円)となる。

ウ よって,控訴人X3に対し,被控訴人FFは1740万円,被控訴人VLは1680万円を支払うべき義務を負う。
 被控訴人らは,1680万円の限度で連帯支払義務を負う。

6 被控訴人FFの反訴請求(競業避止義務違反関係)について
(1)被控訴人FFは,本件各FC契約の競業避止義務条項(1(1)オ(コ))を根拠として反訴請求をするが,被控訴人FFが,控訴人らに対して,本件FC契約の終了後も競業避止条項を適用して,競業避止義務の履行を求めて差止請求をしたり,競業避止義務の不履行による違約金を請求したりすることは,被控訴人らが前記認定のとおり詐欺的行為によって本件FC契約の締結を控訴人らに勧誘し,かつ,フランチャイズとしての経営指導を行わず,控訴人らがノウハウをほとんど受けていないという経緯に照らすと,信義誠実の原則に違反し,権利の濫用であって,許されないものというべきである。

(2)したがって,被控訴人FFの営業差止請求及び競業避止義務違反による違約金請求は,全部理由がない。

7 結論
 以上によれば,控訴人X1の請求は被控訴人FFに対し1246万円,被控訴人VLに対し1050万円の限度で,控訴人X2の請求は被控訴人FFに対し2000万円,被控訴人VLに対し1980万円の限度で,控訴人X3の請求は被控訴人FFに対し1740万円,被控訴人VLに対し1680万円の限度でそれぞれ認容すべきであり,被控訴人FFの反訴請求は全部棄却すべきである。これと異なる原判決は,主文のとおり変更すべきである。なお,控訴人X2の当審における予備的請求は,これに対応する主位的請求(加盟保証金の返還請求)が全部認容されたことから,判断の必要がないものである。
 よって,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第17民事部 裁判長裁判官 南敏文 裁判官 小泉博嗣 裁判官 野山宏
以上:6,125文字

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