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自炊代行業者に自炊行為差止と損害賠償を認めた東京地裁判決全文紹介2

平成27年 3月28日:初稿
○「自炊代行業者に自炊行為差止と損害賠償を認めた東京地裁判決全文紹介1」を続けます。





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(ウ) 著作権(複製権)侵害のおそれ
a 被告ドライバレッジは,原告らを含むスキャン対応不可の作家の作品については,目視によりチェックを行い(丙1),該当する書籍については着払いにて返却しているから,原告らの複製権が侵害されるおそれはない。

b 仮にスキャポン・サービスにおいて,複製権の侵害があるとしても,ユーザーが購入した書籍を対象としているから,その過程において,原告らには経済的損害は全くなく,損害発生のおそれがなく,差止請求権は発生しない。

イ 法人被告らのスキャニングが私的使用のための複製の補助として適法といえるか(争点1-2)
(被告サンドリームらの主張)
 著作権法30条1項は,個人的等の限られた範囲内において使用することを目的とする複製を認めており,被告サンドリームは,その使用者のために,その者の指示に従い,手足として補助者的立場で電子データ化を行っており,基本的に同項の範囲内を逸脱していない。
 書籍の所有者が,既に所有している本を個人的に読むことを目的としており,書籍の著作権者に,実質的な意味での権利侵害や実損害は存在しないからである。

(被告ドライバレッジらの主張)
(ア) 著作権法は,私的利用に伴う複製については著作権者の権利は及ばない旨を規定している。その趣旨は,私的領域に関する法の介入を排除することによって個人のプライバシーを保護することにある。したがって,この趣旨を全うするために必要な範囲において,第三者が私的利用の抗弁を援用することが認められるべきである。

 スキャポン・サービスにおけるユーザーは個人であり,そのプライバシーは保護されるべきであるところ,被告ドライバレッジのスキャポン・サービスにおける行為が著作権侵害と判断されると,ユーザーがどのような種類の本を嗜好しているかなどのプライバシーに属する事項が開示される危険があり,この危険を排除するために,被告ドライバレッジはユーザーの有する私的利用の抗弁を援用する。

(イ) 著作権法30条1項の「使用する者が複製する」とは,使用者自身が物理的に自ら複製する場合だけではなく,「補助者による複製」をも含むべきである。けだし,主体性の判断の際には,物理的な行為を行う者ではなく,「複製」に向けての因果の流れを開始し支配している者が「複製」の「主体」と判断されるべきであるし,「複製の自由」が書籍の所有権に由来するものであることに照らしても,書籍の所有者が複製の主体であるというべきだからである。

 そして,各種業務のアウトソース化が拡大した今日においては,「補助者」には,秘書や事務員のように使用者の業務を日常的に補助している者に限定されず,「複製」のみを業務として委託される「業者」をも含むというべきである。
 これを本件についてみると,被告ドライバレッジは,ユーザーから書籍を送付してもらい(所有権の移転はない),その依頼に応じて市販の裁断機を利用して書籍を裁断し,スキャナーを利用してスキャンを行い,生成されたデジタルデータをユーザーに納品している。しかも,その単価は他の業者よりも高額であり,電子データ及び裁断本の販売も行っていない。さらに,被告ドライバレッジの顧客は,医者・弁護士等の専門家であり,当該専門家の情報へのアクセスを容易にするため専門書の電子化を図ることは社会的に有用である(多忙な専門家に「自炊」を強いることは社会的コストが高すぎる)。以上の点を総合的に考慮すれば,規範的にみて,スキャン等の行為の主体はユーザーであって,被告ドライバレッジでないことは明らかである。

(原告らの主張)
(ア) 被告サンドリームらの主張について
a 被告サンドリームらの主張は否認する。

b 被告サンドリームらは,スキャン事業は「個人が自己の所有する書籍のスキャン(電子データ化)を行うこと」と同様で「実質的な意味での権利侵害や実損害は存在しない」と主張するが,両者がいかなる意味で「同様」なのか,何ら具体的な論証をしていない。被告サンドリームらは,「書籍の所有者が,既に所有している本を個人的に読むことを目的として」いるから,「実質的な意味での権利侵害や実損害は存在しない」と主張したいようであるが,個々のユーザーの個別の発注目的など被告らには把握できていないはずであり,目的云々は被告サンドリームらの希望的観測にすぎない。

c 複製の主体は法人被告らであって,その行為が著作権法30条1項の要件を欠くことは明らかである。
 法人被告らの利用者は,単に書籍を法人被告らに送付しているにとどまり,スキャン等の複製に関する作業に関わることは一切ない。
 一方,法人被告らは,①書籍がまだ裁断されていない場合は複製作業の準備作業として裁断を行い,②裁断された書籍をスキャナーで読み取って,電子ファイルを作成し,③オプションサービスが選択された場合には,その電子ファイルに対し,書籍名等を識別可能なファイル名の設定,OCR処理の実行等の様々な処理も行って,電子ファイルを加工する,という複製にかかる一連の作業のすべてを実行している(甲4,5,12~17)。

 そして,法人被告らは,独立した事業者として,自らサービス内容を決定し,インターネット上で宣伝広告を行うことにより利用者を誘引し,法人被告らに注文した不特定多数の利用者から対価を得て,上記の作業を行っている。
 以上に照らせば,法人被告ら自身が複製にかかる作業のすべてを行っているのであって,法人被告らが複製の主体であることは明らかであり,利用者の「手足」とみることはできない。

 そして,著作権法30条1項は,①個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とし,かつ②その使用する者が複製することを要件としている。複製行為の主体は,上記のとおり法人被告らであるから,法人被告らについてこれらの要件を判断すべきこととなる。
 そうすると,法人被告らは,不特定多数の利用者に電子ファイルを使用させることを目的として複製しているから,法人被告ら自身が個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的としている場合には当たらず,上記①の要件を欠くことが明らかである。また,電子ファイルを使用する者は利用者であるのに対し,複製の主体は法人被告らであるから,上記②の要件も欠くことが明らかである。

(イ) 被告ドライバレッジらの主張について
a 被告ドライバレッジらの主張は否認する。

b 上記(ア)cと同じ。

ウ 原告らの被告サンドリームに対する差止請求が権利濫用に当たるか(争点1-3)
(被告サンドリームらの主張)
(ア) 書籍については,明治初期(1880年代)から古本売買という商取引が行われ,その場合,著作権者には対価が全く還元されない。年間1300億円超とも言われる古本の流通量との比較から考えると,私的使用を前提とするスキャン代行の規模自体は微々たるものである。

 また,かつては,レンタルレコード(CD)やコピー業者をめぐり,権利者への対価支払が業界的に制度化されてきた経緯もある。その意味では,スキャン代行は,対価支払制度の将来の実現に向けた模索的,過渡的,価値不確定な段階という評価もできる。

 そこで,著作権者への対価還元の仕組みを作ることは,著作権者側にとっても,本の所有者を含めたスキャンを行う側にとっても,有益なことである。例えば,日本複写機センターや出版社著作権管理機構(JCOPY)その他の事業者がスキャンを対象とし,包括契約を結んでいる著作物のスキャン代行を一度に申し込めるようにする仕組みはどうかという提案意見もある。

(イ) 以上のとおり,本件は,法的に見ても,社会的に見ても,評価や将来の制度設計について多様な意見があり得る問題といえる。
 そのような問題について,原告らが,権利侵害行為や損害の具体的な主張立証もなしに,本の所有者「本人」がスキャンしているわけではないという一事をもって,あたかもすべてのスキャン代行行為やスキャン代行業者が一律に「社会悪」であるかのような請求を行うことは,仮にスキャン代行が私的使用に該当しないと判断される場合であっても,権利の濫用に該当する。

(原告らの主張)
(ア) 被告サンドリームらの主張は否認する。

(イ) 被告サンドリームらは,スキャン事業が「多様な意見があり得る問題」であること等をもって,原告らの請求を権利濫用と主張するが,異論の存在の故に法律上の権利行使が権利濫用とされてしまうのならば,民事訴訟制度など成り立たないであろう。

 そもそも,権利濫用のような一般条項は,被告サンドリームらの主張するような抽象的理由で軽々に適用されるものではない。裁判例をみても,著作権の行使が権利濫用とされるのは,権利者が自ら当該著作権の侵害となる行為をしていたなどの特段の事情がある限界事例に限られており(東京地裁平成11年11月17日判決参照),本件がそれに比肩するような事案であるとは到底いえない。

(2) 不法行為に基づく損害賠償請求の成否(争点2)
(原告らの主張)
ア 著作権法112条1項は,「…著作権者…は,その…著作権…を侵害するおそれがある者に対し,その侵害の…予防を請求することができる。」旨を定めている。したがって,著作権を現に侵害する行為はもちろん,著作権侵害をするおそれがある状況を作出することも,著作権法上,差止請求の対象となる違法な行為である。

イ 法人被告らは,原告ら多数の著作権者から,質問書や通知書によって,法人被告らの行為が著作権侵害行為となることを指摘され,その中止を求められたにもかかわらず,著作権侵害のおそれがある状況を自ら作出している。法人被告らは,質問書や通知書を無視して,その事業をそのまま継続し,ホームページ等において広く顧客を募集するなどして,自ら作出した著作権侵害のおそれがある状況を任意には解消しない姿勢を明確にしていたのであって,原告らに,訴訟手続をもって,原告作品のスキャニング行為の停止を求めざるを得なくせしめたのである。

ウ また,被告Y1は,被告サンドリームの代表者としてスキャン事業に主導的な関与をし,被告Y2は,被告ドライバレッジの代表者として,自ら原告らの質問書に回答し(甲23),事業の運営統括責任者(甲12),唯一の役員となり(甲3),同じくスキャン事業に主導的な関与をしているのであるから,被告Y1は被告サンドリームと,被告Y2は被告ドライバレッジと,それぞれ共同して,上記ア及びイの違法行為を行っているものである。

エ 被告らは,法人被告らの事業が,原告らの著作権を侵害するおそれのある行為であることを知りながら,原告らからの質問書や通知書などを無視して事業を継続しているのであって,上記違法行為について,未必の故意(少なくとも過失)が存する。

 また,違法な事業を継続し,広く顧客を募集し続けて,原告らの著作権を侵害するおそれのある状況を作出し,それを継続していれば,原告らが侵害のおそれのある行為の停止を求めて訴えを提起すること,その場合には,相当の弁護士費用の支出を余儀なくされることは当然であり,被告らの対応と原告らの弁護士費用の支出とは相当因果関係が認められる。

オ 本件においては,被告らの対応によって発生せざるを得なくなった原告らの弁護士費用の支出について賠償を求める。

(被告サンドリームらの主張)
原告らの主張は否認する。

(被告ドライバレッジらの主張)
ア 原告らの主張は否認する。

イ スキャン代行業者が増加する中,著作権者サイドの実務家から,その違法性について議論が提起されていたが,その主要な問題点は,デジタルデータ及び裁断本が転々流通することにより,作家及び出版社に収益が還元されないという点であった。

 被告ドライバレッジがスキャン代行事業を開始した当時から現在に至るまで,スキャン代行が違法であるとする法制度は整備されていないばかりか,スキャン代行を違法とする裁判例も存在しない。さらに,スキャン代行業者の最大手「ブックスキャン」を含む大手業者及び老舗業者に対しては訴訟提起自体もされていなかった。

 被告ドライバレッジは,上記のような動向を認識して事業を開始することとし,もともと個人的又は家庭内使用を目的とするスキャン代行,具体的には医学書等の専門書を中心としたスキャン代行サービスを開始した。
 まず,被告ドライバレッジは,デジタルデータの販売を行うことのないよう利用者から送付された本をスキャンした後はサーバーからデジタルデータの削除を行った。被告ドライバレッジは,ユーザーの側で裁断本の転売が行われることのないよう,裁断本の返却は行わないこととした。さらに,顧客ターゲットは医師,弁護士等の専門職にある者を中心とし,デジタルデータ転売の危険性を防止した。

 以上のとおり,被告ドライバレッジ及び被告Y2に法益侵害の認識はなかった。

(3) 損害額(争点3)
(原告らの主張)
 原告らが,原告ら代理人弁護士に支払うべき弁護士費用のうち,少なくとも別紙弁護士費用計算記載の金額は,不法行為と相当因果関係の認められる損害である。
 したがって,原告らは,被告サンドリームらと被告ドライバレッジらそれぞれに対し,損害賠償金として,各21万円(147万円の7分の1)の支払を求める。

(被告サンドリームらの主張)
ア 原告らの主張は否認する。

イ 本件訴訟において,原告らは,そもそも実損害の発生を主張せず,権利侵害に関する金銭賠償請求を行っていない。そのような場合,損害金額が認められないのであるから,弁護士費用の相手方負担を認める法的理由はない。

(被告ドライバレッジらの主張)
 原告らの主張は否認する。

以上:5,731文字

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