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離婚慰謝料支払義務を否認し不貞行為慰謝料200万円を認めた地裁判決紹介

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令和 6年 1月 9日(火):初稿
○原告が、①被告が原告の元夫Cと不貞行為に及んだこと、②被告がCに対し被告とCの間の子が生まれる前に原告と離婚して被告と再婚してほしい旨述べたこと、③被告が、原告に虚偽の事実を申し入れて欺罔し錯誤に陥らせて協議離婚を成立させた後にすぐ被告と再婚するというCの提案を了承したことがいずれも原告に対する不法行為に当たると主張して、被告に対し、不法行為に基づく慰謝料(不貞行為による慰謝料及び離婚に伴う慰謝料)3000万円及び遅延損害金の支払を求めました。

○被告とCの不貞行為開始時時点において、原告とCの婚姻関係が破綻していたこと、また、原告が主張するような、被告が原告とCを離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどしたことはないとして、慰謝料支払義務はないと主張しました。

○これに対し、被告とCの不貞行為開始時時点において、原告とCの婚姻関係が破綻していたとは認められないが、原告が主張するような、被告が原告とCを離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして、原告とCを離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情は見当たらないとして、被告に対し離婚慰謝料を請求することはできないとしながら、原告の精神的損害としては、不貞に伴う慰謝料の限度で200万円を認めた令和4年9月30日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○元夫Cは、被告との離婚に伴い財産分与等として合計7億円も原告に支払っています。被告とCは原告に対する共同不法行為者であり、Cも訴訟に参加して、7億円の支払により共同不法行為による慰謝料支払義務は消滅したと主張する戦略もありますが、経過を見るとCの原告に対する態度が中途半端で、そこまでは考えなかったようです。

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主   文
1 被告は、原告に対し、200万円及びこれに対する令和2年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを15分し、その14を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、3000万円及びこれに対する令和2年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、〔1〕被告が原告の夫であったC(以下「C」という。)と不貞行為に及んだこと(以下「本件不貞行為」という。)、〔2〕被告がCに対し被告とCの間の子が生まれる前に原告と離婚して被告と再婚してほしい旨述べたこと(以下「本件働きかけ行為」という。)、〔3〕被告が、原告に虚偽の事実を申入れて欺罔し錯誤に陥らせて協議離婚を成立させた後にすぐ被告と再婚するというCの提案を了承したこと(以下「本件了承行為」といい、「本件働きかけ行為」と併せて「本件各行為」という。)がいずれも原告に対する不法行為に当たると主張して、被告に対し、不法行為に基づく慰謝料(不貞行為による慰謝料及び離婚に伴う慰謝料)として合計3000万円及びこれに対する令和2年3月2日(本件離婚の日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(各項項目末尾に証拠等を掲記したものを除き、当事者間に争いがない。)

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 前記第2の1の前提事実に加え、証拠(甲3~6、8、12、乙6、8、証人C、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。
(1)原告とCの就業状況等
 原告は、Cとの婚姻後、Cが設立した原告経営会社の代表取締役に就任し、現在まで同社の経営を行っている。
 Cは、ファンド運用会社であるタワー投資顧問株式会社(以下「タワー投資顧問」という。)にファンドマネージャーとして勤務し、澤田ホールディングス株式会社の株式を含む複数の株式の運用を担当していた。

(2)本件調停頃までの原告とCの夫婦関係の状況
 原告とCは、平成25年頃までに、Dの教育や原告とEとの関係等をめぐって諍いとなることが増え、離婚という言葉が出たこともあった。また、原告がCに対し「デブ」などと発言したこともあった。
 原告は、同年12月から平成26年1月にかけて、複数回にわたってEと2人きりで買い物等に出かけたり飲酒したりしたことがあり、飲酒した際にはEと手をつないで歩くことも複数回あった。また、原告は、同年12月14日から同月15日にかけてEの自宅に宿泊した。

 Cは、原告とEの不貞を疑って調査会社に原告の素行調査を依頼し、上記の事実等が判明したため、本件調停において原告とEとの不貞関係を主張したが、原告はEとの不貞を認めなかった。

(3)本件調停が不成立となった後の原告とCの夫婦関係の状況(甲8)
ア 日常生活の状況について
 原告とCは、本件調停が不成立となった後も同居を継続し、基本的に毎日、自宅に帰宅していた。また、原告とCは、日常のたわいもない出来事(自宅に宅配便が届いたこと、台風による交通機関の運休状況及び街の状況、Dの学校の予定、海外及び国内の教育機関の情報、ニュース報道など)を相当の頻度で連絡し合っていた。
 Cは、原告と2人で、あるいはDを含めた3名で食事や買物等に外出することもしばしばあり、その際には、原告と被告との間でレストランの予約等についてやり取りすることもあった。さらに、Cと原告は、Dの学校で開催されたクリスマスコンサートやフードフェア等のイベントにも参加していた。
 なお、被告は、原告がCに対してDとの会話を禁じていたとかDの学校行事の日程さえ知らせなかったなどと主張するが、上記で認定したところに照らして採用し難い。

イ 旅行について
 原告とCは、本件調停が不成立となった後も離婚するまで毎年、ハワイ、アメリカ、オーストラリア、イギリスなどの国に家族で旅行に出かけていた。加えて、Dが、平成27年以降、毎年6月から7月頃にスイス国内で行われる寄宿舎学校のサマースクールに参加し、令和元年夏から令和2年の年末まではスイスに留学していたことから、原告とCも、平成27年から離婚までの間、毎年夏にスイスを訪れ、その際には原告とCのスイスでの滞在期間が重なるように日程を組んで一緒に過ごしていた。

 また、原告とCは、Dと共に宿泊を伴う国内旅行に出かけることもあり、特にスキー旅行には家族3人で多数回にわたって出かけていた。

(4)Cの原告に対する本件離婚申出
 Cは、令和2年2月下旬頃、原告に対し、〔1〕Cが、タワー投資顧問の保有する澤田ホールディングスの株式を売却したが、澤田ホールディングスはモンゴルのハーン銀行の主要株主であるため、モンゴル銀行法により、同売却に当たってモンゴル中央銀行から書面で事前承認を取得する必要があった、〔2〕Cがモンゴル中央銀行からの事前承認を取得せずに株式を売却したため、澤田ホールディングスは、モンゴル銀行法により、その保有するハーン銀行株式の議決権及び配当受領権を停止されることになる、〔3〕澤田ホールディングスの価値の大部分をハーン銀行株式が占めているため、ハーン銀行株式の議決権及び配当受領権の停止によって澤田ホールディングスは巨額の損害を被る可能性が高い、〔4〕澤田ホールディングスはタワー投資顧問に対して同損害について損害賠償請求をすることが見込まれ、タワー投資顧問が損害賠償金を支払った場合には、最終的に、Cがタワー投資顧問から巨額の損害賠償請求を受けるため、全財産を失うこととなるなどを説明し、そうなった場合、Dの学費を払うことができなくなってしまうなどと告げた。

 そのうえで、Cは、原告に対し、上記の損害賠償請求を受ける前に原告やDに財産を移す必要があるが、税金を払うことなく原告やDに財産を移すためには、原告と形だけ離婚したことにして財産分与する形式を採ることが望ましいこと、そのために、Dの大学までの学費として2億円を、家族3人でやり直すための資金として5億円を、それぞれ原告名義の口座に移したいなどと話した。

(5)本件離婚以降の事実経過
 原告は、Cの上記(4)の説明を信じ、Cから渡された離婚届に署名押印してCに交付した。
 Cは、3月2日、原告との離婚届を役所に提出し、同日、原告の銀行口座に2億円を送金したうえ、原告に対し、LINEで「今、離婚届を出して、みずほに2億円振り込んできたよ。」「りそなで2億円振り込むのが思った以上に大変で、Aが言ってたみたいに偉い人が出てきて、いろいろと確認された。」「僕らにしてみたら、僕からAに移っただけなんだけどね(笑)。」などのメッセージを送信した。

 Cは、翌3日、原告の銀行口座にさらに5億円を送金したうえ、原告に対し、LINEで「銀行なう」「とりあえず5億っていったらドン引きされた(笑)」などのメッセージを送信し、これに対し、原告は「そりゃそうだ」「その反応見るために、同席したかったー!」などと返信した。
 さらに、Cは、同月6日、原告に対して25万スイスフラン及び70万ユーロを外貨で送金したうえ、原告に対し、LINEで「外貨振替中なう」「完了。振替だったからあっさりだった。」「スイスフランだけ、僕が残高勘違いしてて、25万振り込んだ。」「ユーロは70万」とのメッセージを送金し、原告は「確認するね」「フラン、ユーロ共にOK」などと返信した。

 Cは、被告との婚姻の届出をした令和2年3月7日以降も、同年5月25日までの間、原告との間で婚姻中と変わらずLINEでたわいもない内容のメッセージをやり取りしていたが、同日を最後に原告からのLINEのメッセージに返信しなくなった。

2 争点1(婚姻関係破綻の抗弁の成否)について
(1)上記1で認定した事実、殊に、原告とCが、本件調停が不成立となった平成26年以降、〔1〕本件離婚に至るまで同居し、日常のたわいもない出来事を相当の頻度で連絡し合っていたこと、〔2〕2人で、あるいはDを含めた3名でしばしば食事や買物等に外出するなど、夫婦又は家族としての交流が継続的に行われていたこと、〔3〕Dの学校のイベント(クリスマスコンサートやフードフェア等)に参加するなど、協力してDの養育監護に当たっていたこと、〔4〕Dと共に、毎年、ハワイ、アメリカ、オーストラリア、イギリス等へ旅行に出かけ、さらに、平成27年以降は、本件離婚までの間、毎年夏にDと共にスイスに滞在して一緒の時間を過ごしていたこと、〔5〕Dと共に宿泊を伴う国内旅行に出かけ、特にスキー旅行には多数回出かけていたことなどの事実に照らすと、平成30年11月(被告とCの不貞行為開始時)時点において、原告とCの婚姻関係が破綻していたとは到底認められない。

(2)これに対し、被告は、〔1〕原告が、平成25年10月、Cに対して離婚届を準備していると告げたこと、〔2〕原告が、同年12月7日から8日にかけてEとホテルに宿泊し、同月14日から15日にかけてEの自宅に宿泊したこと、〔3〕Cが、平成26年3月、東京家庭裁判所に本件調停を申し立てたが、原告がEとの不貞関係を認めず同年6月に本件調停が不成立となったことなどを挙げて、これらの事実関係等からすれば、平成25年ないし同26年以降、原告とCとの婚姻関係が破綻していたことは明らかであると主張する。

 しかし、〔1〕~〔3〕の各事実は、その頃に原告とCとの婚姻関係がぜい弱になっていたことをうかがわせる事情とみることができるものの、これらの各事実を含めた被告主張の事実関係から直ちに原告とCの婚姻関係が修復不可能な程度に破綻していたとは認めることができない(なお、上記〔2〕のホテルへの宿泊について、原告は妹と2人で宿泊したと供述しているところ〔原告本人〕、被告提出に係る調査報告書(乙8)は、平成25年12月7日の夜に原告とEが大規模シティホテルのロビー階で上階行きエレベータに乗り込んだとの内容にとどまるから、直ちに、同日に原告とEがホテルの同室に入室したなどの事実を認めることは困難である。)。そして、平成26年頃までに原告とCとの婚姻関係が一定程度ぜい弱になっていたとしても、上記1(3)~(5)のとおり、原告とCは本件調停が不成立となった後も本件離婚の日まで同居を継続し、上記(1)のとおり、この間数年にわたって実体のある夫婦関係を続けていたと認められることからすれば、平成26年頃の原告とCの夫婦関係の状態が本件不貞開始時(平成30年11月頃)まで継続していたとも認めることはできない。
 以上によれば、被告の主張を採用することはできない。

3 争点2(本件各行為の存否及び不法行為該当性)について
(1)原告は、被告が本件各行為を行ったと主張するが、本件全証拠を子細に検討しても被告が本件各行為を行ったとは認めることができない。

(2)これに対し、原告は、Cが、本件離婚の日(令和2年3月2日)のわずか5日後(同月7日)に被告と再婚し、さらにそのわずか9日後(同月16日)にCと被告との間に本件子が出生したという事実経過からすれば、Cが、原告を欺罔して本件子の出生前に離婚に応じさせたうえで被告と再婚する目的で本件離婚申出を行ったこと、さらには、被告がCに対して本件各行為を行ったことが明らかであると主張する。

 たしかに、原告の指摘する事実経過は、Cの本件離婚申出に原告主張の意図があったことをうかがわせる一事情と評価し得るが、これを超えて被告がCに対して本件各行為を行ったことをうかがわせる事情とはいい難く、他に被告が本件各行為を行ったことを合理的にうかがわせる事情は見当たらない。そうすると、被告が本件各行為を行ったとの原告の主張は推測の域を出るものでなく、採用できない。

4 争点3(原告の損害)について
(1)上記2及び3で説示したところによれば、本件不貞行為については原告に対する不法行為が成立するが、本件各行為についてはいずれも被告が行ったと認めることができないから原告に対する不法行為は成立しない。

(2)そこで、以下、本件不貞行為によって原告に生じた精神的損害について検討する。
ア 夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。

以上によれば、夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、上記特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。(最高裁平成29年(受)第1456号同31年2月19日第三小法廷判決・民集第73巻2号187頁)

イ 被告は原告の夫であったCと本件不貞行為に及んだものであるが、他方、被告が原告とCを離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして原告とCを離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があったことをうかがわせる事情は見当たらない(なお、被告は、本件各行為が上記特段の事情に当たると主張するものと解されるが、本件各行為の存在を認めることができないことは上記3で説示したとおりである。)。したがって、原告は、被告に対し、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない。

ウ そうすると、原告の精神的損害としては、不貞に伴う慰謝料の限度で認めるべきこととなる。

 そして、原告とCの婚姻期間が本件不貞行為の開始時点(平成30年11月)で11年を超えていたこと、被告とCの不貞期間(不貞行為の開始から本件離婚まで)が1年超であること、本件不貞行為に起因して最終的に原告とCが本件離婚に至っていること(この点、原告は、本件離婚時に本件不貞行為を認識していないが、Cが原告に対して本件離婚申出をしたのが本件不貞行為及びこれによる被告の妊娠を契機としたものであることは明らかであるから、本件離婚は本件不貞行為に起因するものと認められる。なお、原告とCが最終的に本件離婚に至ったという事実を不貞に伴う慰謝料を算定する基礎事情として考慮するにとどまり、離婚に伴う慰謝料を認容するものではないから、上記アの判例には違背しない。)、本件離婚直後に被告とCが婚姻して被告がCとの子(本件子)を出産していること、その他本件に顕れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件不貞行為に伴う原告の精神的損害についての慰謝料は200万円を相当と認める。

5 結論
 以上によれば、原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第35部 裁判官 廣瀬達人

以上:7,095文字

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