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同居したことが無い夫婦間でも婚姻費用分担を認めた高裁決定紹介

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令和 5年12月19日(火):初稿
○「婚姻実体がないことを理由に婚姻費用請求を却下した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審の令和4年10月13日東京高裁決定(判時2567号41頁、判タ1512号101頁)全文を紹介します。

○抗告人(原審申立人、妻)と相手方(原審相手方、夫)は、婚姻の届出をしたが、婚姻の届出後も毎週末に会うことは繰り返したものの同居しないままの状態でいるうち、抗告人が同居を拒否したことから、以後は別居したまま会わなくなったところ、抗告人妻が、相手方に対し、婚姻費用の分担金の支払を求めて婚姻費用分担請求調停を申し立てるも同調停は不成立となり、審判手続に移行しました。

○原審の令和4年6月17日横浜家裁審判(判タ1512号101頁・判時2567号41頁)は、婚姻届をしても婚姻実体がないので生活保持義務はなく婚姻費用支払義務がないとして申立を却下しましたが、事案からは妥当な結論と思っていましたが、納得できない妻は、東京高裁に抗告しました。

○東京高裁は、抗告人と相手方の婚姻関係の実態がおよそ存在せず、婚姻関係を形成する意思がなかったとも言えないとして、婚姻費用分担義務は、婚姻という法律関係から生じるもので、夫婦の同居や協力関係の存在という事実状態から生じるものではないから、婚姻の届出後同居することもないままに婚姻関係を継続し、その後、仮に抗告人と相手方の婚姻関係が既に破綻していると評価されるような事実状態に至ったとしても、法律上の扶助義務が消滅するということはできず、また、婚姻関係破綻の原因を抗告人のみに求めることはできないなどとして、原審判を取り消し、相手方に対し、履行期到来婚姻費用108万円の支払と、当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで、1か月あたり6万円の婚姻費用を支払うことを命じました。

○この決定は、最高裁への特別抗告・許可抗告がなされず確定しています。この決定では、婚姻関係の破綻について専ら又は主として責任がある配偶者が婚姻費用の分担を求めることは信義則違反となり,その責任の程度に応じて,婚姻費用の分担請求が認められない場合や,婚姻費用の分担額が減額される場合があるとしながらも、いったん婚姻届をすると、同居するなどの結婚の実体の有無に拘わらず、原則として婚姻費用分担義務が生ずるとするもので、安易な婚姻届に警鐘を鳴らしたとも言えます。婚姻届は慎重にしなければなりません。

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主   文
1 原審判を取り消す。
2 相手方は,抗告人に対し,108万円を支払え。
3 相手方は,抗告人に対し,令和4年10月から当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで,毎月末日限り,1か月当たり6万円を支払え。
4 手続費用は,原審及び抗告審を通じて,各自の負担とする。

理   由
第1 事案の概要
(以下,略称は特に定義しない限り原審判の例による。)
1 抗告人(原審申立人,妻・昭和57年*月*日生)と相手方(原審相手方,夫・昭和54年*月*日生)は,令和2年8月13日,婚姻の届出をしたが,婚姻の届出後も毎週末に会うことは繰り返したものの同居しないままの状態でいるうち,同年10月12日,抗告人が同居を拒否したことから,以後は別居したまま会わなくなった。
 本件は,抗告人が,相手方に対し,婚姻費用の分担金の支払を求める事案である。抗告人は,令和3年4月14日,婚姻費用分担請求調停を申し立てたが,同調停は,令和4年3月22日,不成立となり,審判手続に移行した。

2 原審は,抗告人の申立てを却下した。そこで,抗告人は,原審判を不服として,即時抗告した。

3 本件抗告の趣旨及び理由は,別紙即時抗告申立書,同抗告理由書及び同主張書面に各記載のとおりであり,相手方の反論は,別紙抗告答弁書及び同準備書面(1)に各記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,相手方に対し,婚姻費用分担金として,既に履行期が到来している令和3年4月から令和4年9月までの18か月分の未払額合計108万円を直ちに、同年10月から当事者が離婚又は別居状態を解消するまでの間,月額6万円を毎月末日限り,抗告人に支払うよう命じるのが相当であると判断する。その理由は,後記2ないし4のとおりである。

2 認定事実
 原審判を次のとおり補正するほか,原審判「理由」第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 
(1)原審判1頁18行目冒頭から同頁26行目の「(2)申立人は」までを次のとおり改める
「(1)抗告人(昭和57年*月*日生)と相手方(昭和54年*月*日生)は,令和2年1月からよく会うようになり,同年6月6日頃交際を開始すると同時に婚約し,同年8月13日婚姻の届出をした。婚姻届出時,抗告人は○○37歳,相手方は41歳であった。

 抗告人と相手方は,婚姻の届出の前後から,互いに連絡を密に取りながら,結婚式場を探しつつウエディングドレスを購入し,また,二人で住むための住居も探しており,同年9月になると希望に沿った賃貸物件が見つかったとして,同年10月17日の入居予定で賃貸物件を借り受け,鍵を受け取って家財を搬入するなど入居準備を進めていた。さらに,相手方は,勤務先の関係者にも結婚する旨を報告して祝福を受け,抗告人も,行政書士会の手続のために○○役所を訪れた際に会った税理士に結婚する旨報告し,祝福を受けた。

 そして,抗告人と相手方は,同年8月13日の婚姻の届出後,直ちに同居するには至らなかったものの,毎週末ごとに必ず,週末婚あるいは何回目の新婚旅行だと称してホテルに泊まり,名所を巡って食事をするなどして共に過ごしており,それは,上記賃貸物件の同居予定日前まで続いた。同年10月9日には,最後の週末婚だと称して抗告人が相手方の部屋に行って泊まり,同月11日まで,週末を共に過ごすなどした。

(2)ところが,抗告人は,令和2年10月12日に相手方との同居を拒否するようになり,同月14日には相手方に対し「別居している配偶者にも生活費を渡す義務があるよ。毎月お願いします。」とのメールを送信して生活費の支払を要求する一方で,相手方とは別居したまま会わなくなった。
 抗告人は,相手方との同居を拒否した理由として」

(2)同3頁2行目の「青色申告特別控除額」の次に「約63万円」を加える。

(3)同3頁6行目の「自宅療養」を「同年8月5日から同年10月31日までの自宅療養」に改める。

3 検討
(1)婚姻費用分担義務について

 夫婦は,婚姻関係に基づき互いに協力し扶助する義務を負い(民法752条),婚姻から生ずる費用を分担する(民法760条)。この義務は,夫婦の他方に自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務であり,夫婦が別居している場合でも異なるものではない。
 相手方は,抗告人と一度も同居したことがなく,婚姻後は数えるほどしか直接に会ったことがなく,健全な婚姻生活を送っていたとはいえないところ,その原因は,抗告人に相手方との同居又は健全な婚姻生活を送る意思がなく,相手方との同居を拒んでいるためであるとして,婚姻費用分担義務を負わないと主張する。

 しかし,当時37歳○○であった抗告人と当時41歳であった相手方は,互いに婚姻の意思をもって婚姻の届出をし,届出後直ちに同居したわけではないものの,互いに連絡を密に取りながら披露宴や同居生活に向けた準備を着々と進め,勤務先の関係者にも結婚する旨を報告して祝福を受けるなどしつつ,週末婚あるいは新婚旅行と称して,毎週末ごとに必ず,生活を共にしていたことは,認定事実(1)のとおりであるから,抗告人と相手方の婚姻関係の実態がおよそ存在しなかったということはできず,婚姻関係を形成する意思がなかったということもできない。

 そして,婚姻費用分担義務は,前述したように婚姻という法律関係から生じるものであって,夫婦の同居や協力関係の存在という事実状態から生じるものではないから,婚姻の届出後同居することもないままに婚姻関係を継続し,その後,仮に抗告人と相手方の婚姻関係が既に破綻していると評価されるような事実状態に至ったとしても,前記法律上の扶助義務が消滅するということはできない。

もっとも,婚姻関係の破綻について専ら又は主として責任がある配偶者が婚姻費用の分担を求めることは信義則違反となり,その責任の程度に応じて,婚姻費用の分担請求が認められない場合や,婚姻費用の分担額が減額される場合があると解されるものの,本件においては,仮に,抗告人と相手方の婚姻関係が既に破綻していると評価されるような事実状態にあるとしても,その原因が専ら又は主として抗告人にあると認めるに足りる的確な資料はない。

抗告人が同居を拒否するに至るまでの抗告人と相手方の婚姻関係や抗告人が同居を拒否する理由として主張するところは,認定事実(1),(2)のとおりであって,これを前提とする限り,婚姻関係破綻の原因を抗告人のみに求めることはできない。
 したがって,相手方の前記主張は採用することができない。

(2)婚姻費用分担額について
ア 算定方法について
 婚姻費用の分担額は,義務者世帯及び権利者世帯が同居していると仮定して,義務者及び権利者の各総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して得られた各基礎収入の合計額を世帯収入とみなし,これを,生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって推計された権利者世帯及び義務者世帯の各生活費で按分して権利者世帯に割り振られる婚姻費用から,権利者の前記基礎収入を控除して,義務者が分担すべき婚姻費用の額を算定するとの方式(以下「改定標準算定方式」という。司法研究報告書第70輯第2号)に基づいて検討するのが相当である。

イ 始期について
 認定事実で認められる本件の経緯等に照らすと,婚姻費用分担額を定めるべき始期は,抗告人が婚姻費用の分担を求める旨の家事調停を申し立てた令和3年4月とするのが相当である。

ウ 算定の基礎とする収入について
(ア)婚姻費用分担額を収入に見合った金額とするためには,算定期間に近接した時期に得た収入に基づいて算定するのが相当であり,本件においては,前記イのとおり始期を令和3年4月とすることから,同年の収入に基づいて算定するのが相当である。

(イ)抗告人の収入
 認定事実(5)によれば,抗告人の令和3年分の確定申告書による事業所得は0円,減価償却費は約3万円,青色申告特別控除額は約63万円,配当収入は約18万円,給与収入は約3万円であったことが認められる。そして,事業所得0円に減価償却費約3万円及び青色申告特別控除額約63万円を加算した約66万円は,給与収入から職業費を控除した金額と同額と認められるところ,一般的に職業費は給与収入の15%を占めるものと考えられていることから,上記約66万円に同じく職業費がかからない配当収入約18万円を加えた約84万円を0.85で割り戻して職業費を加えた金額とすることにより,給与収入に換算すると,約99万円となる。そこで,婚姻費用の算定に当たっては,令和3年の抗告人の給与収入は,上記給与収入約3万円に上記換算後の約99万円を加算した約102万円と認めるのが相当である。

(ウ)相手方の収入
 認定事実(6)によれば,相手方の令和3年分の給与収入は約536万円であったことが認められる。
 なお,認定事実(6)によれば,相手方は,令和3年7月31日に,同年8月5日から同年10月31日までの自宅療養及び定期的な通院加療を要するうつ病との診断を受けていることが認められるものの,そのような状態にあっても同年分の給与収入は上記のとおり約536万円であったから,今後,令和4年以降の給与収入の額が判明した段階で,これが事情変更に当たる場合には減額を検討すべきことがあるとしても,現時点では,令和4年も引き続き令和3年と同程度の収入を得ているものとして,婚姻費用分担額を定めることにする。

エ 抗告人の令和3年の給与収入は年額約102万円,相手方の同年の給与収入は年額約536万円であり,これらを改定標準算定方式による標準算定表〔表10 婚姻費用・夫婦のみの表〕に当てはめると,相手方が抗告人に対して負担すべき婚姻費用の分担額は1か月当たり6万円ないし8万円の範囲と算定される。

オ 以上に,本件に現われた一切の事情を併せ考慮すると,相手方が抗告人に対して支払うべき婚姻費用分担額は,令和3年4月以降1か月当たり6万円とするのが相当である。

4 その他,抗告人及び相手方の主張を踏まえ,本件記録を精査しても,前記認定,判断を左右するものはない。

第3 結論
 以上によれば,相手方に対し,婚姻費用分担金として,既に履行期が到来している令和3年4月から令和4年9月までの18か月分の未払額合計108万円を直ちに,同年10月から当事者が離婚又は別居状態を解消するまでの間,月額6万円を毎月末日限り,抗告人に支払うよう命じるのが相当であるところ,抗告人の申立てを却下した原審判は不当であるからこれを取消した上で,上記のとおり命じることとして,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 大竹昭彦 裁判官 原克也 裁判官 押野純)

以上:5,479文字

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