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不法行為損害賠償債務遅延損害金民法405条適用否認最高裁判決紹介

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令和 4年 8月23日(火):初稿
○被上告人会社の株主であった上告人が、被上告人会社の違法な新株発行等により自己の保有する株式の価値が低下して損害を被ったとして、被上告人会社の代表取締役である被上告人Y2に対しては民法709条等に基づき、被上告人会社に対しては会社法350条等に基づき、損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めました。

○原審は、本件新株発行について不法行為が成立するとして、上告人の請求のうち被上告人Y2に対する民法709条に基づく損害賠償請求及び被上告人会社に対する会社法350条に基づく損害賠償請求をそれぞれ一部認容し、その際、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金について民法405条は適用又は類推適用されず、遅延損害金を元本に組み入れることはできない旨の判断をしました。

○そこで、上告人が上告した事案で、上告審も、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は、民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできないとし、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができるとして、本件上告を棄却した令和4年1月18日最高裁判決(判時2522号○頁)。

民報第405条(利息の元本への組入れ)で、「利息の支払が1年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。」と規定されています。

○上告人は、この規定により、不法行為損害賠償債権の遅延損害金について、元本組入の意思表示をし、第一審地裁判決はこれを認めましたが、原審高裁判決は、民法405条の趣旨は,金銭債権の利息(遅延損害金)を支払わない怠慢な債務者を責め,債権者を保護することにあるところ,不法行為に基づく損害賠償債権は債務不履行に基づくものと異なり履行すべき債権の額が債務者にとって必ずしも明らかとはいえないことに加え,不法行為に基づく損害賠償債権については催告なしに不法行為の時から遅延損害金が発生すると解されており(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁),相応の債務者保護が図られていることも併せ考慮すると,第1審原告の不法行為に基づく損害賠償債権については民法405条の適用(類推適用)があると解することはできないから,第1審原告の本件新株発行(不法行為)に基づく損害賠償金の遅延損害金を元本に組み入れるべきである旨の主張を採用することはできないとしていたところ、最高裁判決もこの結論を是認しました。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○,同○○○○,同○○○○の上告受理申立て理由第4について
1 本件は,被上告人Y1(以下「被上告人会社」という。)の株主であった上告人が,被上告人会社の違法な新株発行等により自己の保有する株式の価値が低下して損害を被ったとして,被上告人会社の代表取締役である被上告人Y2に対しては民法709条等に基づき,被上告人会社に対しては会社法350条等に基づき,損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人会社は,平成25年3月,その代表取締役である被上告人Y2に募集株式を割り当ててこれを発行した(以下「本件新株発行」という。)。本件新株発行は,被上告人Y2が主導して,専ら上告人を被上告人会社から排除する目的で行われたものであり,上告人が保有していた被上告人会社の株式の価値を著しく毀損するものであった。

(2)上告人は,平成27年3月,本件新株発行が違法であるとして,被上告人らに対し,不法行為に基づき,損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めて本件訴訟を提起し,その訴状は,同年4月,被上告人らにそれぞれ送達された。

(3)上告人は,平成27年6月25日,被上告人らに対し,民法405条に基づき,上記の損害賠償債務について同日までに発生した遅延損害金を元本に組み入れる旨の意思表示をした。

3 原審は,本件新株発行について不法行為が成立するとして,上告人の請求のうち被上告人Y2に対する民法709条に基づく損害賠償請求及び被上告人会社に対する会社法350条に基づく損害賠償請求をそれぞれ一部認容したが,その際,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金について民法405条は適用又は類推適用されず,上記2(3)の遅延損害金を元本に組み入れることはできない旨の判断をした。

4 所論は,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金に民法405条が適用又は類推適用されないとすれば,損害賠償をしない怠慢な債務者を保護することになるなどとして,原審の上記判断には法令の解釈適用の誤り及び判例違反がある旨をいうものである。

5 民法405条は,いわゆる重利の特約がされていない場合においても,一定の要件の下に,債権者の一方的な意思表示により利息を元本に組み入れることができるものとしている。これは,債務者において著しく利息の支払を延滞しているにもかかわらず,その延滞利息に対して利息を付すことができないとすれば,債権者は,利息を使用することができないため少なからぬ損害を受けることになることから,利息の支払の延滞に対して特に債権者の保護を図る趣旨に出たものと解される。

そして,遅延損害金であっても,貸金債務の履行遅滞により生ずるものについては,その性質等に照らし,上記の趣旨が当てはまるということができる(大審院昭和16年(オ)第653号同17年2月4日判決・民集21巻107頁参照)。

これに対し,不法行為に基づく損害賠償債務は,貸金債務とは異なり,債務者にとって履行すべき債務の額が定かではないことが少なくないから,債務者がその履行遅滞により生ずる遅延損害金を支払わなかったからといって,一概に債務者を責めることはできない。また,不法行為に基づく損害賠償債務については,何らの催告を要することなく不法行為の時から遅延損害金が発生すると解されており(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),上記遅延損害金の元本への組入れを認めてまで債権者の保護を図る必要性も乏しい。そうすると,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金については,民法405条の上記趣旨は妥当しないというべきである。

 したがって、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできないと解するのが相当である。


6 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の上記大審院判例は,事案を異にし,本件に適切でない。論旨は採用することができない。 
 なお,上告人のその余の上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除された。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 林道晴 裁判官 戸倉三郎 裁判官 宇賀克也 裁判官 長嶺安政 裁判官 渡邉惠理子)

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