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親族の非協力で鑑定できない成年後見開始申立を却下した家裁審判紹介

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令和 6年 9月13日(金):初稿
○後見開始申立事件において、本人母の親族長男の非協力により鑑定ができなかったことから、長女の申立てを却下した令和4年8月19日横浜家裁審判(ウエストロージャパン)全文を紹介します。事案からは明らかに長男の非協力は、長男の我が儘と思われ、申立人長女は抗告して、この審判は、東京高裁で取り消され原審の差し戻しされており別コンテンツで紹介します。

○関連する家事事件手続法の条文は以下の通りです。
第119条(精神の状況に関する鑑定及び意見の聴取)
 家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。
2家庭裁判所は、成年被後見人の精神の状況につき医師の意見を聴かなければ、民法第十条の規定による後見開始の審判の取消しの審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。



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主   文
1 本件申立てを却下する。
2 手続費用は申立人の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

 本人について後見を開始する。

第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本人は、昭和30年12月6日、A(以下「亡A」という。)と婚姻し、昭和31年○月○日に長女である申立人を、昭和34年○月○日に長男であるB(以下「長男」という。)をそれぞれもうけた。
(2) 亡Aは、平成27年11月11日、長男に全財産を相続させること、長男は全財産を相続することの負担として、本人が存命中、本人に対する必要な介護を行うこと等を内容とする公正証書遺言をした(a地方法務局所属公証人C作成平成27年第○号遺言公正証書。以下「本件遺言」という。)。本件遺言の付言事項には、本人は認知症であり、常に介護が必要な状態である旨が記載されていた。

(3) 亡Aが介護サービスを利用するために平成28年2月に作成された亡Aの認定調査票には、「妻(本人)は要介護5の認定を受ける。」旨が記載されていた。
(4) 亡Aは、令和3年○月○日に死亡した。
(5) 本人は、令和2年9月から特別養護老人ホームb(以下「本件施設」という。)のショートステイを利用し、月1、2日程度、長男が居住する自宅に戻る生活をしており、自宅に戻った際は、本件施設とは別のデイサービスに通っている。

(6) 申立人は、定期的に本件施設を訪問し、本件施設内で本人と面会をしている。
(7) 本人の財産は、長男が事実上管理している。
(8) 申立人は、令和3年12月21日、当裁判所に対し、本件申立てをした。
 申立人は、本件申立ての動機として、亡Aの本件遺言は無効であり遺産分割をする必要があること、仮に本件遺言が有効であるとしても本人の遺留分を確保する必要があること、長男による本人財産の使い込みが疑われ、財産管理をする者が必要であると述べ、本人の精神状況について、意識はあるものの、認知症が進行し、会話が一切できない状態である旨を述べるが、本人の診断書等は提出されていない。

(9) 当裁判所は、家庭裁判所調査官による調査を実施し、長男に照会書を送付したところ、長男は、令和4年1月26日付け照会書(回答)を当裁判所に提出した。上記照会書(回答)によると、長男は、本人の現在の状態について、「自身で法律行為や財産管理をする判断能力はないと思う。」欄を選択したにもかかわらず、「診断書の提出にも鑑定にも協力できない。」欄を選択し、後見開始の審判となった場合に家庭裁判所が第三者専門職を後見人として選任することは「反対である。」旨を回答した。

 そのため、家庭裁判所調査官は、本件施設に電話連絡し、施設責任者に対して本人調査の実施等について確認したところ、施設利用者に対する鑑定手続や調査官による本人調査については、契約者の同意がなければ実施を認めることができない、施設から長男に対し意向を確認したところ、長男は上記手続や調査の実施に同意しなかったため、施設としては協力できない旨の回答がなされた。

(10) 当裁判所は、同年6月15日、審問期日を指定し、長男を呼び出したが、長男は出頭しなかった。

2 後見開始の審判をするためには、本人について、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあることが必要であり(民法7条)、家庭裁判所は、明らかにその必要がないと認められる場合を除き、本人の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない(家事事件手続法119条1項)。

 この点、前記1で認定した事実によれば、本人は、遅くとも平成27年までには認知症と診断され、平成28年2月頃には要介護5の認定がされていたことが認められる。
 そして、申立人は、認知症が進行し、会話が一切できない状態である旨を述べるものの、医師の診断書等、本人の現在の精神状況を客観的に示す資料は提出されておらず、一件記録を精査しても、現在、本人の事理を弁識する能力がどの程度減退しているかは明らかではない。

 そうすると、本人について後見開始の審判をするためには、鑑定を実施することが必要であるが、前記1認定の事実によれば、長男や本件施設から鑑定の実施に向けた協力が得られる見込みはない。
 以上のとおり、本件について鑑定を実施できない以上、本人が精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあると認めることはできず、後見開始の審判をすることはできない。


3 よって、本件申立ては理由がないから却下することとし、主文のとおり審判する。
 横浜家庭裁判所
 (裁判官 寺田さや子)
以上:2,353文字

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