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非親権者母の子連れ別居肯定助言弁護士に損害賠償を認めた地裁判決紹介

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令和 5年 7月11日(火):初稿
○離婚後に元配偶者父及び子らと同居していた者(母)が、親権を有しないにもかかわらず親権者である元配偶者父に無断で子らを連れて別居したことが、元配偶者父に対する不法行為を構成するとして、元配偶者父が、母とその別居について肯定のアドバイスをした弁護士2名に対し、慰謝料1000万円・弁護士費用100万円合計1100万円の損害賠償請求をしました。

○これに対し、母が親権者父に無断で、子らを連れて別居したことは、親権者父に対する不法行為を構成し、弁護士が、子ら及びその親権者父と同居していた親権を有しない母に対し、親権者父に無断で子らを連れて別居することを肯定する助言をしたことが、親権者父に対する不法行為を構成するとして母と弁護士らに対し連帯して110万円の支払を命じた令和4年3月25日東京地裁判決(判時2554号81頁)の弁護士の責任部分について紹介します。

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主   文
1 被告P2、被告P3及び被告P4は、原告に対し、連帯して110万円並びにこれに対する被告P2及び被告P3については平成31年1月31日から、被告P4については平成31年2月6日から支払済みまで(各起算日からの限度で連帯して)年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告に生じた費用の4分の3と被告P2、被告P3及び被告P4にそれぞれ生じた費用との合計の30分の27を原告の、30分の1を被告P2の、30分の1を被告P3の、30分の1を被告P4の各負担とし、原告に生じた費用の4分の1と被告P5に生じた費用の全部を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

 被告らは、原告に対し、連帯して1100万円並びにこれに対する被告P2及び被告P3は平成31年1月31日から、被告P4及び被告P5は平成31年2月6日から支払済みまで(各起算日からの限度で連帯して)年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告と被告P4(以下「被告P4」という。)の間の2名の子らの親権者である原告が、被告P4は子らを原告から連れ去った、被告P2(以下「被告P2」という。)及び被告P3(以下「被告P3」という。)は弁護士でありながら被告P4の上記違法行為を唆した、被告P4の母である被告P5(以下「被告P5」という。)は被告P4の上記行為に協力したため、それぞれ共同不法行為責任を負うと主張して、被告らに対して不法行為による1100万円の損害賠償及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める事案である。

1 前提事実
 次の(1)から(20)までの事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨から容易に認めることができ、(21)の事実は当裁判所に顕著である。
(1)原告と被告P4は、平成15年1月1日に婚姻し、平成16年○月○○日に長男P6を、平成22年○月○日に二男P7をもうけた。また、被告P4には前夫との間の子P8(平成8年○○月○○日生)がいる。(甲13、28)

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告P4による本件別居が原告に対する不法行為となるか)について

(1)認定事実

         (中略)

2 争点(2)(被告P2らによる本件助言が原告に対する不法行為となるか)について
(1)ある法解釈につき、確立した判例がなく適法性につき相当の確度をもった判断が困難な場合に新たな裁判例を獲得することや、確立した判例がある場合であっても判例を変更するよう求めることも裁判を受ける権利からして許容されてしかるべきであることからすると、裁判手続において、弁護士が代理人として、確立した判例がない分野についてその見解を主張することや、確立した判例と相反する主張をすること自体は、直ちに違法となるものではないと解すべきである。

他方で、裁判外で、確立した判例のない事項につき一定の法解釈に従って行動したが当該行動が違法と判断された場合や、確立した判例に反する法解釈に従って行動した場合に、このような法解釈に基づく行動が法律上当然に許容されるものと解することはできず、自力救済が原則として違法となることに照らしても、裁判外での実力行使については慎重な検討を要するものというべきであり、このことは弁護士であっても当然認識すべきことである。

 本件助言は、被告P4に対し裁判を経ることなく子らを連れ出すこと、すなわち実力行使に及ぶことを助言するものであるところ、前記1で検討したとおり、本件別居は原告に対する不法行為となるものであり、本件別居に違法性がないとの解釈は誤りであるというべきである。

 本件助言が前提とする解釈は少なくとも人身保護についての確立した判例と整合せず、条件又は期限付きの親権者指定合意が有効であるという解釈を示す裁判例が相当数あったとか、同解釈を示す学説が有力であったとかいう事情もうかがわれないことからすると、本件助言は、被告P2らの独自の見解に基づいて違法な実力行使を助言したものといわざるを得ず、不法行為法上違法となると解すべきである。

(2)被告P4及び被告P2が供述する本件協議の内容がおおむね合致していること(前記1(2)ア、被告P2本人)、被告P4及び被告P2が供述する原告による子らの単独監護状況の問題点がおおむね共通していること(前記1(3)イ)、被告P4が、本人尋問において、被告P2らに対し、子らが原告を怖がっているとか、原告から早く離れたいと述べたなどといった話はしていない旨を供述していることなどからすると、被告P2らは、原告が子らを虐待等している事実は存在せず、被告P4が本件別居に当たって子らを連れていかなかった場合に、直ちに子らの福祉が害されると判断するには足りないことを、被告P4から聴取した事情から、認識していたか、容易に認識し得たものというべきである。

 被告P2は、本人尋問において、本件助言に及んだ主たる理由として被告P4の身の安全確保を挙げており、子らに生じる問題については、前記1(3)イに認定の内容のほか、被告P4が不在となると、原告の支配の対象が子らに及ぶと述べる程度であり、原告による子らの単独監護状況に特段の問題がなかったことを被告P2らも認識し得たことは上記のとおりであることからすると、被告P2らが、子らに生じる問題につき具体的な検討をした上で本件助言に及んだとは解せない。

 また、被告P2は、本件助言時に、本件別居が適法となり得ると判断した根拠として、家庭裁判所実務では、親権者は主たる監護者が誰かという観点が最重視されるということが確立していると考えていた、本件助言に当たって、事実婚の場合に非親権者が子らを連れて別居することを適法とした裁判例は見当たらなかったなどと述べている。

しかしながら、主たる監護者による監護の継続性が重要視されるのは、未成年者の親権者又は監護者をどう定めるべきか判断すべき場合においてであり、主たる監護者による監護の継続性を重要視する結果、共同親権下にある未成年者を主たる監護者が他方の配偶者の同意なく連れて別居しただけでは必ずしも違法であるとは解されていないとしても、単独親権下にある未成年者を、親権を有しない親が裁判手続を経ることなく連れて別居するという実力行使に及ぶことをも正当化するものではない。

加えて、戸籍上単独親権とされており、単独親権下にある外観を有する未成年者につき、離婚が無効である結果実体的には共同親権下にある場合や、親権者若しくは監護者指定又は親権者の変更等の裁判が認容される余地がある場合であっても、単独親権の外観が存在する以上、単独親権下にある子を親権者のもとから連れ出すに当たっては、前記1(3)アで述べたような特段の事情のない限り、原則として裁判手続又は調停手続を経るべきであり、実力行使に及ぶことが当然に許容されるものではないことも明らかである。

したがって、少なくとも子らが原告の単独親権下にある外観が形成されていた本件においても、被告P4が子らの主たる監護者であるというだけでは、被告P4が原告の同意なく子らを連れて別居することが当然に許容されるものではなかったことは明らかである。むしろ、被告P2の上記供述内容からは、被告P2らが、条件又は期限付きの親権者指定合意が有効かどうかや、非親権者が親権者も監護する子を連れて別居した場合にこれが適法となるかにつき、人身保護についての前掲各最高裁判例等を踏まえて検討したことはうかがわれない。

 以上に述べたとおり、被告P2らは、本件別居に当たって被告P4が子らを連れていく緊急の必要性が認められないことを認識していたか容易に認識し得たものであり、本件別居が違法な実力行使になり得る可能性を十分認識し得たものといえることからすると、被告P2らは、本件別居が違法な実力行使となる可能性を踏まえて、被告P4に対し、実力行使となる本件別居を助言するのではなく、被告P4が単独で別居し、その後、子らの親権者の変更等及び子らの引渡し等を裁判手続又は調停手続において求めるよう助言すべきであったにもかかわらず、本件別居の適法性について十分な検討を加えず、本件助言に及んだものといわざるを得ない。

 したがって、被告P2らには、本件助言により違法な実力行使を助言したことに過失があると解すべきである。


(3)以上に述べたところからすると、本件別居と本件助言には主観的にも客観的にも関連共同性が認められるから、被告P4及び被告P2らは、本件助言を受けた本件別居により原告に生じた損害につき、共同不法行為責任を負う。

3 争点(3)(被告P5が本件別居につき被告P4を援助したことが原告に対する不法行為となるか)について

         (中略)

4 争点(4)(損害額)について
(1)前記前提事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(2)本件別居により子らと引き離されたことによって原告には精神的苦痛が生じたことが認められるところ、前記前提事実のとおり、原告は、本件別居後、裁判手続を繰り返したにもかかわらず、結局P6とは現在に至っても同居することができておらず、P7とも令和元年9月16日まで同居することができなかったものであり、この間、原告の上記精神的苦痛は継続していたものと認められる。

 また、前記(1)に認定の事実及び前記前提事実によれば、被告P4は、遅くとも本件引渡審判が確定して以降、子らを引き渡す法律上の義務を負っていたにもかかわらず、子らの引渡しに向けて子らを強く説得するなど、その義務を果たす姿勢をみせず子らと被告P5宅で同居し続け、その結果、P6の生活環境が被告P5宅を中心として形成されてしまい、P6は、原告を拒否するわけではないが、一旦形成された生活環境を変更することへの拒否感から、原告との同居を拒否するようになってしまったものと認められる。

 以上によれば、被告P4の本件別居後の上記のような行動により、原告は、P6とは現在に至るまで、P7とも3年半超にわたって同居することができなくなったものと認められるから、本件別居によって発生し、被告P4の行動によって長期間継続した原告の上記精神的苦痛については,全体として本件別居との間に相当因果関係が認められるというべきである。
 したがって、本件別居により原告に生じた精神的苦痛は相応に大きいものといえる。
 

(3)他方で、原告は、被告P4に一方的に遵守事項を定め、原告の言い分を原則として承諾させる内容である本件念書の作成に応じさせており(前記(1)エ)、また、本件念書からは、携帯電話等の履歴をいつでも原告に見せる(前記(1)エ(イ))、言い値の慰謝料を支払う(前記(1)エ(オ)、(カ))などの内容が定められており、原告の被告P4に対する支配的姿勢が見て取れる。

 以上からすると、原告の支配に耐え切れず被告P2らに相談し、原告から逃げようと思って本件別居に及んだ旨の被告P4の本人尋問における供述は信用することができる。

 そうすると、前記1のとおり、子らとの関係では監護に原告の問題がある状況とはいえないために本件別居、本件助言が違法となり、被告P4及び被告P2らが原告に対して不法行為による損害賠償責任を負うとしても、原告が被告P4を本件別居に追い込んだ面もあることは否定できず、このことも原告に前記(2)のとおり生じた精神的苦痛についての慰謝料を算定にするにあたって考慮すべきである。

(4)以上に述べたところに、本件に現れた一切の事情を総合勘案すると、原告に生じた精神的苦痛を慰謝するためには、100万円の慰謝料を認めるのが相当である。

 また、本件事案の内容及び本件訴訟の審理の経過等を総合すると、原告に生じた弁護士費用のうち上記慰謝料額の1割に相当する10万円については本件別居及び本件助言と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。


5 結論
 以上によれば、原告の請求は被告P4及び被告P2らに対し連帯して110万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第43部 裁判長裁判官 市川多美子 裁判官 田野倉真也 裁判官 山中秀斗
以上:5,661文字

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