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患者の医療記録(カルテ)開示請求権に関する法律及び裁判例紹介

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平成25年12月 8日(日):初稿
○交通事故事件で主に裁判所を通じてですが、日常的に医師に医療記録(カルテ)開示請求をしており、患者には当然、医療記録(カルテ)開示請求権があると思っていましたが、あるとき、その法的根拠はなんですかと問われて明確に答えることが出来ませんでした。カルテに記載されている事項は患者本人の症状等であり、患者についての情報ですから、患者にその情報コントロール権があるはずです。しかし、記載したのは医師であり、医師の主観的情報も入っており、医師にもコントロールする権利があり、当然に患者にカルテ開示請求権があるとは言えないのではとの疑問があります。

○この問題についての関係条文は以下の通りです。
医師法第24条
 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
2 前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、5年間これを保存しなければならない。

※この規定は医師についての義務を定めたもので、患者の開示請求を認めたものではありません。

個人情報保護法第25条(開示)
 個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示(当該本人が識別される保有個人データが存在しないときにその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。
1.本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
(後略)

※医師が、「個人情報取扱事業者」に該当しなければ、適用されません。

○明文の規定で、全面的に患者の医療記録(カルテ)開示請求権を認めたものはありません。そこで判例を調べると、以下の2件の判決が見つかりましたので、医師の医療記録(カルテ)開示義務に関する部分の記述を紹介します。

平成23年1月27日東京地方裁判所判決(判例タイムズ1367号212頁 )
上記認定事実及び前記前提事実によれば,原告は,乙山歯科において,インプラント体の埋入及びインプラント二次手術を受けた後,手術部位から出血し,縫合処置を受けることを余儀なくされるなどしたため,被告に対する信頼を失い,平成21年2月9日以降,乙山歯科への通院を中止し,同年4月6日には,被告に対し,口頭で,診療経過の説明及びカルテの開示を請求するに至ったものと認められる。以上のような経緯に照らせば,原告には,被告の診療行為の適否や,他の歯科医院に転院することの要否について検討するため,被告から診療経過の説明及びカルテの開示を受けることを必要とする相当な理由があったものと認められる。
 したがって,被告は,上記のような状況の下では,診療契約に伴う付随義務あるいは診療を実施する医師として負担する信義則上の義務として,特段の支障がない限り,診療経過の説明及びカルテの開示をすベき義務を負っていたというべきである。しかるに,被告は,本件訴訟が提起されるまで,このような義務を何ら果たさなかったのであるから,このような義務違反について債務不履行責任ないし不法行為責任を負うものと解するのが相当である。

平成23年12月20日福岡地裁判決(ウエストロー・ジャパン)
イ 診療契約上の説明・報告義務の一環としての診療記録の開示義務等の有無について
(ア) 診療契約は,患者が医師や医療機関に対して適切な診療を求め,医師等がこれに承諾することにより成立する準委任契約であり,受任者である医師等は,患者に対し,診療が終了したときは,その結果を報告する義務を負う(民法655条,645条)。そして,医療行為が医師の高度な専門的な知識や技術をもって行われる行為であり,医師がその内容,経過,結果等を最も知り得る立場にあるのに対し,患者は一般的にこれを容易に知ることが困難であると考えられること,医療行為の内容,経過,結果等は,患者にとってその生命,身体等に関わる当然に重大な関心を有する事項であり,患者の自己決定の前提となる自己情報コントロール権の尊重の観点をも併せ考慮すると,医師等は,診療契約上の報告義務の一環として,少なくとも患者が請求した場合には,その時期に報告するのが相当とはいえないなどの特段の事情がない限り,患者に対して医療行為の内容,経過,結果等について説明及び報告すべき義務(てん末報告義務)を負うと解するのが相当である。

 この医師等の負うてん末報告義務においては,医師等の患者に対する説明及び報告の内容,方法等によっては患者の生命,身体に重大な影響を与える可能性があることから,医師等に説明及び報告の内容,方法等に一定の裁量が認められるというべきである。しかしながら,診療録等の診療記録は,診療が行われたときに遅滞なく診療に関する事項等を記載して作成されるものであり(医師法24条1項参照),診療の内容,経過等に係る記録として客観性,信頼性の高いものであり,患者にとっては診療録等の診療記録の開示を受ける利益が大きいということができる一方で,医師等にとっては,事務の負担,自己に対する責任追及の可能性の観点を除くと,診療録等の診療記録を開示することの不利益は直ちに想定し難いということができる。

 そうすると,患者が医師等に対して上記の説明及び報告として診療録等の診療記録の開示を求めた場合には,患者の自己情報コントロール権を尊重する観点からも,医師等は,そのような方法により説明及び報告することが求められているといい得るのであって,医師等の説明の内容や方法,診療録等の診療記録の記載の内容等の事情を考慮して,医師等の患者に対する説明及び報告が合理的であるといえない限り,医師等が上記のてん末報告義務違反であるとの評価を免れることはできないと解するのが相当であり,前記(ア)の厚生労働省作成の指針等も,上記の趣旨に沿うものということができる。

以上:2,520文字

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